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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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千六話 とも……だち……?

「いてて……ルナマリアめ、今度会ったら覚えてろよ。絶対泣かすっ!」


 御宅の娘さんを親切心で送り届けただけだというのに、怒られて、殴られて、飛ばされて、辿り着いたのはヨシュアにほど近い野原。


 痛みと引き換えに最速最全(最も安全)の移動手段を得たと言えなくもない状況だが、肉体的にも精神的にも1人での帰路に苦痛を感じない……どころか楽しみにしていた俺が感謝することは決してない。


「その心は~?」


「襲われてもこの辺りの魔獣なら話せばわかってもらえる。食料が必要なら精霊に頼んでキノコでも生やしてもらう」


 無いとは思うが盗賊なら、精霊界に通報して魔力を使えなくした後、教育的指導をして更生させてやる。精霊の対応は早いからな。念話1本ですぐ調べてくれる。


「精神面だってそうだ。何も考えずにボーっと歩くも良し、美味しい夕食をさらに美味しくいただくためにジョギングで腹を空かせるも良し、仕事や友人関係で頭を悩ませるも良し。楽しみ方は無限大だ」


 夜風にあたりながらのアイディア探しというのも乙なものじゃないか。


「それ等をすべて奪われたのに何故感謝しなければならない!? 欲しくもない痛みを与えられて何故感謝しなければならない!?」


「ルナマリアさんに送ってもらったことに変わりないじゃないですか~」


「いいや! 怒ったからこんな手段とタイミングになっただけで、あそこで喧嘩しなかったらイヨたんが寂しがるとか何かしらの理由をつけて農場に泊まる流れに持って行ってたね!

 要するにこれは、ルート分岐をミスった結果、バッドエンドまでのシナリオやCG描くのが面倒臭いからって、ブラックアウトの中で3行ぐらいで何があったから説明してるようなもんだ!」


 ミスしなければ、宿舎での楽しいひと時からのエルフ達との交流。さらにその後、イヨたんのために町を案成して、そこで出会った同世代の子と友達になるためのイベントをこなして、と話が展開されたはずだ。


「それって明日や明後日じゃダメなんですか~?」


「……せやね」


 ルナマリアは恨みつらみを引きずるようなタイプじゃないし、あの様子からしてイヨたんも絶対遊びに来て欲しいと思っている。


 何より彼女がどんな生活を送ろうとしているのか、俺が気になる。



「で、お前等いつからイヨたんがこっちに来たこと……ってか来ること知ってたんだ?」


 状況を整理したり質問内容を考えるどころか前倒しになってしまったが、臨機応変な対応にはそれなりに自信のあるので、俺はすべてを呑み込んで当然のように同行しているユキに尋ねた。


 お前等というのは言うまでもなく俺の周りの強者全員を指す言葉だ。


「前にアールヴの里に行った時からです~」


「……念のために確認するけど『お前が』じゃなくて『俺達が』で良いんだよな? 1年半前からってことで良いんだよな?」


「オ~イエ~」


「サムズアップした数秒後に両手で大きくバッテンを作って首を振りながらYESと言うのはやめろ。しかもどこぞの神拳みたいに流れるような残像を残して」


 どうせ注意など無意味なので、言いながら動き続ける手を掴むと、ユキの胸元で止まったそれは指先が丸まり親指がピーンと1本立っていた。


 つまり肯定。


「あの頃から人間界に興味を示すエルフさんがチラホラ現れるようになったんですけど、掟だなんだとうるさいので皆さんその気持ちを表に出せなくて、なら生贄……じゃなくて実験体として魔力を制御出来るようになったばかりの無知な幼女を留学させて様子を見るべ、とイヨさんを連れてくることが決まったんです~。私の中で」


「言い直せてないし、せめて両親と本人には言っておけと思うし、理由も目的も将来設計も何から何まで適当だけど、よくやったと褒めておいてやろう」


 よほど酷い結果にならなければ世界はさらに仲良くなれる。


 人間の軍隊の指揮を執るのがエルフ。酒場のウェイトレスがエルフ。幼馴染がエルフ。そんなフレンドリーな展開も夢じゃない。


「調子に乗った人類はぶっ飛ばせ~♪ 力を悪用するバカは消し飛ばせ~♪ 差別主義者は一族根絶やし、弱者に成り下がる無能は抹殺、強者を認める世界をつくろー♪」


「出来なかったら?」


「ルナマリアさんの次の代まで交流断絶ぅ~♪」


 ……ま、まぁ上手くやれば良いだけの話だ。


 俺も、世界も。




 翌日。


 実はイヨたんの件でミナマリアさんやクララから相談を受けていたというフィーネや、お得意の千里眼で近くに来ていることを感知していたというヒカリ、そしてクロ一家。彼女達から話を聞いていた父さん達。ユキから歓迎の料理を作るよう頼まれたエル。偶然にも出先で俺より先に見かけていたマリク。


 つまるところ、俺以外の全員がイヨたん来訪を知っていたことを知った俺は、いつもよりローテンションで目覚め、いつもより辛辣な態度で朝食を取り、出勤中にいつもの調子に戻り、いつものように帰宅し、いつものように庭でくつろいでいる白雪達に絡み、いつもとは違う行動を起こした。


「農場までヨロシク。今後もヨロシク。断ったら今からでもアリシア姉の冒険に同行させる。そして成長具合を確かめるために全身隈なく撮影した写真集に『団地妻の秘密』ってタイトルをつける」


「クル……」


 すると白雪は溜息交じりに立ち上がり、背中に乗るよう言った。


 話が早くて助かる。これで移動速度は当社比10倍。帰路はいくら時間を使っても自分の睡眠時間が減るだけなので問題ないが、往路は対話時間が減るので困る。


「なに他人事みたいな顔してんだ。お前等も来るんだよ」


「キュ?」


 訳がわからずとも取り合えず反応したルーシーはまだ良い。


「…………」


 一夜、無視はダメだ。


「心配すんな。悪い話じゃない。新しい友達を紹介するだけ。聞いて驚け! なんとエルフだ! お前等フィーネとルナマリア以外のエルフにあったことないだろ? 興味あるだろ?」


「「…………」」


「皆まで言うな。お前等がイヨたんを感知してるのは百も承知だ。どんな人物かもわかってるだろう。でも話してみないとわからないことだってある。第一印象は大事だがすべてじゃない」


「「………………」」


「オーケーオーケー。わかった、降参だ。認めるよ。同じ子供のお前等にイヨたんの友達になってもらいたい。俺は仕事で忙しいから彼女の学校生活や私生活に干渉するのが難しい。2人にはそこを任せたい。出来れば2人の友達も紹介してやってほしい。友達はともかく知り合いは多いに越したことはない。友達の友達は友達だ」


「クゥ~?」


「……なに? 友達が何かって? 俺にもわかんねぇよ。1つ言えるのは、家でゴロゴロしてて出来るようなもんじゃないってことだ。積極的に声掛けてけ」


 友達が出来ればたぶんグータラライフが捗るから。


 その一言が効いたのか一夜は外出することを承諾し、元々積極的だったルーシー共々、初となる異種族のお友達づくりがスタートした。



「キュ~♪ キュキュ~♪」

(美人は3日で飽きないし、ブスはそもそも出会えない~♪ 人もエルフも竜も見た目がすべて~♪ 美形以外は近づくな~♪ 私の価値がさ~が~る~♪ 身の程を弁えろ~♪ 今日はどんな出会いが待ってるだろう~♪ フッフ~♪)


 幸いイヨたんは美形なので先行きは不安ではないし真理なのだが、彼女の将来が不安になる即興オリジナルソングを上機嫌で歌うルーシーを眺めること数分。


 空を駆けるように移動した甲斐あって、リニアモーターカーとまでは行かずとも、『高速』と呼ぶに相応しい時間で農場に到着した。


「クルル」


 とっくの昔に娘の教育は諦めているのか、俺と同じく眺めるだけだった白雪が、ヨシュアを出て初めて言葉を発した。


 内容は『正面に注目しろ』。


「なん……ふべっ!?」


 集中していなかったとは言え、一応先程から正面は向いていたのだが、肉眼では彼女の言っている何かを捉えることは出来なかった。


 ならばと精霊術を行使しようとした直後、俺の顔面を十数時間前に味わったのと近い痛みが襲った。場所もまったく同じ。


「ル~ナ~マ~リ~ア~……お前、俺に何の恨みが……って居ない?」


「ふふーん! 今のはわたしよ! どう? ルナマリアさんみたいだったでしょ?」


 地面の中から現れたイヨたんは、原因や理由は一切語らず、ドヤ顔で感想を求めてきた。


「ん~微妙だな。まだまだ幼さと愛くるしさを隠しきれてない。ツンも、ルナマリアのは『爪の間に針を刺し込んでやる!』って感じのえげつなさと恐怖を感じるけど、お前のは場所がわからなくて何度も注射を打つ下手な医者だ」


「ウ、ウソ……」


「嘘じゃねぇよ。脅しじゃなくて実際に苦痛を味合わせちまってんだよ。ルナマリアはもっと上手くやる。1時間後にあれは苦痛だったかと尋ねられたら首を傾げてしまうような上手さだ。激しい時でも一刀両断されたみたいな爽快感がある。イヨたんのは鉄棒でドカドカ殴られる感じ。雰囲気が近いだけで全然違う」


 その程度の力でルナマリアを語ろうなんて1000年早いわ。思い上がるな。


 俺は、必要があれば子供だろうと赤子だろうと老人だろうといくらでも厳しく出来るタイプの人間だが、彼女は力を手に入れて1年も経っておらず、ひと目見ただけということもあり『上出来』判定を下した。


 よって贈るのは辛辣な言葉ではなく慰めの言葉。


「ま、俺や強者以外なら騙せるだろうよ。今度ヒカリやニーナにやってみろよ、ってあいつ等ルナマリアから攻撃されたことない……か?」


「ないわよ。アンタと違ってアタシを怒らせるようなことしないから」


 本家も現れた。



「あの……これ……昨日のお詫び」


 予想通り昨日のことを引きずっている様子はないが、念のために用意しておいたプレゼントを手渡す。


「な、何よ……? 急に改まって……」


「仕事の合間を見てせっせと作った『どこでも毛生え薬』と『真・豊胸魔道具』と『肌年齢増加乳液』」


 彼女が怒った原因は、ロリ要素があると言われたこと。成人女性として到底受け入れられるものではなかったに違いない。


 なら脱ロリすれば――。


「死ねッ!!」


 見たかい、イヨたん。これがルナマリアの一撃だよ。でもこれは真似しちゃダメだよ。いくら俺でもそう何度も耐えられないから。

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