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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十七章 激動

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千二話 仕事をしながらでものんびり出来ると思っていた時期が僕にもありました 

 暖かな日差しに春の訪れを感じるこの頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。僕は元気です。そして平和です。


 早いもので現世に帰還してから1ヶ月が経ちました。


 ドタバタしていたのは最初の1週間ほどで、最近は、出勤日は朝から晩まで仲間達と研究に励み、休日はのんびりと自分のペースで進めたり遊んだりダラダラしたり、いつまでもこの時間が続けばいいと思えるような充実した毎日を送っています。


 イベントらしいイベントと言えば甥っ子のオリバーが自分の足で歩き始めたことぐらい……と言ったら馬鹿みたいに写真を撮りまくっていたバカ親(レオ兄)から怒られそうなのですが、本当にそれぐらいしかないので仕方がありません。事実なのに怒る人は嫌いです。


 精霊術にも慣れました。


 これまで以上に研究・開発が捗るので頼られることも増え、自分しか持っていない力ゆえに理解されないこと・伝わらないことに不満を感じるようにもなりましたが、ここで蒔いた種がいつの日か芽吹くことを思えば辛くはありません。


 僕は目先のことに囚われた指示厨ではなく未来を見据える教育者なので、無限の可能性を秘めている彼等の考えを否定しませんし、協力し、支えます。


 教えるのは正解ではなく失敗した理由。『これが正解で他は間違い』ではなく、成功例と失敗例を教材にそれぞれ何が違うのか、何故失敗したのか、一緒に考えます。試してみたいことがあれば全部試させます。


 研究とはトライ&エラーの連続です。


『○○では間違っていたけど××では使えた』

『失敗から生み出された△△が革命を起こした』

『ハッ、そんな方法で出来るわけが……なにぃぃっ!?』


 よくあることです。


 それ等は決して無駄にはなりません。何故なら自分1人では生まれることのなかった結果だからです。そしてそれはかけがえのない経験値です。僕はそれが欲しい。


 だから僕は今日も仲間達と試行錯誤します。




 3月中旬。


 娘と結婚したければ貴様の実力を示せと言えなくもない状況になっている俺だが、奥の手かみちからと、最終手段ガチしゅぎょうと、秘策(精霊術を手に入れた理由の変更)があるので焦ってはいなかった。


 焦りや緊張が良い結果を生むことは少ない。全力であればあるほど冷静に対処するべきだ。というか普通にしていてもみんな優秀なので完成間近。


「完成? これのどこが完成だと言うんだ? 辛うじて電磁誘導が可能になっただけで、荷重もなければ速度も出ないじゃないか。物質も未だにマテリアル結晶以外では磁力や磁力との反発性を持たせられない。解決すべき問題は山積みだ」


「良いんだよ。これが将来的に実現可能な技術だってわかってもらえれば」


 化学反応の『か』の字も無かった世界で、研究者だけとは言え4ヶ月足らずで当たり前のように扱うようになったのは、画期的と言えるだろう。


 世界で唯一電子を宿せるマテリアル結晶の需要はうなぎのぼり。


 これまで要らない子と言われていた鉱石を性質変化させなければ化学反応の研究のスタートラインに立つことすら出来ないとあって、国や研究者はタダでも要らなかったマテリアル結晶にそれなりの値段をつけて買い取り始めた。


 ダンジョンであれば簡単に手に入るので、楽して稼ぎたい冒険者や腕に覚えのある者は、このゴールドラッシュならぬマテリアルラッシュに便乗してガッツリ稼……げていなかったりする。


 資源は有限だ。成分となる精霊が居る限り無限に湧きはするのだが、生成速度には限界があり、生産効率を上げるためには需要と供給の管理が必要となる。


 市場と違って基準が曖昧なのでどちらがどちらとは言えないのだが、生産者(精霊)の数を増やすために魔力を使い、その資源を別の目的で使おうとするライバル企業(魔獣)を潰さなければならない。


 支出を減らして収入を増やせば金が貯まる。当たり前の理屈だ。


 が、彼等はすぐに『これって普通に命懸けの冒険してね?』という結論に行きつき、討伐は一流冒険者に任せて自分は安全な場所で上澄みを得るコバンザメ作戦を良しとしない連中は、『いつもよりたくさん鉱石が手に入るなぁ~』程度の稼ぎしない……らしい。


 まぁ収入源が増えるのは良いことなんだろうけど……。


 とにもかくにも、俺達はこの数ヶ月マテリアル結晶を研究して、リニアモーターカーにまた一歩近づいたってわけだ。



「んじゃあ俺はもう帰るけどお前等はどうする?」


 壁に掛けられた時計を見ると、時刻は17時13分。


 定時とはいかないまでも残業をつけるほどでもない(というかそもそも研究員にそんなものはない)時間だ。


 やりたいこと、試したいこと、教えなければならないことは山ほど残っているが、こんな長期計画で根を詰めても仕方がないので、キリが良かったこともあって俺は退社を選択した。


「僕はもうちょっと残る」


「ボクも。来週発表する資料をまとめないといけないからね。ホント、毎日が進展の連続で忙しいったらありゃしない……」


 出ない知恵を絞り出そうと自主的に予習復習に励むことと、スッパリ切り替えて明日への英気を養うことのどちらが正しいかはさて置き、共に退社するのはラッキー・ミドリ・カルロスの新人トリオに決定。


「すいませんね、優秀過ぎて」


 文句を言っているようで褒めているリンにと嫌味で返し、


「コーネルはまたジョージんとこか?」


「ああ」


 このチームで化学反応の国家資格を持っているのは俺1人。


 資格所有者に贈られる&使用を許される、微精霊の動きを見ることの出来る光学顕微鏡を持っているのも、当然俺1人。


 俺が休みの時や朝晩の居ない時はもっぱら別の所持者の世話になっているらしく、特に多いのは俺達より2年先輩のジョージ。


 人見知りゆえに無駄な会話がないので作業に集中したいコーネルと相性が良く、専門分野が違うのでお互いの素人ならではのアドバイスも有効なんだとか。研究室も近いしな。


「妹さんにも世話になってることだし、同じ研究所の仲間としてたまには挨拶しておくか……ぐふふっ」


「やめろ。僕まで出禁にされる」


「『まで』って何!? 俺はされてんの!?」


「当たり前だろう」


 当たり前ってなんだろうなぁ……。


 俺はコーネルの最初の台詞で持ち上げた口角を下ろし、次の台詞と共に向けられたキョトン顔を虚無の視線で眺め、1人静かに研究室を後にした。


 誰かついて来てくれるかと思ったけど1人だった。


 まぁカルロスとミドリはすぐ裏にある寮住まいで、ラッキーは歩みの遅いミドリの移動を手伝わないといけないので、一緒に帰れたとしても研究所の玄関までなんだけどさ……。


「あっ、そう言えば――」


「ッ!?」


 ドアを閉める直前、そんなラッキーの台詞が耳に入ったので、俺は全力ダッシュでその場を離れた。


『醤油切らしてたんだった。商店で買って帰らないと』

『この後みんなで遊ぶ約束してましたよね』

『ルークさんに相談があるんですけど……』


 前2つなら泣く。帰り道は一緒だけどお前とは居たくないってことじゃん。ハブられてるってことじゃん。


 最後のはトラブルの予感しかしない。


 というわけで俺の取るべき選択肢は逃げ一択!!



「「あ……」」


 町中で知り合いに会うというのは、人並みの人生を送っていれば多々あることなので、驚きはするがわざわざ人生録に記すほどではない。


 学校終わり、仕事終わり、遊び帰りとなる夕方時ならなおさらだ。


 対応はお互いの状況や親密度によって異なる。おそらく多いのは軽く会釈か、「おー奇遇じゃん。何してんの?」と言いながら話し掛けるだろう。


「せいッ!」


 話し掛けようとしたのだが、それより先に彼女は強烈な一撃を放ってきた。地面スレスレから顔面目掛けて伸びてくるような蹴りを放ってきた。


 陽キャの中には嬉しくなって攻撃してくる者も居る。


 チャレンジャー精神旺盛な者になると、それっぽいというだけで本人かどうか確認せず背後から殴ってきたり、荷物を強奪したりする。


 だが、今回俺と彼女は正面から遭遇したので、確認した上での行動だ。


「甘いわ!」


 これまでの俺ならなす術もなくダウンさせられていただろうが、精霊が見えるようになったことにより戦意と攻撃の流れを把握できるようになった俺には通用しない。


 受け止めた小さな足のニオイを靴越しに嗅ぎ分ける余裕すらある。


「こ、このニオイは……!」


「ギャー! 気持ち悪い! 死ねえええ! イヨレクイエム・ジ・エンドォォオオッ!!」


 しかし、それが一生里から出ないと言っていたエルフの幼女の場合、果たしてこれは正しい対応と言えるのだろうか。


 いや、人生に正解とかないんだけどさ……。

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