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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十七章 激動

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閑話 あっちそっちこっち

 国土の大半を山と森が占めるアルフヘイム王国には太古の昔からエルフが住み着いているが、共存を望まないエルフ達の意思を尊重し、集落の存在は一部の王族が知るのみとなっている。


 集落そのものと言える巨大樹は、数十km離れた場所からでも気付くほどの存在感を放っているが、エルフ達の結界によって時空を歪められているため人間では認識することも立ち入ることも叶わない。


 そんな集落の上層。


 王城内で2人の女性が話していた。



「はぁ……まったく……本当に話題が尽きない人間よねぇ。アレ絶対前世で何かしてるわよ。何かもしてきてるし」


 自分の連絡先を知っている数少ない人間……もといエルフの1人、愛娘との通話を終えて数秒。ミナマリアは背筋に入れていた力を抜いて、これでもかというぐらい玉座にもたれかかった。


 体の半分が椅子からはみ出る。


「それは違います。今も昔もルーク様が手に入れたのは『知識』と『意志』のみでございますよ」


 彼女の話し相手は、自称世界の王ことマンドレイクのレイク。


 レイクが話している間もミナマリアの体はズルズルと沈み込んでいき、とうとう座高が首・頭分しかなくなるが、両者は構わず話を続ける。


「その2つで精霊術を身に付けてるじゃない」


「精霊術を身に付けた理由は彼の肉体が強化されたから。僅かながらの精神鍛練をしている間、肉体はとてつもない進化を遂げたのでございますよ。つまりすべては強者のお陰。ルーク様も努力はされたのでしょうが結果が伴っておりません」


「って言っておかないと『下等生物が精霊術を身に付ける方法なんてない』って自信満々に言ってた過去の自分を否定することになるものね」


 プライドの塊のレイクが自らの非を認めるはずがない。


 生まれながらの上位者の心境を理解しているミナマリアは、必死に自己を正当化する子供のように扱う。


 口には出さないが、心の中では「はいはい……」と、ため息交じりに肩を竦めているに違いない。


「ワタクシは事実を申しているだけでございます。ルーク様は転移する前から今くらいの精霊は集められていました。それを認識出来るようになったのは、強者に五感を強化されたからでございますよ」


「神やフィーネやその他大勢の勘の鋭い女性陣の目を欺けるわけないでしょ」


「心持ちを少し変えるだけで人は如何様にも姿を変えます。出会いと別れ、拒絶と承諾、弱さと強さ、異なる世界で様々な経験をされて“自分”を見つめ直したルーク様はもはや別人。巧妙に隠された力の付与など気付けるはずがございません」


「わかってないわね~。恋する乙女に不可能はないのよ。成長だろうと進化だろうと本質を見抜くし違いにも気付くわ。もしかしたら前世との差までわかってるかもしれないわよぉ~」


「…………」


「断言するわ。彼の力は彼自身が頑張った成果よ。誰かから与えられたものじゃなくてね」


 息抜きタイムが終了したのか、ミナマリアは時間を巻き戻すようにせり上がっていき、決め顔と共に指を……足の指をレイクの顔面を突きつける。


 背中が痒かったのか、靴と靴下を脱ぐために必要な動作だったのか、はたまた手ではおこなえない理由があるのか、本人にしかわからないがともかく息抜きはまだまだ続くようだ。


「こほこほっ……で、では、ワタクシが正しかった場合はこの里を譲っていただくということで……」


「なんで咳払いした!? なんで顔をしかめた!? 別に答えなくて良いけどね! この場には私達しか居ないから世間体を気にしなくて良いし、私が臭くないって知ってるからね!」


 ミナマリアが椅子から立ち上がって吠える。


「というか乗るわけないでしょ、そんな賭け。貴方の賭け金も提示してないし、どうせ無理矢理それっぽい証拠集めて『ほら見たことか』って言うでしょ」


「おやおや、自信がないのですか? 仕方がありません。ワタクシもエルフではありませんので、真実は闇の中というそちらの提案に乗って差し上げますよ」


「今、私達のことを鬼扱いしたわね!? 悪の象徴として使ったわね!?」


 しかしレイクは動じないどころか煽りを加速させた。


「はい? 本当のことを述べただけですが? ワタクシは劣等種族エルフではなく世界を統べる者マンドレイクですし、面倒臭いからという理由で他種族を見殺しにする者達は悪と呼んでも良いのでは?」


 ミナマリアの言っていることが心の底から理解出来ない様子で首を捻る。


「貴方も似たようなものじゃない!」


「自分達の実力を見誤り、思い上がり、無謀な勝負に挑んで命を散らす愚者など、ワタクシの世界には必要ありませんので」


「私達だってそうよ! そして賭けは自信の有無の問題じゃないのよ! 一方的な要求と、お遊びの域を超えてることに対して苦言を呈してるの!!」


 自分のことを棚にあげて一族を批判するクソマンドレイクにひとしきり説教した後、ミナマリアは話を戻……さない。


「そもそもなんで人間って弱いクセに自分達の力だけじゃどうにもならないことやろうとするわけ? 『自分なら出来る』『修行以上の成果を出せる』『誰かが助けてくれる』『命は失わない』って楽観にもほどがあるでしょ」


「やはり我々で人類を間引くしかございませんね。日頃から自分達がおこなっている行為です。全員が種の繁栄のために喜んで命を差し出すことでしょう。

 ゴミが無くなればスイちゃん様も戻って来るかもしれませんよ」


「……そう言えばそんな話してたわね。でもすぐに却下したでしょ。これまで正義と悪が混在した世界に居たんだから、環境変えたらかえって会えなくなるかもしれないって」


 淘汰には手を貸さないことを主張しようとした矢先。


 レイクの話から、エルフ族の宝である聖獣に戻って来てもらうための作戦の1つに類似案があったことを思い出したミナマリアは、改めてこれを否定した。


「だからエルフ族は現状維持よ」


「維持が出来なくなったという話もしていたと記憶しておりますが?」


「……そうね。でもそれとこれとは別の話よ」


 脱線させたいのかさせたくないのか、レイクによって紆余曲折させられたミナマリアは、ジト目で睨みながらルークから連絡が入る前まで話題を戻すことに。



「え~っと……ルーク=オルブライトはやりたいようにやらせて、スイちゃんは成り行きに任せて、「レイク様には絶対服従で」……今の私の沸点は低いわよ」


 ようやく話をまとめられると思った矢先の割り込みに加えて、似せる気のない声真似(高飛車なお嬢様風)に、ミナマリアの怒りメーターは一瞬で限界寸前となる。


「なるほど、アノ日でしたか……道理で……あ、いえいえ、ミナマリア様が想像以上に弱かったとか、相手もいないのに出産準備とか意味あんのとか、BBAなのにまだ現役ぶってんのかよ乙、など思っておりませんよ」


 ゴゴゴゴゴッ――。


 大樹が震える。


「御存知ですか? 感情を揺さぶられるというのは『図星』か『制御出来ていないか』のどちらかであると。ミナマリア様は、真実を認められない大人か、落ち着きのない子供か、どちらなのでしょうね」


「私は風評被害を防ごうとする正義の味方よ!」


 弓矢でも放つように構えるミナマリア。


「奇遇でございますね。ワタクシも正しいと思ったことをしているのですよ。お互いに自分のおこないを正しいと言い、譲歩出来ないのであれば、決着をつける方法はただ1つ。実力行使しかございませんね。

 ワタクシが勝った時は服従していただきます。負ければミナマリア様が悩んでおられる変化について話しましょう」


「だから賭け金を提示しろって言ってんのよ! まぁされても乗らないけど……ともかくそれは邪魔が入らなかったらしようとしてたことでしょ。いいからさっさと話しなさいよ」


 ミナマリアが女王になってからも、なる前も、人間と共に生きたいからと里を出る者は居た。


 自分の力を試したいからと里を出た者も居た。


 外の世界を知りたいからと一時的に出る者も居た。


 しかし、人生において最も重要とも言える幼少期を人間界で過ごし、5~10年後に戻って来たいと言い出す幼女は居なかった。


「なんで人間の文化なんて学びたいと思ったのかしらねぇ」


「理由は1つしかないと思いますが?」


「よねぇ……」


 ひとしきり女王をからかって満足したレイクは、今度こそ真面目に報告と提案と議論を始めた。




 魔道都市ゼファールは、同格の者達を集めることで競争心を煽り研鑽を積ませようという試みの下、各国から優秀な開発者や研究者を集めて作られた、どの国にも属さないがどの国にも技術提供をする中立都市である。


 統治者のいない都市で、最も自由に出来る者は、最も優秀な人間。


「お兄様。今の説明ではわかりません。磁力の反発力と吸引力を生み出す原理と、そこから発生する抵抗について、もっと詳しくお願いします」


 ルークやイブからも才能を認められている少女パスカルは、ロア研究所に所属する兄ジョージから、又聞きでリニアモーターシステムについて話を聞いていた。


 最も知識を持っているのはルークだが、彼は彼で忙しくしているため、たまにある情報共有の場でまとめた話をこうして伝えているのだ。


『ご、ごめん……それ以上のことはなんとも……』


「では現在磁力を生み出す可能性のある素材と成分をすべて教えてください」


『この前、教えただけしか……』


 システムの開発には国家資格所有者にも協力を要請しており、その1人であるジョージもルークとまでは行かずともそれなりに貢献している。


 が、資格はセイルーン王国が試験的におこなったため、受けられなかっただけで他国に彼以上の才気あふれる者が居り、パスカルがまさにそれだ。


「はぁ……ここでは素材が集まらないのでルークさん達と情報共有しても意味がありませんし、光学顕微鏡とやらもないので調べようがありませんし、依頼した精霊術師も中々来ませんし……これの一体何が魔道都市なのでしょう。セイルーン王国の方がよっぽど先を行っているではありませんか」


『ふ、2人に頼めば、素材と一緒に研究器材も手に入る……かも』


「すでに発注済みです。ですが届くまでにどれだけの時間が掛かるかわかったものではありません。そして届く頃には新しい法則や成分が見つかっていて、あたしは時代遅れの人間になっているでしょう。以下同じことの繰り返しです」


『逆もあり得る……そっちだから手に入る素材や技術がこっちを上回るなんてことも……』


「……お兄様」


『な、なんだ……?』


 突然神妙な面持ちで話し掛けてきた妹に、ビクビクしながら応じるジョージ。


 家族に対する反応ではないが、当人が気弱な性格な上、こうなった妹は毎回良くないことを言い出すと知っている彼は、どうしても怯えてしまう。


「異文化交流って大切だと思いません?」


『……は?』

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