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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十七章 激動

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閑話 アリスインワンダーランド0

 俺とイブにとっては実りのある、結果だけを求める大人達にとっては実りのない、3日間に及ぶ王都でも引きこもり生活を終えた俺は、ヨシュアに戻ってからも仲間達とリニアモーターシステムの開発に励んでいた。


 そんなある日のこと。


「さて……聞かせていただきましょうか。事の顛末を隅から隅までじっくりと」


 再会を邪魔されたリベンジとばかりに、俺の休日を聞き出し、皆の予定を調整し、しっかり時間を作ったアリス(とファイとシィとヒカリ)が家にやって来た。


 仕事を優先するのも相手の地位を思考材料に加えるのも大人なら当たり前のことで、別に父さん達は悪くないのだが、蔑ろにされた方が良い気分でないのも事実。


 再三にわたる注意と約束をさせられたのは記憶に新しい。アリスは俺が想像していた以上に慎重な人間だったようで、フィーネやユキすら排除しておけといった有様だ。



 異世界転移どころかその原因の魔界へ行くことになった経緯から事細かに説明させられた俺は、彼女達に驚きと衝撃と愕然を与えつつ、納得&理解するまで時間を掛けて話していく。


「……ごめんなさい、よく聞こえませんでしたわ。もう一度言っていただけます?」


 この質問も何度出たかわからない。


 大抵のことは『へぇ~、そうなんだ~、凄いね~』で受け入れる、大らかな&大雑把な心を持つヒカリですら、何度か追加説明を求められた。


 心配性で、常識に囚われているアリス達からの質問が、その数十倍に上るのは当然と言えた。


「これはそういうのじゃないと思うけど……ともかく早く答えた方が良いよ。じゃないと襲われるよ」


「ふっ、アリスが精霊術を手に入れた俺に勝てるわけないだろ」


 そういった経験があるのか、ファイがせっかちな女の怖さを語って不安を煽ってきたので、俺は安心させるべくニヒルな笑みで応える。


 力には力。


 どれだけ時代が移り変わろうと変わることのない真実だ。


「あれ? 気付いてないの? ほとんどの精霊が傍観者になるって言ってるよ」


「い、言われてみれば……というか全体的にアリス寄りな気が……」


 部屋全体を俺とアリスの陣地に分けた場合、俺よりアリスの方が応援席(?)の密度が多かった。活気も違う。


「男女関係のもつれに口を挟むような物好きは少ないに決まってるでしょ。恋する乙女と気付かないフリをしてるバカのどっちを応援するかもね」


「キビキビ答えるですの。あと1秒で答えないと殴りますの」


 この言い方からしてヒカリとシィもアリス側と見て間違いな、


 ズドンッ!


「いぐはッ!?」


「悪即打ですの。フィーネさんやユキさんが居たら斬撃でバッサリいってましたの。考えるより先に口を動かすですの。そんなだからいつまで経ってもダメ男なんですの。あと悲鳴が意味不明で気持ち悪い男の菌が手に付いてしまいましたの。新作除菌スプレーを要求しますの」


「シ、シィさん……相変わらず俺にだけ厳しいですね……」


 ズキズキと痛む腹を抑えながら震える声で訴えかける。大声で批難したかったが無理だった。このサキュバス娘、いつの間にこんな攻撃力を手に入れたんだ。


「何を言っているかわかりませんの。不快な男は殴っていいと法律で決まっていますの。私は法令を順守しているだけですの。二発目以降をお見舞いされたくなかったらささっさと答えるですの。私は2人ほど優しくはありませんの」


「『二発目』じゃなくて『以降』なんですね! きっと連撃とか来ちゃうんでしょうね! 最後通告かもしれませんね! 俺が気絶するまで殴るのをやめないとかそういうことなんでしょうね!」


 ミシッ――。


 先程の打撃が、攻撃力重視のストレートではなく、牽制目的のジャブであることを証明するようにシィの拳が硬く握られた瞬間、俺は時空と記憶を操ってアリスとの会話に戻った。



「今、取り掛かってる作業が人々の移動を便利にする魔道具で、それが形になったらイブと婚約してることを公表するって言ったんだが?」


「いつ、どこで、誰が、何をして、何故、そのようになりましたの?」


 理解において最も重要とされる5W1Hをしっかり押さえている。流石だ。


 ギリリッ――。


 拳の音が3つに増え、1つは膨れ上がった魔力が視界に入ったが、聞かなかった見なかったことにして、


「え~……先週、王都で、オルブライト家とセイルーン王家が、鳳凰山と開拓地の報告ついでに両家の親睦会を開いて、精霊術師なら王女に相応しいってことで、お互いの気持ちを尊重しつつ決まりました」


「それはつまり昔からルークさんとイブさんはお互いのことが好きだったと?」


「高貴な金髪娘ってサイコーだろ?」


「……わたくしもそうですわよ?」


 自慢のツインドリルを揺らしてアピールしてくるアリス。


「ツンデレとクーデレなら俺はクーデレ派だ」


「そんな理由で振られましたの!?」


「いやいや、まだ振られてないぞ。一番にならなくても大丈夫とか、気に入った相手となら同衾可とか、こちらが提示する条件を呑んでくれるなら全然オッケーだ。ちなみにこれはイブを選んだ理由でもある」


「最低のクソ野郎ですわ! 要するに重婚を認めてくれる女性が好きということでしょう!? ハーレム希望なだけでしょう!?」


「現在・過去・未来、異世界まで含めたすべての男の夢を馬鹿にするなッ!! 持続可能かどうかはさて置き、出来るもんなら誰もがやりたいと願ってるものなんだぞ!! 大体は『これ無理』ってなるけどな!!」


「逆ギレ!?」


 気持ちが昂るとドリルが回転する不思議娘は、徐々にその勢いを増しながら吠え続ける。


「ただの事実だ。1人でも多くの子孫を残したいと願うことの何がいけないんだよ。大貴族や王族は100%と言っていいほど一夫多妻じゃないか。もし1人を選んで子供が出来なかったら、出来た子供が亡くなったら、その時次の子を作るだけの能力がなかったら、どうするつもりなんだよ。血脈を途絶えさせろってのか」


「そ、それは……そうですけど……」


 思わぬ反撃によろけるアリス。


「フィーネちゃんやユキちゃんに言えば何とでもなるでしょ。ルークだって努力次第では100%妊娠出来る術とか使えるようになるかもしれないし。それこそ妊娠率を上げる魔道具や薬を作れば良いじゃない」


 そんな打たれ弱い相方を休めるべく、バトンタッチしてリングに登ったのは、ヒカリ。


「生を冒涜するような真似はちょっと……」


「何故そういうところは常識的ですの!?」


 どんなに疲れてもいてもツッコミは忘れない。


 芸人の鏡のような女性だ。


「知識不足ってのもあるだろうけど、昔の人間が必死に考えた結果導き出した答えを、正しいと思ってしてたことを、批難するのは違うじゃん。一夫多妻は種としては正しいんだよ。イブとは趣味も合うしな」


「取ってつけたように言わないでもらえません!? 普通最初に出るでしょう!? 結婚において最も重要なファクターでしょう!?」


「何言ってんだ。みんな建前で言ってるだけで、本当に重要なのは生活を安定させられると資金力と心と肉体だぞ。つまり『仕事』『精神的ゆとり』『体の相性』」


 ニオイについては前に語ったし、体の相性はまだ試行錯誤段階なので触れないが、やはり生きていくためには先立つものが必要になるわけで……。


 精神的なゆとりも個人的な相性だけでなく『両親や子供と仲良く出来るか』『周りの人間に知られても平気か』など対人関係が大きく関わってくる。そいつが精神的に安定してないと出来ないことだからな。


 自分は好きだけどDV野郎とか、他は全部理想的なのに育児放棄常習犯とか、店員や仕事仲間にやたら横柄な態度を取るとか、社会の目を気にした結果別れるなんてザラにある。




「さて……何か反論はあるかね? なければ我がハーレムに加わるか決めたまえ。答えを今すぐ出す必要はない。じっくり考えて後悔のないようにしなさい」


 伝えるべきことはすべて伝えた。あとはそちらの気持ち次第。


 俺はアリス(とヒカリ)の反応を待った。


「ここで『そんなの考えるまでもありませんわ! さようなら!』と即答出来ない自分がとても腹立たしいのですが、取り合えずドヤ顔がムカつくので一発殴ってよろしいかしら?」


「代償に獣人プレイを要求するけどそれで良ければどうぞ。結婚したらここでは言えないようなマニアックなプレイも試しちゃう。夫婦であればそこそこ強引に迫っても許されるって法律もあることだしな」


 どこまでを許容するかは当人達と弁護士と世間の裁量にもよるだろうが、子孫を残す本能を尊重する法律であることは間違いない。


 イマイチ盛り上がらないので子づくりしませんでした、を回避するための措置ってわけだ。


「はぁ……やめておきますわ。ルークさんは本当に要求する男ですし」


「約束は守ります」


「……とにかくお2人の婚約は昨日今日決まったことではなく、お互いに好きあっているということで良いんですわね?」


「僕の愛は無限です。全員を平等に愛してあげます。みんなで幸せになりましょう」


「…………」


「モテ男はつらいよ(笑)」


「~~~ッ!!」


「はいはい、そこまで。ルークはアリスちゃんの乙女心が傷付けないように自分を悪者にしてるだけなんだから。そのぐらいわかってるでしょ?」


 アリスが殴り掛かろうとした寸前。ヒカリが止める。



 その後、全員がこの微妙な空気を引きずったまま、ファイとヒカリは『まったく……』と溜息を、シィは殴る機会は見逃さないとギラギラした目を、アリスは無言で家を去った。


 どんな結末を迎えようと俺はそれを受け入れる。


 人生に正しさなんてない。


 これが俺の選んだ道だ。

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