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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六章 王都セイルーン編
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閑話 フィーネ無双 王都編3

 冒険者パーティと花売り一家に新たな職場を紹介したフィーネは、お土産を求めて王都を探し回っていた。


 購入する品は決まったが辺りはもう暗い。急がなければ買えなくなってしまう。


 お金が手に入る度に全て渡しているので、当初から変わらず無一文なフィーネは再び巨大な門を潜り王都から出た。


 土産物を探している内に外壁の近くまで来てしまったらしく、ここから冒険者ギルドまで依頼を確認しに戻るのは大幅なタイムロスだった。


(急ぎなので適当な魔獣を狩って買取をしてもらいましょう)


 ギルドの依頼なら素材の買取金額とは別に報酬が支払われる。


 しかし素材や魔石を売却して『エリーナの美容品』『アランの近所へ配る菓子』『エルの調味料』を買うだけの金を用意すればいいフィーネには報酬など必要なかった。



 フィーネが風になった数分後、大量の魔石と共に再びギルドへとやってきた。


「買取をお願いします」


「ま、また討伐したんですか・・・・凄いですね」


 どうやら冒険者と共に持ち込みをした時の受付だったらしく、1日に何度も大量討伐するフィーネに驚いている。


 受付から「ランクを上げますか?」「コツがあれば今後の新人教育に役立てたいので教えてください」など話しかけれられるが、そんなことより急いで金が欲しいフィーネ。


 オルブライト家のメイドとしてきちんと受け答えはしつつ、言葉の端々に「早く鑑定しろ」という意味合いのある言葉で会話をする。


 そんなフィーネの願いが届いたのか、単純に夜で混んでなかったからなのか、とにかく通常より早く売却できた。



「では急ぎますので」


「あっ・・・・ありがとうございました。もっと色々聞きたかったんですけど」


 残念そうな受付に気遣う暇などない。既に店は閉まり始めていたのだ。



 なりふり構っていられないので魔力を使いながら移動し、お土産を購入しては消えるフィーネ。


 なんとかエリーナから要望された肌に潤いを与える『美容液』(王都で新発売したらしい)と、エル希望の『新鮮なハチミツ』(とある魔王領の名産でワイバーン便で空輸したらしい)を購入。



 残るはアランの『お菓子』のみ。



 アランからは「なんでも良い」と言われていたが、家族が多い人も居るはずだと考えたフィーネは大人数向けのお菓子を選択した。


 したのだが・・・・。


「こ、これは・・・・開いていない? まさか手遅れだったと言う事ですか?」


 フィーネは光の速さで王都を駆け巡ったが、時すでに遅し。全ての店舗が閉まっていて、夜の店だけは開いているがアランの要望とは違う商品しか販売していない。



「仕方ありません。代金は置いていくので商品を持ち帰らせてもらいましょうか」


 任務失敗を許せるわけもないフィーネは、閉まっている商店の扉を破壊しようとした。



「何するつもりじゃぁーーーーっ!! いやいやいやっ! あり得んじゃろ!?」



 今まさに魔術を発動しようとした時、大声を上げてフィーネを止めにかかる人物が居た。


 たまたま通りがかったクレアだ。


 彼女は以前フィーネが助けた世界的に有名なゼクト商会の娘で、商人を目指して修行中の少女である。


「おやクレアさん、お久しぶりです。王都で会うなんて奇遇ですね」


「あ、挨拶はいい! それより魔術を止めいっ!」


 扉に手を向けたままのフィーネは旧友との再会を喜んでいるが、クレアにとってはそれどころではないようだ。


「いえ、必要な事なのでそれは出来ません」


「わ、我の店でフィーネが欲している品を売る! だから落ち着いて話し合おう!」


 フィーネが魔術を放とうとした理由を「八つ当たりで無ければ欲しい商品が手に入らなかったのだ」と考えたクレアの説得が始まった。


 フィーネとしてはお菓子を買えるなら破壊活動に勤しむ理由はないので、クレアの提案を受け入れて手に溜まっている魔力を散らした。



 危機を脱したクレアが落ち着いて事情聴取を始める。


「それで何しとったんじゃ? エルフが強盗とか幻滅もいいところじゃ・・・・」


「いえ、代金と扉の修理代は支払うので問題ないかと思いまして」


「大ありじゃ! なんじゃ? 案外フィーネは馬鹿なのか?」


 クレアはどちらにしろフィーネの事を幻滅してしまったようだ。




 初対面の時は憧れすら抱いたエルフメイドの残念すぎる一面を見てしまい悲しそうなクレアだが、自分の発言に責任を持って店へと案内する道すがら話を聞く。


「要するに土産の菓子が買えればいいんじゃろ? 世界的商店を舐めるでない! 食料などいくらでもあるし、土産向きの珍しい物もあるのじゃ」


「閉まっていたはずですが、本当に良いのですか?」


 ここでクレアが「やっぱり無理」などと言えば、王都のどこかで菓子屋の扉が破壊されることだろう。


 それを理解しているクレアが断る訳もなく、関係者だから特別に開けると言う。


「それは助かりますね。王都名産の細々したお菓子などがあれば購入したいです。保存も効けば言う事ありませんね」


「む、難しい事を言うのぉ・・・・その辺は実際に見て選んでくれ」




 そして案内された巨大な商店『ゼクト商店 王都中央支部』で、閉店作業をしていた従業員の中に見知った顔があった。


「お久しぶりッス~。ノッチッス~」

「ルーです! 覚えていますか?」


「ええ、もちろん覚えていますよ。お久しぶりですね」


 これほど印象的なコンビをフィーネが忘れる訳もなく、クレアの護衛2人と再会の挨拶をする。


 あれから2年以上が経っているが、相変わらずクレアの護衛として元気でやっているらしい。



「前々からヨシュアに行こうとは思っておるんじゃが、忙しくてなかなか会いに行けんのじゃ・・・・」


 クレアも商人として頑張っているようだ。




「では早速お土産を選ばせていただきますね」


「うむ、先ほど言っておった数なら在庫の方も余裕じゃ。好きな品を選ぶが良い」


 再会の挨拶もそこそこに引き続き閉店作業へと戻ったルー達が居る中、クレアはフィーネに商品説明をしつつ一緒にお土産を選び始めた。


 取り合えずヨシュアでも購入できそうな物は除外、ルークが考えたポップコーンやケーキも売ってあったので当然除外。


「まぁ・・・・王都土産と言えばこれじゃな」


 そう言って指を差したのは『王城印のスイートポテトパイ』だった。


 王都特産の甘いサツマイモにハチミツと牛乳で味付けした『スイートポテト』を贅沢に使用して焼きあげたパイで、サクサクしたパイ生地は王城の形になっている。



 クレアが言うには一番人気のお菓子らしく、実際お土産コーナーでは目立つように立体陳列されていた。


「大人数でもそれなりに対応できるし、一目で王都土産とわかるじゃろ? 日持ちはせんが1週間ぐらいなら余裕じゃ」


「・・・・そうですね、これにします。10個をまとめて袋に入れてください、すぐに持ち帰りますので」


「毎度あり~ッス」


 厳選していたフィーネも納得の一品だったようで、すぐさま購入して持ちやすいようにノッチに袋詰めしてもらう。


「なんじゃ、ゆっくりしていかんのか? 折角の再会だというのに」


「仕事がありますし、今日中に帰ると伝えていましたので」


 ちなみにヨシュアから王都までは一般的な馬車で1日、竜車で半日の距離である。


 それをフィーネは2時間以内に帰ると言う。


「まぁフィーネじゃし・・・・一応、気を付けての」


 規格外の行動に慣れているクレアは、名残惜しそうにしながらもフィーネを送り出した。


「はい。クレアさん達もお元気で」




 この1時間後、フィーネは大量の土産と共にオルブライト家へと帰宅。


「こんなに遅くなるなら宿泊してくれば良かったのに」


 出迎えてくれたアランからは「明日になると思っていた」と言われたフィーネだが、明日は早朝から忙しいので仕方ないのだ。



 翌日、全員が王都土産を持ち帰ってくれたフィーネに感謝した。


「やっぱり王都は違うわね・・・・そ、それで! アンデットはどうだった!? 強かった? あれってどうやって倒すの?」


「ハチミツですー! やっぱり都会は鮮度が違いますね!!」


 アリシアは魔獣退治に興奮し、エルはハチミツを舐めては感嘆する。


 ちなみにユキの方が高級で鮮度の良いハチミツを手に入れられるのだが、緊急時以外はお願いしないようにしているらしい。


「フフ、これで私の肌も・・・・グフフッ」


 エリーナは美容液を試してほくそ笑んでいる。


「へぇ~。王城の形になってるんだね。昔からスイートポテトはあったけど、最近のはパイとして進化したんだな~」


 アランは早速配ってくると言って出て行った。



 そしてお土産を渡したフィーネは仕事に励む。


(ルーク様、パーティを楽しんでいるでしょうか?)


 主が大変な目に遭っているとも知らずに今日も彼女は無双する。

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