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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十七章 激動

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九百九十一話 詫びオーブ

「も、もう良いだろ……これ以上弱者をいたぶって何になるって言うんだ」


「いたぶってないでしょ。結構抵抗出来てるじゃない。念願かなってやっと手に入れた時間なんだから、もうちょっと付き合ってよ」


 わたしが欲しいのは詫びの品でも気持ちでもなく戦い。


 そんなことを言われてしまっては従わないわけにもいかず、欲望とストレス発散の捌け口となることを選んだ俺は、愚直なアリシア姉と違って狡猾な手口が一切通用しないヒカリに惨敗。


 まるで恋人同士の肌と肌の触れ合いのように、恍惚とした表情で俺の肉体に拳を突き立てる獰猛ニャンコをなんとか説得し、1人目の謝罪を終えた。


 が、試練はまだ始まったばかりだ。


「私は異世界の金銭事情を教えてくれればそれで良いニャ。考察多めで思い出話をしてくれるだけでオッケーニャ」


「助かる」


 俺は、この後しようと思っていたことで手を打ってくれたユチに感謝しつつ、要求通りギャンブルや課金要素多めで話すことに。


「…………」


 そんな俺達の様子をリリが無言で見つめる。彼女は隣の椅子に座ったまま力なく尻尾を揺らす。


「知らない食べ物や文化もたくさんあったから一緒に話すな」


「――っ! ま、まぁ、ルークが話したいなら止めないニャ」


 迷惑や心配を掛けられたことはお詫びの品でチャラにすると言ってしまった以上、母としてリーダーとして新たな要求を出すことは出来ないのだろう。


 蚊帳の外にいたリリではなく、語り部を求めたユチに向けて言うと、隣の空気感と尻尾の揺れ方が変わった。


 そこら中から「このジゴロめ……」という声が聞こえるが、それが精霊術を身に付けたことによるものか、女性達が隠そうとしなかったことによるものか、判断はつかなかった。



「――で、基本無料でプレイ出来るけど、課金することで色々便利になるってのが主流だったな。クリアするだけの知識や技量が足りないなら努力する。ランキングで上に行くための時間や運が足りないなら課金する。

 自力で突破してガッツポーズを取るも良し、サクサク進んでストレスフリーで楽しむも良し、限られた選択肢の中で最善手を探すも良し、超強いキャラを集めてドヤるのも良し。全員が自分のやってることに何かしらの理由をつけて楽しんでたな」


「なるほどニャ~。そこで登場するのが『詫び石』なんだニャ。やるべきことを増やさないとプレイヤーは飽きる。でもそんなことをしていたら絶対に不備は出る。でもルークさんは認めないと。採用させてくれないと」


「これまでに使った時間や金や労力を勿体ないと考えて、義務感や焦燥感に駆られてプレイしてる人間を目の当りにしちまったからな。

 取り合えず続けてれば詫び石がもらえる。ログインボーナスがもらえる。そこから生まれるのは『如何にゲームをプレイせずに課金アイテムをもらうか』っていう不純な感情だ。

 それってゲーム自体を楽しめてないってことだろ? そんなのやめた方がマシだ。ダラダラやるなら良いけど『楽しむ』っていう基本的な感情は無くしちゃいけない。無くさせちゃいけない」


 俺は、文句を言いたげな目をするユチに、改めて詫び石文化を禁止する理由を伝えた。


 すると彼女は納得したように何度か頷き、


「まぁ普通はその場で詫びて、場合によっては弁償なり補填なりして、終わりニャ。どう対処するかは店や従業員の腕次第。自分達が無限に作り出せるものを差し出して『はい解決』じゃ絶対成長しないからニャ」


「あ、それ。一度手に入れたら永久に減らないデータを売って金儲けすることは『データ転売』って言ってたな」


 分類的には『販売』だが、デメリット無しでおこなうあれと、手間暇かけて生成・所有している品を売ることを同列視したくない。


 要は一種のねずみ講なわけだし。


「他にも、課金をする上で欠かせない『デジタル通貨』や『リアルマネートレード』、それと似て非なるものですべてを仮想世界で完結させる『仮想通貨』ってのがあるんが……使えないことを承知した上で聞きたいか?」


 ユチの答えは当然YES。ヒカリとリリも興味があるらしく似たような顔をしている。


 俺は、オツムのあまりよろしくない一部連中を置き去りにして、恐ろしい世界を教えてやることにした。




 開始数十秒で理解を放棄したアリシア姉とニーナが別の話を展開する中、3人に危険性と対処法を語り終えた俺は、頑なに詫び石にこだわるニーナのために土精霊術でそれっぽい結晶を生成し、猫の手食堂を後にした。


 向かうは目と鼻の先にあるロア商店。


「あのお菓子、結構美味しかったわよ。アンタも食べれば良かったのに」


「なんで詫びの品をバクバク食う気になれるんだよ……あれは食堂の皆の分だろ」


「だからちゃんと断ったじゃない。そしたら『食べていい』って言ったのよ」


「ダメなんて言えるわけないだろ……」


 と、父さんが持たせてくれた高級菓子(1個1個梱包されている見た目も鮮やかなケーキだと思う。食べてないから知らん)を誰よりも多く貪り食っていた図々しい姉に説教しつつ、歩くこと数秒。


 今も昔もヨシュア随一の大きさを誇る商店に到着した。


「んじゃあサイとソーマを探すぞ」


 ここの連中も食堂と同じで、一部が捜索、残りが心配しながら店を経営していたらしい。


 鳳凰山の連中に渡した物を除けば、魔道チェイサーと電子ピアノが俺が最後に携わった仕事なので、『もしかしたら手掛かりが残っているんじゃないか。というかこれに封じ込められてね?』と、協力者であるサイとソーマは研究所の連中と別ベクトルから捜索してくれていたのだとか。


 情報統括部長のユチ談である。


 彼等は誰も知らないだろうが、2つとも神力の宿った魔道具を使用し、フィーネに何日も鍛えられた仲間の協力を得て、その娘達のために新技術てんこ盛りでおこなったものだ。


 仮に俺が探す側だったらまずそこから手を付ける。


「ノルンとトリーは?」


「もちろんするさ。でも優先すべきはあいつ等だ。それにどうせどっちかと一緒に居るだろ。公私ともに相棒であり夫婦であり4人一組みたいな連中だし」


 もしあの4人がRPGの世界に送り込まれたら確実にパーティを組む。


 戦闘に特化しているのが猫人族のトリーだけなので現実では微妙だが、銃や召喚獣を手に入れたりスキルを覚えたら、全員がその世界で生き抜くためにダンジョンへ向かうことだろう。


 そしてリアルに「ここは俺に任せて先に行け!」が出来る連中だと思う。



「お、来たな、指名手配犯」


 営業中ということで開けっ放しの扉をくぐると、出入り口の右手、クレームを処理するための場所ことサービスカウンターから声を掛けられた。


 副店長をしているサイだ。とてもイヤらしい顔をしている。『どんな無理難題を吹っかけてやろうかという顔』とは、こういうものを指すのだろう。


 隣には予想通り店長のノルンも居る。というか稼働している2つのレジにソーマとトリーも居る。


 つまり詫びるべき全員が集合していた。


「積もる話もあるだろうから、ここじゃなんだし、裏に行こうか」


「幹部とレジ担当が全員職場放棄!? 大丈夫なのか!?」


 何食わぬ顔で歩き出したノルン。


 小売店は普通の会社とは仕事方式がまったく違うので例えにくいのだが、学校で例えるなら校長・教頭・学年主任・担任が居ない状態で授業しろといった感じか。


 もちろん適当ではなく定められている通りに。さも居るかのように。誰に知られても恥ずかしくないレベルで。


 しかも食堂で掛かった時間を考えると閉店……つまり教材の後片付けや明日の準備までやらせることになる。


 それは中々に放任主義だ。


「だいじょぶだいじょぶ。そのぐらいとっくの昔に叩き込んでるから。自分の仕事しかしない、出来ない、やりたくない人間なんてここには居ないって」


 スゲー。ロア商会スゲー。どこぞの日本社会に見習わせてやりたいぜ。



「お前等はこれで満足しろよ。大人だろ」


 というわけで拉致……もとい忙しい中で時間を取ってもらって事務室へとやって来た俺達は、3度目となる事のあらましを話し、2度目となる謝罪の品を差し出した。


「別に俺等は大したことやってないし、そんなもん貰わなくても文句言うつもりはなかったけどよ。迷惑掛けられた人間に言われると腹立つな」


「おっ、言っちゃう? 要求しちゃう? アタシはないけど」


「俺もねぇよ……」


 サイに続いてソーマ&トリー夫婦も同じ顔で頷く。


(チッ、無欲な連中め。言いやすくしてやった俺の思いやりを返せ)


「なら4人とも代わりに私の願いを叶えなさいよ。ルークってば手に入れた精霊術を見せびらかしたいクセに戦いたがらないのよ」


「当社は代行禁止です。願い事を言えるのは本人のみとなっております」


 心の中で舌打ちしていると、それをそのまま表に出したくなる言葉が聞こえた。しかし実際に表に出すと怒られるのでツッコミという形で止めさせていただく。


「チッ」


 他人はダメでも自分はOK。


 そんな理不尽な世の中はポイズン。


「ほらほら、何でも良いんだぞ。凄い魔石とか、綺麗な宝石とか、ガチャ回せるオーブとか」


 無欲な連中の心を乱すべく、試作品としてニーナに渡した詫び石とは比較にならない品質の石を、生み出して並べていく。


「そんなこと言われてもねぇ……僕等は魔道チェイサーと電子ピアノってものを作ってもらってるし」


「にゃ」


 と、肩を竦めながら夫婦は揃って傍らにある魔道具に目を向ける。


「って、なんでここにあるんだよ。俺の部屋に置いてたはずだろ」


「研究所で調べたからね。返しに行こうかとも思ったけど、ココとチコに見つかるかもしれないし、謝罪かどうかはともかく挨拶には来るだろうから、その時返せば良いかって」


「家の中だと2人に見つかるからここに置いてあるのにゃ」


 そう言って2人は、俺に電子ピアノ、アリシア姉に魔道チェイサーを渡して来た。持って帰れということだろう。


 どちらも収納された状態でキャリーバッグサイズ。


 オルブライト家まで運ぶとなると一苦労だ。


 まぁ、魔道チェイサーと電子ピアノを密かに持ち帰り、ココとチコの入学前にサプライズでプレゼントすることが彼等の要望と思っておこう。




 異世界話と感謝の言葉と謝罪の品だけで納得した4人が、荷物を押し付けると閉店作業に戻っていき、次の場所に行くには時間と重量が足りないので、今日のところはこの辺で謝罪珍道中を終えることに。


「2つとも改良の余地ないほど完成度高かったんだなぁ……」


 他愛のない会話をしながらがなんとなしに手荷物に注目すると、精霊が見えるようになった今だからわかる変化があった。


「そうなの?」


「ああ。サイとソーマからのプレゼントでもあるから、出来たとしても手を加える気はなかったけど、これスゲーよ」


 結界をこれでもかというぐらい活用した遊具『魔道チェイサー』からは、風の緑と土の茶と活力を意味するであろう神々しい光が。


 新しい音を生成する楽器『電子ピアノ』からは、風と水と火と……まぁ音を遮断したり出したり何かしら関係する全属性の鼓動が感じられる。


「ふ~ん。でもそれってアンタ以外の精霊術師にもバレるんじゃないの?」


「いや問題ない。精霊達が製作者だから伝えてるって言ってる。たぶん関係ない連中にはただの大きな箱にしか見えないし、起動してもそのはずだ」


 憶測で言った瞬間、俺のお腹に頭でぐりぐりされている感覚があった。アリシア姉にも周囲の人々にも見えていない。精霊達の仕業だ。


 肯定と受け取って良いのだろう。


「ま、俺達3人の想いが凄かったってことで」


「じゃあその調子で私の防具も頼むわね」


 ……もしかして有能になればなるほど忙しい?


 電車作ったらスローライフ決め込みたかったんだけど……世の精霊術師の皆さんはどういった人生を歩んでいらっしゃるのかしら? わたくしより忙しいのかしら? 仕事選んでたら許さねえ。

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