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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十七章 激動

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九百八十六話 真・ルーク=オルブライト3

「つまりルークの話をまとめると、ここに降りた瞬間に『ニッポン』っていう国に飛ばされて、その世界で一二を争う強者の『仏様』と出会い、弟子の3人と一緒に修行しながら帰るための方法を模索していた、と」


 我が友に悪人など存在しない。万が一居たとしたら見抜けなかった俺の責任だ。


 というわけで、何も知らない被害者の立場を貫きつつ異世界転移したことを関係者全員に話すことにした俺は、イーさんの助言に従い、仲間達に真実と嘘を織り交ぜた説明をおこなった。


「ああ。微かだけど転移残滓……戻るための道が残ってるって言われな。向こうとは精霊の質が違くて俺しか使えないらしいから、使えるようになるまで鍛えてもらってたんだ。苦戦したけど実はそれが精霊術を身に付けるための修行になったみたいだな」


 最後に「やっぱ俺の幻覚じゃなかったんだわ、これ」と、効力を失っている1回限りの往復切符ミステリーサークルをつま先でコツコツ叩いて話を締める。


「精霊達に見せられた夢という可能性もありますね。以前にもご説明いたしましたが精霊・微精霊は力を与える代わりにその者の記憶を覗きます……いえ、記憶を見て力を貸すかどうか決めると言うべきかもしれませんね。

 そして彼等は見るだけでなく持ち込みもします。これによって記憶の欠如および混濁が起きるため、他者の経験や願望が混ざり合った結果『異世界』を生み出したとしても不思議ではありません」


「だな。何せ証拠がないんだ。肉体が消えてたってことはここじゃないどこか……普通に考えれば精霊界か神界に飛ばされてて、そんな場所から生身で帰還した俺に変な力の1つや2つ宿っててもおかしくないしな」


「そうですね。消えかけていますが、ここまで大規模な魔法陣であれば、人ひとりの精神と肉体を切り離すことは容易でしょう。もちろん本当に異世界へ飛ばすことも」


 強者総出で解析を進めたのか、役目を終えたからか、辛うじて認識出来るようになったらしいフィーネは、一度別の可能性を示唆した上で俺の話を肯定した。


 共犯者であることを悟らせない完璧な村人ムーブだ。


 もし彼女が人狼ゲームに参加したらさぞかし活躍することだろう。


 まぁあれは人狼を助けるために悟らせないとダメなんだが……それはそれで上手くやるに違いない。潜伏する人狼だったら良いわけだしな。




 こうして無事に異世界の知識をひけらかしても許される立場を手に入れた俺は、羨ましがる姉と中二病ヴァンパイア、心配する兄、さして興味も無さそうな鳥、何より俺自身のために力を使ってみることに。


 まず精霊!


「遠くのものを見るように凝視すれば見えます!」


「では検査いたしましょう。ルーク様、私の指先に何が見えますか?」


「視力検査!? ってかランドルト環!? い、いや、まぁ良いけど……右側が開いてる土精霊……下が開いてる水精霊……」


 俺とフィーネの距離は1mも離れていないが、その分、出現したランドルト環(視力検査で使う全方向C)が小さい。


 検査というだけあってドンドン小さくなっていく。


「……う……ひだ……上斜め左が開いてて属性は……火?」


「違います。他の線を1とした場合、左と上が0.6、その中間が0.01の太さです。属性は風。赤く染まり絶えず揺らめいているので勘違いされたようですね」


「難易度ぉぉッ!!」


 あ、一応人間の精霊術師としてはトップクラスの判定をいただきました。


 でも、空気を読まない中二病ヴァンパイアとアホ鳥には、まだまだって言われました。


 悔しいです。これから伸びると即答出来なかった自分にも腹が立ちます。



「精霊術が魔力と同じぐらい自由に使えるようになってます!」


「では検査いたしましょう。まずは精密さから。先程、私がおこなったように、指先に火属性を出してみてください」


「はああああ~~っ! 出来ました!」


「その質量を保ったまま収縮してください」


「はああああああ~~っ! これが限界です!」


「ププ~。全然デ~ス。走る時に親指に輪ゴムをハメる子供と、裸足になる子供ぐらい違いがありまセ~ン」


 早くなるんだって! 輪ゴムはテレビでやってたし、裸足はみんな言ってるもん! 両方合わせたら瞬●を履くより早く走れるんだって!


 オリンピック選手が全員シューズ履ている意味わかんねぇよ、マジで。


 ……ま、まぁ、軟式野球のボールがA号からB号に、直径にして71.5~72.5mmが69.5~70.5mmになるぐらいの変化だから、この失笑は甘んじて受け入れよう。


「続いては出力です。全力で私を攻撃してみてください」


「でやあああああああ~~っ!!」


 全属性の中で一番得意かもしれない風属性を選択した俺は、ドッヂボールサイズの風遁・螺●丸を生み出し、フィーネに向かって投げつけた。


 高速とは言い難い速さで飛んでいったそれは、フィーネに受け止められて数秒で消える。


「プププ~。全然デ~ス。説明文には枕に10回使用と書かれているのにケチって2回しかしない除菌スプレーや、対象一覧に書かれていない虫に使用する殺虫剤ぐらい全然デ~ス」


 消臭効果はあるし! 書かれてなくても効くし! 表示偽装にならないように書いてないだけだし!


 ……まぁ魔術で攻撃した時と変わらないことは否定しない。



「最後に精霊達に質疑応答をおこないます。ルーク様に力を貸してみて如何でしたか?」


「えっとぉ……生理なのに無理矢理行為に及ぼうとする彼氏ぐらい強引でしたぁ」


「おいハーピー。いい加減にしないとぶっ飛ばすぞ」


『あ……』


 事あるごとに絡んで来るハーピーに苦言を呈した瞬間、虚空から微かな呟きが聞こえた。


(『あ』? 今、そこの風のヤツ『あ……』って言ったか? もしかしてハーピーと同じこと言おうとしてたのか? ん? どうなんだ?)


 フッ――。


 睨みつけると風精霊はどこかへ消えた。


(これで良し……)


「自分達の欲する情報をどんな手を使ってでも引き出したり、引き出したように印象操作をするのは『マスゴミ』ですけど、それとは逆に不利な情報をもみ消す人達はなんて言うんでしょうネ~。ワタシそろそろ専用の言葉を作っても良いと思いマ~ス」


「くくく……この、世界の盟主である我が、命名してやろう。それは『ルークズ』だ」


 せんせー。ハーピーさんとメルディさんが人の名前を馬鹿にして遊びまーす。


 博士ひろしを『はかせ』、スペイン語で女の子を意味する『ちか』、優一ゆういちを『U-157(ゆういちごうなな)』、騎士ナイト光宙ぴかちゅうをからかうぐらい酷いと思いまーす。


「え~、担任や生徒達に聞き込みをおこないましたが、本校といたしましてはそのような事実は確認出来ておりまセン。ですが本校の大切な生徒が自殺したことは事実です。今後はこのようなことがおこらないよう、生徒達が安心して学べる体制づくりを徹底し……(うんたらかんたら)」


 自身の羽根でチョビ髭とバーコード頭を生成したハーピーが、しゃがれ声を出して何やら独り芝居を始めた。


 なーにが『確認出来ていない』だ。どうせホームルーム時に「知ってるヤツは手を挙げろ」とかクラスメイト全員に呼び掛けて、集団心理を利用して進言出来なくしたんだろ。


 1人1人への聞き込みも「犯人を庇うとタメにならないぞ!」って何が何でも聞き出そうとする刑事ドラマ風じゃなくて、「別に言わなくても良いよ。それで何か起きても先生助けられないし」って消極的な姿勢なんだろ。


 それが生徒を大切にするってことだもんな。勘違いしてる大人達の考えとしてはさ。


 これだからルークズは……。




 そんなこんなとフィーネ先生による検査が終わり、全項目を一流精霊術師で埋め尽くした俺は、真・ルーク=オルブライトとしてチート街道を歩み始めることとなった。


 ゲームの取説を実際にプレイした後で読み返したようなものだ。


『あー、はいはい、これはそういうことだったのね』

『なるほど。××をするには○○が必要だったんだ』


 と、必要な情報を改めて仕入れることに成功した俺に、不可能はない。


「次は私と戦いなさい」


 いや、あった。


 戦闘は専門外だ。というか何故戦わなければならないのか意味がわからん。


 説明を求める前にアリシア姉は意欲的な目をしたまま話を続ける。


「こういうのは実践で調べるのが手っ取り早いのよ。検査なんてどうだって良いわ。ルークがどう変わったかは私自身が確かめるから。グフフ」


 グフフって、今この人グフフって言いましたよ。


「嫌だよ。間違いなく能力を調べる以外の目的で戦おうとしてるじゃん。てか俺が使う精霊術って素材の生成や加工だし。瞬発性や攻撃性が求められることに使わんし」


「うるさいわねぇ……要するに高地トレーニングしたんでしょ。酸素濃度の低い場所で過ごすことで肉体が環境に適した機能を身に付けて、持久力や身体能力を一時的に向上させたんでしょ。ならブーストが切れる前にMAXを確認するのが姉としての義務じゃない」


「義務ではない」


 アリシア姉は当然のようにこの主張を無視。


 言っていることが間違っていないのがまた腹立たしい。


 これからどうなるのかはわからないが、今が最大値で劣化する可能性は十分にある。どちらにしても今の状態を覚えておくというのは理に適っている。


 少なくともここまでは伸びしろがあるということだからな。


「なら俺は対戦相手にレオ兄を指名する」


「なんでよ!?」


「検査してわかった。俺にアリシア姉の魔法は消せない。魔法を使わなくてもその剣、レーヴァテインの攻撃を防ぐことは出来ない。精霊術を魔力と混合して体に取り込んで身体能力強化とかも出来ない。相性が悪すぎて戦いにならん」


「戦いの中で成長すれば良いじゃない!」


「力量を確かめるだけなのに死線をくぐらせようとするんじゃない。成長したとしても戦いを続行するだろ。まだ引き出せるとか言って」


「はぁ? 何言ってんのよ。出来ないから無理をするんでしょ。出来るなら調べる必要も鍛える必要もないんだから。失敗しながら身に付けるなんて当然のことじゃない。それの何がいけないってのよ?

 使う・使わないもアンタが決めることじゃないわ。いつ必要になるかわからないんだから出来るに越したことないでしょ」


 イ、イカン。なんか知らんが劣勢だ。

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