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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十七章 激動

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九百八十五話 真・ルーク=オルブライト2

「居たああああーーーーっ!!」


 フィーネ、ユキに続いて再会したのは、我が姉、アリシア=オルブライト。


 翼のように両手を20度に開いてマントをはためかせるという、カッコイイ飛行ポーズについて1ヶ月以上悩んだとは思えない平凡スタイルのメルディもその下に居るには居るが、再会と言うにはあまりにも距離が離れているので、やはり3番手は凄まじい勢いでこちらへ駆け寄るアリシア姉だ。


 背中を踏み台にされたメルディは、フラつきながらも空中で体をよじって姿勢制御をおこない、それが結果的にファイティングポーズとなって『あ、やっぱこれだわ』とご満悦。


 中二病でなくとも空中戦は痺れるので気持ちはわかる。銃や剣を構えるとなお良し。手や足元から魔法陣を生み出して攻撃なり防御をするのも可。


 まぁ、あとで「それ停止時しか使えないぞ。つーかそのポーズで飛ぶのカッコイイか?」とからかって再び1ヶ月悩ませてやるのは決定として、


「おう、アリシア姉、心配掛け……うおっ!?」


 間近に迫っている姉に片手をあげて挨拶するも、彼女は勢いそのままに真空飛び膝蹴りを放ってきた。


 俺はとっさにクロスガードで防御。


 そうしなければ間違いなく気絶していた。これ以上人生の貴重な時間を失いたくない。


「……ちょっと見ない間に随分強くなったじゃない」


「そ、そうか? 気のせいじゃね? 1時間やそこらで変わるわけないじゃん」


「いいえ。衝撃が一瞬流されたわ。あれは魔力じゃなくて属性ね。私の魔力に宿ってる火の力が減ったのよ。アンタ精霊術使ったわね?」


 ただ防御しただけなのに、精霊達が寄り付かないように細心の注意を払っていたはずなのに、実際精霊術なんて使っていないのに、バレた。


 自然と一体化するために使っていた力が僅かに漏れただけで、2ヶ月の修行の成果を見抜かれてしまった。


 流石だ。俺のことを幼少期から可愛がっていただけはある。もちろんスモウ的な意味で。


 だが認めるわけにはいかない。


「なら鳳凰山だな。あのアトラクションで鍛えられたか、火の神に会ったことで耐火性を授けられたんだろ」


「違うわね。飛行船を下りるまではそこまでの力は無かったわ」


(この人どんだけ俺のことを見ているんだよ……)


 シャンプーが変わったとか、何時間前に何を食べたとか、オ●ニーし過ぎとか、何かの拍子に口に出すんじゃないかと変な意味でヒヤヒヤしてしまう。


「「ラヴですね」」


 愛が……重い……。


 フィーネ達の発言を否定する術を持たない俺は、杞憂と言ってもらえなかったことに戦慄しつつ、その愛情を育児放棄する親御さんに分ける方法を考え始めた。


 断じて現実逃避ではない。断じてだ。



「くんくん……知らない女のニオイがするわね……」


 しかしアリシア姉の検査は続く。


 夫の浮気の証拠を探すかのごとく俺の胸元に顔を寄せてきたかと思うと、数回鼻をヒクヒクさせ、心臓が止まりそうなことを口走った。


 心当たりはある。あり過ぎる。浮気ではないがこの場にいない女とニオイが移るような濃厚接触は何度もしている。


 だが肉体が違うはず。魂にニオイが残っているとでもいうのか。どうか神様のことであってくれ。


 俺は切に願った。


「フィーネやユキみたいな女が1人。それと太陽みたいな子供が……3人ね。血の気が多い子と、からかい上手な子と、落ち着いた子ね。全員泣いているわ。別れを悲しんでるのかしら? まるで何ヶ月も一緒に過ごした仲間を失ったみたい。最初は秘密を共有してるだけだったけど、接している内に好きになっちゃった感じね」


 これなんて千里眼?


 もしかして皆がそう言ってるだけで肉体はそのまんまとか? 詩愛達に泣きつかれた時に出来た染みとか残ってる? 神様洗浄失敗してね?




「で、どうなのよ?」


 アリシア姉の追及は、レオ兄&ハーピーコンビが到着してからも続いた。


「…………」


 頼りのフィーネは、二度とこんなことが起きないようにか、判断をこちらに委ねてミステリーサークルを熱心に調べている。


 ユキは用事が済んだと言って一足お先に帰宅し、メルディとハーピーはワクワク半分ハラハラ半分といった様子で傍観している。


 つまりこの場は俺1人で何とかするしかない。


「私を忘れてもらっては困るね」


「――っ!!!」


 アリシア姉の時とは比べものにならないほどの衝撃が走る。止まりそうじゃない。本当に心臓が止まった。


 犯人は証拠を消すために犯行現場に戻るというが、彼女の場合は周辺住民がどんな気持ちなのか、どんな的外れな捜査をしているのか、己の楽しみのために戻って来ている。


 愉快犯にして主犯、イズラーイール=ヤハウェのご登場だ。


「ああ、心配無用だよ。この異世界転生魔法陣……ルーク君の言葉を借りるならミステリーサークルの効果はまだ続いているからね。キミが私を認識しようと他の者達にバレることはない」


 季節感を無視した無地のTシャツに、安物のジーンズ。


 何のつもりか知らないが、地球で手に入れた服と同じデザインのものを身に付けているイーさんは、だから自分と会話しろと言うかのごとく説明をおこなう。


(むしろバラしたいんだが? ゲロって楽になりたいんだが? 俺、被害者だし)


「おやおや、世界を統べる精霊王にすら不可能な情報伝達を、一介の転生者が出来るというのかい? 後学のために教えてもらえるかな? 一体どうやって私のことを皆に伝えるのか」


(知るか。言うだけ言ってみて後はその場のノリだ)


「おや。奇遇だね。私もそうアドバイスしようと思って来たんだよ」


(……聞きましょう)


「ははっ、素直でよろしい。では……」


 イーさんは少し勿体つけてアドバイスを始めた。



「隠す必要なんてないんだよ。私のことは伝えられないから犯人は見知らぬ誰かということにして、異世界に連れていかれて、そこで2ヶ月過ごしたと言えば良いのさ。それでキミの知識と技術の向上は彼女達に認められる」


(全員に言えと? 迷惑掛けた60人に?)


 たしかに楽は楽だ。


 宇宙人に連れ去られたと言う者が特別な力を身に付けていたら信憑性はあるし、何故そうなったのか、どうやったら力を得られるのかも『わからない』の一言で済ませられる。


 しかしそれが特別なことなのは誰の目から見ても明らか。言えば間違いなく特別視される。


「それはキミ自身がその相手からどう思われたいかで決めることだよ。裏切られると思えば適当な嘘で偽ったり曖昧にはぐらかせば良い。秘密に出来る代わりにその者からの信用は地に落ちるだろうけどね」


(意味ないじゃん!!)


 どこまで秘密を打ち明けるかは心の距離による。


 大きなものから小さなものまで日常的におこなわれている取捨選択だ。


 近ければ良いというものでもない。巻き込みたくない相手だからこそ俺は転生者であることを家族に伝えていない。


 彼女はそれをしろと言っている。


「キミが転生者であることと、拉致された先が異世界であることは、別次元の話だよ。キミはただ被害者ぶって体験談を、知識を、ひけらかすだけで良いんだ」


(『ぶって』じゃない。本当に被害者だ。結果的に力を得ただけで、行きたいと思ったわけでも……ない)


「『困っていたわけでもない』が抜けたね。前々から知識が不足していたことは認めるんだね。だから図書館に通ったり違法改造をおこなって情報を仕入れたんだ」


 精霊に詳しくなるためという言い訳が通用しないことはわかっていたので、俺は沈黙を選択した。


 それは戻るための努力であると同時に、戻った後に役立つ力でもあったのは間違いないのだ。


「ああ、勘違いしないでくれ。別に責めているわけじゃないんだ。責めるとしたら『何故その知識を素直に表に出そうと思わないのか』だね。

 転生方法については知らぬ存ぜぬ。精霊達が見せた夢かもしれないし、神から寵愛されているかもしれないし、世界に誰も知らないトンネルが開いているかもしれない。ハッキリさせる必要なんてどこにもないんだよ」


(白黒つけるなと?)


「そうは言わない。白黒つけようとする努力は大切だ。黒いなら認めて、謝って、同じ過ちを繰り返さないようにする。罪を軽くしようとしたり、『でも』『だって』といった責任転嫁は必要ない。それは相手から与えられた刑を受け入れないと言っているのと同義だ。白いなら潔白を証明してハメようとした相手を責めれば良い」


 善悪がハッキリしているならね……と、今回は対象外であることをほのめかし、イーさんはさらに続ける。


「時には優しい嘘も必要なんだよ。アリシア君達は責めているんじゃない。心配しているんだ。そんな心優しい彼等に余計な心配を掛けないのは、心配された側の義務だとは思わないかい?

 これは保身ではなく全員が得する画期的な解決法さ。なにせすべて真実であり嘘なんだからね。どれだけ探しても犯人は見つからない。未知への探求心を刺激しておしまいだよ」


(……まぁ、たしかに)


「まだ不満そうだね。ならフィーネ君の話をしよう。彼女は文字通り血眼になってキミのことを探していた。しかしキミが戻って来た瞬間に全力で冷静さを装ったんだ。『私、わかってました』という様相を取り繕って泣きそうな心を隠したんだ。

 これは優しさと言えないかな? もし知っていたら申し訳なく思っていただろう? 悪くもないのに悪いことをしたと思っていただろう?」


(今知ってしまったけどな! 同じことがアリシア姉達にも起きるかもしれないってことだろ!?)


「あり得ないよ。これは私とキミしかしらない事実だ。正確には協力者も知ってはいるけど、ユキ君を見ただろう。上手にはぐらかしていたじゃないか」


 上手……かなぁ?


 俺はアホアホ精霊王の言動を思い返して首を傾げた。


「上手だよ。普段からボケボケだから何を言っても冗談に聞こえる。まさしくオオカミ少年だ。もしも理解を求めるなら辛いが、求めないのであればこれほど楽な立場はない」


 ユキがどちらの存在か考えるまでもなかった。


「しかも真の目的はシッカリ隠している」


(真の目的……? 俺を鍛えることじゃないのか?)


「いずれわかるから今は何も言わないでおくよ」


 イーさんは、いつものように意味深な笑みを浮かべると、


「おっと……そろそろ限界だね。それじゃあ私はもう行くよ。では頑張りたまえ。また会おう」


 と、強制的に話を終わらせて、片手をあげたかと思うと世界から消滅した。

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