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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十六章 地球編

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閑話 誇り

 俺は、何をされているのか具体的な説明もないまま施術椅子に座らされて、ミニスカナースという時代錯誤の男の夢を叶えていた。


「ふむふむ……ルーク君はボディラインがハッキリ出るパンツスタイルより露出が多いスカートの方が好き……と」


「いやいやアレはアレで良いものですぞ。しかし魚ばかりでは飽きてしまうのです。肉も食べたくなるのです」


 どちらを主食にするかは個々の嗜好に任せるとして、よほど嫌っていない限り、もう二度と見る機会がないと思っていたものが目の前に現れれば、希少性から感涙してしまうのが人の性。


 しかも姿形だけの安っぽいコスプレではない。本物の白衣の天使だ。


 金を払ってでも見たい、着たい、色々盛り上げたい……要するに需要があるからこそ衣装が販売されているわけで、各種サイトで『職業コスプレ』なんてジャンルが確立されているわけで。


 その例に漏れない俺が、見た目美人の神様に献血(?)されて喜ぶのは、当然のことだった。


「はーい、お口開けてくださーい。痛かったら手を挙げてくださいねー」


「あー」


 しかも足の先から頭のてっぺんまで全身一気にだ。


 医療関係者に興奮するなど言語道断という者もいるだろうが、それは主観の押し付けというものだ。個人の思想を批判することは絶対にしてはならない。


 周りに迷惑を掛けなければ何をしても良いのが世の摂理じゃないか。


 彼氏彼女にコスプレさせるのも、稼いだ金で風俗に行くのも、同性愛でハァハァするのも、結婚しないのも、家族や相手の同意があればいくら楽しんだって良いのだ。


 エロい目で見られるのが嫌というなら何かしらの方法で注意すれば良いし、どうしても許せないと思うのなら付き合いをやめれば良い。それをネタに脅して禁止することも、程々に付き合って満足させることも出来るだろう。


 そういった願望をどこまで抑えるか、どこまで相手に合わせるかによって、人生の幸福度は大きく変化する。


 人との付き合いにおいて最も重要なのは相性だ。


 食事は奢ってもらうもの、男女が密室で2人きりになったら手を出してOK、結婚相手は年収1000万、カップリングは○○×△△、ラーメンは醤油一択、遊ぶ時はテレビゲーム。


 例え付き合いが無くなるとしても譲りたくないというなら、それは仕方がない。その者にとっては願望の方が強かっただけの話だ。


 我慢ばかりの人生は楽しくないが、我慢しなければ一生誰とも仲良く出来ないかもしれない。


 大切なのは妥協すること。受け入れること。


 何から何まで自分の思い通りになる人生なんてあり得ない。自分の思う正しさと相手の思う正しさは違う。絶対にどこかで衝突する。


 そんな時は辛くない程度に仲良くなる道を探しても良いんじゃないだろうか。


 相容れないと思っていた相手のことを理解出来た時、きっと自分は成長しているはずだから。


 少なくとも欲望丸出しの俺は、今、幸せです。



「――とでも言うと思ったか! いつまで続くんだよ、この検査! 視覚だけ楽しませておけばいいと思ったら大間違いだからな!!」


 時間の感覚がないので正確なことはわからないが、数時間ということはないはずだ。


 1つの検査で数時間。それを8セット。


 ド定番から誰得なのかわからないコスプレパーティを強制的に満喫させられていた俺は、とうとう我慢の限界を迎えて咆哮した。


「まぁまぁ。ところでルーク君はナース……あ、いえいえ、看護師さんの服装についてどう思います?」


「……パンツ・スカート両スタイルとも正しくないと思います」


 乗ったのは好きな話題だったからではない。注意されても止めないのは何かしら意味があると考えたからだ。この人はそういう人だ。


「その心は?」


「スチュワーデスや警官もそうですけど、結局のところ人って服装じゃなくて職業に憧れるものじゃないですか。彼等がどんな格好でもカッコいいと思うじゃないですか。大切なのは仕事が捗るか否かであって、周りの目は関係ないと思うんですよね。興奮する人はシチュエーションだけで興奮しますし」


「でもパンツスタイルのエッチ本が少ないのは事実ですよ?」


「たしかに雑誌や風俗店なんかでも未だにスカートですし、AVにはそれなりにありますけど、それはナースだからというわけじゃなくて脱がす楽しみ……つまり着エロの一環です。職業を主軸には置いていません。下着と見紛うギャルのショートパンツや、生活感丸出しのジーンズと変わりません。

 ただそれ等は30年後には勢力がスカート現実パンツに二分されます。今はまだ新しいものを受け入れる段階なんですよ。昭和野郎の妄想? 違いますね。ブルマやスク水と同じで、世代でない人々も知れば良いと思うんです。夢は終わりません。懐古も終わりません」


「語りますねぇ~」


 別に全然詳しくないし。意味があるから必死に合わせてるだけだし。もうネタ切れだし。頭の中のアダルトフォルダには別の物しか入ってないし。


 ……え? 何が入ってるのか?


 …………さ、締めに入ろうか。


「つまりですね。エロい目で見られることを気持ち悪いと思う心。ドヤる心。見られなくて萎える心。すべてイコールだと思うわけですよ」


 別にセクハラを正しいと言うつもりはない。


 ただ、他者からよく見られたいと思う承認欲求は誰もが持っているもので、だからこそ人は服装に気を遣い、露出度を上げ、または下げ、運動能力とは無関係の筋トレに励むのだ。


 例え見えない場所でオシャレをしても、それは絶対に自己満足では終わらない。確かな自信となって承認欲求へと向かう。表に出してみよう、アピールしてみよう、比べてみようとなる。


 よく『好きの反対は無関心』と言うが、逆説的に考えれば関心を持たれることは好意を持たれているということで、それは不快感であると同時に幸福でもあるはずだ。


 あとは先程語った通りどこまで許せるか。


 手を出されたらアウトだろう。露骨な発言や視線も中々に辛い。


 異性を知る上で最も参考にするべき物は人の願望が詰まった二次元だと思っている俺としては、『興味のないフリをしているが隠しきれていない』が当たりリアクションだと思う。


 俺様系の人からド直球で褒められるもありありのあり。


 もちろんイケメンや美少年に限る。


 男性だってそれは同じだ。スーツや各種制服、ファッションセンスについて、どのような感想を抱かれるかで承認欲求の満たされ方は変わる。


 無関心を貫かれるぐらいなら笑われたり否定された方がまだマシだ。言い方にもよるがそこから話題が広がるなら問題ない。俺は、だけどな。


「要するに何でも良いと。勝手に脳内で補完するから好きにしろと」


「まぁ男と女である以上は仕方ないと言いますか……」


 なんで論争になると絶対どっちかの味方になろうとするんだろうな。しかも性別なり年代を代表する立場でさ。


 お互いに自分が正しいって言ってるんだから、納得させるためには折衷案を探すしかないじゃん。


 もしくはペナルティを設ける。『今回は○○の意見を通すけど、失敗したら××に変える』とか『問題が起きたら今後は××の意見を優先的に通す』とか。


 責任重視でフットワークの軽い与野党みたいな感じ……って、政治は責任感のある連中がしてるんだったな。フットワークも軽いよな。メンゴメンゴ。


「あ、あと『不愉快なことでも自力で対処する力を身に付けよう』ですかね。お互いに気を遣い過ぎて逆に出来なくなってる気がして」


「最近何かと厳しいですからね~」


 笑わせようと冗談を言ったら地雷だったなんてことザラにあるからな。大多数が不快に思うようならこっちが悪いけど、その人だけの地雷とか全然あるからな。


 そういう時、その場を乗り切るコミュ力や、次からしない・させない力って個人でも持つべきだと思うんだ。


 愛想笑いを浮かべるぐらいなら訴えるって世の中は違うじゃん? もしかしてだけど対人能力下がってね?




「はーい、お疲れ様でしたー。以上で入世界検査は終了となりまーす」


 全10項目の検査……もとい試練を突破し、晴れてアルディア世界に戻る許可をもらった俺は、再び交通整理の人の恰好になった神様に感謝の言葉を告げて早速現世へ。


 そ・の・ま・え・に。


「最近出番が無くて暇だったんですよね? この検査意味ないですよね?」


「まさかかさま。魂の洗浄は必要でしたし、地球で仕入れた知識がどの程度のものか知る必要もありました。極めて珍しい『転々生』への罰も与えるよう他の神々に言われちゃいましたし。まぁ楽にクリアされちゃいましたけど」


「……もしかして結構無理させちゃいました?」


 鎌をかけるつもりで放った質問だが、想定していたより真面目な答えが返ってきてしまった。


 巻き込まれただけとは言え、充実した日々を送ってしまったことに変わりはないので謝ると、神様はヘラっと笑い、


「良いんですよ~。こういう時に責任を取るのが上に立つ者の役目なんですから。その分、役立ってくれれば私は怒ったりしません」


 ノルマを課せられてしまった……。


 役に立たないと怒るって断言されてしまった……。


「まぁまぁ。大丈夫ですって。こちらの世界の人達は想像力と感受性が豊かですから。ルーク君がやりたいことなんてすぐに再現出来ちゃいますよ~。なにせ自然を大切にしてますからね~」


 まるで科学より魔法の方が優れていると言わんばかりに胸を張る神様。


 どうしてみんな比べたがる~♪ 一つ一つ違うんだからそれで良いじゃない~♪


「自分の世界を一番と思えない神様は神様失格ですよ~。相手の頑張りを褒めるのは良いですけど、絶対に負けちゃいけないんです~。例え負けていても『伸びしろがあるし』と言わなきゃダメなんです~」


 それはもはやただの負けず嫌いでは……。



「それじゃあもう行きますね。色々ありがとうございました?」


「いえいえ」


 両方の世界を知る俺は、度量が広いのか狭いのか判断に困る神様に感謝しつつ、今度こそ現世へと意識を飛ばした。

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