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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十六章 地球編

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九百八十一話 サマーメモリー4

 俺の異世界サバイバル生活は、現地で知り合った幼女達と遊ぶばかりではない。


 昼過ぎまで待っ……個人的な作業をして邪魔者が現れなければ、精霊との対話や筋トレ、本当の意味での道具の魔改造など、現世の能力に近づくために時間を使う。


 彼女達にだって都合がある。


 一生に一度しかない小1の夏休みなのだ。家族とお出かけする予定もあれば、突然友人が遊びに来たり、俺が参加出来ないイベントに参加することもあるだろう。


 山へ来るのは『毎日のように』であって『毎日』ではないのだ。


 夏休みが終わると会う機会はさらに減った。


 学校終わりに遊びに来て、休みの日は食料を持ち寄ってバーベキューをしたり釣りをしたり、雨の日は何も出来ないと思いきや傘をさしてまでやって来てオンボロ基地で他愛のない話をする。


 しかしどうしても夏休みと比べると自由になる時間は限られる。


 だからどうしたって話だ。


 上記で述べた待望の1人タイムが始まるだけだ。


「なら、休日は昼食後、平日は下校時間にギリギリまで人里に近づいて、彼女達の家の方向に全力感知術を向けて、来ないと知った時にシラヌイ君や精霊と嘆くのは止めないかい?」


「は? 何言ってんの? 意味わかんないんだけど。全部ルーク=オルブライトとしての力を取り戻すためにやってることじゃん。全然会いたいとか全然思ってないし。全然。俺が1人でも平気な人間だって知ってんだろ。単純作業とかやり込みゲーとか延々やってられる人間だって知ってんだろ。ジグソーパズルを接着剤でくっ付けずに何度も作る人間だって知ってんだろ。そもそも話が合わない幼女より開拓ゲーしてた方が楽しいよ。人の手が加えられてるとバレない程度に菜園したり、鳥や虫の棲み家づくり手伝ったり、サバイバル生活したりする方が楽しいよ。充実してるよ。ホント、意味わかんない発言で印象操作するの止めてくんない? マジで」


「オタク特有の早口長文で誤魔化そうとしても無駄だよ。私には通用しない。

 力をつけているわけではないと理解しているからこそ、心に重きを置いた『充実』という言葉を使ったんだろう? 1人で努力するより彼女達と遊んでいる方がレベリングが早いとわかっているから。良かったね、遊ぶための大義名分を得られて」


 嫌味ったらしいセリフを清々しい顔で言うイーさん。


「でも話が合わないのは本当だぞ。あいつ等、向こうの世界のこと批判しやがったし」


 俺は、追い打ちをかけるようにコスパの悪い作業に勤しむことを薦めてきた彼女へのせめてもの抵抗として、たった1つの真実を伝えた。


「つまり他は嘘だと認めると。その1点を除けば何一つ非の打ちどころのない有意義な時間だと。自分はロリコンだと。そう言っているんだね?」


「もう1つ否定する要素が増えたけど、まぁおおむねそんな感じだ」


 あんまり蔑ろにしたら幼女達が可哀想じゃん。あっちは好いてくれてるのに嫌うのって気分悪いじゃん。陰口は笑って許してくれる範囲じゃなきゃな。


 んじゃあ、その喧嘩した内容について語るとしようか。


 あれは、幼女達が楽しみで堪らないといった様子で、『花火大会』と『町内会の祭り』という夏の二大行事について話し始めた時のことだった――。




「参加しない……? な、なんで? 楽しいわよ?」


 終始消極的な姿勢で会話に参加していたのだが、人生経験の少ない6歳児にはこの空気感が伝わらなかったらしく、当然のように俺を頭数に入れて集合時間と場所を決め出した。


 数多の作品と人生経験から、こういった場合の優柔不断と明言回避がどういった結末を招くか承知している俺は、悪いとは思いつつこの誘いを断った。


「出来るなら俺だって参加したいさ。でもそこで使う金もなければ意味もないんだ。お前等だってこの1ヶ月で理解したはずだろ。精霊は何が好きで何が嫌いか」


「好きなのは自然。嫌いなのは人工物」


「自然を大切にする心や、大切にしない心もそうだね」


「ああ。そして人が集まる場所ってのはどうしたってゴミが散乱する。そんな場所に行って何もせずに帰ってきたら、俺はたぶん許してもらえない」


 参加するなら自然に悪影響なものを全部取り除く。出来ないのなら参加しない。


 例え自分でゴミを出さなくても、見て見ぬふりをしているなら、それは悪だ。


 ほどほどに片付ければ許される? そんなの誰が決めたんだ。何基準なんだ。都合良く正当化してるんじゃない。


 某執事漫画でも言ってただろ。『来た時よりも美しく』の精神を忘れるなって。


「だから俺は参加出来ない。祭りの度に荒らしに来る人間達を追い払ったり、出したゴミを処理したり、この辺りの山を保全する」


「「「…………やだ」」」


「は?」


「「「やだーーーーッ!!!」」」


 そんな正論が自己中心的な生き物に通用するはずもなく、詩愛を中心に怒り悲しみ駄々をこね始めた3人。


 どうやら彼女達は、感情が一つになった時、足し算ではなく掛け算で爆発するらしい。あの大人しいいぶすら絶叫だ。


 で、そのご機嫌取りに、前々から熱望されていた魔法世界について語ることになったわけだが……。



「子供の教育で暴力を振るうの? 変なのぉ~」


「お父さん言ってたよ。痛みは苦しみしか与えないって。間違った教育だって」


「怖い世界……ぶるぶる……」


 それなりに戦闘に精通している詩愛も、教育について一家言ありそうな光も、陰キャ代表のいぶも、アルディアの常識を受け入れてはくれなかった。


 空想の中にしか存在しない魔法や魔獣、文明は劣っているのに楽しそうな生活、その身一つで何とでもなる世界をすべて否定しているわけではない。


 要所要所の異文化……特に力の身に付け方について否定的だった。


「おいおい。こっちの世界のことを知りたいって言ったのはお前等だぞ。そりゃ俺だって全部が全部正しいとは思わないよ。でもあっちの連中が何千年もかけて育んだ生き抜く術を、お前等の正義を押し付けて否定するのは違うだろ。

 言っておくけど、俺だって地球の人類至高主義や一部の権力者の利益のために同族で殺し合うことをおかしいと感じてるからな? 3人が俺の話を変だと思うのと同じぐらい、俺もこっちの常識を変だと思ってることを忘れるなよ?」


「でも変よ」


「まぁまぁ。お互いに自分が正しいと思ってることを言い合ってたらキリがないよ。どっちも譲らないんでしょ。そんなことよりもっと楽しい話をしようよ」


 先程の発言はどこへやら。光が仲介に入ったことで3対1の構図が崩れ、俺達の言い争いは終戦を向けた。


 どうやら彼女は自分の感情を抑えることが得意らしい。内心ではおかしいと思っているのだろうが表には一切出ていない。


「ははっ。キミより大人なんじゃないか?」


(うっせ……)


 これが作品であれば視聴を止めるという選択肢がある。しかし会話ではそれが出来ない。


 俺という存在そのものを否定することに繋がるので3人はスルーすることを選んだ。好きな人を嫌いにならないために。なら俺もそれに乗るしかあるまい。


 争いたいわけでもなければ争う必要もないのだ。


 これが本当に自分で導き出した考えなら大切にするべきだし、他者から言われただけなら自分で思考して答えを見つけるべきだ。


 その切っ掛けになったらそれで満足よ。


「んじゃあ知り合いの冒険者が初めてダンジョンに挑んだ話をしようか」


 光の提案に乗って、純粋に楽しんでもらえそうなアリシア姉の冒険譚について語り始めた。




「あれは客観的に見てもルーク君の説明も上手ではなかったよ。厳しくする必要性や力を身に付けない危険性を一切語っていないし、『英知』という言葉を隠れ蓑に成長や努力を放棄している。それを感じたから彼女達は噛みついたのさ」


 時を戻して現代。


 イーさんは、俺の回想が終わるのを待っていたように、アルディア語りの件を批難し始めた。


「説明はしただろ」


 自転車に乗れるように訓練するようなものだと言っても『怖い』と言った。


 無理矢理じゃない。それしか移動手段がないから絶対身に付けないといけない技術なのだと、怪我は絆創膏で治療するような軽傷だと言っても、受け入れられてもらえなかった。


「だから言っているじゃないか。キミは説明が下手だと」


「たしかに自分で上手いと思ったことは一度もないけど、そう何度も言われると温厚な俺でも腹を立てるぞ? 仏の顔は三度でも俺は気分次第だ」


「自己正当化も程々にするんだね。説明は相手が納得するまでしなければ一方的な押し付けと変わらない。受け入れてもらえなかった? 心を開かせる前にキミが諦めたんだろう」


「仕方ないだろ。あれ以上続けたら喧嘩になってたんだから」


「違うね。『自分の中に答えがあって、世間もそれを肯定してる。そんな状況なら誰だってそれを正しいと思うし、そういうものだと言われても違うと返す。受け入れたらこれまでの自分を否定することになるのだから』だろう?

 キミは彼女達の感想を他者から与えられたものだと断定して、説明する気力を失ったんだ」


「…………」


 否定は出来ない。


 何故そう思うのか? 周りがそうだと言っていたから。


 多数派の意見こそが正義であり、自分の世界ではそれが当たり前なのだから他の場合でもそうに決まっている。例え世界が違っても自分は正しい。


 話を最後まで聞かず、理解しようとせず、意見を無視して、こちらが正しいと言っていることも否定して、自分の意見を押し通す。


 あの時の彼女達は、まるでそんな固定観念に凝り固まった、俺の嫌いな大人のようだった。


「知らない世界を知る機会が目の前に転がっているというのに、思考停止してそれを手に取ろうともしないのは勿体ない。しかしそれを得るためには今の世界を否定することになる。難しい問題だね」


「俺の感情を読むのは止めてくれ」


 しかし俺が諦めた理由はそれだけではない。


「自分より小さな子供が流血しながら修行することも、貧困や病気で死ぬことも、魔獣と戦って死ぬことも、あの子達は一生経験することがないから無理をする必要はないと思ったんだ」


「当然じゃないか。所詮はファンタジーなのさ。キミは空想世界の裏側を語って満足だろうけど、知りたくない世界を教えられた彼女達はいい迷惑だよ」


「最初から言うなってことか? でも俺にとっては真実であり現実だ」


「ははっ、子供にリアルを求めてどうするつもりだい? 彼女達はキミに過酷な現実ではなく希望に満ちた世界を求めているんだ。それぐらいわかっているだろう。

 それとも何かい? キミは幼い頃に暴力に正しさを見出していた人なのかな? 違うだろう? 常識なんて独善的なものだよ。視点が変われば簡単に変わる。

 たしかにキミの意志を読み取ろうとしない彼女達も悪い。でも両世界を知っているのはキミだけなんだ。地球基準で調子を合わせてあげないと」


 まぁ説明が下手だから無理だろうけどね、と嘲笑うイーさん。


 結局、俺が怒られてるんだろうな……。



「まぁ現実と空想を必要なところだけごっちゃにしろなんて、子供に要求するにはあまりにもハードルの高いものだったと思うよ。大人げなかった」


「わかってもらえたようで何よりだよ」


 一から百まで肯定されるのは気持ち悪い。


 俺はそれを前世で学んだじゃないか。


「人生は楽しんだ者勝ちだ。誰が何を思おうと自由だよ。それを否定することは誰にも出来ない。否定するとしたらそれは認めようとしない愚か者だけさ」


「……だな」


 でも俺は嫌いな所より好きな所を探せる人生の方が楽しいと思うぞ。

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