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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十六章 地球編

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九百八十話 サマーメモリー3

 翌日、3人は約束通り(?)山にやって来た。


 ……凄まじい早朝に。


「ったく、なんでラジオ体操帰りに来るかなぁ。しかも最初会ったところで大人しく待ってれば良いのに、探そうとするし……」


 昨日手に入れた品々で遅くまでトライ&エラーを繰り返したお陰で、イーさんに叩き起こされるまで彼女達の存在に気付かなかった。


 シラヌイの頑張りも空しく見つかったカモフラージュ拠点の下で、俺は寝惚け眼をこすりながら、作ったばかりの壁に大穴をあけて横穴を掘る。


「彼女達は一刻も早くキミと遊びたくて、キミがどんな生活をしているか興味があった。それ以外の答えがあるなら教えてもらいたいね」


「へいへい。すいませんね。どうせ俺は自分の中で答えが出ていることを尋ねるバカ野郎ですよ。共感して欲しくて口に出しましたよ」 


 嫌味を言う暇があるなら手伝え。


 そう訴えかける俺の視線を無視してイーさんは続ける。


「別に良いと思うけどね。ここの存在を知られても」


「ダメに決まってんだろ。魔法で地下に潜ってるってことにしてるんだから。あいつ等は俺にファンタジーを求めてるんだから、こんな魔法使いらしさの欠片もないゴミ溜めで暮らしてるなんて知ったら悲しむじゃん」


「まったく。見栄というのは面倒なものだね」


「見栄じゃない。大人としての責任だ。見せるにしても3人が知ってる見た目と中身が別物になってからだ。冷蔵庫から音楽が流れたり、椅子が勝手に動きだしたり、木の枝からジュースが出てきたり、心弾む空間になってからだ」


「つまり一生見せないということだね。昨日の実験で1つも魔道具化に成功していないのだから」


 ぴえん。




 それっぽい魔法陣を描き、何も起こらないので精霊術で超常現象を引き起こすという、見栄以外の何物でもない技を繰り出した翌日も、3人は遊びに来た。


 川で遊んだ翌日も、木登りをした翌日も、山火事を起こしかけた翌々日も、彼女達は毎日のように遊びに来た。


 元々、山へは夏休みの宿題をするために来たらしく、朝から晩まで……は言い過ぎだが、宿題さえしっかりやっていれば仲良しトリオが時間を忘れて遊んでも怒られることも不審がられることもなく、俺達は夏を謳歌した。



 例えば絵日記。


「な、中々独創的な絵だな……」


 よほど上手にご近所付き合いや親戚付き合いをしていない限り、大人になってから小学1年生の絵を見る機会などそうそうない。製作段階のものなど皆無と言っても良い。


 久方ぶりに見るそれは『超現実的』『作為的』『躍動感しかない』と三者三葉のもの。左から順に、いぶ、光、詩愛だ。


「どくそーてき?」


「詩愛らしくて良いって意味だよ」


「ふふーん! わかってるじゃない!」


 これが褒める言葉が見つからない時の常套手段ということを理解していない詩愛は、褒められたと勘違いして俺への内申点を上げる。


 そして作業を続行させる。


 独特の感性を持ついぶは、平面の中で自分の望む世界を表現しており、恐ろしくクオリティの高い巨大カブトムシが山を蹂躙している意味不明なストーリーと、見る者の心をざわつかせる色彩を除けば、褒めるところしかない作品となっている。


 3人の中で一番の常識人と思われる光は、空撮したとしか思えない視点の『子供が描く山と言えばこれ!』を描き、おそらく自分達であろう黒点を3つ打ち、俺が入っていないことに安堵した瞬間、


「これで完成だよ!」


 笑顔の棒人間とクマを書き足した。


「オイィィーーッ!!」


「あはは。ウソウソ。ちゃんと他の人も描くよ。ほら」


 満足のいくリアクションを得られたからか、登場人物を増やしてくれたので事なきを得た(?)。


「これは何してるところなんだ?」


 そんな2人と違って詩愛の絵は、一から十まで説明してもらわなければ理解不可能のもの。一応完成まで待ってみたがはやり理解出来なかった。


 絵日記というものは、最近の出来事、あるいは現在進行形で起きていることを描写するもののはずなのだが、彼女の絵には木々の緑も土の茶も人の肌色も登場していない。


 というかそれ等の物質が登場していない。


「え? 火の剣で悪者を倒してるところだけど?」


「これだけ話題に尽きない日々を送っておいて、なんで空想を絵にしようと思った!? 描くことなんていくらでもあるだろ!?」


「今からげんじつにするんじゃない! さぁ! これに火をちょうだい!」


 来る途中で拾ったであろう木の棒を差し出してくる詩愛。


 下手に拒否すると駄々をこねることは目に見えているので、誰かに見られても良いようにライターで燃やしている感を出しつつ先端を燃やしてやると、


「……なんか違う。これじゃない」


「そりゃ木の棒を燃やしたら、炭になるか、チョロ火しか出ないに決まってんだろ。文句があるなら自分で火力上げろ」


「やーだー! やーだー! 火をグルグルさせるのー! 斬ったところがボッって燃えるのー!」


「あ、それでクマを燃やすんだね。詩愛ちゃん賢い!」


 ナイスフォローだ、光。


 でも慰めるのもそれはそれで面倒だからほどほどにしてくれ。


「ってか、もうちょっと引いた視点で描けよ。なんで自分を入れないんだよ。切っ先だけとか説明必須だろ」


「まぁまぁ詩愛ちゃんだから。他のも凄いよ。見る?」


「いや……やめておく……」


 光の言葉に反応して最初のページを開こうとしている詩愛を引き留める。


 楽をしているわけではないのだろうが、これを評価する担任や、将来評価することがあろうコンクール関係者には同情せざるを得ない。


 頑張れ。



 例えば自慢大会。


「びえーん! がけから落ちてお気に入りの服がよごれちゃったぁー!」


「服で泣いてるだと!? 怪我じゃなくて!?」


 どれだけ高いところから飛べるか、階段を何段飛ばしで登れるか、どんな変なポーズで出来るか、などの無謀チャレンジは誰もが一度はしたことがあるはずだ。


 一張羅を賭け金に綱渡りに挑戦した詩愛は、2m強の崖に落ち、川の水と、転がっていた石で散々な有様に。


 まぁ直後に始まった川遊びですべて忘れたようなので問題ナッシング。


 幼女達にせがまれて水深を深くしたのだが、土精霊の中にロリコンが混じっていたのか、飛び込み用プールも真っ青な深さになっていぶが溺れた。


「あくまでも自分のせいではないと主張するその図々しい精神は褒めておくよ。わかっているだろうけど、精霊術というのは術者と精霊の気持ちが通じ合わなければ力を発揮しないものだからね」


 誰が幼女の野暮ったいパンツが透けることに興奮する変態紳士だ。



 例えばアサガオの観察日記。


「見て。わたしのアサガオが最強」


「な、なんで~、条件は同じはずなのにぃ~!」


 毎日来るための口実にするためだろうが、俺のカモフラージュ拠点近くの日当たりのいい場所に観察対象を植え替えた幼女達は、本来の目的を忘れて他者より大きく育つことに楽しみを見出していた。


 ……って、ある意味それが本来の目的か。


「で、何をしたんだ?」


 いぶのアサガオは明らかにおかしかった。


 ちなみに俺は何もしていない。精霊達も知らないと言っている。


「いぶスペシャル。栄養に良さそうなものを混ぜ合わせた」


「ぎ……ぎぎ……ぎ……」


「ちょっ、喋ってる! 植物が変な声出してる!!」


 後にシラヌイが己の糞尿を肥料として与えていることが判明。他2人もやりたがっていたので、学校に提出するアサガオは別に用意するという条件で好きにさせてやった。


 発想と知識の勝利と言える……のか?


「そうだね。いぶ君の作った栄養剤もちゃんと効果があったんだよ。カブトムシやクワガタにキミの術と共に与えていたら、プラスチックの虫かごなど瞬く間に粉砕するムシキングが誕生していたところだ」


 一時的なブーストだって言われたら、まぁ遊びますよね。


「ハァハァ……ルーク君好き……わたしと一緒に虫帝国を作って……!」


 財産や権力や体目当ての告白ってこういう気持ちなんだろうな……。



 例えば自由研究。


「今日はナチュラルアクセサリー作るよ! 花や枝でリースを作ったり、ドングリや松ぼっくりに金具をつけたり、石をくっ付けたりするよー!」


 接着剤やヒートンといった必要アイテムを取り出して宣言する光。


「ちなみにわたしは、お姉ちゃんに教えてもらった猫じゃらしを繋げて作る猫の尻尾を作るつもりだよー」


「……ほほぉ」


「な、なんか目が怖いよ? もしかしてルーク君、そういうのに詳しい人?」


「まぁそこそこ」


 小学生が作れるようなレベルではないものが完成したのは言うまでもないだろう。


 季節外れのススキとアクリル製品を分解して生成したシャギーを組み合わせ、針金の代わりに硬直した枝を、色付けに各種果実を使用した。


 妥協したくないので動物繊維を自然界に存在する素材から生成しようとしたのだが、全員から止められてしまった……何故だ?


 そして、そんな妥協作ですら大人が作ったというのも無理があるので、幼女達の個人的な用品として持ち帰ってもらうことに。


「ワン! ふふっ、どう? どう? 似合ってる?」


「詩愛ちゃん、似合ってるにゃん」


「……リスの鳴き声って何?」


 全員、世界に一つしかないものだと、とても喜んでくれた。


 ちなみにリスは『ククク』と鳥のように鳴く。

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