表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十六章 地球編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1202/1659

九百七十七話 買い物3

 魔法ではなく科学を選んだ地球には精霊が少なかったり、彼等が人工物を嫌っているということもあるが、使用者おれの実力不足も精霊術で出来ることが限られている原因の1つだ。


 それによってサバイバル生活に支障が出るわけじゃない。


 飲み水は生み出せるし、山菜や果実はある程度育っていれば活性化させて採取出来るし、相棒と協力すればクマにすら勝てる。心を通わせれば害虫に害はなくなり、『地面の中』という雨風ひと目を防げる最強の拠点も手に入れた。


 品種・味付け・調理方法によるレパートリーの少なさと、外出時の危機管理と、将来への不安と、働かざる者食うべからずの生活に不満がなければ、優雅と言っても良いだろう。


 しかし、俺の目的は生き抜くことではない。


 力を手に入れて元の世界に戻ることだ。


 そのためには新しい技術が必要で、技術を得るために人工物を頼る。


 すべて自然の力で再現出来るようになった時、俺はアルディアに居た時と同等の力を手に入れたということになる。


 そう! これは決して贅沢なんかじゃない!


 工具はお手製ナイフでは不可能な繊細な作業を、調味料は因子そのものを作り出す切っ掛けと生きる活力を、フライパンは鉱石の加工技術の見本に、タオルの吸収力は土の、肌の乾燥は風の、繊維に染み込んだ汚れを落とす作業は水の精霊術に精通する!


 これは俺と精霊達の修行なのだ!!




「それは私ではなく山へ持ち帰って精霊達に言うべきだ。これ等を必要か否か判断するのは彼等だからね」


 ホームセンターに到着して30分。


 目的の品々をカートに乗せ、幼女達を引き連れてレジに向かっていると、突然イーさんが妙なことを言い出した。


「妙? 私には協力を要請しているように聞こえたよ?」


 まぁその通りなんですけどね。


 持ち帰ったタオルを見た風精霊は『タオルなんて必要ない。水気は早く飛ばすに限る。こんな風になぁ!』と、俺を精霊式乾燥機に突っ込むだろうし。


 そうならないように、またはそうなった後に再び交渉の席につけてくれと要請しているのだが、残念ながら彼女はこの件に干渉するつもりはないらしい。


「おや? まさかキミともあろう者が暴力に屈するのかい? どれだけ否定されても自分が正しいと思ったことは最後まで貫くべきじゃないかな?」


(……なんか違くね?)


「違わないさ。食わず嫌いをしている子供に無理矢理食べさせるのも、勉強嫌いに勉強させるのも、苦手な相手と仲良くさせるのも、立派な教育だよ。

 本人の自由? 一生食べない、使わないから問題ない? 何を言っているんだか。何を教えて何を教えないか選べるほど彼等は世界のことを理解しているのかい? 未来のことを把握しているのかい? 苦手を克服させられない者に教育者の資格はない。どうやったら好きになってもらえるか考えることもまた成長さ。

 拒否する側もそうだ。『いつかやる』なんてしない者の言い訳に過ぎない。やる理由ではなくやらない理由を考える時点で間違っているんだよ。善悪問わず人生に無駄なことなんて1つもないのだからね。

 その内わかってくれるなんて生ぬるいことは言ってはいけないよ。キミがわからせるんだ。そうすれば成功しようと失敗しようと力は手に入る。意志という力だ。そうやって生物は強く逞しくなって行くのさ」


 要するにやれと。人工物アンチの精霊達に歩み寄らせろと。やり方次第では自然界のものでも人工物を超えられるって教えて、ドヤらせて、良い気分にさせて、協力者になってもらえと。


 元よりそのつもりだ。


(でもな! 寄り付かなかったら意味なんだよ! 俺も挫けないから精霊達も逃げられないようにしてくれよ! 頼むぜ!)


「強制召喚すれば良いよ」


 ……イーさんって案外スパルタ。それが出来ないから頼んでるのに。


 ○○を作るためには××が必要で、××を手に入れるためには△△が必要で、△△は**を周回したら手に入って、それには##があれば効率的。苦労してやった○○は次の##になる。


 そんな虚無感ともやりがいとも取れることをやらせるようとしている。


「人生では当たり前のことだよ。死ぬ以外にやめる方法がないんだ。せいぜい楽しもうじゃないか、この究極のやり込みゲーを」


 プレイヤー全員が廃課金者で、能力値や必要課金額は生まれた時から決まっていて、どれだけ努力しても報われないことが多く、能力が見えず得意分野もわからないくせにほぼすべてが定員制でPvPあり。突然の一発逆転チャンスもほぼ無し。それでいてセーブもロードも出来ない。


 ストーリーも目的もなく、脳死周回も効率化も出来ず、ひたすら運命の選択と能力の維持と金稼ぎを繰り返すゲーム。


(人生はクソゲーとはよく言ったもんだよ、ホント……)


 ただやりごたえだけはある。出来ないことが出来るようになった時の喜びは他のゲームの比ではない。


 例え意味がないことでも、すぐに出来なくなることでも、何なら他の人の迷惑なることでも、自分が満足していればそれで良いのだ。


 ま、誰かを悲しませても心から笑えるならの話だけどな。


 たぶんだけど皆で楽しい気持ちになった方が満足感は高いと思うぞ。


「その気持ちがあれば大丈夫だよ。人も精霊も同じ。嫌がる者の大半は、構ってもらいたいか、出来ないと思い込んでいるか、それをするメリットを感じないか、だ。それ等が間違いだと教えてあげれば精霊は応えてくれるよ」


 イーさんは最後に、彼等は人より素直だからね、と痛烈な嫌味を言ってカートに乗りこんだ。


 アンタも遊びたかったんかい!!




「あそこに丁度良い見本がいるね」


 恥ずかしさと教育以外で子供のカート乗車を拒否する理由を思いつかなかった俺は、どちらにも当てはまらないイーさんを無視し、幼女達に夏の予定を聞いたりしつつ行楽客で賑わうレジに並んでいた。


 別に、JSのスク水や、寸胴ワンピースや、大人ぶったビキニや、ラップタオル(着替える時に巻くテルテル坊主になるアレ)姿を見たいからではない。


 シーズン品なので入り口近くに売り場が展開されていて、自然と目に入るのだ。彼女達と同じぐらいの年齢の子供が群がっているしな。


 それはともかく、俺達の番まであと2人と迫った時、イーさんがカートの中から前方でレジ打ちをしている男性を指さした。


 何の変哲もない若い男性だ。


(あの人がどうかしたのか?)


「先程の話の続きさ。嫌いなことを避け続けた人間のその後を見せてあげよう」


 イーさんがそう言った途端、景色が変わる。


『担当者が不在でして……』


『ならわかるヤツを呼べ! そんなことも出来ないのか!?』


 水道用品売り場で、レジ男が如何にも短気そうな男に怒鳴られている。


 どうやらレジを打っていた男性は応援で入っただけで、本来は売り場担当者だったようだ。


 そしてDIY担当でもなく、客は得られるはずの情報を得られなくてキレていると。


『い、いえ……全員忙しいようで……』


『~~っ!』


 狼狽えながらも自己解決をしようとしない従業員。その態度に客はさらに怒りのボルテージを上げる。


(あれがどうかしたか?)


 漢字・英語の読み書き、近所の立地、他店の取扱商品、商品知識。


 接客業において『そんなことも知らないのか?』は、挨拶と同じぐらい当たり前のことだ。当然それによるお叱りも日常茶飯事。


 もはやストレス解消のために来店しているのではないかと思うぐらい怒鳴られることも多々ある。


 知らない自分もたしかに悪いが、棚替えや担当部門の変更、転勤、新商品など、仕方のない場合もあるのだ。


 しかしそんなことは客には関係ない。


 従業員なのだから知ってて当たり前。知らないなら知らないなりに教える努力してくれるのが当たり前。他の詳しい人を呼んでくれるのが当たり前。


 それが叶わなかった時、対応に失敗した時、時間をかけてしまった時、客は必ずと言っていいほど怒る。責める。周りの迷惑も考えずに怒鳴り散らかす。


「ぬるま湯で育った彼が、立ち向かう勇気や、素直に謝罪する謙虚な心や、穏便に対応するための慣れなどを持ち合わせていると思うかい?」


(ないだろうな)


「そうだね。正しいことを教えるための説教からすら逃げ出すんだ。責任を問われるものは当然逃げる。ましてや自分が悪いとなったら確実にね」


 イーさんが言うと同時にレジ男の自尊心は粉々に砕け、何度か謝ると泣きべそをかきながら従業員トイレに逃げていった。


 この後に待っているのは、上司や同僚からの同情、あるいはさらなる説教だろう。


 そして……退職。


 社会人経験が6年ほどしかない俺でも結構な数見ている。実際はその何万倍と居ることだろう。退職を考えるだけならほぼ全員と言ってもいいかもしれない。


 怒鳴られる側以外にも第三者としてそういう場面に遭遇する場合もある。


「仮に仕事を続けたとして、彼は立派な先輩や上司になれると思うかい? 後輩に頼られ、部下を庇える従業員になれると思うかい?」


(可能性はなくはないだろうけど、限りなくゼロだろうなぁ。社会人経験を積んで増えるのって知識や技術だけで、精神は人生そのものが影響するし)


 同じようなことがあったら彼はまた逃げるだろう。


 接客出来るようになれば良い? さっきも言っただろ。どうしようもない場合もあるんだよ。販売員には関係ない商品や人手不足へのクレームもある。


 そういった場合に必要になるのは乗り切る能力だ。


 それは本人の生き方に左右される。


「嫌なことから逃げず、説教を受け入れ、暴力を振るわれても挫けず、恨まれても気にしない。そんな『覚悟』を若者はどれほど持ち合わせているんだろうね? まさかそうはならないと楽観視しているなんてことはないだろうし」


(そうならない社会を現実にしようとしてるんだろ。『俺は怒らない。だからお前等も怒るな。みんなでほどほどの仕事をしよう』ってさ)


 そのお陰で退職者数はここ何十年と変わってないわけだ。


 レジ男のように心の弱い人間はすぐに辞めるが、厳しさから逃げ出す人間も居なくなるので、結果的にプラマイゼロ。


「人材育成が出来ていないからマイナスだと思うけどね」


 それは言わないお約束。


(便利な世の中になってるから人間に技術が無くても機械が何とかしてくれるし)


「それこそ精神と肉体の腐敗だろう?」


 せやね。


 ま、俺が死んだ30年後にどういう世界になっているかは見てのお楽しみってことで。


 1つ言わせてもらえば、俺の目にはロクでもない世界に見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ