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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十六章 地球編

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九百七十六話 買い物2

 よく『女の買い物は長い』『付き合うのは面倒臭い』などと揶揄されるが、少しでも良い品や好みの品を選ぶために時間を掛けるのは当然のこと。


 その必死さと優柔不断が混同されているように感じられるが、興味のない人間にとって重要なのは理由ではなく結果なので、どちらでも構わないのだろう。


 だがその時間を楽しめる人間も居る。


 特に顕著なのは子供。


 何度も来店しているはずなのに宝島か何かのように目を輝かせる子も居れば、ゲームコーナーや本屋で暇を潰さなければ全身で床を掃除し出す子も居る。


 では俺の同行者達はどうか。


「なんでカートに乗っちゃダメなのよ! これって何かを乗せるためのものでしょ!? 商品は良くて子供がダメなんて不公平だわ!」


「ねぇねぇねぇねぇッ! 何買う!? 何買うの!? ねぇねぇねぇッ!!」


「シラヌイ君がペットフードを食べてくれるなら安上がり。試しに買っていく?」


 鬱陶しいぐらいに前者だった……。




「詩愛……カートで乗っていいのはこの子供用シートだけで、そこに収まらないってことは乗車許可を剥奪されたってこと。お姉さんになったからカートは卒業だ」


「じゃあ押す!」


 てっきり身勝手な理屈をこねるかと思ったのだが、大きくなることは子供にとって最大の喜びだったらしく、簡単に納得した詩愛は、別の楽しみを見出そうと隣に駆け寄って来てカートの取っ手にしがみ付いた。


「走ったり、ぶつかったり、俺から離れたり、変なものを入れたり、大声を出さなければ良いぞ」


「わかったー!」


 子供がするであろう悪行をすべて封じられても、不満を言うどころか、任せてもらえたことを誇らし気にする詩愛。


 誓いを破って暴走する様子もない。


 時間制限付きかもしれないが、その時はその時なので、取り合えず今は任せることにして次に移ろう。


「光。それを決めるために今から店内を見て回るんだ。ちょっと落ち着け。余計なものを買うほど余裕がないのはわかってるだろ。良さそうな品があったら教えてくれると助かる」


「むむ……それは私が頼りってことかな? センスを試すってことかな? かなかな?」


「ああ」


 服が採用されなかっただけに、今度こそはと店内に目を光らせ始めた光。それを見た詩愛も宝探しを始めた。


 やはり子供というのは禁止するより与える方が良い……って大人もか。


「んで、いぶ。さっきからシラヌイが好きそうなペットフードを選んでるところ悪いんだけど、たぶんアイツは生肉しか食わない。試すのも無しだ。ここからじゃ持って帰るのが面倒だし、移動手段があったとしてもゴミが出る」


 そうでもないように見えるいぶだが、発言とは裏腹に購入する気満々で、迷いがない分2人より厄介だったりする。


 何も持っていない状態ですら彼女達がお荷物になった。数千円分とは言え荷物が増えればどうなるか、言うまでもあるまい。


「誰かの家に連絡して迎えに来てもらえば良い。ゴミはゴミ箱に捨てるだけ」


 そんな予想に反していぶは後々のことまでシッカリ考えていた。


 それだけに惜しい。


「普通の家ならな。俺がやるのはサバイバル。ゴミが出る度に里に下りるわけにはいかないし、精霊が怒るから缶やビニールみたいな自然に戻らないゴミを出すわけにはいかないんだ」


 これは精霊うんぬんを除いても当てはまる話だ。


 かけがえのない母星の未来より自分達の稼ぎを優先する連中は一体何なんだ? 一斉に生分解可能な素材に変えれば低コストになるのに何故しない? いつまでプラスチックだのアルミだのガラスだの使うつもりだ?


「迎えに来てもらうのもダメだ。俺が何のためにこの世界に来たか忘れたか?」


 俺は彼女達以外と関わるつもりはない。詩愛のお父さんが特別なだけで、それだってあと1回あるかないかだ。


 それを自動車だの宿泊だの金銀財宝ガッポガポだの……ちゃんちゃらおかしいぜ!


「私に言われなければしていたじゃないか。時間がないのでアドバイスすることにした私の気遣いに感謝するべきだね」


(神様、仏様、イズラーイール様、ありがとうございます)


「あ、仏は私のことだからどちらかで良いよ。人間の中にはごく稀に死後の世界へ行った時に私と交信出来ようになる者が居てね。息を吹き返した者が神と勘違いして広めたんだ」


 ……うん、まぁ知ったところで何か出来るわけでもないし良いんだけどさ。


 さてさて、自然界で生き抜かなければ魔法の修行にならないことを思い出してくれたようなので、いぶはこのままでも引き下がってくれそうだが、折角なのでもう1つ。


「あと、知らないようだから言っておくけど、安い肉は本当に安いからペットフードの方が高いんだぞ」


「……わたし、情報化社会に混ざれてない」


 小学生が混ざってたら逆に怖……くもないか。今はそういう社会だ。


 衝撃の事実を知ったいぶが、この直後、役立つ商品探しに参戦したのは言うまでもないことだろう。




「入り口横の食品コーナーで調味料、中央の日用品コーナーで厚底フライパン、その近くにある風呂用品コーナーでタオル、端のDIYコーナーで工具……そんなところかな。必要そうな物は」


 店内を隈なく見て回っていたら日が暮れてしまう。


 サブ通路の探索は子供達に任せて、俺はメイン通路に陣取って従業員時代の記憶を頼りに売り場に目星をつけていく。


 ホームセンターもスーパーと同じで配置はどこも似たようなものなのだ。


 ただ、子供達の楽しみを奪うつもりはないし、思いつかないだけで他にも必要なものあるかもしれないし、一口に工具と言っても多種多様なので吟味する必要がある。


 つまり『どっちの商品が良いか迷ってる間、好きにさせる』という典型的な親子の買い物シーンを再現しているわけだ。


「見て見て! これカッコいいわよ!」


 何でも知っている俺を試そうとしているのか、次から次へと珍しい品を持って来る詩愛は、今回も嬉しそうに工具を差し出して来た。


「ヘックスドライバーな。機械とか特殊なネジで使うんだ。絶対要らないから戻して来い。そこに携帯ゲーム機持ち込んで蓋開けようとしてるバカが居たら店員に言ってやれ」


 居るんだよ、本当に。中身を変えて違法改造するらしいんだが、1回しか使わないからってその場で済ませようとするバカが。


「あっ、さっき見た! でも店員がいない!」


 居るんかいっ! そして店員は居ないんかいっ!


「い、言われてみれば、俺ずっとメイン通路に居るのに従業員は数える程しか見てないな……」


 仮に昼休憩を1時間4シフト制とした場合、11時から3時までなので今はもう従業員は全員店内に居るはず。


 接客や事務作業で売り場を離れているのなら良いが……いや、それにしたって見ない。まさかサブ通路だけを通っているわけでもあるまい。


 ま、いいけどさ。


「サイズが合うかどうか確認するために持ち込んだ場合もあるから、実際に回したりしてないか確認してからに……あ、いや、やっぱ俺が行くわ。詩愛は店員探しといてくれるか。呼ばなくても良いから。場所だけ教えてくれ」


「わかったー」


 詩愛から商品の何となくの場所を聞き、受け取った商品を戻しに行くと、中学生ぐらいの少年が試していた。


 買うつもりはあるようなので注意はしなかった。


 まぁ使用後に返品する可能性は高いが、それはこの店の問題で、俺がとやかく言うことではない。


(明らかに1回使っておしまいの場合は断るとか、交換で対応するとか、何か対策するべきだよな。段ボールを無料で渡すのとか、貸出トラックとか、一体何を考えてあんなルールにしているのかわかんねぇよ)


「言ってるじゃないか」


(だってさ~。段ボールとか学園祭の時期になると必ずと言っていいほど学生がもらいに来るんだぞ? 商品として売ってる物があるんだからそっちを売れよ。そりゃゴミ処理は楽になるよ? 費用削減になるよ? でも販売店って商品を売る場所であって、あげる場所じゃないじゃん。農家とかと同じで知り合い(従業員)にだけあげるで良いじゃん)


 貸出トラックは時間厳守。遠いなら配達。数百円で何時間も乗り回されたら堪ったものではない。


 本当に使ってんのか、その4mの木材?


「凄い客になると、あたかもその店舗で購入したようにレシートを見せて、他店の商品を返品することがあるようだね。1週間後なら店側も必要になくなったのだろうと思うし、バーコードが剥がれていたら疑いようがない。それを繰り返せば無料で乗り放題だ」


(あるあるだな。俺なんか木が割れたってクレームの電話が来て、回収に行かされたこともあるぞ。もちろん全額返金でトラック使用についても言及不可)


 どこまで本当なんだか……。



「工具やフライパンってルーク君なら作れるんじゃないの?」


 というホームセンターの闇は、今の俺には無関係なので放っておくとして、詩愛とやり取りする前の話を聞いていた光が不思議そうな顔で尋ねてきた。


 もっと別の物を買うよう申告しているのかもしれない。


「切れ味の悪いナイフや金槌ぐらいならな。ピンセットみたいな精密作業向けのものや電動工具は無理だ」


「何に使うの?」


「そりゃ料理とか工作に決まってんだろ」


 火が通る石鍋すらまともに作れないのだ。フライパン1つあるだけで料理の幅は格段に広がる。


 そして工具は魔法陣を作るために必要なもの。精霊術があるのなら魔力が無くても魔道具を作れるはずだ。


「成功しなくてもこっちの精霊達にそういうものがあるって教えられるしな。興味を持ってもらえたら力を貸してもらえる。一緒に練習出来る。

 で、今の俺にはそこまで細かい調整は出来ないから人力でやるしかないと」


「へぇ~。ちゃんと考えてるんだね」


「というわけで冗談のつもりで持ってきたであろうその電動ルーターは買いだ。アクセサリー一式ついて2000円は安い」


「え? でも電池……」


「そんなものは魔法で何とでもなる。いや、してみせる」


 最近、電池について色々勉強したので、試してみたいと思っていたところだ。


 素材と魔法陣で再現することは出来たが、電池そのものを精霊術や魔法陣で充電あるいはエネルギー源を変えることは出来るのか。


 中々に面白い挑戦だと思う。

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