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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十六章 地球編

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九百六十七話 金対策

 竹と木のツルで編んだ梯子を使用して地下に降りた俺は、雨で濡れた体を風の精霊術で乾かし、内装整備に取り掛かった。


 ――が、その前に。


 太陽の光が燦々と降り注ぐ地上と違って地面の中には光源がないので、まずはこの真っ暗な状況を何とかしなければならない。


 光源と言われて真っ先に思いつくのは人類の英知『炎』だ。


 しかしそれは、様々な便利を与えてくれる代わりに危険を伴う諸刃の剣。


 火事、一酸化炭素中毒、火傷、爆発など、刃物と同じぐらい生物を殺してきた史上最悪の力であり、それ等をすべて享受可能な地下で使用するのは自殺行為だ。


「……と普通は思うだろうな。しかし! 精霊術が使える俺には関係ない! 例え換気口がネズミ1匹通れるかどうかの細いものだったとしても! というわけで点火!」


 同居人に『キミ本当に独り言が好きだね』と言わんばかりの呆れ顔をされつつ、子供の腕ほどもある太い木の棒に火をつけると、それは布も油もないのに勢いよく燃え始めた。


 その分、早く燃え尽きるかと思いきやそんなこともなく、先端が僅かに焦げるだけで一向に燃え尽きる気配がない。


「ククク……これぞ火精霊の力よ。鉱石を好きなだけ燃やしていい代わりに出力を調整する。まさにギブアンドテイク。WIN-WINの関係」


「キミにとっては一方的なWINだけどね」


「ふんっ。だからなんだ。相手に喜びを与えることに不満があるなら協力しなければいい。自分の利益より相手の損益を優先する捻くれ者はこっちからお断りだ」


 世界は本来優しいものなのだ。


 ナンバーワンにならなくても良いという点だけは、ゆとり教育における絶対評価を肯定しよう。切磋琢磨の心や自己犠牲の精神を育んでいないのは許せないがな。



「さて、いよいよ室内での作業に入るわけだけど……まぁ出来ることは限られるわな」


 光源を確保したことで出来ることは劇的に増えた。


 しかし、スペース、物品数、道具、空調、多くの問題が残っている。


「風と草の精霊と上手く付き合っていればこんなことにはならなかったね」


「仕方ないだろ。あいつ等、火の連中と違って『これが欲しい!』ってもんがないって言うんだから。草食系だよ。そうだろうとは思ってたけど」


 たしかに、風の切断能力と気体制御能力、草の生成能力とエネルギー確保力があれば、スペース以外の問題が解決していただろう。何なら外で作業していても平気だったかもしれない。


 しかし残念ながら彼等の協力は得られなかった。


 頼まれれば手は貸す。でも積極的に動くのは嫌だ。自分の時間を大切にしたい。


 それが風と草の性質だった。


「それを覆すのが精霊術師の仕事だよ。それなのに『作れたとしても金で買えるもんばっかだし……』なんて思うから。機嫌を損ねるのは当然だね。熱意が足りない」


「話を振って来たのはあっちだ。『植物で作った衣服は人間界では浮くけど本当に着るのか』って。『金が手に入ったら買うんじゃないか』って」


 否定するのもアレなので正直に答えたら不貞腐れられた。


 不法投棄されていたパソコンの筐体と自転車のフレームから生成したアルミで作る鍋や皿より、拾った石を成分変化させて作る合金ナイフより、インバーター式発電機を修理して家庭並みに安定した電力を得るより、既製品を買った方が楽で確実で効率的なのは事実じゃないか……。


「それに俺はちゃんと『楽しいって気持ちが大事だ。手間を掛けて作った物は大切にする』って言ったぞ。それなのにあいつ等と来たらこっちの話を聞こうともしない」


「利用してもらいたい精霊達。長持ちさせたいルーク君。お互いの大切の基準が違うのだから歩み寄らないといけないよ」


「ぐぬぬ……」


 イーさんの言っていることは正しい。しかし納得は出来ない。


「まぁまぁ。現代社会で使用しているものより便利だと、火だけ優遇したのも悪手だったね」


「ホント、面倒臭い彼女を持った彼氏の気分だよ……」


 サークルの飲み会をしていて彼女への返信が遅れた。あるいは返信出来ないと伝えていたのでしなかった。


 なのに怒られた。どっちが大切なんだと文句を言われた。


 例えるならそんな感じだろうか。


「俺には俺でやりたいことがあるんだ。何を優先しようが、何をしなかろうが、俺の自由じゃないか」


「恋人や夫婦など距離感の遠い者ならその理屈は通用するけど、キミが相手にしているのは生まれて初めて会った親と必死に仲良くなろうとする子供であり、出来の悪い子供を正しい道に導こうとする親だよ」


 前者を『距離感の遠い存在』と表現するのは皮肉が効いていて好きだが、後者の『子であり親』発言の方が重要なので、スルーして。


「……挑発に乗らず、優しい嘘で誤魔化せと?」


「違うよ。私はその後のフォローが大切だと言っているのさ。衝突しない家族は家族ではないが、喧嘩をするなら本音をぶつけ合ってお互いのことがわかった後、一段と仲良くなるような喧嘩をしないと」


「それはそうだけど俺はサバイバルがしたいわけじゃない。2ヶ月生き抜いて向こうに帰りたいんだ。効率厨になって何が悪い」


「勘違いしているようだから言っておくけど、帰るために必要な『それ相応の力』は全属性の精霊の協力だよ。一属性も抜けてはいけない。2ヶ月も生きるんじゃない。2ヶ月しか猶予ないのさ」


 …………。


「はぁ……サバイバルするかぁ……」


「それがいいね」


 【悲報】俺氏、購入できる商品を制限される。


(まぁポジティブに考えれば、稼いだ金を全部趣味趣向に使えるってことで、贅沢しなきゃ衣服と調味料と一部食糧を買うだけで済むってことだよな)


 おそらく一万円もあればお釣りが出る。


 一攫千金で優雅な引きこもりから、製作全振りの働き者の貧乏人にジョブチェンジだ。


 嬉しいような悲しいような複雑な気分である。




 精霊達と仲直りした翌日。


 異世界漂流4日目。


 昨日の豪雨が嘘のようにカラッと乾燥した山の中で、俺は当初の目的にして現在微妙になっている金対策『鉱脈探し』を実行に移した。


 ぶっちゃけ落ちている金を探した方が楽そうだ。


「一万円を舐めるな! ルーク君が丸一日探し回っても1週間掛かるよ!」


「……そっちで良いですか? 取り合えず服と肉と塩が買えれば良いんで」


「ダメだよ。もしやろうとしても私が全力で邪魔をする」


 クソォ……。


「ところでなんでこんな乾いてるんだ? 山って保水性あるから地面が乾燥するまで1ヶ月以上掛かるはずだろ」


 気を取り直して辺りを見渡すと、そこは前日まで雨が降っていたとは思えないほどカラッカラに乾いた大地が広がっている。


 土精霊だけに用がある俺としては大変有難い状況だが、違和感を抱かずに喜べるほど流されやすい質ではない。


「それも龍脈の力だよ。すべてが活性化しているからね。吸収・成長・腐敗、何から何までとにかく早いんだ」


「ここまで顕著なら誰かが気付きそうなもんだけどな」


「ははっ、ルーク君は目は良いけど節穴だね」


 矛盾した言葉で罵倒するイーさん。


「たしかに地面は乾燥しているよ。でもキミが見ているのは中だ。表面じゃない」


 彼女は俺が怪訝な顔をするより早く説明に入った。


「どういうことだ?」


「精霊達の悪戯さ。メデューサ君にもらったメガネを使用する時の感覚でピントを合わせてみるといい。元の視界に戻るよ」


 言われた通りにすると、徐々に景色は移り変わっていく。


 乾燥までに数年掛かりそうな太い倒木に、水の滴る腐葉土に、ビチャビチャな土、雨上がりという言葉がピッタリ来る山の様子だ。


「足音も変わっていただろう? そっちは風精霊の復讐だね」


「謝ったじゃん! 仲直りしたじゃん! というか『そっちは』って!? 別件でもお怒りですか!? 俺なにかしちゃいました!? それとも面白がってやっちゃった感じ!?」


「それを含めて仲直りということだろうね。からかえないと仲良くなくて、からかい過ぎると嫌がらせと思われるんだから、イジメの基準はどこにあるんだろうね」


「話をすり替えるな!」


「それはそうとちゃんと見たかい? 一番乾燥していたところが鉱脈生成に向いている土地だよ」


「見てませんでした! ワンモアプリーズ!」


「ノットプリーズ、ユールーズだ」


「うるせえええええええーーッ!! 韻踏んでんじゃねえよ! 上手くもなんともねえよ! 俺は精霊に言ってるんだ! イーさんは黙ってアドバイスだけしてればいいんだ!」


(こうかい?)


 うわぁ、出来ちゃうんだぁ……。



 泥だらけになりながら土下座の最上位『土下寝』を披露し、何とかワンモアチャンスを手に入れた俺は、この辺りで一番力の強い土地を発見。


「一攫千金ざっくざく~♪ お宝鉱石ざっくざく~♪ ……おっ」


 気合の入る歌を歌いながら素手で地面を掘ると、それはすぐに見つかった。


 土とは明らかに性質の異なるそれに手を掛ける。硬い。しかし石ではない。


 つまり……。


「どっこいしょー!」


 ここまで来ると必要かどうかは関係ない。自力で見つけられたこと、作り出せたことにただただ喜びを感じながら、土の中からそれを引き出す。



「がうっ!」


(ダレェ……)


 鉱石でないのはたしかだった。

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