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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十三章 電子ピアノ

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閑話 調査隊

 ここはセイルーン王城内にある会議室。


 厳めしい面をした大人達が、視線を手元の分厚い紙と進行役の大臣の間を行ったり来たりさせながら、国中から上がってきた声の処理に勤しんでいた。


「ヨシュアからまた開拓申請があった。今回は北部を約2平方キロメートル。飛行場までの道路整備と、農林業での使用と、産業区画の配置が目的のようだ」


「『また』ですな……」


「ああ。『また』だ」


 ここ10年で劇的に変化した民衆の生活。


 貧困に喘ぐことがなくなり生活に余裕が生まれたことで、これまでは当たり前だったものに満足出来なくなったという声が増え、それ以上に意欲に燃える声が増えた。


 たしかに町の中は平和になったが、1歩外に出ればそこは魔獣がはびこる死の大地。


 まともな生活が送れるようになったことで人口は増え、衣食住のための土地と人材が足りなくなっている現在、民衆はこれまでは生きるために仕方なく足を踏み入れていたそこに、より豊かな生活を求めて『生きる』ではなく『活きる』ために進出しようとしていた。


 その最先端を担うのが、少し前まで無名だった町、ヨシュア。


 そしてロア商会。


 人々が魔獣と戦うために武器開発と戦闘技術の向上に力を入れる中、対話と譲り合いによって安全かつWIN-WINの関係を築き、誰に遠慮することなく開拓をおこなう集団である。


「では認可で」


「「「異議なし」」」


 そこから、また、いつものように、今やってる仕事が片付いたから新しい仕事をさせろと言われた国のお偉いさん方は、溜息交じりに許可を出した。


 以前は『この調子で国を乗っ取るつもりでは?』との不安を抱いていたが、あくまでも所有者は国で、管理者は町で、彼等はそこを使わせてもらっているだけの事業者と主張されては認めざるを得なかった。


 お陰で国庫と国情勢と国民満足度は右肩上がりだ。



「先日おこなわれた主要国会議で、各国の代表からロア商会を調べるよう言われたんだが、私はどうするべきだろう?」


「「「…………」」」


 突然静かになる一同。仮にも王に頼られているというのに、あまりにも消極的な姿勢だ。


 仕方がない。彼等はわかっているのだ。ここで助言や進言をすることは責任者への特急列車の片道キップを買うことだと。


「はいはい。貴方達はいつからそんな消極的な人間になったんですか。私は貴方達の能力以上にその積極性と向上心を買って大臣にしたんですよ。ここは思ったことを表に出す場ですよ。自分の中に留めないで発言しなさい。

 代表達は『手を出さずに様子を見る』と言ってたが、私は近々動くと言っているように感じた。さきほどの質問と合わせて皆の意見を聞きたい。私はどうするべきだろう?」


 子供達に言い聞かせるようにパンパンと2回手を叩いたガウェインは、改めて一同に問いかける。


「「「……………………」」」


 が、大臣達はさきほどにも増して沈黙を身にまとうだけ。


 おそらく誰に聞いても「これは保身ではない! 不干渉こそが唯一無二の正解なのだ!」と胸を張って答えるだろう。


 ガウェインもそれを知っているから強く出られない。


「具体的にロア商会の何を知りたいというんだ? 魔道具の開発力の秘密か? 稼ぎより人に喜ばれることを優先するナイスな心意気の理由か? 魔獣との対話方法か? 売上か? それとも総戦力か?」


 そんな大人達を見かねて会議室唯一の女性が声をあげた。


 王都の守護神アルテミスだ。


「……すべて、かな」


「短い付き合いだったな。達者でな。天国はいいところだと聞く。安心して逝くがいい。生まれ変わったらまた会おう」


 少し考えて返答を導き出したガウェインに、アルテミスは冷たく別れの言葉を放った。


 神獣の彼女にも……いや、神獣だからこそロア商会の危険性は知っている。


 そこに手を出したり足を踏み入れるどころか投身しようとしている王は愚かとしか言いようがない。やると決めた時点で助けることは不可能だ。


「そんなこと言わずに頼みますよ~。アルテミスさんが頼りなんですよ~。なんとかしてくださいよ~」


「ええいっ、しがみ付くな! もうちょっと王としての自覚を持て! 威厳を保て!」


「王とは威厳を身にまとって国民の信頼を得るものだが、身にまとわないことで信頼が得られるなら私はいくらでも脱ぎ捨てる! マッパになることすらいとわない!」


「恰好いいと思っているなら大間違いだぞ!? というか心のどこかで望んでいたりしないか!?」


 ガウェインはそのツッコミに肯定も否定もせずに一同に目を向け、


「今、私のことを情けないと思った者……逝ってこい」


 会議室に居た全員が目を逸らしたのは言うまでもない。




「人間とはなんと身勝手な生き物なのか……」


 ガウェインの抱える問題以外すべての議題が片付き、大臣達は次の作業が山積みだと苦労自慢をしながら慌ただしく退席。


 広々とした会議室に1人残されたガウェインは、相手にされないことを知りながら彼等への皮肉を込めてポツリと呟いた。


 ………………。


 案の定、それは空しく空気に溶ける。


「年寄りは『時代が違うからなぁ』と理解を示したようなこと言いながら、当たり前のように時代錯誤を押し付ける。

 若者は知らないことを恥じだと思わず『へぇ~そうだったんですか~』と感心なく頷くだけ。正しいことすら時代遅れだと馬鹿にする。

 それ等はすべて自分の時代が一番だと思っているからこそ出てくる言葉ではないだろうか。どれだけ褒めようとも心の中では見下しているのだ」


 それでも彼の主張は止まらない。


 今この瞬間を生きることが大切なのだと、相手が誰であろうと手を取り合って認め合って頑張ろうと、訴え続ける。


「それを身勝手と捉えることが既に身勝手だと思うがな。自分の生きた時代を一番と思うのは当然のことだし、どれだけ不便だろうと楽しいと感じ、それを味わえない者達を憐れむのが人間だろう。まぁ龍の私が言うことではないだろうが。

 それよりガウェイン……お前、人望ないな……」


「貴方が投げ出したせいですけどね!!」


 唯一なんとかなりそうなアルテミスが協力を拒んだ瞬間に、大臣達のやる気はマイナス値を大きく更新した。


「一体なんの用だ! 私を憐れむために戻って来たのか!?」


 政治にはあまり興味のない彼女が関心のある議題にしか参加しないのはいつものことだが、終了後に現れたのは今回が初めてだった。


 情け容赦ない一言を突き刺すアルテミスにしっかり刺し返したガウェインは、協力する気がないなら出て行ってくれと目で訴えかける。


「ああ、いや、なに、マリーから伝言を頼まれていたのをスッカリ忘れていてな」


「……マリーが?」


 言われてみれば帰還してから娘には会っていない。


 とは言え、第2王女として色々忙しくしている上、成人した女性のすることにイチイチ親が口出しするのもどうかと思っているガウェインは、一瞬沸いた疑問を拭い去って聞くことに。


「『ロア商会の調査は任せて!』だそうだ。きっとお前が大臣達とあれこれ政治をしている間に私が話したのが原因だな」


「おいぃぃぃぃぃ!!!」


「それと『私の身に何かあったら報復頼んだわね!』とも」


「娘ぇぇぇぇぇっ!!!」


「ちなみにメンバーは王族からマリーとレックス。付き人としてワン=ホウライ、ニコ=エリックス、スーリ=パトリックの3人が同行している」


「いやああああああああぁぁぁっ!!!」


 その2人は第二妃ユウナの長男と長女であり、マリーの方が1つ年上ということもあって関係性は典型的なヤンチャ姉とヘタレ弟。


 その美貌と能力を容赦なく利用するしたたかなマリーをレックスが止められるとは思えないし、付き人も最近よくマリーの話題に上る手下達。やはり止めるのは不可能だ。


 せめて対人スキル皆無な二女イブが一緒なら、リミッターとして活躍してくれたり、事情を知っているロア商会の人間が世話してくれるかもしれないのだ、残念ながらそれも期待できない。


「どうして止めなかったんだ!?」


「ユキ経由でフィーネから言われたんだ。『かも~ん』とな」


「やる気満々ですと!?」


「大体、調査するべきかどうか困っていたんだろう。なら丁度良いじゃないか。

 止めに行くというなら手伝うが……どうする?」


 その問いに対してガウェインは、ゆっくりと目を伏せて、


「結論を出すには時期尚早だ。これは私の一存で決められることではない。改め議会を招集し、諸般の事情に鑑みながら前向きに検討し、近日中には結論を出すので、追って通知があるまで待っていただきたい。

 私は自らがしてきた教育は間違っていないと信じている。もし何かあればそれ相応の謝罪と再教育を徹底すると先方に伝えてくれないか。

 もちろんアルテミス、キミは十分に配慮した上で監視をおこなってくれ。何かあればすぐに知らせるように。判断材料の1つとして参考にさせていだく」


 実に政治家らしい道を選んだ。


「つまり、問題は先延ばしにして、何かあっても判断したのはマリー達だから自分は悪くなくて、私の報告は無視するし、そんなことをしている暇があったら導けと?」


「解釈の違いだな。私は一国の王として今できる全力を尽くしているつもりだよ」


 それだけ言うと王は大臣達と同じように慌ただしく次の仕事に向かった。



「はぁ……私も行くか……」


 相手の心が読める神獣は辟易とした様子で溜息をつき、事故現場を眺めるだけの野次馬となるべく、城から飛び立った。

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