表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十三章 電子ピアノ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1109/1659

八百九十三話 地下労働施設3

「あそこがぼくの鍛冶場です」


 ロリババア・人妻子持ち・自信家・鍛冶師・丁寧語・キャリアウーマンなどなど、属性過多で逆にファンが減っていそうな自称可愛いアイドル《ノミド》に案内されてやって来たのは、『連棟鍛冶場』とでもいうべき場所。


 住宅や教室をイメージしてもらえればわかりやすいかと思う。まったく同じ間取りのものが並んでいるアレだ。


 2mほどの鉄壁(?)に囲われただけの屋根も扉もない鍛冶場の中央には、どこかで見た事のあるような鍛冶台が置かれている。


 ただ、それと壁に掛けられている3種類のハンマー以外は、謎の液体が入っているビーカーや魔力を伝える電線、半透明のパイプ、メカメカしい装置と実に科学っぽい雰囲気なので、本人に鍛冶場と言われなければわからなかったかもしれない。


 しかしここの住民達にとってはそれが普通。


「さ、どうぞ」


 ノミドは戸惑う俺達を部屋へと招き入れる。


「……あの子達はあのままでいいのか?」


 もちろん急な、あるいは初めて触れるSFに動揺していたのも事実だが、それ以上に俺達はその羨ましそうに眺めている彼女の子供達が気になっていた。


『あれが私の子供』


 彼女が仕事中ということもあるだろうが、それにしたってあんまりな紹介だ。この後に「え? だってあいつ等邪魔なだけだし」とネグレクト一直線の言葉が続いてもおかしくない。


 別に急ぎというわけでもないのだから、もうちょっと家族らしいやり取りがあっても良いと思う。


「気にしないでください。あれはぼくに構ってもらいたいわけではなくて、今から鍛冶をすると知って技術を盗もうとしているだけですから。未熟者は見て覚えるんです」


「それにしたってどうなんだい? さっきの紹介もとてもじゃないけど親子のものとは思えなかったよ」


 職人とはそういうものだと理解している俺も、ロア商会に入る前に似たような仕事をしていたサイも納得したが、唯一の子持ちにして職人生活未経験のソーマはそうはいかなかった。


「これでも僕は3児の父親でね。この2人よりは込められている愛情の量がわかるつもりさ。だからこそ断言しよう。あそこに愛情はなかった。道端に生えている花でも指さした方がまだ気持ちが籠っていただろうね」


 愛されたいのに相手にしてもらえない子供を見ているような嫌な気分になる、とでも言わんばかりに激おこプンプン丸なソーマ。


 その目には『自分なら絶対にそんな真似はしない』という決意が宿っている。


「ふふふっ。面白いことを言いますね。3人育てたぐらいで愛情を理解したり、人様の家庭を批難したり、自分の正義を押し付けるなんて何様のつもりなんです?」


 こっちも負けずに激おこプンプン丸。


 ノミドはノミドで自分が正しいと思う育て方や対応をしているのだから、それを出会って数分の相手に批難されたのだから当然と言えた。


「押し付けてはいないよ。僕がそう感じたというだけの話さ。僕の言った通りにして失敗した時の責任なんて取れないしね」


「そうですか。人のことを馬鹿にするだけ馬鹿にして、こちらの言い分も聞かずにとっとの逃げるなんて素敵な男性ですね」


「あ、理由なんてあったんだ? ごめんね。子育てより仕事が大切って言ってたから、てっきりそうなのかと……。ただ説明が下手なだけだったんだね」


「はぁ……自分が何のためにここへ来たのかも忘れて他人の家庭を知りたがるなんて、いくらぼくが可愛いからってちょっと愛が重すぎます。まぁどうしてもと言うなら教えてあげなくもないですよ。頭を地面に擦りつけることになりますけどね」


 怖いよぉ~、怖いよぉ~。なんでこの人達、初対面なのにノーガードで殴り合ってんの?


 たしかにちょっと説明不足だと思ったけど、ノミドの言った通り他の未熟者達も技術を盗むために集まって来てるし、『職人だから』って理由で納得しておこうよ。


「ご存じないと思いますがドワーフにはいくつか格言があります。これこそがぼく達の行動理念です」


 第二ラウンド始まっちゃったー。



「1つ目は『聞くは一生の恥、聞かぬは末代までの恥』というものです。

 教えられないと理解出来ないというのはそれほど恥ずかしいことで、わからないままでいるようなら子孫を残す資格なし、果ては鍛冶師を辞めるべきという意味です」


 周りからの「いつになったら鍛冶すんだよ」という文句と、俺とサイの「もういいだろ……」という進行を望む声を無視して、ノミドのターンが始まった。


 『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』のスパルタバージョンだ。


「たしかに、それほどの向上心と責任感を持って仕事をすれば素晴らしい作品を生み出せるだろうけど、それは生まれついての職人であるドワーフだから出来ることであって、人間には不可能に近い格言だぞ?」


 ソーマに任せておいたらいつまで経っても平和にならないと悟った俺は、レフリーになった気分で言葉の暴力が吹き荒れる中へ突入することに。


「基本を教えるのは大人の義務でしょ? 命を失わないためにはそうするしかないって理解しているからこそ、僕は子供達がどれだけ血を流そうと心を鬼にして鍛えてるんだ」


 黙らっしゃい!


 と、俺が目で訴えかける前にサイが取り押さえた。気絶させた方が早いがそれでは意味がないので関節技だ。


「勝手に生き死にの話に繋げないでください。ぼくがしているのは平和な場所での教育の話です。

 そもそもドワーフは自分の子供に最高の武具を授けます。それで死んだら鍛冶師としての腕が無かったからだと自分を責められますからね。ただ祈ることしか出来ない人間とは違うんですよ。

 あ、すみません。護衛を雇ったり武具を買うってことも出来ますね。良いですよね。お金で責任を擦り付けられる人達って」


 キミも煽らない! 


「説明する気がないなら作業に入りたいんだが? 俺には他人の教育方針なんてどうでもいいんでね」


「ぼくはそれでも構わないんですけど物づくりは心が命ですからね。そこの素敵なお父さんの心が晴れない限り成功はしません。なので話を続けますよ」


 サイが無理矢理話を進めようとすると、ノミドは厄介な連中に関わってしまったと言わんばかりの様子で肩を竦めて、それを止めた。


 なんでイチイチ煽るかなぁ……。


「ルークさん」


「なんだ?」


「貴方はこの格言が生まれついての職人であるドワーフにしか出来ないとおっしゃいましたけど、それは違います。人間がしようとしないだけです」


 あれあれ? なんか矛先がこちらを向いている気がしますよ。


 俺は納得してるし、製作に関わるつもりもないんですけどね。


 などという言い訳が通用するわけもなく、ノミドの教育論は広範囲殲滅攻撃として俺達に降り注いだ。


「『みんな違って当たり前』。これが2つ目の格言です。

 人間は誰かを指導する際に『基本を教える』と言いますけど、基本ってなんですか? 生き物には個体差があります。同じ魔力、同じ筋力、同じ感覚を持つ人は絶対に居ません。それを他人が理解してその人に合った指導をするなんて不可能です。その人が感覚を掴むしかないんです。

 それを教える? 押し付けの間違いでしょう? 指導者の望む型にハメているだけですよ。

 だからこそぼく達は幼い頃から“教える”のではなく“学ばせる”んです。自分に向いていると思う方法を見させて、聞かせて、やらせてみるんです」


「それで鍛冶してるところを見せるってわけか。屋根や扉がないのもそのためだな? 上や横から見られるように」


 サイが納得したように辺りを見るとノミドは嬉しそうに頷いた。


「その通り! 自由に学べられる環境を作ることこそ、ぼく達の愛情であり子育てなんです! 我が子に次世代を担ってもらいたいですからね!」


 やめて。人類のライフはもうゼロよ……。


 しかしノミドの訴えは止まらない。


「それに基本ってどこまでを言うんですか? 初めてすることを一から十まで全部教えてあげることが優しさですか? 考えることを放棄させているだけですよね?

 1+1=2。それが正しいなんて誰が決めたんですか? 粘土を合わせたら1になりますし、それが互いに相殺するものなら0になります。逆に化学反応はどんな素材にもなり得る。つまり無限。ぼくら鍛冶師にとっては当たり前の計算です。

 それを『そういうものだ』と押し付け、他の考え方を捨てさせる。そんなものは教育ではありません。洗脳です」


「ま、そこまで言うのはどうかと思うが、人間のガキ共は『これは将来何の役に立つんだ?』って文句を言うだけで変わろうとしねぇし、大人達は強要を止めねぇよな」


 え~、サイさん、そっち側~? 俺もそっちが良いんだけど~。


 一度ならず二度までも。これは確信犯だ。


 しかしここで裏切ったらソーマが拗ねてしまう。


「それは認めるよ。将来の可能性を広げるためだと言って何でもかんでも吸収するより、最初から何か1つに向けて技術や知識を蓄える方が一流になれる可能性は上がる。

 実は僕もココとチコが何になりたいか必死に調べてるところなんだ。色々やらせてあげてその中から一番を選んでほしい。出来るだけ早くね」


 と思ったら、愛を持って無視するという新しい教育方法を知って、考えが変わっていらっしゃった。


「何故それが停滞であり劣化だと考えないんでしょうね? 自分達がやってきたから? 現状に不満があるのに変わろうとしない人が立派な教育者になれるわけがありませんし、そんな人達に『これが正しさだ!』と言われて育てられた子供がどうして自分を超えると思うんです? 劣化スパイラルが延々繰り返されるだけでしょう」


 大丈夫です。人類は技術の進歩を成長と勘違いできる素敵な生き物だから。心はどれだけ荒もうと、体がどれだけ貧弱になろうと、世界が変わっていれば正義なんです。


 ……ええ、僕は一言も『良い方向に変わる』なんて言ってませんよ。


(惑星を汚すゴミめ~。本当の支配者が誰かわからせてやる~)


(もしかして自然災害って天罰だったりします?)


(ノーコメントで。下手なことを言うと炎上するので)


 神すら保身を考える素敵な世界!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ