六十四話 リバーシ1
パーティ参加者のほとんどが第4王女様へのプレゼントを渡し終えたので、消極的だった子供達の番になる。
つまり俺達、いよいよ待望(?)のプレゼント渡しの時間だ。
いくらヘタレとは言っても、流石にプレゼントを持ってきて渡さないのはあり得ない。
まずは3バカがワン、ニコ、スーリの順番でチャレンジするようだ。
昔から大体この順番なんだとか、とてもわかりやすいな。
「よ、よし。行くぞ! 珍しい魔道具を用意したんだし、これで大丈夫のはず」
「ワ、ワタクシも行きますわ。最近討伐に成功した珍しい魔獣の素材ですわよ」
「し、知り合いに頼んで作ったこの腕輪でいける・・・・と思う」
「みんな魔道具関係ですね~」
そりゃ魔道具大好きって言われたら全員が魔道具贈るよな。事前情報って大事だ。
もしかしたら父さんは、確実に似た品を用意されるのを読んで花瓶にしたのかもしれない。
しかし3バカも他の参加者と変わらず、渡したプレゼントはことごとく会話の種にならなかった。
「ワン=ホウライです! あの! この魔道具はこうすると風が出て」
アクアにあった扇風機の劣化版か。
せめて扇風機を贈れよって思ったけど、小さい方が魔法陣の縮小技術とかの理由で高価なんだろうか?
「ありがとう」
王女様はこれまでと同じ無表情で一言お礼を言って終わり。
トボトボと足取り重く戻ってくるワン。ドンマイ。
「ニコ=エリックスですわ! 同じ学校に通う子女として仲良く出来ればと思います。
ワタクシのプレゼントはワイバーンの爪ですわ。色々な魔道具制作の役に立つかと」
豪華な箱の中には爪3つ。
ワイバーンの爪は5本あったから本当に倒したのなら全部渡すはず。だから討伐ってのは嘘だろうな。高級過ぎて5本は買えなかったのか? それとも集められなかったとか?
「ありがとう」
王女様は嬉しそうな雰囲気になった気がした。魔道具作りに役立つだろうしな。
もちろんそんな機微に気が付くはずもなくニコもトボトボと戻って来た。なかなかだったぞ。
「スーリ=パトリックです! ボクにはこのような腕輪を作れる知り合いが居まして。これは魔力を込めると色が変わる腕輪です」
茶色い腕輪が緑色になった。
・・・・・・え? それだけかよ!? もっと色々機能つけれただろ。フィーネの腕輪の劣化版どころじゃないぞ。
そもそも知り合いってだけで自分のアピールになってないし、あのプレゼントは論外だ。『俺の兄貴の友達は〇〇〇だし』って言う小学生と変わらない。
「ありがとう」
たぶん王女様も呆れてるな。
何故かやり切った表情で戻って来たスーリだけど、実は3人の中で一番低評価だからな?
俺が王女様の感情を読み取っているのはニーナのお陰だ。
あまり感情を表に出さないクールなニーナだけど、内心を読み取ると凄く面白い少女だということに気付いた俺は最早『ニーナ専門家』と呼べる域に達している。
よって初対面の鉄仮面な王女様だろうと喜怒哀楽の感情ぐらいは把握できるのだ。
3バカの後もプレゼント渡しは続いていき、他のプレゼントも似たような反応だった。
会話が成立した唯一のプレゼントは『オススメの本』。
最近少女たちの間で話題の冒険活劇で、ネタバレにならない程度にストーリーを解説したら「面白そう。読んでみる」と言われていた。
(案外父さんの花瓶とかの方が正解だったのかも)
下手に魔道具を渡すより、普通の少女が喜ぶ物をプレゼントしたほうが良かったのかもしれない。
「次はいよいよルークさんの番ですよ~。同じ魔道具製作者として驚かせてくださいね~」
お前、相手は氷の女王なんだから表情を少しでも変えられたら万々歳だろ。期待すんな。
「我々の最後の砦だ。頑張ってくれ」
「せめて二言、会話をしてくださいませ」
「くっ・・・・俺では力不足だったか」
俺を含めた4人衆みたいな言い方すんな。
全員に応援されて歩み出した俺の目の前には無表情の第4王女様が居る。
傍には第2王女のマリーさんと護衛達、たぶん何人かは鑑定士なんだろうな。
(なんでマリーさん笑ってるんですか! そんなに俺の緊張した姿は滑稽ですか!?)
どうせ「コイツまた噛むんだろうな~」とか「コケて笑い取らないかな~」とか思ってんだ。
今回は絶対に失敗しないっ!
俺はユキと違ってギャグキャラじゃないんだっ!!
護衛にプレゼントの『魔道リバーシ』を手渡して自己紹介をする。
「オルブライト子爵、次男ルーク=オルブライトです。こちらは私とメイドが考え出した魔道具です」
安全を確認された木の板がイブ様に手渡される。
(しまった。包装ぐらいすれば良かったか・・・・見た目だと完全に端材だ)
後悔するけどすでに手遅れだった。
「これは何?」
包装の有無とは無関係に王女様は興味を示したらしく俺に質問してきた。
魔道具の天才なんて呼ばれててもさすがに使い方がわからないらしいな。
フフフ、所詮は幼女よ。
「左右に広げて魔力を込めると遊具になります」
「・・・・こう?」
王女様は俺に言われた通りリバーシを起動すると、魔術が発動して板の上にマス目が現れる。
「っ!」
凄く驚かれた。
(なんでだろ? ここまでなら今までのプレゼントと大差ないと思うけど)
「「「なんだあれは?」」」
周囲に居た全員、特に大人が興味を示してるけど近々ロア商会で売り出すから買ってくれ。
「・・・・・・あなたが作ったの?」
なんと本日初となる2つ目の質問だ。これは立派に会話をしてると言えるだろう。
「はい。オルブライト家には優秀なメイドが居ますので、彼女と一緒に開発しました」
「照れます~」
静まり返った会場の奥の方でユキが嬉しそうに照れる声も聞こえた。
(お前じゃない。フィーネだ)
素性もわからない俺が王女様とこんなにも会話出来てるからみんな驚いて静まり返ってるんだろうな。
「そう・・・・お姉様、私、この人と結婚します」
は?
第4王女『イブ=オラトリオ=セイルーン』は今までと同じく透き通るような抑揚のない声で衝撃の発言をした。
「あら? そんなに気に入ったの?」
「はい」
え? えっ? ナニイッテルノ?
血痕? 事件なの?
「言ってなかったですね。実は妹の婚約者探しのパーティでもあったのですよ」
マリーさんが式典用の礼儀正しい口調で説明してくれた。
「はぁ・・・・」
で? 事情が全く呑み込めないからイブ様の発言についても説明早く。
「同じ魔道具製作者として『リバーシ』が大変気に入ったようなので、これを作り出した有能なアナタを婚約者として選んだのです。あとで父にも会っていただきますね」
なるほど、俺のプレゼントそんなに喜んでくれたのか良かった良かった。
・・・・なんか国で一番偉い人に会うらしい。
「よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
・・・・ハッ! へ、へへ返答しただけで納得してないからな!?
「ルークさん、婚約おめでとうございます~」
ユキがいつの間にか傍に居て婚約を祝福してきやがった。
「なっんっでっ! だよっっ!!!」
俺は怒鳴りながらユキの頬をギューッと左右に引っ張る。
「ふぉふぇふぇふぁいふぁ~(おめでたいじゃないですか~)・・・・イタタタ。危うくハムスターになるところでしたよ~」
頬を引っ張られてもユキは全く気にすることなく喋るので俺は両手を離した。
予想より伸びて俺の方がビビったぐらいだ。
でもユキのお陰で落ち着いた。
「どうすんだよ?」
「え~? 国王さんに会って気に入られて、許婚になれば良いじゃないですか~」
「いやそれもだけど、まずこの場をどうすんだよ?」
イブ様の突然の婚約発表から誰も動かない。
まるで石像だらけのパーティに出席してしまったみたいで気味が悪い。
「これ遊具なんでしょ? 折角のパーティだし遊ばない?」
マリーさんが素の口調でコッソリと話しかけてくる。
この状況で遊ぼうと誘うマリーさん、大物すぎるだろ。
「じゃあリバーシのルール説明しますね」
遊ぼうって誘われたら遊ぶけどさ、って俺も大物か。
その内復活するだろうから今は放っておこう。
「「「「えぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!」」」」
俺がリバーシの説明を始めたところで、ショックから立ち直った出席者が一斉に叫んだ。
「遊んじゃダメだったですかね~?」
完全に的外れな事を言うユキは無視する。
「イ、イブ様。素性も知れない子爵ですぞ!?」
「私の息子の方が!」
「だ、大事件ですわ! 国の一大事ですわぁーーっ!」
「考え直してくださいっ! そして僕と結婚してください!」
各々が好き勝手に喋り出して一気に騒々しくなった。
半分ぐらいは自己アピールっぽかったけどどうでもいいか。
「落ち着きなさいっ!! これが王族主催のパーティだという事を忘れましたか!」
騒がしい参加者達にマリーさんが一喝すると一瞬で鎮まる。
さすが王女様、まだ幼いとはいえ貴族たちの頂点たる威厳があった。
「・・・・どうやって遊ぶの?」
(イブ様はもっと周囲に関心を持ちましょうか)
騒動の中心人物である第4王女様は一連のゴタゴタを全く気にすることなくリバーシの遊び方説明を待っていたみたいで、俺の袖をグイグイ引っ張って急かしてきた。
その後、落ち着きを取り戻した一同は各々にパーティを楽しみだしたので表面上は爆弾発言する前の会場に戻った。
俺はやけに挨拶されるようになったけど覚えれるわけがない。俺に覚えてもらいたかったら写真入りの名刺でも持ってこい! あ、良いなそれ。今度魔道具で写真が撮れないか挑戦してみるか。
イブ様も催促するし、早速リバーシで遊んでみよう。
「では改めて説明しますね」
「あ、もう家族だし敬語はいらないわよ。ルーク君」
マリーさんが親しみを込めて俺を『君』付けで呼び、敬語は余所余所しいからタメ口で話せと言う。
「いや家族ではないんだけど」
断じて認めないからな。
男には譲れない一線というモノがある、そしてそれは今だ!
「マス目に魔力を込めると白と黒の石が~」
あ、俺を無視してユキが説明を始めやがった。
その後、何とかユキから主導権を取り戻した俺がルール説明をしたらマリーさんが少しガッカリしてしまう。
「2人しか遊べないのね。もう無いの?」
どうやら大勢で遊べると思っていたらしい。
「プレゼントなんでイブ様「イブでいい」・・・・イブの分だけです「敬語はいらない」・・・・だけだよ」
なんかニーナに似たテンポの王女だな。
いや、最近は結構話せるようになったから出会った頃のニーナだな。
「じゃあ早速イブさんとマリーさんで対戦してみましょうか~」
誰が相手でも動じないユキが進行役として勝手に対戦相手を決めた。
でも姉妹で初心者同士だし妥当なところだろうな。
「私が白だから、最終的に白が多ければ勝ちなのね」
「私は黒。先読みの戦略が大切。角が重要」
早くもコツを理解しているイブは強そうだな。
「結構見てる方も楽しいからみんなで遊べるぞ」
「でもフィーネさんは強すぎて相手が居ないので観戦だけになってますよね~」
そうなのだ。試作品で遊んだんだけど誰一人としてフィーネには勝てなかった。一度も、だ。
将棋や囲碁も教えてみたけど、全て勝ちまでの手順を計算できるらしく、先手なら100%勝てると言う彼女の頭脳は現代コンピューターを軽く凌駕していた。
俺が死んだ時代の『人工頭脳 VS 人間』の勝率は、人工頭脳が80%ぐらいだったよ。
まぁ流石にフィーネクラスの圧勝はないだろうから、初心者同士で接戦になれば良いな。
そして王女姉妹のリバーシ勝負が始まる。