六十三話 第4王女登場
次の日も朝からパーティが開かれてたけど、これについて話すことは特にない。
俺が会場に入ると3バカが仲良く寄ってきて、何故かずっと一緒に過ごしていただけ。
「やぁルーク君。おはよう」
「本日いよいよイブ様がご出席されますわね。プレゼント気に入っていただけるかしら?」
「ロア商会が大きくなったら王都に出店しろよな。もちろん贔屓するぞ?」
「・・・・おはよう」
なんで友人との会話っぽくなってるんだよ。いつからそんなに親しくなった? マリーさんに話しかけられる前までヨシュアや俺の事を散々バカにしてただろお前ら。
まぁ俺だって料理を食べて会場を眺めてるだけはどうかと思ってたし、ユキが「なら別の人達に話しかけます?」って脅してきたから話し相手にはなっていた。
いくら興味がなくても半日も一緒に居ればどんな人物か覚えてしまうものだ。
最初に出身地を聞いてきた男子が『ワン=ホウライ』というホウライ侯爵の次男。
紅一点の『ニコ=エリックス』はエリックス公爵の三女。
名産物ばかり気にしていた男子『スーリ=パトリック』がパトリック侯爵の次男だ。
心の中では「1、2、3」と呼んでいる。
3人とも王都出身の同い年で立場も近いので昔から交流があり、いわゆる幼馴染と言うやつらしい。侯爵家の男子と、公爵家の三女では爵位は違っても跡取り問題とかで同じぐらいの立場になるっぽい。
俺はもう王都のパーティに参加することもないので、彼らとの交流も明日で最後だろう。
一応知り合いになったので、助けて欲しいと懇願されれば協力はしようって思うぐらいの関係だ。
そんなダラダラとした午前の部が終わった。
そしてパーティ本番である2日目、午後の部が始まる。
「さて、いよいよ主賓の第4王女様とご対面か」
結局あれ以降マリー様には会っていないし、別の王族も忙しいのか出席してなかった。
つまり俺は王族をマリーさんしか知らない訳だが、優しくて気遣いの出来る彼女が「自慢の妹」と言っていたので自然と期待は高まる。
「可愛かったら唾つけるんですよね~?」
「なんでユキの中の俺はそんなにハーレム作りに必死なんだよ。まぁマリーさんは美少女だったから可愛いのは間違いないな」
これで母親が違うから第4王女だけはブサイクとか止めろよ。どうせ知り合うなら美少女の方が良い。
「そして唾を「つけないっ!」 え~。でも大きくなってからじゃ手遅れかもですよ~?」
ユキは俺を王女様と結婚させたいのか、さっきからずっと「結婚、結婚」言っている。
昨日から「マリーさんは良い人だったので妹さんにも期待してるんですよ~」と言い続けてるけど、ユキの中でのマリーさんの評価がやけに高い。
たぶん彼女も精霊に好かれる素晴らしい人格の持ち主なんだろう。
実際俺も話しやすかったし、俺と別れた後にマリーさんから話しかけられた人達は最初こそ固まってたけどすぐに和んでいた。
今日と言う本番を前に俺達参加者の緊張を解してたのかもしれない。
「ロア商会で働きたいって言われれば即採用しますね~。お友達認定ですよ~」
俺が知る中では最高評価だと思う。もちろん愛しのヒカリたんと、クーデレ娘のニーナはカウントしないぞ。
ユキの友達って事は、もし俺と出会ってなかったら王城で暮らしてたかもしれないレベルか。そんなに褒めるなら将来マリーさんが治める王国になると良いな。もちろん他の王族も同じぐらい良い人だったら最高だ。
ちなみに近くに居る3バカは王女との結婚はおろか、初対面の挨拶すら恐れ多いと緊張して全く喋らなくなっていた。
『パ~パパッパッパ~ラ~♪』
今まで会場BGMとして静かな曲を演奏していたオーケストラの人達が、突然盛大なファンファーレっぽい音色を鳴り響かせた。
それと共に中央の扉が開く。
「第4王女イブ=オラトリオ=セイルーン様っ! ご入場ぉぉーーーーっ!!!」
本当に王女様を迎えるためのファンファーレだったらしい。マリーさんは主賓じゃないから入場曲を鳴らさなかったんだろうか?
俺以外の貴族達は演奏が変わった瞬間に気付いたようで静まり返っている。
「ルークさん、ルークさん。きっとあの人が第4王女さんですよ~。私の勘がそう言ってますー!」
言われなくても誰でもわかるわ! いいから黙ってろ。目立つ。
ユキを黙らせてから俺は同い年の王女様を観察する。
彼女が主役の『イブ』か。
マリーさん以上に豪華でヒラヒラした衣装に身を包み、肩で切り揃えられた金髪の美少女だ。ただそれ以上に眠そうな目と気怠そうな雰囲気が印象的だな。
俺達に注目されながら第4王女は静々と壇上まで歩いて行く。
「皆様・・・・この度はワタクシのために集まっていただき、誠に、感謝いたします・・・・」
ペコッ。
王女様がお辞儀をすると一斉に拍手が巻き起こる。
「彼女が『天才』イブ=オラトリオ=セイルーン様だよ」
「王国始まって以来、最高の魔道具製作者なのですわ」
「5歳にも関わらず、すでに3つもヒット商品を生み出してるんだ」
すかさず3バカが我先にと説明を開始した。こういう時は便利だ。
ほほぉ~。魔道具とな?
俺と同じ5歳児でありながら王女様は発明家でもあるらしい。
これは負けていられない。彼女が3つなら俺は石鹸と冷蔵庫、そして次の商品とリバーシを合わせて4つだっ! ドヤッ!
「丁度良かったじゃないですか~。ルークさんのプレゼントがピッタリですね~」
隣でドヤ顔している俺をスルーしてユキが話しかけてくる。
父さんには悪いけど彼女へのプレゼントは魔道具の方が喜ばれるだろう。
「・・・・だな。下手に花瓶とかプレゼントするより喜んでもらえそうだ」
それにしても父さんは王女様の情報が無かったんだろうか? なんで花瓶?
「お噂は聞いていたけど公式の場には初めて現れたはずだよ」
「ですわね。普段は王城から出ず、魔道具開発に勤しんでいるんだとか」
「やはり天才は我々とは違うな。是非この場でお知り合いになりたいものだ」
なんだ、引きこもり体質まで俺と一緒なのか。
俺が魔道具を作っていることは秘密だから内心で思うだけで言わないけどな。
壇上で挨拶した第4王女様は完全に無表情だったし、今も誰とも話していないので、そこは俺と違って本当に人が苦手なのかもしれないな。
俺は腹黒貴族以外となら会話が出来る男だ。
・・・・あれ? つまり貴族しかいないこの会場内なら俺、あの鉄仮面王女様と同じ?
俺の予想通りなら第4王女様はコミュ障なんだけど、流石に確認しないで決めつけるのは良くないので3バカ貴族に聞いてみた。
「ところでなんで誰も王女様に話しかけないの?」
挨拶が終わってからも彼女の近くには誰も近寄ろうとせず、隣に居る姉のマリーさんとしか会話していない。というかマリーさんが話しかけて、イブが頷いたり首を振ったりしてるだけだ。
「やはり噂通りの人物みたいだね」
「通称『氷の王女様』ですわ。人と接することが苦手なようで家族としか話さないんだとか」
「だからマリー様が出席してるんだ。イブ様と我々との間を取り持ってくださるらしい」
見た目通りの人物らしい。
やっぱりか・・・・王女様がコミュ障とか大丈夫なのかよ。
第4王女なら王位継承の問題はないのかもしれないけど、王族としての公務が出来なさそうだ。
「氷の王女ですか~? その二つ名は許せませんね~」
そしてバカが変なところに噛み付いた。
ユキは『氷の王女』って二つ名への嫉妬に燃えている。
「おいユキ。世界中で呼ばれている氷や水の肩書はお前の物じゃないからな? 大人しくしてろよ?」
「ルークさんっ! 誰も居ない今がチャンスですよー。王女さんに話しかけて氷の女王を奪還ですーっ!」
俺の忠告を完全に無視して「氷の王女を取り戻すんですよー!」と息巻いている。
それにしても奪還て・・・・お前の二つ名じゃないって言ってるじゃないか。なんで奪われた前提なんだよ。
「嫌だ。最初に話しかけたら目立つ。ここはプレゼントを渡すまで待つのがベストだ」
プレゼントの渡し方は壇上に立つイブ様の前に行き、護衛に渡して検査してもらってからイブ様が開封して渡した人が中身の説明をするらしい。
つまりプレゼントについて話す切っ掛けが出来るので、いつ話しても変じゃないのだ。
今は待つ時。
「む~。仕方ありませんね~。今は氷の王女の座を渡しておきましょう」
なんとか納得してくれたみたいなので、落ち着いたユキに色々聞いてみた。
「そんなにあの二つ名が欲しいのか? それならユキも勝手に名乗れば良いだろ」
「当たり前ですよーっ! 私の前で氷の名前、しかも王女と来たもんだ~。自分が氷属性最強だと言っているようなものです~。
氷の王女が2人も居たら変じゃないですか~。唯一無二の存在でなければならないんです~」
まぁそうだな。氷の王女って知らない人が聞いたら強そうだもんな。
「ただ彼女の場合は表情とか仕草とか、そっち方面だぞ? お前には無理だろ?」
ユキが無表情とか、一切喋らないとかあり得ない。
「なんで氷ってマイナスイメージなんでしょうね~。あんなに良い物なのに~」
ユキが氷の素晴らしさを理解できない人類に嘆いている。
寒暖で表現すると必ずマイナスイメージになるのは『寒』だ。それはアルディアでも同じらしい。
「たしかにな~。でも俺は氷って好きだぞ。相手を氷漬けにした時の氷像とか、砕け散る瞬間の幻想的な光景とかたまんないよな」
「わかってるじゃないですか~。ルークさんも氷魔術覚えます~?」
機嫌を良くしたユキが誘ってくるので、魔術覚える余裕があれば検討しよう。今はユキが居るから必要ない。
俺達が他愛もない話をしているとプレゼント渡しが始まったんだけど、王女様も贈った人も全く盛り上がっていなかった。
「これ〇〇です!」「・・・・そう」
「こちらは〇〇と言う素晴らしい」「・・・・ありがとう」
王女様はプレゼントに対して一言お礼を言って終わりだ。
俺は3バカ貴族と話しながら、その様子を気の毒そうに見ているしか出来ない。
出席者たちがあの手この手でイブの興味を引こうとしていたけど不発。子供と一緒に来ていた親や使用人・護衛達も必死に仲良くなろうとしてたけど未だに成功者は居ないようだ。
流石は氷の王女様。
今日のパーティで誰か彼女の心を溶かす事は出来るのだろうか?
「お前らは話しかけなくて良いのか? 仲良くなりたいとか言ってたじゃん」
さっきから誰かが贈り物で失敗する度にテンションが下がり静かになっていく3バカ。
ユキも言ってたけど友達になりたいなら積極的に話しかけないと無理だぞ。
あれ? この理屈だと、3バカに話しかけた俺はコイツ等の友達? いやいや、ないない。
「いや、話しかけようと思ってたんだけどさ・・・・」
「う、噂以上の鉄壁ぶりですわね・・・・」
「強引に行って失礼があったら家名に関わるし・・・・な~?」
諦めんなよっ! もっと根性見せろよ!! もっと! 熱くなれよぉぉーーーーっ!!!
話しかけてない俺が言える立場じゃないんだけど、モジモジして実行に移せないヤツは見ててイライラする。
誰にも話しかけない俺を見たユキもこんな気分だったんだろうか? でも俺の場合は必要のない交流だったから仕方ないよね!
「ヘタレですね~。モグモグ」
お前は黙って食事してろ。