六十一話 貴族の子は貴族
王都に到着した俺達はすぐ王城へと向かう。
誕生パーティ自体は明日の昼からだけど、今日から3日間は貴族同士の交流会としてのパーティを開催してるから、それにも絶対参加するよう父さんから言われていた。
「じゃあフィーネとはここでお別れだな」
元々そういう約束だ。
王城に入ってしまったら参加者として数えられるので街中で別れる。
「はい・・・・ルーク様くれぐれも無理をなさらないでください。辛くなったらユキに頼んで帰ってきてください。
ユキもしっかり護衛するのですよ」
「フィーネさん過保護です~。ルークさんはもう5歳なんですから自分で解決できますって~」
このように俺の事となると何故か2人の立場は逆転する。
ユキの方が適度な放任主義って言うか、子供の成長を促すって言うか、とにかく頼りになるんだよな。
フィーネは心配性で駄々っ子という、母と子の悪い部分を併せ持った人物へと退化する。
もちろん普段は完全にユキが下の立場だ。
あ、俺の中でな。たぶん家族全員同じ意見だと思う。
「緊張はしてるけどユキも居るし大丈夫だろ。安心して家で待ってなよ」
「はい、遅くなるようなら迎えに来ます。お気をつけて」
フィーネが気になる事を言って御者をユキに交代して降りた。
「ルーク様、いってらっしゃいませ」
俺とユキが出発してもフィーネがずっと頭を下げている。
「街中でお辞儀されると恥ずかしいな」
「フィーネさんのメイドとして譲れない作法なんでしょうね~」
ちなみに今はユキが御者をしているんだけど、クロが勝手に歩いているだけで一切指示は出していない。
フィーネから「あの城までルーク様を安全に運ぶのですよ」と言われているので、ユキが止まるように命令しても自己判断で交通ルールを順守していた。
本当に頭のいい竜だ。
「せっかくの王都なんだから色々見て回りたかったな~」
見渡すと面白そうな建物がいくらでもあるんだよな。ほら! 獣耳喫茶って! 獣人グッズ販売店って!!
「クロなら半日で着きますから今度遊びに来ましょうよ~」
「くっ。学校始まったら忙しくなるし、近いうちに絶対に来るからな!」
今回のパーティで問題が起きなければ遊びに来たい。問題が・・・・たぶん無理なんだろうけどさ。
さらば俺の獣パラダイス・・・・。
街中を素通りした俺とユキは王城へとやってきた。
「オルブライト子爵の次男、ルーク=オルブライトです。こちらはメイドのユキです」
そう言って門番に招待状を見せつつ、同行者のユキを紹介する。
「はい、確認できました。『イブ様』5歳の誕生パーティをお楽しみください」
ユキはオルブライト家のメイド服に着替えているので一目で俺の関係者だとわかるし、俺達と同じような参加者も多いらしく流れるように通してもらえた。
第4王女の『イブ=オラトリオ=セイルーン』が5歳になるお祝いとして開かれたパーティだ。
父さん達が言うには、入学前に知り合いを増やして楽しい学校生活を送る事を目的としているらしい。
だから本当に俺が呼ばれた理由がわからないんだよな。
別に王都の学校や高校に入る予定はないし、そもそも俺自身が友達居ない・・・・。
ルークの招待にはゼクト商会が関係していた。
フィーネが助けたゼクト商会令嬢のクレアがその事を家族に話し、祖父でありゼクト商会会長でもある『ゼノ』が大層感動し、同い年で仲のいい先代国王『アーロン』に話し、珍しい物好きな第2王女である『マリー』に伝わり、コミュ障な妹の将来を心配した王と2人してルークの招待が決定した。
つまりクレアから祖父、祖父から先代国王、先代国王から次女へとフィーネの噂が広まって、フィーネの主であるルークが呼び出されたのだ。
フィーネが直接招待されなかったのには理由がある。
一般的には知られていないが、不用意にエルフに干渉する事が禁止されており、平民ならいざ知らず王族ともなればその影響力は計り知れないので慎重になっていた。
なので、まずルークと知り合いになって間接的にエルフとも仲良くなれればという打算によって彼は招待されたのだ。
ルークの知らないところで自分の名前がどんどん有名になっていたが、そんなことなど露知らず王城を歩くルーク達。
さすがに王城だけあって来客専用の塔があり、部屋から出たら王族と出くわしたと言う事は起きないようになっていた。
俺達は部屋に向かうため、塔の前にある獣舎にクロを預ける。
「じゃあな、クロ大人しくしてるんだぞ。何かあればフィーネに怒られるんだ。絶対に後悔することになるからな? 脅しじゃないぞ。ユキが転移してすぐに報告するぞ」
「グ、グル・・・・」
ひどく怯えた様子のクロと別れた俺達は、来客専用のメイドさんが待機していたので部屋まで案内してもらった。
俺達、というか俺はパーティ参加者が大勢いる通路にビビりながら急ぎ足で逃げるように宿泊する部屋へと入る。
パーティ前なら関わらなくてもセーフなはずだ。
「立派な建物だよな~。『これぞ城!』って感じだ」
部屋で一息ついた俺は、ユキから王城の感想を聞かれたので素直に答えた。
俺は自分のテリトリーなら強気になれるのだ! 個室サイコーっ!
「あまり驚いていませんね~。もっと凄いリアクションを期待してたんですけど」
「まぁ想像通りだったからな。このレンガが全部金だったり、魔術で作られていたら驚いただろうけどさ」
ユキが残念そうにしている。
たしかに大きくて立派だけど所詮はレンガ造りの建物で、飾りなんかも高級品なんだろうけど俺には理解できない品々だ。
これならユキが造り出した氷の館の方がまだ驚いたわ。
「ん~、微妙~。俺んちの方が立派じゃないか?」
広い室内を見て回って出た感想がこれだ。
綺麗だから不満はないんだけど、オルブライト家には魔道具が溢れているので便利だった。
「ルークさんがあれこれ作るからじゃないですか~。ここだって世界では最上級の場所なんですよ~」
まぁ王族が居る場所だし、当然そうなんだろうけどさ。
やっぱりどれだけ良い素材を使っても最新鋭には勝てないのか。
そんなこんなと到着してからも部屋でゆっくりしてると、気付けば夕食時になっていた。
ここは宿屋ではない。料理が用意されている場所は1つしかないのだ。
「うっし。着替え完了! 出撃しますか」
「美味しい料理を食べに行きましょう~」
『馬子にも衣裳』
誰が言ったか知らないが、俺には関係ない言葉だと改めて実感してしまう。
スーツを着るのは2回目だけど、全く似合っていないと自覚するほど完全に衣装に着られていた。
どこの御坊ちゃんだよ。成人式のヤツだってもう少し着こなせてるはずだぞ。
そんな似合わない服を身に付けた俺は、いざ部屋から出ようとすると躊躇してしまう。
「さすがに緊張してきた・・・・き、今日も王族って居るのかな?」
「まぁ主催者ですし、誰かしら居るんじゃないですか~?」
だよな。
決死の思いで部屋から出て、緊張を解すためにユキと雑談しながら通路を歩く。
でも王族が暮らすひときわ豪華な城へと入り、パーティ会場に近づくにつれて緊張が増してきた。
もうすでに帰りたい。
「な、なぁ。貴族の名前とか知らないんだけど、お、おお俺どうしたら良いかな?」
知り合いの居ない寂しさと恐ろしさが一気に襲ってくる。
田舎貴族だからって仲間はずれにされたりするんじゃ!?
ユキの着てるメイド服が安い素材ってバカにされるんじゃ!?
もう被害妄想が止まらなかった。
オドオドしすぎて自分でも挙動不審になってるのがわかるぐらいだ。
「緊張しても仕方ないじゃないですか~。同い年のお友達を作るつもりで参加すれば良いと思いますよ~」
このパーティは誕生祝なので参加者のほとんどは5歳前後の子供。
半数はお付きの人だが、逆に半数は俺と変わらない子供なので普段通り話せば問題ないはず。
「でも・・・・俺、友達居ないし・・・・・・」
そう、入学前の俺には年の近い友人が居ない。そもそも友達ってユキと神様の2人だけだ。
初めての友達作りをしろと言われて余計に緊張してきた。
「だからこそ今回友達を作るんですよ~。文通とかしたらきっと楽しいですよ~」
そうだろうか? 俺と仲良くなってくれる人は居るだろうか?
「可愛い子と幼馴染になれるかもしれませんよ~。将来結婚の約束をしたり~」
幼馴染の女の子! 良い響きだ。
「王女様と結婚なんていう話になるかもー!」
王女様、きっと絶世の美少女だろうな~。
王女様と幼馴染な関係・・・・・・ありだな。
「俺やるよっ!」
「その意気です~。一緒に楽しみましょう~」
まんまとユキに乗せられてる気はするけど、いつもの調子に戻った俺は意気揚々と会場入りする。
「ユキの嘘つきぃぃーーーーーーーっ!!!!」
パーティ会場は嫌味、嫉みで満たされていた。
「ふふ、僕のパパは次期公爵で・・・・」
「私のママは国王様の側近の息子の嫁の妹で・・・・」
「オ~ホホホホ。ワタクシの姉は第2王女様と同じクラスで仲が良いのですわよ。羨ましがりなさい」
な、なんて嫌なガキ共なんだ。これが貴族社会の縮図なのか。
大人だからプライドが邪魔して素直になれないのかと思ったけど違った。子供の頃からそういう性格に育てられていたのだ。
(これって立派な洗脳だよな。自分を大きく見せるか、相手を見下すことしか出来ないとか嫌すぎる)
もし王女様も同じような性格だったら、と考えるとプレゼントは『割れた花瓶』で良かったのかもしれない。
「美味しそうな料理が一杯ですね~」
そんな空気に『われ関せず』を貫くユキは、アクアのパーティより色とりどりの料理が並べられたテーブルへ向かう。
「俺も食べる」
今はあのくだらない会話より空腹を満たす方が先だ。
あんなどうでもいい自慢話に付き合うほど暇じゃないし、俺と同じようにうんざりしてる奴なら会話に参加しないはずだ。
そんな貴重な人物を見かけたらこっちから話しかけよう。
居なかったら友人作りは諦めるしかないので、これで悪いのは参加者だと言えるな。
俺とユキが避難してきたテーブルには、王族主催のパーティだけあってありとあらゆる香辛料がふんだんに使われた料理があった。もちろん素材も超一流。
「お、このコリコリしたのってクラーケン?」
イカみたいな見た目の刺身を食べてみたらメッチャ美味かった。薬草メインの塩辛いソースがかかってたけど、やっぱり日本人たるもの醤油が無いってのは惜しまれるな。
「正解です~。遠くのアクアから氷魔術で凍らせて持ってきたんでしょうね。少しですけど残り香があります~」
ユキですら少量の魔力しか感じないってことは普通なら新鮮だと思うはず。当然、俺もアクアで食べた刺身と変わらないと思った。
料理人の腕で魔力は消せるみたいだ。
「ルークさんがハンバーグ作った時に似てますね~」
たしかにあれもガルムの魔力を相殺させたから作り出せた料理だな。ユキが言うには魚の方が魔力の流れが一定なので処理が簡単らしい。
つまり俺は王宮料理人より上だと。
「っふ・・・・また職人の腕を超えてしまったか」
アクアでの温泉製作者に続いて2回目だ。
やはり俺は天才だったか。
「ところでお友達作りの方は良いんですか~?」
俺の腹が満たされた頃、ユキから突然の死刑宣告を受けた。