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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六章 王都セイルーン編
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六十話 王都セイルーン

 理由は知らないけど王族に呼び出された俺は、フィーネ・ユキと共に王都へ向かっていた。


 その道中で、やっぱりと言うか最早恒例化したユキとクロの爆走が始まった。


(お前ら旅する度にやるつもりだろ? おっと、旅と度はかけたわけじゃないぞ)


 しかしよく人目に付かないタイミングだけ争えるものだ。


 人の気配は感知魔術でわかるらしいけど、ON・OFFの切り替えをここまでハッキリ出来るのは凄いと思う。


 実際、我が家でクロは魔獣としてではなく、言語を理解するペットとして扱っている。


「実は気が合うのですよ。私が御者をしている間、クロが『人の気配はまだ途切れないか』とでも言うようにチラチラこちらを確認していましたから。

 その度に私は、ユキが飛び出すまで待てと言いましたが数分後にはまたこちらを振り向くので困っていたのです」


 フィーネとクロの間でそんなやり取りがあったらしい。


 たまにアリシア姉とニーナがクロの背中に乗って街の外を走り回ってるけど、やっぱり全力で走るのが生き甲斐だったりするんだろうか。


 俺も大きくなったら散歩に連れて行ってやろう。




 ジェットコースター気分で高速移動を楽しんでいると、後ろから『ガシャガシャ』って音が聞こえた。


 俺達の荷物は『着替え』『食料』。


 そして王女様に渡す誕生日プレゼントの『ガラス製の花瓶』だけだ。



 さてこの中でガシャガシャと言う音を出す物はどれでしょう?


「あっ! やっぱりプレゼント壊れてるじゃん・・・・」


 父さんが必死に探したらしい高級品の花瓶が粉々に砕けていた。


「ここまで破損していては修復は不可能ですね。代用品を用意しなければ」


 魔術で復元ってのは無理らしい。


 しかし代用品って言われてもな~。



「ご、ごめんなさーーーいっ! ほら、クロも謝るんですよ~。

 土下座ですー! これは土下座モノですよーっ! ユキさんの貴重な土下座シーンですーーっ!」


「ぐるー!」


 能天気で有名なユキも、さすがに責任を感じたらしくクロと一緒に土下座しながら謝罪された。


 でも実は結構余裕あるだろ?



「別に俺はいいんだけど、王女へのプレゼントが無くなった・・・・どうしよう?」


 元はと言えば俺が「揺れた方がスリルがあって楽しい」と言って、フィーネの浮遊術を断ったのも悪いのだ。


 ユキばかりを責める訳にもいかない。


 と言うか、見ず知らずの王女へのプレゼントとかどうでも良い。失礼にならなければ何だっていいだろ。


「壊してしまった私がもちろん用意しますよー! ドラゴンの鱗とかで良いですかね~?」


「俺が迷惑するから止めてっ!」


 なんで貧乏子爵が超高価な素材なんてプレゼント出来てるんだよ。おかしいだろ。


 しかも今のユキなら平気で人類の知らない凄いドラゴンとか討伐してきそうだし・・・・いや、いつもか。

 

(あれ? 反省したユキって普段と変わらない? 『いつも反省してる』はあり得ないし、実はいつでも役に立とうとしてるのか? でも迷惑する事のほうが多いぞ)


 なんかユキの事がわからなくなってきた。その場のノリで生きてるヤツだからな。



「明日にはパーティですから、今から準備出来る物で考えましょう」


 俺がユキの生態について考え込んでいるとフィーネが引き戻してくれた。


 最悪ユキに魔獣討伐してもらった素材を渡せばいいんだけど、それは最終手段だから可能な限り避けたい。


「今ある物は『着替え』って誰が喜ぶんだよ。

 食料の『パンとハンバーグ』たぶん明日には腐る。

 暇つぶしの『フリスビー』は普段から遊んでてボロボロ過ぎる」


 ロクな物がないけど、旅の荷物ってこんなもんだと思う。



「後は夜に遊ぼうと思ってたコレだけですね~」



 俺達の最後の荷物。


 近々売り出そうと思ってた新商品『リバーシ』だ。



 俺の自信作『魔道リバーシ』はただのリバーシじゃない。


 通常の白黒の石を使ったボードゲームではなく、旅先でも遊べるような魔道具になっている。


 折り畳み式になった木の板の裏側に魔法陣が刻まれていて、広げて魔力を込めると8×8のマス目が浮かび上がる。あとはマス目に指を当てると石が設置されて、自動で裏返る仕組み。


 初心者も楽しめる親切設計で、自分の手番がわかるように手元が光って知らせてくれるし、自動で裏返るから見過ごしもない。


 一番難しかったのは『待った』の部分。

 側面の魔法陣に魔力を込めると一手巻き戻る構造になってるんだけど、発動した魔術を『消す』んじゃなくて『戻す』ってのが難しかったんだよ。



「こ、これか~。俺が作ったってバレない?」


 発売前の新商品なので、もし王女が気に入って色々と聞かれてバレるかもしれない。


「我々が考えた遊具で、出資者のオルブライト家に試作品を渡していた、と言うのはいかがでしょう?」


「そうだな。それで良いか」


 フィーネから原理を聞いてるから魔法陣についても詳しいって事にしよう。



 まぁ問題があるとすれば、俺の気持ちだな。


「苦労して作った魔道具を最初に渡す相手が見ず知らずのどうでもいい王女か・・・・美少女じゃなかったらどうしよう。叩き割るかもしれないぞ」


 顔が全てとは言わないけど、初対面で最重要なのは顔だよな。


「ならやっぱり私が用意しますよ~」


「・・・・いや、これをプレゼントしよう」


 どうせ近々量産する予定だったし、偉い人ほど『珍しい』ってだけで大金使うイメージある。未知が許せないのか、自慢したいのかは知らないけど。


 完全新作で未知のリバーシは王族へのプレゼントには最適だろう。





 プレゼントは決まったけど、オルブライト家を代表して出席するパーティなので、プレゼント変更の事は家長に伝えておいた方が良いだろう。


 そもそも花瓶を用意したのは父さんなのだ。


「一応父さんには謝っておいてくれるか? ついでに許可も取ってきて」


「任せてください~。私のせいなので一生懸命に謝ってきます~」


 そう言ってユキが転移した。




「アランさんはどこに居ますかね~」


 一瞬でオルブライト家へ帰って来たユキは、早速アランの魔力を探知すると会議室で反応があった。


「あら、ユキ帰ってきてたの? 忘れ物?」


 部屋に向かう途中でエリーナと出会うが、神出鬼没なユキの転移には慣れたもので全く疑問を持っていないようだ。


「アランさんにお話があるので帰ってきました~。会議室に居るみたいですけど、お仕事中ですか~?」


「ええ。食堂の方は順調なんだけど、孤児院の設立にはスラムの人達の立ち退きが必要だから話し合いが続いてるわよ」


 より良い居住区への転居を提案しているのだが嫌がる人も多いので難航していると言う。


「私が入っても大丈夫ですかね~?」


「ロア商会も関係してる話し合いだから良いんじゃないかしら」


「じゃあお邪魔しますね~」


 ユキはそう言って会議室へと向かう。



コンコンッ。


「失礼しますね~。みんな大好きユキちゃんですよ~」


「どうしたんだい? 王都へ向かっていたはずだけど」


 ユキが謎の自己紹介をしながら入室すると、そこには頭を悩ませて難しい顔をするアランと、スラム代表でやってきた頑固そうな交渉人3名が居た。


「アンタが噂のロア商会のリーダーか?」

「まだ子供だろ」

「ガキが来る場所じゃねえぞ」


 ユキの見た目は18歳ぐらいの少女なので、初対面の人からは大体似たような反応をされるが慣れているユキは全く気にしない。


 様々な種族が暮らすアルディアでは年齢不詳な人も多いのだが、ユキの適当なノリが周囲からは「間違いなく年下だ」と勘違いされる原因だった。


 当然、彼女がそれに気付く日は生涯来ない。


「アランさんに話があったんですけど、孤児院の件にも口出しさせてもらいますよ~」


 その後、開発部長の権限で勝手に従業員を増やしたり食糧対策を語り、孤児院設立にこぎつけた。




 長年培った話術と交渉力により難航していた話し合いをアッと言う間に片付けたユキ。


 抗議に来ていたスラムの人達は満足して帰っていき、会議室にはアランとユキの2人だけが残った。


「ありがとう、助かったよ。中々妥協点が見つからなくてね」


「どうしたしまして~。それと私の話なんですけど・・・・・・」


 ユキは竜車での出来事をありのままに話した。


「そっか、壊れたなら仕方ないね。でもリバーシって受け取ってもらえるのかな? 魔道具の持ち込みは禁止されてたりするんじゃない?」


 危険な魔道具も多いので城への持ち込みを制限される可能性がある、という事が気になったようだ。


「なるほど~。ダメですかね~?」


「いや、プレゼントとしては最適だと思うし、僕が安全を保障する手紙を書くよ。オルブライト子爵が責任を持つさ」


 そう言ってアランはすぐに書類を用意してユキに手渡し、同時にくれぐれも失礼の無いように注意した。


「助かります~。別のプレゼントが思いつかなくて困ってたんですよ~。

 私は相手に迷惑かけたことなんてないので心配無用ですー! ではでは~」


(え!? そ、そうかな?)


 そう言って再びユキが転移したが、残ったアランには不安しかなかった。





「ただいまです~。アランさんも許可してくれましたよ~」


 そう言いながらユキが家での出来事を話し始めた。


「たしかに・・・・リバーシは魔道具だから渡せない可能性もあったんだな」


 盲点だった。

 国で一番安全性に厳しい場所だと言う事を忘れていたので、この手紙は正直助かる。


「事前に問題が解決して良かったですね」


「ああ」


 さすが貴族生活30年以上のベテランは気が利くな。


 ちなみにフィーネとユキが気付かなかったのは、似たようなことがあってもゴリ押しで生きて来たからだと言う。


(文句を言った人が不幸な事故に遭ってない事を祈るしかないな・・・・)


 所詮世の中『力』が全てなのだ。





「従業員増やしましたけど良かったですか~? 増し増しましましまです~。

 とりあえずは建築を手伝ってもらってますけど~」


 随分『まし』多いな!


「ユキが認めたのなら大丈夫ですよ。それに計画より早く完成する分には助かりますから」


 フィーネはユキのボケ(?)をスルーして会長として正式に雇う許可を出した。


 俺の知らない間にロア商会は順調に成長している。




「まぁ問題があるとすればリバーシが気に入られるかって事か」


 王女へ渡してみたら「変なプレゼントだから気に入らない。打ち首」みたいな展開にはならないだろうな・・・・。


 魔道具アレルギーとかだったらどうしよう。


「ユキ、ルーク様に失礼な事を言う王族が居れば存分に暴れてやりなさい」


「頑張ります~」


 それだけは本当に止めて。頑張るって何を? 破壊活動?


 今更だけどユキを同行者にしたことが最大の問題な気がしてきたよ。




 俺達が竜車に揺られて半日、目の前に王都を守る巨大な壁と門が見えてきた。


「さすが王都だな。色々デカいっ!」


 ヨシュアのショボくてボロボロな門とは比べ物にならないほど立派で頑丈そうだ。


 そりゃそうか、王都は魔獣や敵国と戦うための最重要拠点だし世界一強固じゃないと駄目だよな。


「私はレオさん達と先月来ましたから変わってませんね~」


「私も久しぶりですが、昔より立派な壁になりましたか?」


 ちなみに前回王都の壁が補修されてから10年以上経ち、改築と言うことなら40年以上前になると言う情報を得ている。


 もちろん女性の年齢など気にしないのがエチケットだ。



「さてパーティ第二弾と行きますかっ!」


 王都セイルーンで新たな出会いが待っていることを俺はまだ知らない。

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