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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五章 アクア編
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五十九話 手紙

 アクアで『ロア商会特製100%塩』の供給が始まって最初の塩が届いた。


 塩専用の運送便をヨシュアの領主『バッツ』様が手配してくれたので、今後は定期的に届く予定だ。「運送するから塩産業に一口かませて」とお願いしてきたらしい。


 生産量の30%は自由に販売出来るからそれ目当てだろうけど、父さん達がやり取りしてたから詳しくは知らん。


「おぉ~。知ってたけど実際届くと感動するわ~」


 自分で作るのも楽しかったけど、こうやって商品として見るとまた一味違うな。


 みんなも俺と同じく感慨深そうに木箱に入った塩に触れている。


「これで食堂が開けるニャ」


「頑張る」


 リリとニーナにとっては食堂のための大切な調味料だからな。


「わたしはルークの護衛だから手伝えないけど、頑張ってね!」


 本人は護衛と言い張ってるけど、ヒカリはまだ小さいので食堂で仕事じゃなくて俺と一緒に学校に通う。


 入学式は半年以上先なので、たぶん食堂が軌道に乗る頃だろう。

 


 アリシア姉も学年で一番強くなるため日々修行しているし、フィーネ達もロア商会で頑張っている。


 それぞれが将来に向けて努力しているので俺も負けてられない。


 とは言え、工場や店舗が完成するまでは出来る事が少ないのも事実。


 魔法陣や魔道具の構想は練っているけど大規模になると話は変わってくるので、正直最近は暇だったりする。





 なんか俺だけが止まってるな~、と悩んでいると遠くで父さんの絶叫が聞こえた。


「どうしたんだ?」


「敵ではありません」


 傍に居たフィーネが安全を保障してくれるけど、フィーネとユキに気付かれず侵入できるヤツが居るならむしろ会ってみたい。



 おおかた足の小指でもぶつけたんだろう、と思って気にしないことにした俺は読書を再開する。


 その直後、俺の部屋に父さんと母さんが思いつめた表情でやってきた。


「「・・・・・・」」


(なんだ、レオ兄からの手紙で何かあったのか? ってかあの悲鳴は俺が関係してるのか。なんかしたかな?

 緊張するから早く話してくれ。ゴクリンコ、極リンゴ)

 

 全くシリアスに向かない主人公ルーク。




 俺のどうでもいいジョークを知る由もない父さんは重い口を開いた。


「・・・・・・ルーク。正直に言いなさい。王族と関わった事はあるかい?」



「は?」


「王族に近しい者でもいい。とにかく貴族との関りはあるかい?」


 貴族なんてアクアで会った連中しか知らない。当然王族なんて論外だ。


「どうしたんだよ。国王様から手紙でも届いた?」


 なんてな。




「正解だよっっ!! 一体何をしたんだあぁぁぁーーーーーーっ!!?」



 父さんが再び叫んだ。


 本当に王族から連絡が来たらしい。


 なるほど。ついさっき王家の紋章が入った手紙が届いて、それを見た父さんが絶叫した訳か。


「ロア商会でも知り合いは居ないのよね?」


 母さんが商会方面の確認をしてくるけど、手紙は俺宛てなんだろ?


「なら俺じゃなくてフィーネかユキだろ。俺が魔道具を作ってるなんて知らないはずだから」


「もちろんそのような連絡はありませんし、ルーク様の正体は知られていません」


 フィーネも思い当たる節は無いと言う。


 たぶん俺の正体を知った連中はフィーネによって闇へと葬られるだろうし、王族が知ってるのも妙だ。


「私も知らないですね~」


 いつから居たのかわからないけどユキも隣で否定する。




 見に覚えのない事を話し合っていても埒が明かないので、肝心の手紙を確認することにしよう。


「ちなみに手紙の内容は?」


「これだよ」


 そう言って父さんは王家の紋章の入った煌びやかで一目で高級だとわかる封筒を俺に手渡す。


「うわっ、この封筒だけで金貨何枚になるんだよ。さすが最上位の権力者、手紙1つとっても金の掛け方が半端ないな。

 ルーク=オルブライト様、たしかに俺宛てだな。

 何々・・・・・・ふむ、来月にある娘の誕生パーティに出席してくださいって書いてあるな」


「なんでルークが王女様の誕生パーティに呼ばれるんだい? 本当に何も知らないのかい?」


「しつこいな。同姓同名とかじゃないの?」

 

 本当に心当たりがない。だいたい家から出ないんだから知り合う方がおかしいだろ。



 しかし届いてしまった以上は知らないフリは出来ない。


「参加されますか?」


「断っても良いなら断るぞ」


 わざわざ田舎貴族を呼び出すんだから絶対に理由があるはずだし、王族の命令に背くほど馬鹿じゃないけど、一応言ってみる。


「「もちろん駄目よ(だよ)」」


 父さんと母さんの両者からステレオで否定された。まぁそうだろうな。


 しかし、またパーティか・・・・アクアのトラウマがよみがえる。




「私もついて行って良いんですよね~?」


 ユキは参加したいみたいだ。まぁお前はアクアでも楽しそうだったもんな。


「え~っと、参加者は1人につき護衛や保護者が1人だけ同行しても良いみたいだぞ」


 『可能な限り人数は少なくしたい』的な事が書いてある。何か理由があるのか?


「なら私が護衛します~。ルークさんと王女さんの出会いは絶対面白いですから見逃すわけにはいきませんよ~。王城も楽しそうです~」


「いえ、私が一緒に行きますのでユキはロア商会をお願いします」


 ユキの狙いは俺のリアクション。

 フィーネは俺と離れる事を何よりも嫌うので、当然参加者に立候補した。



「フッフッフ~。面白い冗談です~。会長が居なくてどうするんですか~?」


「ロア商会はルーク様あっての商会です。ルーク様が最優先ですよ」


「ジャンケンしなさい」


 これ以上の言い争いはウチが戦場と化してしまいそうだったので、母さんが公平なジャッジを下した。



 こうして歴史上類を見ない全力全開のジャンケンが始まる。


「「ジャンケンポンッ! あいこでしょっ!!」」


 フィーネもユキも凄まじい速度で手を変える。


 フィーネの目は魔力で輝いて全身は緑のオーラが立ち上り、常時魔眼が発動していた。ユキも全身から冷気と共に白いオーラが立ち上っている。


 2人以外は誰もわからなかったが、お互いの手を魔力で強引に変更させていた。全力で魔力を圧縮することで強制的に『グー』を出させ、グーを握る手の中で魔力を爆発させて『パー』にしているのだ。


 フィーネとユキは、世界一無駄な高等魔術の攻防をジャンケンで繰り広げていた。





「では行ってまいります。後の事は頼みましたよ」


 フィーネが別れの挨拶をしていく。


「任せて」

「フィーネ様の分まで頑張るニャ」

「わたしも行きたかったのに~。また居残り・・・・ぶぅ」


 全員が何事もなく俺達を送り出そうとしているけど、ヒカリだけが不機嫌になっていた。


「ヒカリには凄いお土産持って帰るから! 帰ってきたら学校でもずっと一緒だぞっ!」


 ヒカリの泣き顔? あり得ないな。彼女の笑顔のためなら世界中を敵に回せる。でも怒った顔もプリティ~。


 今回もアリシア姉は一緒に行きたがったけど、夏休みが終わって学校も再開したため不参加だ。卒業してから1人旅をしたらいいよ。



「ではルーク様、行きましょうか」


「あぁ。5日ぐらいで戻ってくるから」


 そう言って俺とフィーネはクロの竜車に乗り込んだ。





「準備は良いですか~? 出発しますよ~」


 車内ではユキが席に座って待っていた。



 ジャンケンの勝者はユキだ。


 フィーネは王都までついてきてすぐに帰る予定。


 最初は「帰りも一緒に居る」って駄々をこねたんだけど「それなら家で待機させる」って命令したら、少しでも傍に居たいと泣き出したので行きだけを許可したんだ。会長としての仕事もあるからな。


 ユキが『パー』、フィーネが『グー』を出した時の絶望した表情は忘れられない。


 なんか「氷と水の混合魔術っ!?」とか「ここで過去最速魔術とは。見誤りました」とか言ってたけど何の事だろう?



 王都に居るレオ兄と会おうかとも思ったけど「あれだけ感動的な別れをしたのに1ヵ月で再会とか遠距離恋愛中のカップルか!」って事で今回はパーティに参加するだけにした。お互い成長した姿を見せたいもんな。


 と言うわけでレオ兄との連絡係はユキに任せた。ユキの転移なら一瞬だ。


「なんか最近外出ばっかりだな。まぁ暇だったし良いか」


「新しい発見があるかもしれませんよ~。知らない体験は楽しいじゃないですか~」


 そりゃそうだけどさ。




 ヨシュアから東へ真っ直ぐ進むだけの安全な旅だ。


 何せ目的地は国の中心『王都』なので交通量が多く、数十分に一度は誰かに出会うので魔獣は誰かが退治していた。


「レオ兄も通ったんだろ? どうだった?」


「そうですね~。魔術の訓練方法を教えたら修行してましたね~」


 早速頑張っていたらしい。俺も魔術の制御関連なら教えてもらおうかな。


「あと護衛さんに絡まれましたね~。ロア商会の悪口がどうとか言ってたと思います~」


 は?


「ユキ。ロア商会の部分について詳しく言いなさい」


 フィーネが静かにユキを尋問し始めた。たぶんイライラしてる。


「なんでしたっけ? レオさんが圧縮魔術の訓練をしていたら、そんな魔術しか使えない貴族はダメだ、お先真っ暗だ、ロア商会はムカつくとか言ってたと思いますよ~」


 ユキの言い方では、護衛がロア商会とオルブライト家をバカにしているとしか伝わらない。


 全てユキがその時に聞いた単語を並べただけで、登場人物で護衛をバカにした貴族が居ない。つまり真実とは違うのだが、訂正できる人間は存在しなかった。


「なるほど、定期便でレオ様を乗せた馬車の護衛達ですか」


 フィーネが恐ろしい顔をしているが、御者をしているのでフィーネの顔を目撃したのはクロだけだ。


「ぐるー(いや、あの時は死を覚悟しましたよ。ものすごい殺意が飛んできて体が勝手に震え出して・・・・姉御は怖いです)」


 と言ったかは不明だ。



「随分貴族を舐めた発言をする護衛だな。本当に護衛だけだったのか?」


 俺はユキのどうでもいい事に関する記憶力を信じていないので、護衛を助けるわけじゃないけど一応聞いてみた。


「あーっ! そうです、そうです~。護衛さんはそう言われてイライラしてたからレオさんに絡んだんでした~」


「その言った相手はわからないのですか?」


 俺の機転によって定期便の護衛達は助かったようだ。ってかさすがユキだな。俺の低評価は覆りそうにない。


「気にしないでくださいって言ってましたよ~」


 たぶん護衛達もこうなる事を予知してたんだろうな。


 フィーネの関心は護衛から外れたらしい。




 その後、詳しく覚えていないユキから情報を聞き出すことを諦めたフィーネは平常運転に戻った。


 さすがに旅も2度目になると、景色を楽しむのも飽きたのでユキに魔術のコントロールを教えてもらう。


「こうかっ!?」


「違いますよ~。ドーン。ほら押し負けた~」


「くっ。思ったより難しいもんだな。理屈はわかるんだけど魔力がついてこないって言うか」


 単純に俺が魔力に慣れてないだけかもしれない。


 ずっと魔道具しか作ってなかったから戦闘用とは使う魔力が違うんだろうか。


 魅せる筋肉と実用筋肉は違うみたいな? 短距離走と長距離走で使う筋肉が違うみたいな?


「でもさすがですね~。レオさんより上達早いですよ~」


 そりゃ原理を知ってるし幼少期から魔力の操作をしてたんだ、覚えは早いだろうさ。むしろレオ兄より上達が遅かったら、才能の差って事だからショックだわ。


「魔法陣を作って鍛えてたからな。魔力操作ってちょっと似てるよな」


「全てを合わせて『魔法』ですからね。魔道具作りをしているルーク様は魔術にも精通しているはずですよ」


 なるほど。自分の感覚で魔力を操作するのが俺の性分にあってるんだよな。教えてもらうんじゃなくて、自分でコツを掴むだけって言うのが良い。


 これ面白いから部屋に1人でチマチマ練習しよう。根暗かな? 俺は1人リバーシやトランプで楽しめる人間だ。




「なぁ学校で習うとこれぐらいは普通に出来るようになるのか?」


 練習しといてなんだけど一般的じゃなかったら使えない技術だぞ。


「レオさんが知らなかったので珍しい訓練だと思いますよ~」


「使えないじゃんっ!?」


「え~。ルークさんが教えて欲しいって言うから一番効率のいい方法を教えたんじゃないですか~」


 たしかに同じ魔術の訓練なら効率重視だけど、周囲に合わせるのが大切って言ったのはユキだぞ。



「学校でも使える方法を教えてください」


「我々は学校に行った事がないので無理ですよ。アリシア様に教えていただいては?」


 帰ってから聞いておこう。今は諦めるしかない。



 学校で目立たないように一般常識を身につけた方がいいか。常識人のフィーネがまさかの弊害になろうとは予想外だった。


 ユキ? ヤツには元から期待してない。戦闘面なら役立つかと思って教えてもらったらこのざまだよ!

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