プロローグ
近年、スマートフォンの普及により、ゲームはより一般にも受け入れられる様になっていた。
2036年、人気のスマートフォンメーカー、アメリカのゲーム会社、日本のゲーム会社の3社共同開発によりフルダイブRPG『ライラックアース』というゲームが完成。その技術を用いたフルダイブゲームが巷に溢れる中、『ライラックアース』は絶大な人気を誇り発売から数年経った現在も人気ゲームランキングのトップを守り続けている。
これは、ゲームに触れたことの無い初心者女子高生と隠れゲーマーであった幼馴染の男子高校生が紡ぐ物語。
◇ ◇ ◇
仲の良さはさておき、人には多からず少なからず、幼馴染と呼ばれる人物が居る。その定義は実に曖昧で「幼い頃から親しくしていた友人」の事を言うらしいが実際“幼い頃”とはいったい何時なのか、それは人によって異なる。
よく言われるのは、家が近いなどの理由で子供の頃から遊んでいた場合の幼馴染だ。しかし、幼いとは言わないが“若い頃”から長年交流のある友人の場合は何と呼ぶのだろうか。いや、一般的にはその場合は"職場の友人"やら“学生時代の友人”と呼ばれている。故に、幼い頃という言い方は大体生まれてから小学生位までなのだろう。
持病の喘息の所為で身体が弱かったが為に、最初は母と、慣れてくると一人図書館で本を読み漁って私にはこの頃、あまり仲の良い友人は存在しなかった。
「おはよ!ナナちゃん…!」
「あ…おはよう…ハヤトくん」
そう呼び合っていたのは、幼稚園の頃。癖の付いた生まれつきブラウンの髪を持った男の子は、図書館に入り浸る私の唯一の友人であり、この数年後には周りから幼馴染と呼ばれる様な存在だった。
「行くぞ、七海」
「あ、待ってよ颯斗」
呼び捨てになったのは小学生の頃だ。丁度同じクラスに同じ苗字の子が居た事もあり、私達が互いを名前を呼び合う様になるのには時間は全く掛からなかった。
「じゃあね、桧室さん」
「あ、うん…バイバイ、中森くん」
苗字に変わったのは中学生の頃。別にクラスに同じ名前の子が居た訳では無く、中学に入学したら突然呼び方が変わっていた。あの時は理解が出来ず驚いたものだ。中学に入ってからはそれぞれの生活も別々になる事が多く会話も減り、卒業の頃には殆ど接点なんて無くなっていた。
そして、今。
「行くぞ!ヒナ…!」
「いつでも大丈夫!ハヤト!」
高校2年生の夏。
私達は再び、互いの名前を呼び合う…。
≪ヨウコソ ライラックアースへ≫
-神殺しのステイルメイト-