〜始まりの音〜
ゆーびきーりげーんまーん
その歌にのって幼い少女と少年は小指をしっかりと絡ませ、上下に振る。
色素の薄い長い髪を見るのが少年は好きだ。
いつもの林で木々の影の中隙間から漏れる日の光り。
少年から見た彼女はまさにそれ。
そして少年と少女を黙って見守る黒髪の少年。
木々を縫うように淡く優しく吹く風、少年にとって、少女にとって彼はまさにそれ。
少女と指を絡ませ、頼りない笑みを浮かべる少年はされるがままに少女の歌に合わせて動くだけ。
茶色い髪は小さく揺れ、同じ色の瞳も揺れる。
彼女が歌う約束の定番の指折りげんまん。
その一部の綴りである『嘘ついたら針千本』を彼女は好まない。
ゆびきりげんまん、の綴りを延々楽しそうに繰り返す。
その軽快で楽しげなリズムが止んだ後、少女は約束を口にする。
げんまん……、と彼女の歌う声が途切れた。
いつもはここで少し迷うのだが、この時ばかりは少女の顔は笑顔で、確認の声音だった。
繋いだ小指を高く高く、太陽に近づけるように掲げた。
「また、会おうね?」
その幼く高い声は、小指を繋いでいる少年にだけでなく、横で黙って見ている少年にも投げられた。
茶髪の少年は小さく、照れ臭く、けれど微かに頬を紅潮して頷いた。
黒髪の少年は当たり前のように笑顔をむけた。
林の中、木々と好き勝手生えている草の間から聞こえてくるのは鈴虫の合唱。
夏は去り、秋が来る。
指を絡ませ笑っていた少女は「約束したよ?」と別れを惜しむ、再開を望む曖昧な笑みを浮かべる。
そうして、少女は薄い茶髪を揺らして最後の言葉を紡いだ。
「…ゆーびきった」
最後の一文字の所で、小指は解け一つの約束は結ばれた。
曖昧で頼りない約束。
鈴虫が静かに鳴いていた、少し肌寒い夏の魔法。