元死神と戦場の恋
死神、それは死者の魂を閻魔の元に送る霊を司る神だ。
これは役目を終え世代交代をした元死神の物語である。
爆音が鳴り響き沢山の人が霊体となる、人の言う戦争が行われている場所に私、通天里視通はいた。
銃という武器や戦車という大型戦闘車両が使われているここでは沢山の霊が現れては成仏していく。
予想以上の騒音だったため少し遠くの草陰に退避した。
草陰には二人の先客がいた、一人は男性、もう一人は女性だろうか、顔が潰れている、顔に爆撃をくらったのだろう。
「……美希」
男性が女性の名を呼ぶ、もう手遅れな事をわかってか大丈夫とは言わない。
「弦太中尉……」
女性も男性の名を呼ぶ、声はかすれてほとんど出ていない。
「弦太中尉……好きでした、上官としてでは無く……異性として……好きでした」
男性は少し目を潤ませて
「……ありがとう」
女性に長い口づけをした。
女性は痛がる様子も無く静かに、幸せそうに息をひきとった。
「……っ」
心では思っていても体はついてこない、男性は吐き気を止めようとするが逆らえなかった。
「ごほっ、けほ」
男性は少し薄汚れた白いハンカチを取り出した、それで口を拭く……のでは無くハンカチにそっと口づけをしてハンカチを女性の顔に被せた。
口についた血などが有る限り男性
の吐き気は収まらないだろう、しかし男性は口を拭く事はせず女性に短時間の黙祷を捧げ銃を持ち直した。
「こいつ……美希をよろしく頼む」
「なっ……」
この男性は私が見えているようだ、いきなりの事で少し動揺したが冷静に返した。
「了解した」
男性は戦場に戻っていった。
しばらくして女性の霊が出てきた、美しい顔立ちをしていた。
「美希……だったな、この世に未練は無いな」
美希は首を縦にふり、ハッキリとした口調で
「私を……守護霊にしてください」
いきなりそう言ってきた
「守護霊か、アテはあるか?」
「はい、さっきの男性、弦太中尉です」
「……うむ、さっき見た所守護霊がついていなかったし大丈夫だろう、では探しに行こうか」
「……はい」
「……人が多いな」
「そうですね、冷静になって見ると随分違う見え方をしてます」
「人間は何故殺し合いなんかするのだ」
「しているのは上の人だけです、私達を使って様々な事を争う」
「……反逆したりしないのか」
「反逆ですか……何故かしませんね」
「そうか」
「それにしても……」
美希が歯ぎしりをして
「沢山の仲間が戦っているのに参加出来ないこの身が憎い……」
「お前は戦いを終えた人だ、戦いの犠牲となった人だ……精一杯やったのだろう」
「……慰めてくれてるんですか?」
「未練が出ては面倒だからな」
「そうですか」
美希は少し笑顔を見せた。
「それにしても見つからんな」
「ですね……」
美希が俯く
「……どうした」
「いや……何でも無いです」
次は弱々しい笑顔だった
少し考えて私は美希に声をかけた
「あいつは死んではいない」
俯いていた美希が顔をあげる
「……私にはわかる、あいつは死んでいない」
「そうなんですか?」
「……ああ」
私は始めて嘘というものをついた、今の私にはもうそんな力は無い。
「まあ探せばいい」
しばらくして男性は見つかった。
「中尉!」
美希が弦太に近づく
男性は死んでいた、美希は周りを見回す、男性の幽霊を探しているのだろう。
「そいつの幽霊はしばらくしたら出てくるだろう」
「……はい」
しばらくして男性の幽霊が出てきた。
「……美希?」
「弦太中尉……」
「んな悲しい顔すんなよ、あと俺達の任務は終了した、今までよくやった」
男性……弦太は美希に口づけをした。
真っ赤になった美希を弦太は正面から見つめて
「だから中尉はいらない、呼び捨てで構わない」
「……はい」
二人は抱き合った
「……くさいってのはこういう時に使うのか?」
弦太は笑いながら
「どうも、死神さん」
「……何故生きている時からわかってた」
「見えるんだよな、お前が幽霊を送る所とか」
「……なかなか強い霊感を持ってたようだな」
「まあな、てか美希、なんでここにいるんだよ」
「あの……弦太ちゅ……弦太さんの守護霊になろうと思いまして」
「なるほど、ありがとな」
「いえ……」
私は二人が一通り話終わりのを見計らって
「二人共、未練はあるか?」
「俺は一つある」
弦太が言った
「両親が無事か見ておきたい」
「うむ、簡単だな」
私達は弦太の故郷に向かった。
「ここが弦太ちゅう……弦太さんの故郷ですか」
まだ新しい呼び方に慣れていない美希はさん付けで呼ぶたびに顔を赤くしている。
「ああ、ここが俺の実家……」
ドアをすり抜けて入った美希と弦太は固まった。
「手ェあげろォ!!」
イントネーションのおかしい喋り方で男が弦太の両親に銃を突きつけていた。
「金ェ持ってこい」
「…………」
「聞こえねェのかァ!」
両親は黙ったまま小さい子供を抱きかかえている。
「親父! 母さん! 哲二!」
どうやら子供は親族らしい
「中尉舐めんなぁ!!」
弦太が強盗に殴りかかる、しかし手は強盗の体をすり抜けるだけだった。
「くそっ! 当たれ! あたりやがれ!」
弦太は何度も殴りかかるがもちろ
ん当たらない。
「止まれ」
私は弦太の肩を掴んだ
「こいつを止めないと……」
「冷静になれ、方法はある」
「……なんだよ」
「お前を生命と触れれるようにする、しかしあいつがもう一方で持っているナイフなどに当たると危険だ」
「それくらい大丈夫だ」
「私も手伝います」
「美希……大丈夫だ」
「いえ、私も付き添わせてください」
真剣な眼差しの美希に弦太は折れた。
「わかった、頼む」
私は二人に手を添えて力を使った。
「これで大丈夫だ」
「わかった、いくぞ美希!」
「はい、弦太さん!」
二人はタイミングバッチリで走り出した、しかし
「みーえてーるよー」
強盗はまっすぐ二人を見てナイフを振り銃を撃った。
「きゃ!!」
「美希!」
弾が美希に当り美希が幽霊の死、崩壊し、光と共に消えさった。
それからも一瞬の出来事だった
怒り狂い理性を失った弦太は強盗を殴り飛ばし気絶させ、膝から崩れ落ちた。
「美希……また守れなかった」
強盗は後にきた警察に連れられた。
「美希……美希……」
「すまない、私の不注意だ」
「いや、あの時止めて……いや守れていれば……死神、最後の頼みがある」
弦太は力無く立ち上がって私を見て
「ここにいる意味がない、転生させてくれ、なるべくはやく……」
「……いいだろう」
通常転生するには天国に行かなければならない、しかし例外もある
美希のように崩壊した者はこの場で私が転生させられる……つまり
「さよならだな、弦太」
私は鎌を取り出して弦太の体を切り裂いた。
弦太は最後まで笑わなかった。
私は二人の欠片を手に取り力を使った。
二つの光は天に登っていった。
「少々反則だが、まあいいだろう」
私はその土地を後にした。
数十年後、自衛隊にて
「今日より配属された守田 光希です」
「お前の上官となる 守木 賢太だ」
新しい恋が始まろうとしていた。