日常生活における彼女の失敗について。
とても美しい少女だった。
憂いた瞳を縁取るまつげは長く、桜色の唇が紡ぐ言葉は甘やかな響きを持っていた。
ただ、それだけ。
自分には何の価値も無いはずだった。
情がわいただけだ
そう言い訳して、その身体を抱き上げたーー。
そして、現在。
「きゃぁぁぁッ!!」
ガッシャーン。
見事なまでの悲鳴と何かが割れる音が響き。
朝から叩き起こされた私はのっそり(当社比)と起き出した。
「今度は何をしたんですか。」
音源…台所へ向かうと朝から元気に悲鳴をあげた蓮夏はもちろんこの家の主、涼地様も水差しとコップの後片付けに勤しんでいた。
「お早うさん、進藤。」
「お早う御座います。…代わりますので、涼地様は支度を整えてきて下さい。」
「よっしゃ、任せろ。」
そう言って自室へ向かう涼地様が廊下を曲がり姿を消しーー
「蓮夏。」
「す、すいません!」
大方片付けおわったガラスの破片を燃えないゴミの袋にいれた蓮夏が最初にしたことは謝罪だった。
「お仕置き、して欲しいんですか?」
「ち、違います!」
毎日失敗しておいて、逆にタチ悪いわ。
そのことが分かっているのかシュンとして見せる蓮夏にため息をつくと、「…すいません。」と再び謝られた。
「進藤さん。私のこと、嫌いになりましたか?」
こうやって確認してくるのは、俺を好きだからではない。
…逆だ。俺のことを恨んでいて、俺のことを嫌いだからだ。
「いえ。こんなの、もとからでしょう。」
そう答えると後ずさる蓮夏。
…そんなに、嫌いか。近づかれたくないほど。
やっぱり、俺はまだ彼女のことを諦め切れてないらしい。
身体だけでも、いいと思っていたのだが。
いつのまにか、心までも欲しくて欲しくて我慢が辛くなってきた。
だから。
だからーー
「進藤。会社行くぞー。」
蓮夏が何か言おうとした瞬間、涼地様の声が聞こえてきた。
「蓮夏、行ってますから、今日は失敗しても助けられません。変わったことはまたの機会に取っておいてください。」
「う…あ、はい。」
「しんどー。」
「何ですか?」
そろそろ、蓮夏ちゃんも独り立ちの日、だろ?
その言葉ににっこりと笑って返した。
「お。やる気になった?」
「はい。例え泣き叫ばれても、恨まれても、彼女の心が壊れても、
アイツは俺のモノです。」
「いや…」
「何ですか?」
「そこまでいくと、怖い。」