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魔王ちゃん、ストーカー録

魔王マオちゃんの勇者様観察日記りぶーと

三年七ヶ月ぶりのマオちゃんです。ちゃんと書けてるだろうか……

「わたしはっ、ストーカーをすることをっ、強いられてるんだ!!」


 計画通り目を覚まし、現在滞在している宿屋の一階の酒場に降りた私を迎えたのは、腹心の部下の魂の叫びのような冤罪をうったえる叫びでした。

 ふむ。

 私は酒場の中を部下目掛けて真っ直ぐに突き進み、腹心の部下の肝臓目掛けて抉り込むように拳を打ち抜きました。


「ふごっ!?」




☆%§@*&×〇




 改めましておはこんばんにちわ。魔王のマオです。

 最近、アモネの様子がおかしかったので、奇襲を仕掛けてお仕置きです。

 以前は、私の至高のお仕事であるスグル様の観察をするとき、嫌そうな顔を一瞬見せて、深いため息とともに記録活動をしていたというのに、今では、嫌な顔一つせず、記録活動を行っているのです。それだけならなんら問題は無いのですが、私の目を盗み、スグル様のための映像カメラの映像板をちょろまかし、スグル様以外の輩を映像に映しているでは無いですか!

 許せません!

 私の映像板は愛しい愛しいスグル様を撮影するためにあるのであって、無精髭のおっさんを撮るためにあるのでは断じてないのです!

 床にうずくまり、悶えるアモネのお尻に怒りのローキックの連打連打れんっ


「あー、なんだ、そこまでにしないか、マオちゃん」


 私の制裁を止めたのは、アモネが一緒に座っていた無精髭のおっさんでした。


「うぅ、あ、アイガードさぁん……」


 雨でずぶ濡れの捨て犬みたいな瞳でおっさんに助けを求めるアモネ。

 ……………………よし。

 トン……ファー


「キッーーーー」

「はい、そこまでだ。落ち着け」


 クは残念ながら不発に終わってしまいました。私のトンファーキックを不発にさせるとは侮れないおっさんです。


「見ましたかっ! 見ましたね! これなんです! なんたる理不尽! マオちゃんは可愛くて最高なんですけどこればっかりは、こればっかりは! わたしたち親子はこのままじゃ胃が爆裂四散して死んでしまいますぅっ!」


 おっさんに滂沱の涙を流し、今の見ましたかと連呼するアモネに流石にわたしもイラッきてしまいます。

 おっさんは慣れた手つきでえぐえぐ泣くアモネを慰めると、


「とりあえずまあ……一杯付き合え」


 そう、お酒に誘われました。

 むう、なんか面白くありません。




☆%§@*&×〇




 結局、促されるままに席に座ってしまいました。

 アモネは私から距離をとり、おっさんのすぐ側に。


「……それで、一体なんだと言うんですか。アイガード・タルギス。これは、私とアモネの問題です。あなたには関係無いことのはずです」


 私の言葉におっさんは困ったように頭を掻き、アモネをちらりと見やりました。


「あー、そうは言うが、そういうわけにもいかんだろ」

「大体、私はあなたにマオちゃんと呼ばれる筋合いもありません」


 おっさんは苦笑いで、諭すように私に言います。


「あのな、あんまり、友人に甘えすぎるのも、どうかと思うぞ」


 む


「私は甘えてなど」

「甘えてるよ。甘やかされてたって言えばそれまでだが。さっきのが際たるもんだな」


 ……それは、確かにそうかもしれませんが。

 アモネを見ます。疲れたような、悲しそうな顔です。


「…………少々、やり過ぎました。すみません、アモネ」

「あ……いえ、いいんです、マオちゃん。わかってもらえれば」


 アモネは席を私の方に寄せてくれました。

 よかった。

 説教のようなことを言われて、少々鬱陶しくも思いましたが、ほんのちょっぴり感謝しますよ、おっさん。


「いや、お前ら、もう解決、万々歳って空気出してるとこ悪いけど、何も解決してねーから」

「はい?」

「え?」


 完全に何言っちゃってんの状態です。ダメだこのおっさん。早くなんとかしないと。

 おっさんは心底呆れたように溜め息をつきました。まったく、溜め息をつきたいのはこっちなのです。


「おい、何呆れたような顔しちゃってんの。呆れてんのはこっちだよ、このスットコ魔王」

「アモネ」


 この男、なぜ私が魔王だと言うこと知っている?

 警戒に魔力が高まる。

 すると、アモネが私と男の間に体を割り込ませました。


「マオちゃん、待ってください。この人は」

「アモネちゃん」


 男はやおら立ち上がる。


「やれやれ、まさか、これを言うことになるとはな。小さいときのことだからとはいえ忘れられるって悲しいな」

「アイガードさん?」


 一体何を


「布団の二つの地図」

「そこまでです!」


 私はおっさん、もといアイおじさんにフライングクロスアタックをせざるを得ませんでした。




☆%§@*&×〇




「まさかアイおじさんだったとは」


 今の私は苦虫を潰したような表情をしていることでしょう。秘密を握られているというのはここまで厄介なものだったんですね。


「マオちゃん、完全に忘れてたんだね」

「ま、まだこーんな小さかったからな」


 アイおじさんは指で豆粒みたいな大きさを表しました。そんなに小さくありません。相変わらず失礼な人です。

 アモネもアイおじさんも笑ってコドックト酒をあおります。そんな強いお酒を飲むなんて、どうかしています。

 私はフルーツワインをチビチビと飲み、先程の真意を尋ねます。

 一体何が解決してないと言うのか。


「いや、ストーカーは犯罪だろ。常識的に考えて。それで良いのか、魔王」

「え?」

「え? じゃねえ!」


 アモネがアイおじさんの言葉にうんうんと頷いていました。どういうことなの。


「せめて、一人でスグルを追っかけろ。出来るなら、もっと魔王的に城で映像越しに監視でもなんでもしてろ。それが道理ってもんだ」


 なんてことを言うんですかこの男。そんなの、


「嫌です」


 アモネはやっばり、と肩を落としてぐいっとグラスをあおりました。

 なんですか、もう。


「記録のために手が足りません。私の肉眼にスグル様の姿を、耳にお声を、スグル様のすべてをわたしの全てで感じたいんです。生と映像は別物なのは常識です。

 それと、私は王様なので私が法です。当たり前じゃないですか」

「…………アモネちゃん」


 アイおじさんは変な顔でアモネを見て、アモネは悲壮な表情でふるふると頭を振りました。


「もう、さっきから何なんですか、二人して」


 なんかひどいです。

 アイおじさんはじっと私の顔を見ると、深く、ふかーく溜め息をつきました。失礼です。


「お前は、よくよくマリアに似ちまったよ……。似なくても良いとこまで似なくてもいいのに……」

「アイおじさん、私はお母様の娘です。とうぜんでは無いですか!」


 アモネとアイおじさんが一緒になって深い溜め息をつきました。

 むー、なんですか、もう!




☆%*&×〇§@




 旧交を温め、スグル様の零れ話を根掘り葉掘り聞き出していると、


「お前、本当にスグルが好きだな。なんでだ?」


 なんて愚問を聞いてきました。

 そんなの決まってます。


「好きだからです。そこに、世界一かっこかわいいとか、愛くるしい寝顔とか、ふと見せる慈愛の微笑みとか、時折顔を覗かせる寂しそうな表情とか、一つのことに真摯に打ち込み努力する姿とか、ちびっこたちに囲まれて楽しそうな姿とか、勝てない敵にも果敢に立ち向かう姿とか、誰はばかることなく見せる優しさとか、人の悪意に挫けて折れそうになっても立ち向かおうとする姿とか、毎日毎日みんなに隠れて努力する姿とか、料理に愛情を込めてる時の仕草とか、スグル様印の絶品料理とか、スグル様のパンツの素敵なにほいとか、スグル様の使用済みのタオルの香しさとか、日に日に成長する身長や体格とか、剣の腕の痛快なまでの上達っぷりとかなんて関係無い……なんてことはないですが、つまるところ、私がスグル様に惚れて、好きになって、愛して、知れば知るほど愛しくなるからです」


 私の言葉にきょとんとしたと思ったら、アイおじさんは笑いだしました。

 爆笑です。笑い死にしてしまうんじゃないかったくらいに大爆笑です。 アモネも驚いています。

 もうそのまま笑い死ねば良いんじゃないんですかね。


「悪い悪い。そうむくれるな。お前ら親子は本当にそっくりだよ」


 そして、


「なら、俺らと一緒に来ないか? マオちゃん、アモネちゃん」


 一瞬、理解できませんでしたが、つまり、これは――!!!


「我が世の春が来ましたーーーーーーーー!!!!!」


 店長! 今日、この場のすべては私の奢りです! さあ、者共飲みなさい、歌いなさい、踊りなさい! 今日は祝いです。無礼講です。大いにどんちゃん騒ぎをしてしまいましょう!

 アモネとアイおじさんのコドックト酒を奪い取り、一気に飲み干すと高らかに宣言しました。

 私たちは朝まで騒ぎ続けるのでした。




@§〇×&*%☆




「一応、勇者なんてしているアザミスグルです」


 私の目の前、たった一歩の距離にスグル様がいます。熱いものがつんと込み上げてきて、鼻血が出そうになって慌てて鼻を押さえます。


「大丈夫ですか?」


 そんな優しいスグル様の言葉。


「は、はひ。らいじょぶれす」


 だめ、昇天しちゃいそうです。


「マオちゃん、ほら」


 アモネの言葉になんとか正気を取り戻します。

 深呼吸一つ。


「すぅ、はぁ……。

 マオといいます。魔法が得意です。誰にも負けない自信があります。

 あ、もちろんそこの赤頭のちびっこなんてものの数じゃありません。

 よろしくお願いします、スグル様」

「なんですって!!」


 牽制も、忘れません。

 喧嘩になりかけてアモネとありませんにたしなめられてしまいました。

 スグル様は苦笑いで私たちを見ていました。


「僕のことはスグルでいいよ。よろしくね、マオさん」


 そう言って差し出された手。しかも、呼び捨てでいいなんて……。


「よ、よろしく……」


 そろーっと手を伸ばして、スグル様、いえ、す、す、すす、スグル……さんから手を握ってきました。

 ふわぁっ!?

 嗚呼、スグルさんの手、あったかぁ……。

 私は幸福に包まれたまま、魂は天高く上っていってしまったのでした。


「え、ちょ、マオさ……!? マ……さーーー……………………」


 遠くで、スグルさんの声が……きこ……え…………

マオちゃんの新たなストーカー行為の始まりです。マオちゃんまじ犯罪者。

魔王が法です。



三年七ヶ月ぶりのマオちゃんでした。案外頭の中だけの設定とか覚えてるもんだ。この話、というかこのシリーズは基本、プロットなしの見きり発車進行でお送りします。思い付いたら書く感じ。



この話、実は冒頭のセリフをアモネちゃんに言わせたかっだけだったり



もしよろしければ、評価、批評、感想藤よろしくお願いします。

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