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猫の国  作者: ねこじゃ・じぇねこ
EPISODE【1】 ホーム
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7.


 補習に駆けつけてみると、そこにはいつもの補習受講者だけではなく、たくさんの聴講者がいた。すでに新しい称号を得て、それを使いこなしている者もいたし、只今修行中の者もいたけれど、わたしとしては、新しい称号を得ている時点で皆すごい。でも、そこからがスタートなわけであって、ゴールではないのだ。そう思うと気が遠くなるけれど、モモはわたしにはわたしの速度というものがあるのだから、焦る必要はないといつも言ってくれている。だから、わたしは、わたしの速度で、計測器と向き合うしかない。

 その先のことは、その先に行ってから考えても遅くないはず。

 ……そう自分に言い聞かせないと、少し落ち着かなかった。もしかしたら、わたしと同じ《白》の生徒達は少なからず同じ気持ちかもしれない。

「皆さん、お久しぶりですね」

 ルクス先生がよく通る声で言った。普段の魔法実技は、いつも、アヅマ先生が受け持っている。魔法科学も受けている人と受けていない人がいるため、久しく見ない生徒もいっぱいいるはずだ。まあ、わたしは補習続きでルクス先生ともわりと会う方なのだけれど。

「今日の魔法実技ではいつものメニューに加えて、基礎魔法のサンプルを実演することと、基礎魔法以外の魔法を一部紹介します。皆さんにはこれまで、」

 そう言って、ルクス先生の体は滑らかなフォームを描く。

「《火》、《水》、《木》、《風》、《雷》、《土》の六つの基礎魔法を学んで貰いました」

 先生の指差した地面から、六つの魔力が放出される。途端に、炎、噴水、蔓草、旋風、電流、岩が、その六か所の地面から現れた。見本としても分かりやすい、とても制御された見事な魔法。この学園にいればいるほど、ルクス先生の凄さが理解できるようになってきた。魔法使いの悩むところは、本当は、力の大きさじゃない。コントロールする能力の方らしい。

「しかし、魔法の称号と言うものは、この六種類だけではありません。例えば、このクラスには、すでにいくつかの称号を得て、《赤》の称号を授与されている人もいますね」

 わたしは補習を受講しているクラスメイトの顔を見渡した。探しているのは、リュウという男の子。ルクス先生が、今言った、もう《赤》の称号を得ている同級生だ。彼の才能の開花は早かった。話しかけづらい優等生で、どこか、わたし達《白》の生徒を見下しているような節があった。彼が補習を受けるはずもない。何故なら彼は、力の増幅についても、コントロールについても、教わる必要がないからだ。

 あんな風になりたい。

 『なってどうするのさ』

「でも、それだけでもないのです。魔法の称号というものは、六つの基礎魔法以外にも、特殊な魔法が存在します。代表的なものが、《時》と《心》です」

 《心》。聞いたことがある。というか、《心》の魔法使いは、とても身近な存在だった。例えば、モモ。彼女は《心》の魔法使いである。サポーター猫は、少なからず《心》の魔法が使えるものらしい。わたし以外の生徒についているサポーター猫も、《心》の魔法を使えるといっていた。他にも、《心》の魔法使いと言われて思いつく先生がいる。医務室の先生だ。スミレ先生という、名前の通りの色の目が印象的な女の先生。あまり喋ったことはないけれど、あの先生も《心》の魔法を使えるという噂を聞いたことがある。

 でも、《時》のほうはよく知らなかった。

「このクラスでは、それぞれの魔法を使える人がいますね」

 名前を挙げなかったけれど、ルクス先生はそう言った。

 そうだったんだ。全然知らなかった。魔法実技の特訓と言うのは、本当に個人的なものなのだ。一緒に特訓しているように見えるけれど、進み具合も進み方も人それぞれで、他人を気にしていたらやっていけない。魔法実技の特訓を初めて、二年が経った頃にやっとそれが分かってきた。

「また、《光》と《闇》という魔法も存在します。これらは人間で使える者は、本当に珍しいのですが、魔物などの人間以外の生き物には多々いますね」

 ここら辺は魔法生物学の内容だったので、薄っすらとなら分かる。でも、実際に《光》も《闇》も見たことがないので、魔法のイメージはあまり湧かなかった。

「残念ながら、私はそのどちらも使えません。ですが、《光》と《闇》は、いずれ、とある先生から教わる事となるでしょう」

 とある先生?

 ここでクラスメイト達がざわついた。わたしもそのとある先生が引っかかった。使える先生がこの学園にいるのだろうか。いるとしたら、どの先生なのだろうか。気になって仕方なかった。

「私語は慎みましょう」

 ルクス先生がよく通る声で注意した。

「今は、基礎魔法を磨いて、《時》と《心》の魔法を少しつまむくらいで結構です。まずは、この《時》と《心》の特殊魔法を皆さんに見てもらいます」

 ルクス先生の目配せで、クラスメイトが二人、前へと出た。カズマとナルミだ。ついこの間まで、わたし達と一緒に補習を受けて、謎の特訓をしていたっけ。

「さあ、どうぞ」

 ルクス先生に促されて、まずはカズマが口を開いた。

「えっと、ボクは……えっと」

 もじもじするカズマは、可愛い。小動物みたいな癒し系の男の子だ。

「ボクは今、新しい称号を得るための試験中で、えっと、その称号って言うのが、医務室の先生とおんなじ、《心》です。難しいけれど、頑張ってます」

「あたしは、《時》の称号を得るための試験中です」

 カズマが言い終わると同時に、ナルミが落ち着いた口調で言った。ナルミはナルミで神秘的な女の子だ。《時》の魔法がどういうものかはよく分からないけれど、それをナルミが使えると言う事実は、わたしにとって、非常に納得しやすいことだった。

「まだまだコントロールするのは大変だけれど、せっかくの力だから頑張ります」

 ナルミって、どこか大人びていてしっかりしているよなあっていつも思う。真面目で、大人しい子だけれど、神秘的で、綺麗で、クラスでは密かに人気の高い女の子。

「では、この二つの力を皆に見てもらうために……」と、ルクス先生がトランプのクラブのエースを宙に放り投げた。投げられたカードは、日差しを浴びて白い小鳥みたいな姿に変化する。変化マジックだ。この学園に入ってからというもの、この魔法を使える先生に憧れ続けている。だって、出来たらカッコいいじゃない。

「まずは、《時》の魔法から」

 ルクス先生の言葉に、ナルミが軽く頷いた。何が起こるのだろう? 小鳥の姿で空を自由に飛び回るカードを、ナルミは見つめていた。そして、すっと左手を上げて、カードの小鳥を指差す。その途端、あんなに飛び回っていたカードの小鳥が、ぴたりと動きを止めた。カードの小鳥の意思ではない。もしかして、カードの小鳥の周りの時間が、止まっている? それはまるで、空の一部にいきなり静止画の空間がはめ込まれたかのようだった。

「次に」と、ナルミは指差した手を、ゆっくりと横に引いた。すると、その手に引っ張られるかのように、カードの小鳥の時間がまた動き出した。動き出したと思っただが、少し違う。カードの小鳥は、さっきとは逆の向きで飛び始めた。これは、もしかして、時間が逆走しているのかな? わたし達がこの光景に見とれている間に、カードの小鳥はぐるぐると逆の方向に飛び続け、やがて、一枚のただのトランプに戻って、ルクス先生の手の中へと戻っていった。

「このほかに、時間を速くする魔法、遅くする魔法等があるのだけど、あたしはまだここまでしか使えません」

 そう言って、一礼するナルミに、クラスメイト達は遅れて拍手をした。ほんの一瞬だったけれど、とても面白い魔法だった。誰でも彼でも使えるわけではないというのがよく分かる、不思議な魔法。世の中には、色んな魔法があるんだなってつくづく思った。

「ありがとう。では、次は、《心》の魔法を」

 ルクス先生に促されて、カズマが一歩前へ出る。

「ボクはあまりまだ得意じゃないのだけれど、皆さんの心にボクがいつも描いているゾウを見せます」

 カズマらしい魔法だと思った。彼はいつもノートに黄色いゾウを描いている。どうして黄色いゾウなの? と一度訊ねてみたのだけど、本人も分からないらしい。分からないけれど、小さい頃から黄色いゾウが好きで、よく夢にさえ出てきたという。その時初めて不思議くんだなあって思ったんだったっけ。

「いきます」

 幼い子どものような声で、カズマは両手を出した。

 何が起こるのだろう? ちょっと不安だった。でも、すぐにわたし達は魔法にかかった。カズマの周りの景色が、水に溶けた絵の具のようにぐにゃぐにゃと歪んでいって、あっという間にここはグラウンドじゃないどこかへと変わってしまった。色が混ざり合って、新しい色が生まれる。やがて、空間の一部分から、黄色がたくさん生まれていって、カズマとわたし達の間に集まっていった。大きな黄色のかたまり。何が生まれようとしているかは、もう分かっていた。あっという間にそれは、カズマがいつも描くような、可愛い顔をしたゾウの姿に変わっていた。どしどしと動くそれ。まるで生きているみたいだった。というより、本当に生きているんじゃない?

「このゾウが見えますか?」

 カズマの問いに、わたし達は頷いたり、答えたりする。

「このゾウは、ボクの魔法にかかってる、この辺りの皆にしか見えません。今、グラウンドを遠くから見ている人がいたとしても、その人にはゾウなんて見えないんです」

 カズマはたどたどしくそう言うと、照れ臭そうに微笑んだ。

「この幻術みたいなのが、《心》の魔法の一部で、他にも、他人の心を癒したり、逆に惑わしちゃったりできちゃいます」

 小動物みたいなカズマだけれど、結構危ない魔法なのかも、とわたしは思った。まあ、魔法に危なくないものなんてないわけで、そうだからこそ、わたし達は学ばなきゃいけないのだけれど。

 カズマが両手を下ろすと、黄色くて可愛いゾウの姿はたちまち消え、辺りもただのグラウンドの景色に戻った。クラスメイト達はまた呆然と周りを見渡してから、ばらばらのタイミングでカズマに拍手を送った。

 『特殊魔法ってかっこいいね』

 バツがこんなことを言うのも珍しいかもしれない。普段はわたしがしょっちゅう他人に憧れて、バツがそれに茶々をいれるのに。さっきだってそうだったし。

「特殊魔法の説明は以上です。これらの魔法は限られた人しか使えないものですが、これから先、何らかの事故、事件等で、これらの魔法と向き合わなければいけない時が来るかもしれない。そういう時に、知識があるのとないのとでは、随分と違うものです。まあ、ここら辺は授業で詳しく教えますけれども……」

 ルクス先生はそう言うと指を軽く鳴らした。傍に置いている段ボールが空いて、計測器が顔をのぞかせる。

「では、これから分かれてそれぞれの課題に取り組んでもらいます。手本が見たい人は、気軽に声をかけてくださいね。では、分かれて」

 ルクス先生の言葉が、グラウンドに響いた。


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