6.
「マル、今日は実技の補習は受けないの?」
放課後になって、さっさと帰る支度を始めたわたしに、アンナがそう言った。あれ? 補習って、今日だったっけ? 明日だと思っていた。鞄から手帳を取り出してみると、確かに、今日の日付に「実技補習十六時半から」と書かれていた。またあの計測器に集中し続ける補習だ。わたしは溜め息混じりに手帳を閉じた。
「明日だと思ってた。アンナも行くんでしょ?」
アンナはひとしきり笑ってから、軽く頷いた。
「うん。あ……そういやね、今日はアヅマ先生じゃなくて、ルクス先生なんだって」
ルクス先生は、魔法実技と魔法科学の先生。アヅマ先生とは違って、いつも冷静な先生で、基礎魔法を、全て完璧に使えるエリート教師。わたし達みたいな《白》の生徒には、あまりにも眩しすぎる存在。いくつかの魔法を決められた数値以上使える人には、《赤》という称号が授与されるらしいのだけれど、ルクス先生、その、《赤》の称号の持ち主らしい。
それだけで、わたし達……わたしには、輝きが強すぎる。
「へえ、ルクス先生か……」
けれど、六つの基礎魔法の手本をしっかりと見せてくれるのも、ルクス先生くらいしかいない。ルクス先生の説明は、例えが分かりやすくて、イメージがつきやすいのも事実だ。アヅマ先生が、魔法実技の中でも体育的な動きを教えてくれる先生だとしたら、ルクス先生は、魔法実技の魔法そのものを生み出すためのイメージを与えてくれる先生である。
一刻も早く《白》から抜け出したいわたしとしては、ルクス先生に習える時には習っておきたいものだった。
『今日は数値上がっているといいね』
いきなり上がるものでもないってとっくの昔から知っているけれどね。
「アリスとアキラも行くんでしょう、今日?」
アンナがふいにわたしの後ろへ声をかけた。振り返ると意外とわたし達に近い場所に、アリスちゃんとアキラ君がいた。二人ともわたし達の話を聞いていたらしい。美少女と美少年と同時に目が合うなんて、どきどきしてしまう。
「そうだね。今のうちに基礎魔法のお手本はじっくり見てみたいから」
アキラ君が光のような柔らかい微笑みでそう答えた。アリスちゃんの方も、柔らかく笑んでこちらを見つめている。この二人も、わたし達と同じ《白》の称号を返還出来ていない仲間なんだけれど、何故かわたし達とは根本的に何かが違うような雰囲気を持っていた。何が、と言われると返答に困ってしまう。それぞれの魔力の数値がどのくらいのものかなんて知らないけれど、《白》を返還出来ていない以上、どの数値も六十に満たないことは確かなのだけれど、そのこと自体が不自然なほど、二人には不思議な雰囲気があった。
「四時半ってことは、もうあと十分だね。移動しようか」
アリスちゃんの言葉に、わたしはやっと時計を見た。いつの間にか時計は、十六時二十分をさしている。全く、授業時間外の時間感覚って、どうしてこうも違うのだろう。特に、歴史と言語学の後は。
「移動しよっか」
アンナの言葉に頷いて、わたしは席を立った。




