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猫の国  作者: ねこじゃ・じぇねこ
EPISODE【1】 ホーム
6/35

5.

 一日の最後の授業が歴史だと眠くなるのはわたしだけだろうか。

 いや、言語学も眠いし、地学や生物でも結局眠いとわたしは言うのだろうけれど、五限も耐え抜いて最後の最後が、おじいちゃん先生による、やんちゃな子どもを寝かしつけるために昔話を語っているような語り口での歴史を受けているわたし達の身にもなってほしい。全く、時間割りを決めたのは誰なんだ、一体。

 ともかく、歴史のバジル先生の授業は、いつも眠たい。眠気との勝負だ。もしかして、この先生、催眠の魔法を放ってて、生徒を試しているんじゃないか? もしかして、この授業の本当の意図は、そこにあるんじゃないだろうか。

 そんなバカげたことを考えながら、わたしはノートにこの国の言葉とは思えないほど崩れた文字で板書を写していく。ああ、ダメだ。読めない。後でエリカにノートを見せてもらおう。エリカったら、魔法実技に関してはわたしと同じく補習常連者なのに、勉強に関してはすごいんだから。って、わたしが自慢することでもないけれど、ともかく、分からないことはエリカに聞くのが一番。まあ、聞いても忘れてしまうのがわたしなんだけれどね。

「つまり、国歴一六八四年には、この国を含む、我々から見た現実的次元の他にも、いくつかの次元が存在することが分かり、哲学者にて冒険家であったウ・ロウが、この世界のどこかにあるだろうと言われている穴を探して旅だったわけですね。その当時は、世界のどこかに生まれる穴が、別の次元と現実的次元とを結び付けていると信じられていたわけであります」

 えっと、何を書けばいいのだっけ。このおじいちゃん先生は、要点の端々しか黒板に書いてくれない。眠たい授業をするくせにひどいと思うわたしって我がままだろうか。

 ともかく、今の話で大切なことを書かなきゃ。


 国歴一六八四年、現実的次元の他にいくつかの次元、ウ・ロウ(哲学者で冒険家)がそれを穴(別の次元と現実的次元を結び付けていると信じられていた)を探す。

 

 ……そう書いたつもりだったのだけれど、よくよく見ると、わたしのノートに書かれていたのは、この世の言葉ではなかった。そもそもこう書くのって、あっているのかな?

 『寝ぼけているね? 昨日夜更かししたからじゃない?』

 ちゃんと寝られたつもりだったんだけれどね。バツに言われた通り、昨日はちゃんと眠れなかった。具体的にどうしてという理由もないのだけれど、理由が何であれ、普段は寝ても、寝ても、寝足りないくらい寝るのが好きなわたしにとっては、とても辛い。その上に、バジル先生の授業だなんて……。

 ともかく、バジル先生の授業は辛い。けれど、堂々と寝るわけにもいかない。バジル先生は優しげだけど、怒ると本当に怖いからだ。怒鳴るから怖いとか、威圧的とかそういうものではなくて、《土》の魔法による地鳴りが怖いのだ。具体的に言えば、ポルターガイストと呼ばれる現象を教室全体に広げたようなもの。眠気も吹っ飛ぶけれど、それを放った後のバジル先生のにっこりとした表情が怖い。

 だから皆、寝ないように必死なわけで。この授業に限っては、まったく雑談が起こらない。他の授業もあまり起こらないのだけれど、やけにしんとしている。それも、眠気を誘うような静けさ。バジル先生? 本当に催眠の魔法とかかけていないよね?

「まあ、ここは、次のテストにも出るところなんですがね」

 さらりと重大なことを告げられていた。えっと、どこがどうテストにでるの? 黒板を見てもちんぷんかんぷん。だって、要所の端々しか書かれていないんだもの。ともかく、黒板に書かれているキーワードをノートに書き写す。国歴一六九七年、赤ワイン、次元戦争、合鴨。うん……意味が分からない! 多分、わたしの推測が正しければ、一六九七年に次元戦争とやらが起こったのだろうけれど、間に書かれている赤ワインだとか、合鴨だとかは一体何だろう?

 『ほらほら、話が進んでいるよ?』

 バツにそう言われたけれど、わたしはもうすっかり諦めていた。こうなってはバジ先生の催眠攻撃に敵う気がしない。

 でも、あと二十五分頑張れば授業は終わる。授業が終われば、何がわたしを待っているだろう。そう、自由。休み時間とか放課後って、不思議と眠気も吹き飛んでいってしまうんだよね。

 『あれ? 明後日の言語学、テストじゃなかったっけ?』

 バツってしっかりしているよなあ。テストも授業も補習も、バツが代わりに受けてくれたらいいのに、って、いつも思うんだよね。

 言語学のヒズミ先生の授業も結構、大変なんだ。あの先生は、《水》の魔法の使い手なんだけれど、どうやらそれだけじゃないみたいで、何か特別な魔法を使えるらしい。そのためかは分からないんだけれど、ヒズミ先生の授業って、本当に五十分で終わっているのか疑わしいくらい、長い。言語学が嫌いなわたしだけなのかなって思ったけれど、クラスの皆が同じことを言っているから、本当に疑ってもいいんじゃないかと思う。

「……と、まあ、テストに出る範囲はこんな感じで」

 ああ、また聞き逃した。気付けば、黒板には新しいキーワードが書きこまれている。ぶっちゃけた話、これだけじゃ意味が分からない。

 どうにか遅れを取り戻すため、今からでも必死に先生の話を聞こうとわたしが意気込んだ矢先、古びた鐘の音が教室に鳴り響いた。わたしの胸にどっしりと響く鐘の音。誰かが何かを言っているようにさえ感じる、まるで言葉のような音。

「うん、切りがいいですね。今日の授業はここまで」

 バジル先生が微笑みながら言った。


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