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猫の国  作者: ねこじゃ・じぇねこ
EPISODE【1】 ホーム
3/35

2.

 古びた鐘の音。

 この音を聞くたび、わたしの胸の奥で、誰かが叫んでいる。これが誰なのかはよく分からない。分からないけれど、とても大切なこと。とても大切なことだけど、どう大切なのか分からない。とにかく、叫んでいる。わたしの胸の奥で? それか、頭の中で?

 ……そんなこと今はどうでもいい。

 わたしに突き付けられた現実を、今はただ受け入れるべき時なのだから。と、手に握りしめた紙を見つめながら溜め息を一つ。ああ、これを持って自室に帰るのが怖い。自室で待っているであろう、一匹の猫が怖い。

 でも、心細いわたしにとって非常に幸いなことに、この現実は、わたしただ一人に向けられたものではない。わたしには沢山の同士がいる。きっとこれからは切っても切れない縁を結ぶ戦友となるのだろう。なんて、勝手なことを思っているうちに、古びた鐘の余韻は、いつの間にか消えていた。

「チャイムは鳴り終わったけれど、最後に一つだけ」

 教卓に立つ若い女の先生。ミドリ先生のにこやかな笑みには、確かに、切れ味のいい何かが仕込まれていた。

「このクラスのいつもの皆さんへ、念のためですが、もう分かっていますよね?」

 丁寧で優しげな先生の言葉に、苦笑しながら頷く生徒が数名。その中にはもちろん、わたしも含まれている。分かりきったことだった。この学園に入って三年以上ともなると、ある意味ベテランと言ってもいいんじゃないかってくらい、分かりきっていた。

 まあ、すごく残念なベテランなのは確かなのだけど。

 ミドリ先生が消そうとする板書を、クラスメイトのレオナが慌てて代わりに消している姿を見ながら、わたしは教科書とノートを鞄にしまった。

 今の授業で、今日は最後だった。

 平日は朝から夕方まで。隔週で土曜日が午前中のみ。そういうところは、町にある普通の学校と変わらないらしい。らしい、というのも、わたしは普通の学校に通ったことがないからそこらの知識があやふやなのだ。

 ここは、普通の学校とは違う。まあ、少し前までここが普通だったわたしにとっては、その説明もおかしいのだけれど。

「マル?」

 自室に帰るとほぼ同時に、わたしの名前を呼んで、振り返る一匹の猫。迷うことなく彼女は、「補習はいつから?」と訪ねてきた。彼女は、ただの猫に見えるが、そうではない。学園に派遣されているわたしのサポーターのモモである。そういえば、余所では、猫と会話することすらもあり得ないことだと最近知った。全く、余所って不思議な所だ。

「もう断定しちゃってるの、モモ?」

 そう突っ込んでみたけれど、虚しいだけだった。モモの言うとおりだもの。わたしは今のところ順調に補習常連の肩書きを守り続けているのだから。

「実習は仕方ないにしろ、勉強は日頃からちゃんとしなさい」

 こういう時のモモと、ミドリ先生はすごくよく似ている。特に、ミドリ先生の授業の後に帰ってくると、何だか、授業が延長しているような気がしてしまって疲れてしまう。こんなこと言ったらケンカになってしまうから、言わないのだけれど。

「はいはい」

 その代わり、「はい」は二つなのだけれど。

「で? 補習はいつからなの?」

「連休の朝」

「いいことだわ」

 全然いいことじゃないけれど、モモは満足げに言った。

「普段から遊んでばっかりのマルには丁度いいわね」

「そんなに遊んでないってば……」

「とか言って、いつもアンナと低レベルな争いを繰り広げている事、知っているんだからね」

 アンナというのは、わたしのクラスメイトであり、わたしと同じ補習常連者である。なんとなく気が合うので、よく遊んでいる仲間でもある。アンナと話していたら、いつの間にか時間が経っているんだよね。それと、エリカという子も。テストの成績ですら、わたし達にとっては遊び道具になってしまうもの。

 それにしても、全く、モモってば酷い猫だ。まあ、でも、言われている事その通りなので仕方ないのだけれど。ともかく、今のわたしに確定した事は、今度の週末にある三連休に予定していた二度寝、三度寝の予定は、まとめて消え去ってしまったことと、これから連休に向けて、また、モモの地獄の家庭教師期間が始まってしまう事である。あれ、嫌なんだけどなあ。

「ほら、ぐちぐち言わないの」

 心の中で思う事は自由であってほしいけれど、この学園において、それはあまり期待しない方がいい。どうせ読みとられてしまうかもしれない。なんせここは――。

「じゃあ、まずは、魔法史から行きましょうか」

 ――魔法学校なのだから。

 机に散らばるペンを見えない力で引っ張って遊びながら、わたしは(うんざりと)、モモの声かけに応じた。


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