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猫の国  作者: ねこじゃ・じぇねこ
EPISODE【2】 異世界
20/35

5.

 そこに佇む建物の雰囲気は、城下町の物とはまた違う色を持っていた。けれど、同じ特徴はある。どれも、入口が狭くて低い。

 これが意味することは、カチュアの王に会ってきた今なら分かる。ここに住んでいるのは、わたしのような人間ではないのだ。カチュア王のような異形の住人が、ここに住み、ここで暮らし、ここで文明を築いているのだろう。それが一体何者なのかは、誰にも会っていないからわからない。もしかしたら、わたしの考え込みで、王だけはああいう姿でいるけれども、わたしのようなただの人間が住んでいるのかもしれないけれど。

 どちらにせよ、この村と思われる場所にも人気は全くなかった。ただ木製の建物だけが立ち並ぶだけの場所。誰にも会わず、何かしらの言語としては理解出来ない音しか耳に入らないこの場所に。一人っきり。バツもいれて、二人っきり。ぽつんと取り残されている感覚が、わたしを包み込んでいる。それは、どんな授業の成績と平均点との差で感じるものよりも、ずっと大きくて、ずっと粘着的で、ずっと凶悪だった。

 不気味だという感覚しか、ここにはなかった。

 もしかしたら誰かいるかもしれない。呼びかけてみれば、それが分かるかもしれない。頭では分かるのだが、それを実行するために動くのがためらわれてしまう。

 『マル、誰かがいるような気がする』

 バツがそう言った。バツの勘は半々だ。たまにものすごく重要なことだったりもするけれど、わたしには関係ないことだったり、単なる気のせいだったりすることもある。だけど、この時は何故かわたしもバツの言った通りだと思った。

 誰かが、わたし達を見ているような、そんな感覚が、村に入った時からあった。複数ではない。仮に複数だとしても、少数だ。息を潜めてただじっとわたし達を見つめてくる者は、何者だろう?

 『敵、じゃないといいね』

 バツが不吉なことを言った。魔法実践はいつもしているけれど、実際に戦うなんて経験はしたことがない。意識的な範囲に限っては、遊びや練習以外で他人に魔法を向けたことなんてないし、力技となれば、体育を習っていると言っても全くの未知だ。だいたい、魔法があるといっても、身を守るだけに十分なテクニックも備わっていない。すべてやけっぱちでいくしかないのだ。

 ……こちらを見ている者が、人間じゃなかったらどうしよう。人間だとしても、襲いかかってきたらどうしよう。

 そんな不安が、わたしの体を震わせた。

 だけど、わたしを見つめているその気配は、これ以上接近してくるようなことはなかった。もしかしたら、いきなり現れたわたしのことを監視しているのかもしれない。様子を見て、動きだしているのかもしれない。そう思えば思う程、わたしの動きはぎこちないものになってくる。

 『住人だったら、オセロットの事について聞けるかもしれないよ?』

 バツに言われなくたって、そんな事は分かっていた。けれど、恐怖心がわたしの体を不自然に動かしてしまう。今のわたしは、どこからどう見ても、怪しい人間だった。監視している複数の気配が動き始めた。念のため、わたしは意識を集中させる。念のためだ。もちろん、相手に敵意がなければすぐにやめる。そのくらいの善意はわたしにだってある。

 意識を集中させればさせるほど、相手が少しでも忍ぼうとしていることが滑稽なくらい、気配が分かりやすくなってきた。もう少し近ければ、心の中さえも覗けてしまうかもしれない。もしかしたら、わたし以外のクラスメイトだったら、例えば、クラス一の優等生のリュウとかだったら、彼らが自分の敵なのか味方なのか、どう動くべきなのかはとうの昔に判断出来ているのかな。きっと、リュウならば、行動にまで移しているだろう。

 『今はそんな事どうでもいいでしょう?』

 ……そうだった。わたしの欠点は、すぐに思考がそれてしまう事だろう。今のところ、わたしを監視しているらしい誰か達が動いたような気配はない。

「……って、あれ?」

 その時、わたしは、わたしを監視する集団の中にて、奇妙な気配を見つけ出した。一発で分かった。感じ慣れた色。懐かしい匂い。わたしがそれを探ろうとしているのと同様に、あちらもわたしの事を探っている。ああ、このスピードの遅さ。わたしに似て不器用な魔法の使い方。……間違いなかった。

「……マル」

 相手が気付いたのも、やはりわたしと同じくらいのタイミングだった。彼女の声に、わたしを監視していた人達の警戒心が解かれたのが分かった。

 建物の中や物陰から、ヒトではない住人たちが姿を見せ始めた。ヒトではなく、猫。モモと同じ種族の人々だ。隠れるのを辞めたたくさんの猫達が、わたしを不思議そうに見つめている。その中にて佇む、わたしのよく知っている彼女は、非常に大きく見えた。

「……エリカ」

 わたしと同じ補習常連者。そして、わたしと同じで心の支えを失った娘。その可愛さからクラスでも人気のある、エリカ。エレクトラを失って落ち込んで部屋にこもっていたはずの彼女が、どうしてここにいるのだろう。……でも、同じようなことを、彼女の方も思っているみたいだった。

「どうしてここにいるの?」

 訊ねたのはエリカの方からだった。

 わたしは苦笑いを浮かべて、答えた。

「それを聞きたいのはわたしの方も一緒」


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