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猫の国  作者: ねこじゃ・じぇねこ
EPISODE【2】 異世界
19/35

4.

 カチュアの王によれば、赤い悪魔の去ったという方向は、城下町の次に大きな町がある方向だった。幾重もの山が連なる先に、ほどほどに大きな町があるという。その町の名前はオセロット。昔、猫姿の戦いの女神が君臨していたという聖地でもあるらしい。

 『オセロットまでどのくらいかかるんだろう?』

 城下町からオセロットまでの距離は、地図という紙面上でも、あんなに粋がっていたバツさえも毒づくくらい、長くみえた。まだ、城下町を抜けたばっかりのわたし達にとって、そして、普段学園という一国に比べたらずっとずっと狭い世界でしか暮らしていないわたし達にとっては、とても辛いことだった。

 それにしても、本当に静かだ。

 城下町でもそうだったけれど、カチュアの王以外の誰にも会わなかったし、誰とも話していないことがすごく奇妙な感じだった。まだ、バツが話しかけてくれることがありがたいくらい。孤独というのは不安なんだと心底思った。こんな孤独を、カチュアの王はあの城の中で、ずっと体験しているのか。

 『誰もいないね』

 自然が美しくて仕方ないこの世界の土は、柔らかくて、温かい。なのに、本当に人に会わない。いや、この世界は猫の世界だったっけ? とにかく、会話できる人がいなかった。皆、すべて、笛の音と共に攫われていってしまったのだろうか。

 『オセロットはどんなところなんだろうね』

 聖地と呼ばれるくらいの町。そんな町のある方向へ悪魔が去って行ったなんて不思議な話だ。オセロットではどんな事になっているのだろう? このカチュアの国には、カチュア王以外の人はいないのだろうか。そのくらい、誰もいなかった。

 ただ、小鳥の声が聞こえたり、虫の音が聞こえたりするくらい。だけど、彼らと話を出来るような力は、わたしにはまだなかった。


 ここまで来たら、静かであることも癒しにはならない。

 学園の休み時間とか放課後だと、たまにすべての音をシャットアウトしたくなるくらい騒々しい事があって、わたしはそれが大嫌いなのだけれど、今だけはあの騒がしさが懐かしい。

 そういや、学園では今、何をしているんだろう? わたしのクラスはだいたい魔法実技の授業の時間くらい? 毎回、スズメっていう女の子が《風》の魔法で素晴らしい音楽を奏でてくれる横で、わたしとよく魔法実技の補習を受けているホムラと、カガリっていう女の子が、些細なことで喧嘩して、《火》の魔法をぶつけ合い始めてしまうあの騒々しい授業。二人とも物凄く豪快な炎を生みだしちゃうから、先生達も、《水》の称号を受けているイヅミとサクラちゃんも、その後始末がいつも大変そうなんだよね。特にイヅミは、水の扱いが下手なうえに、他の魔法に耐性がないから、よく火傷しちゃうんだよね。お気の毒に。もし《白》を返還出来ても、《火》とか《水》はいいや。どうせなら、スズメみたいに綺麗な音楽を奏でられるような《風》の魔法が使えるようになりたいな。

 ……本当に、静かだな。

 『寂しくなっちゃった?』

 バツの声がしてきた。彼はいつもわたしが落ち込むのを見逃さない。すごくありがたいんだけれど、たまに、わたしはそれを無視する。悪意ではなくて、それに返事すること自体が苦しいときに。返事をするほど余裕がない時に、バツの声かけは闇に消えてしまう。今だってそう。わたしにはバツの声かけに、どう返事するか考える余裕がなかった。

 今は、とにかく、言われた方向へと歩いてみるしかない。

 ……誰か、そろそろ、わたしがいない事に気付いているのかな?

 『探しているかもね』

 探していたら、申し訳がない。わたしなんかのために、時間を割いてしまってすみませんって気持ちになってしまう。探されていなかったら、ただ寂しい。でも、きっとみんな、わたしがいなくなったって知ったら、いなくなったサポーター猫達と一緒に、わたしのことも探してくれているんだろうなって思う。

 だって、そういう人達だから。

 『マル、前を見て』

 バツの声に顔を上げる。いつの間にかわたしは足元を見ながら歩いていたらしい。いつもの癖だ。足元にあるものばかりを見つめて歩くから、同じように歩いている人にぶつかってしまったりするのも日常茶飯事の事。前に何かあった時も、バツに言われてやっと気付くくらい、わたしは歩いている自分の足を見続けている事がある。

 バツに言われて目に入ったもの。それは、家だった。いくつかある。町だろうか? 村だろうか? どっちでもよかった。とにかく、また人がいるかもしれない場所が見つかったのだ。あれがオセロットなのだろうか? それにしては……。

 『近すぎるよね』

 バツの言葉通り、カチュアの城を出てからせいぜい三時間経ったかどうかってところだ。半日も経ってはいない。貰った地図を見ても、カチュアの王の言葉を思い出してみても、幾つもの山々も越えていないし、地図上でもまだ指を親指の先っぽくらいしか歩いていないはずだ。

 ならここは、村だろうか?

 地図には載っていないけれど……それとも、消えかかっている部分に書かれていたのだろうか。カチュアの城下町とオセロットの間には、何箇所か消えかかっている場所があるのだ。その一つにいまいることになっている。もしかして、本来はここに村の名前が書かれていたのだろうか。

 ともかく、入ってみる価値はある。行ってみようか。


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