2.
黄金の波を抜けてしばらく歩くと、レンガ造りのオシャレな家が立ち並んでいた。どの家もとてもセンスがよくて、こんな町に住めたらさぞ優雅な生活が出来るだろうなと一目で憧れてしまうくらい。でも、その一方で気になる事があった。人気がないのだ。それに、よく見れば、建物の入口もわたしにとっては低すぎるものばかりで、人間が住んでいるとしたら、どれだけ小さな人達が住んでいるのだろうと思うほどだ。
『変わった扉だね。押すだけ……なのかな?』
バツの声に、わたしは気付いた。扉には取っ手がなく、押すだけで開くようだ。鍵もないのだろうか。ともかく、防犯とかはどうなっているのだろう?
『平和なところなのかな?』
風が吹いただけでゆらゆら揺れるような扉の家に住んでいるみたいだし、きっとバツの言う通り、平和なところなのだろう。試しに押してみようかなとちょっと思ったが、やっぱりやめておくのが無難だろう。
それにしても、住人はどこにいるのだろう? 道はレンガの石畳で整備されているし、見たところ、それなりに発展している町なのだけれど、本当に誰もいない。響く足音は、わたしのものばかり。こんなに人気のない町も異様なものだ。
『もっと進んで行ったら誰かいるかもよ?』
バツに言われるままに、わたしは整備された道を歩き続けた。家だけではなく、さまざまな店なども建ち並び、町としての機能を持っていることは確認出来る。でも、肝心の住人がいないんじゃ、どうしようもない。ちなみに建物は皆、同じような扉で、全部低い位置にある。わたしが入るには、結構屈まないといけないくらい。腰が痛くなりそうだ。もしかしたらここに住んでいる人達は、人間じゃないのかもしれない。
『本当に誰も居ないね』
歩いても、歩いても、住人らしき影すらも見当たらない。町に響く音は、わたしの足音と、町の中央にある噴水の水の音。噴水は流れているのに、ここはまるで、時間を止めてしまったかのようだった。
『住人どころか、鳥とかの動物達もいないものね』
生き物自体いない町。すごく不気味だった。わたしはいったい何処に迷い込んでしまったのだろう? これはやっぱり夢なのかな? 鏡の中に吸い込まれたという夢なのかな?
『もう少し、歩き回ってみようよ』
ここに来てからのわたしの行動は、バツに言われるままだった。そのくらいわたしは混乱していたし、判断が出来なかった。もういっそ、バツに行動させた方が効率がいいような気がしてならない。
『見て。なんか大きな建物があるよ!』
バツに言われてわたしは目を凝らした。でも、凝らすまでもなかった。石畳の道がまっすぐ伸びた先に、町の中で一番大きくて、豪華な建物があった。あれが何か。すぐに分かった。城だ。本物の城。童話の中で出てきそうな、昔話の中で出てきそうな、わたしの頭が描くそのまんまの城。
『行ってみようよ。誰かいるかもしれないよ?』
バツはそう言ったけれど、わたしは少しためらった。お城に行く? そんな経験なんて全くない。勝手に行ってもいいものなのか。余所者として、いきなり捕まってしまったりしないものなのか。そんなことを色々と考えてしまった。
『行ってみないと分からないじゃない』
バツは呆れたように言った。
『何かあったら何かあった時に考えればいいじゃない』
本当にそれでどうにかなるのか疑わしかったけれど、でも、ここでぼんやりしていても何もならないのは確かだった。今のわたしに選択できるのは、バツに言われるままに城に行くか、もう少しこの町を探索してみるか。でも、探索すべき場所はそれほどないようにも思えた。それなら、石畳が導くあの城に行ってみるしかないだろうか。
『大丈夫だって。マルには魔法があるじゃない』
バツが励ましてくれた。ありがとう。でもそれが、一番不安なんだけれどね。




