13.
学園中の猫達が消えていく。
やっと公になってきたそれは、大事件だった。でも、いくら周りが騒ごうが、わたしにはどうでもいい事だった。モモがそれで帰ってくるのなら別だけれど。猫達の行方は誰も知らない。学園長も頭を抱え、また、まだ居なくなっていないサポーター猫達の間でも、緊急会議が開かれていた。一体、何がどうなっているのだろう。
でも、モモが帰ってこなかった日、モモの目撃情報は意外とたくさんあった。たくさんの人達が、モモを見かけたり、モモと喋ったりしていた。また、エレクトラの目撃情報も意外と多くて、消えてしまった日の足取りが少しずつ掴めてきた。モモが最後に見かけられたのは、学園の東塔の四階の廊下。突き当たりに、物置となっている大部屋がある場所だった。猫が使う道具も、そこに仕舞われている。大部屋を管理する先生に訊ねてみたら、やっぱりあの日のモモは、この部屋の鍵を開けてもらっていた。
『授業はいいの?』
廊下を歩いていると、バツがそんな事を聞いてきた。今は、確かに授業中だった。でもいまは、授業を聞くことなんて、出来なかった。わたしにとって、これは、授業と比べられないぐらいの問題だった。
大部屋を管理しているのは、地学を教えてくれているルナ先生だと聞いた。しまわれている物は、ルナ先生の物ではないのだけれど、大部屋から一番近い場所に、ルナ先生のいる地学の研究室があるから、らしい。授業以外で話したことはあまりないけれど、ルナ先生はすごく綺麗で、落ち着いた印象の女の先生だ。授業中の今、わたしが訊ねて、どんな顔をされるか分からないけれど、今、行かなきゃ。今、行かなきゃ、落ち着かなかった。
『ルナ先生、怒るかな?』
怒るかな?
何故か、わたしもバツもそう思っていて、怯えていた。大丈夫かな。怒られないかな。でも、怒られることを怖がっていたら、何にもならない。モモの手掛かりが、この先にあるかもしれないっていうのに。
わたしはゆっくりと唾を呑みこんで、ルナ先生の研究室の扉を、ノックした。
「どうぞ」
声がして、わたしはおずおずと扉を開ける。重たい扉の音。でも、音の割に、そんなに重くなかった。
ルナ先生は椅子に座って、こちらを見ていた。わたしの顔を見ると、表情を少し変えた。わたしが授業をさぼってここに来ているからなのか。それとも、単にわたしだったからなのか。
「もしかしなくても、モモのことね」
悟ったような目。わたしを見つめてくる目。不思議な雰囲気の先生だとは常々思っていたけれど、こんなに、だったかな。この先生の前では、何も隠せなくなるような、そんな気がしてならない。
わたしは静かに頷いて、先生に言った。
「大部屋を開けてください」
ルナ先生は立ち上がって、壁に掛けてある鍵を取った。そして、わたしをじっと見つめた。
「あの日、モモにも呼ばれて、大部屋の鍵を開けたのは、私よ。夕方になって、大部屋を見回った時には、もう誰も中にいなかった」
そこまで言ってから、歩き出した。手には鍵。廊下に出てすぐに、大部屋の扉があるから、そんなに時間はかからない。
「鍵を開けたらまた私は部屋に戻る。帰るときに、私がいたら声をかけて。いなかったら、そのまま帰っても構わないわ。あの日、モモにも同じことを言ったの。その後、私は少し出ていたから、モモが帰ったところを見ていないの」
かちゃり、と、大部屋の鍵が開いた。
「ゆっくり、気が済むまで、見てくるといいわ」
ルナ先生はとうとう、怒らなかった。




