第一話 クリスの日記7歳
柔らかい陽光と小鳥達の囀り、純白のベッドに包まれながら、私は目を覚ました。突然目の前に現われた「知らなかった場所」が、徐々に「自分の居場所」に変わっていくのを感じる。
私はどうやら記憶を失ってしまったらしい。私のお父さんだと名乗った人からは、無理に思い出さなくて良いといわれたけれど、自分が何なのかが分からないというのは、とても恐い気がする。
お父さんは私を色々なところへ連れて行ってくれたし、色々なものを買ってくれた。それにいつも私の側にいてくれる。なんでこの人はこんなに優しいのかと思ったので聞いてみたら、「それは親子だからだよ」と言われた。
そうか。きっとそうなのだろう。何となく、その言葉には納得できる気がする。同時に胸の奥にチクリとした痛みを感じた。何故だろうか?
私には記憶がない所為だろうか、色々なことが疑問として浮かんでくるし、それが分からないままだと、とても不安になる。だから、私は色々な本を読んだ。お父さんもそれをとても喜んだ。
でも、どれだけ色んな本を読んでも、胸の奥にある不安は消えない。そもそもこの不安が何なのかが私には分からない。私は何か大切なものを忘れているのかもしれない。
ある日、お父さんが私に「クリス、君は今幸せかい?」と言った。私は「良く分からないけど、幸せだと思う」と答えた。幸せってなんだろう。私はそれを知っていたような気がするけど、今はもう分からない。でも、お父さんがこうやって近くにいてくれるとほっとする。これが幸せってことなのかな?
私は、幸せなんだろうか。