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・第五話  ベテルギウスの夜 ~Nuit de Betelgeuse~

アスラン連邦軍国の本格的侵攻によって弐本国内では非常事態宣言の発令及び国家有事法により弐本軍を弐本各地に展開。国民の保護に力を注ぐと伴に、暴動の抑制、経済体制の見直しを図った。


長官(シノハラといったか) に連れられ、本部ビルを出ると目の前の光景は溢れんばかりの人ごみに埋め尽くされていた。おそらく暴動だろう、人々が乱れた列を形成する中、その手には『戦争反対』『アスランに抑制を』などといった看板が180度視野で見受けられる。


「あまり見るんじゃない。眼にわるいぜ」


さっきまで事務室で大人しく黙り込んでいたササナカが隣で言う。


「やっぱり戦争……起きるのか?」


「当たり前だ。直接侵略だぜ、洒落にならない。領海侵犯して艦隊を滅ぼしたんだ。弐本政府が無言を極め続けると思うか?」


「あまりしゃべるな奴らに目をつけられるぞ」


 そういって長官であるシノハラは暴動を起こす市民に指を指した。


『あれだ』というシノハラの声で目の前に黒塗りの高級車がやってきた。


リムジンほどではないが確かに大きさがある高級車に見蕩れているとポンっと肩を叩かれた。


「早く乗れ」


そういわれて後方に振り向くともうすでにシノハラとササナカは高級車の後部座席に腰を深くしていた。


(僕、いつまで見蕩れてたんだ)


いかんいかんと、急いで僕も後部座席に腰掛ける。


車はゆっくりと地を這う蛇のように発進した。




あなたは?


私は語りかける。扉から入ってきた二人目の男に。違う、三人目か。


「先ほどの任務ご苦労だった」


「なんのこと?」


「いや、いい殺しっぷりだったよ。弐本の連中も焦りまくってるだろうなぁ」


なにこの男。ムカつく。


私はもう、レンしか男としてみれなくなった。


「コロスワヨ。このうじ虫」


「あまり調子にのるなバケモノが、俺を殺せばお前が人間に戻る方法は無くなる。一生そのままでもいいのか?」


本当に不愉快だ。私が元に戻るための、要するに兵器状態を解除するための薬はこいつが握っている。


なおさら最悪だった。


「そうそう、朗報があるぞ。君の彼氏……ハシモトといったか、人体兵器になるそうだ」


「ッ……な……なんで! ウソよ、ウソなんでしょ!」


「いや本当だ。自分から志願したらしいな、諜報員によればだが」


「そん……な」


男は嬉しそうに、不愉快な笑みをこちらに向けて言ってくる。


「いいじゃないか! キミは彼氏に会えるんだぞ?」


ダメ、絶対に避けたかった。これだけは。


レンにこんな苦しみ味わってほしくない……


なぜ!


なぜなの!


もし会えるなら会いたいよ。


どんな形でも会いたいよ……


でも今の私は憎しみの塊。まだ理性があるから今はマシな方。


でもいずれはそれさえも失っちゃう……


会いたいけど。


それはダメッ!


「殺しちゃう……」



車で20分ほど走っただろうか、都会の町並みを窓越しに流しながら辿り着いた場所はあまり目立たない薄汚れたレンガ倉庫の並ぶ港だった。


「ここでなにをしようってんだ?」


ついてこい、そう言うとシノハラは港の波打つ岸壁を沿うようにして歩み始めた。


ササナカもそれにならう。僕もその歩調にあわせついていく。


歩いていると気づくのがこの港の閑散としすぎた雰囲気だ。


レンガ倉庫のどれを見てもシャッターが開いているものは一つとして目につかない。


しかも清掃などまったくされていないのだろう、生臭い臭いが嗅覚をえぐる。汚れた倉庫の壁にはガムやらなにやら得たいの知れないものがこびりついている。


「ここってどんな場所なんだ?」


シノハラがてっきり答えるのかと思ったがその前にササナカが答えた。


「ここはなレンちゃん。20年前に朽ち捨てられた旧・弐本軍港っていうところさ。弐本っていう国名

自体が名前の由来になってる。昔は74年前の戦争で、ほら、第三次亜細亜大戦の時だ。その頃は主要軍港として使われてたんだが、なんせ終戦後は使いみちがなくなっちまってな。それで今は周辺諸国にも存在を忘れられた港ってわけだ」


『だから秘密作戦決行には都合がいい』とササナカは付け加える。


第三次亜細亜大戦か。それなら歴史の授業で中学高校と教えられてきた。


1924年、弐本の東に位置するハバナ皇国による弐本国の近隣地域への軍事力の展開。両国間では戦争の危機が高まり、急速に事態が緊張化しもはや弐本とハバナの両国間では制御不能となっていった。


その後、両国間で破壊工作員やスパイの潜入、謀略活動等が頻繁に行われたという。

ハバナより開戦を告げる宣戦布告が行われ、陸海空軍が戦場に展開し、敵ハバナ戦力との戦闘に入った。


ハバナ皇国の同盟国であるアスラン連邦は敵勢力に加勢、弐本国の同盟国である近江民政軍国もこの戦争に参加、もう開戦の二ヵ月後には亜細亜全体を巻き込む大戦と化していた。


最終的に1949年4月5日、ハバナ皇国首都ベルファスキーの完全占領によって弐本国の勝利に終わった。


戦後、占領行政としてハバナの国民に対する宣撫工作と統治及び治安維持が4年間継続的に行われ、

1953年アスランの所有領土、ロト島で行われた会談でロト講和条約の締結。


1956年には弐播平和条約の締結により弐本が占領していた領土の返還が行われた。


この戦争での影響は今でも残っているというが。


「そう、レンちゃんの言う通り。まだ戦争の影響は残ってる。今回の戦争も軍備拡張競争という名目でその目的と併用した遠回しな敗戦同盟国の復讐だ。まったく、あっちの総理も何を考えてんだかな」


「復讐か、なんか悪循環だな」


そうして話していると汚れているもまだ使えそうな巨大なドッグに一隻の巨大な塊が居座っているのが見える。


「これは戦艦蝦夷、旧戦艦の蝦夷型からとった最新の弐本最大の軍艦だ。我々の省が事前に弐本海軍に通達して入港させておいた。君たちにはこれからこの船にのって極秘の開発基地がある鬼駕島へ行ってもらう。ま、わたしも同乗するがな、ふっ……」

 シノハラは何が面白いのか微笑をこぼす。申し訳ないが全く面白くない。


その戦艦の大きさは今までに見たことの無いような大きさで、艦首から艦尾まで巨大な主砲やら対艦ミサイルやら物騒なものが剣山のように配置されていた。


これに乗るのかと思うと若干ながら得した気分になった。


上甲板から海兵と思われる軍服姿の兵士が顔を覗かせる。よく見るとその兵士は女。いや、少女?


「やーい。あなたたちが新しいお仲間さん?」


その女は金髪で後ろで髪をまとめている。容姿は中学生くらいだろうか、あどけない顔が若さを滲み出す。


「いっておくけど。わたし中学生じゃないからね。よくまちがえられるの」


 そりゃそうだ、と自らも反省をしつつ納得していると。

シノハラが不機嫌そうにその金髪少女兵士に向かって怒号の一声を発した。


「おいッ! シズナ少尉! 何をしている。お前は甲板の掃除当番じゃなかったのか?

さぼりやがって。私の娘ともあろう者が……」


 娘!? このクマみたいなシノハラ長官の娘!? 正直驚いた。


ちょっと待てよ、じゃぁさっき金髪少女兵士が中学生に見えるのを納得してしまったのはマズかったんじゃねぇの……


シノハラの鷹のような眼孔がこちらを睨んでくる。まずい、これはハンターの眼だ。


「まぁいい」


 なんか助かった感と罪悪感が交差して非常に気まずい。


そうしていると左舷の側面から自動的に昇降階段が降りてきた。


おそらく娘さんが下ろしてくれたんだろう。


僕たちはその階段を昇って彼女と自己紹介を始めた。


「さぁ、乗って! 私の名前はシノハラ シズナ、よろしくね」


「あ、あぁ……よろしくお願いします。僕はハシモト レンです」


思わず敬語になってしまった。


「俺は、ササナカ リョウだ。よろしくな」


シズナという少女は満面の笑みをいっぱいに


「二人ともよろしくね」


 そう言った。


そういえばササナカの本名を聞いたのは初めてだ。


こいつには軽薄な態度があるぶん長官の娘にもタメ口で喋る度胸がすわっているようだ。まったくいい性格してるよほんと。


そうやって自己紹介を済ませた頃、ドッグで作業員と話しこんでいたシノハラが階段を上がってくる。

そして、僕とササナカの横を通り過ぎる際、


「アスランは国の政治的トップである総理が率いているのではない、軍部の権力がこの戦争を引き起こしていることを忘れるな」


 事態は予想よりももっと深刻だった。


そう、外交的平和解決なんてもとから出来やしないのだ。


やっぱり、最終的にユズキと僕は互いの血を舐めあう必要がありそうだ。


その後、僕たちの乗艦する戦艦蝦夷はその巨体を引きずるように軍港を後にした。

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