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・第四話  可能性 ~Possibilité~

僕は双発のティルトローター機で弐本国上空を4時間半飛行、防衛国家公安省本部ビルに向かっていた。


双発ならではの爆音が後部ハッチを開放しているせいか機内でもイヤなほど耳に響く。


「どうだ、長官に呼ばれる気分は」


自分のちょうど真向かいに座っている男が顔を俯けながら話しかけてくる。


「どうって、そりゃ緊張しますよ。長官ですよ? 緊張しないほうがおかしい」


 そう言うと男は先ほどまでの態度とは一変した陽気な感じで顔をこちらに向ける。


「まぁ、そう硬くなりなさんなって、俺はササナカだ。よろしく」


 男はポケットに突っ込んでいた左手を抜き出すとこちらに握手を求めてくる。


一応『よろしく』と言って手を差し出しておく。


ササナカという男は金髪ピアスにスーツ姿、華奢な体にそれに相応しい細い整った顔立ちでこれから長官に会いに行く者というよりかは田舎の安っぽいホストクラブにいそうな感じだ。


「こちらこそよろしく」


 差し出した手を近づけて握手に応えようとすると……あれ――


パチン


なぜか手をはらわれた。


「……ゲイ?」


 は?


「なんでだよッ! そっちからだろ!? ……ていうかこの状況からして先に手を出してきたのはそっちだからな? むしろそっちがゲイだよッ! ガチなゲイもきっとビックリだよ!」


 僕が必死に舌をまわして疾風の如くすばやいツッコミを入れると。


……


……あれ、無言? まさかの無言ですか。ムシデスカ。


そういって心の中で『せめてなんかいって』と呟いていると。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 笑い出した。


ゲラゲラと。


なんだこいつ、新型のうつ病にでもかかってるのか?


笑いが止まらないうつ病みたいな。よくかんがえたらかなり怖かった。


「いやいや、面白いねぇ。アンタ気に入ったよ。」


 いやいや、アンタキモいよ。


「アンタみたいなツッコミいれる奴は初めてだなぁ。いや、ホントに気に入ったよ」


 その後も『気に入ったよ』を無駄に連呼するササナカを白い眼でみているとまたもや改めてよろしくの意味だろうか、


再度握手を求めてきた。


おいおいまて、これはまた同じ手にちがいない。


きっとまた払われておちょくられるのがオチだ。そうだ、そうに決まってる。


いや、でもまてよ。


もしかしたらという微かな希望を胸に抱いてもう一度その握手に応える。


さすがにコイツもそろそろ誠意をもって行動しているはず!


前言撤回。


バシ!


払われた。

というかはたかれた。


こういうとき本当に僕はバカなんじゃないかと改めて思う。


「もういいよ!」


「いや、やっぱり面白いねぇアンタそのバカなとこがさぁ名前はなんていうの?――」


こんな感じの明るい雰囲気が何時までつづいただろうかササナカとの会話を続けていると暗い気持ちも少しずつ糸が解けるように緩んでいった。


緩みきった時、それはもう防衛国家公安省本部ビル上空だった。


そして、


「よし、レンちゃんよ。空の旅の準備は出来てるかぁ?」


 僕はいつからレンちゃんになったんだ……

というか僕の名前知ってるのかよ!


「おい、いくぜッ! レッツジャンピング!」


 僕の背中はササナカにひょいっと押され、青空に落ちた。


青い空、輝く太陽、体中に吹きつける風、気持ちいいッ!


わけがない。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 クソ、あの野労、いいかんじに和んで、緊張もほどけてきたところを小学校によくあるイタズラのご

とく背中を突き飛ばしやがって。というよりかは――


「イタズラってレベルじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 くそ、あいつよく見たらニタニタ笑ってるじゃねぇか。


ササナカは、ティルトローター機の後部ハッチからいまにも飛び降りそうな位置からこちらにグッジョブのサインを送っていた。


そしてそのサインから一拍子遅れたタイミングでササナカもジャンプ。


ササナカの体が華麗に空中に舞い散る。


空中で回転しながら遊んでいると思うとそのまま魚を食らうカツオドリのような姿勢で一気に僕の真横まで追いついていた。


なんだこいつ、案外器用なのか。


「おい、レンちゃん。俺につかまれ」


 空中でも再度手を差し伸べてくる。あまりの恐怖に先ほどの一連の出来事なんてこの僕の頭には米粒並みの大きさしか浮かんでこなかった。


ササナカにつかまる。今度はあのジョークはなしの方向性だった。


というよりかは、ここまでの経緯を簡単に思い返せば

会議場を出て、帰宅途中の僕に詰め寄ってきた黒服のいかにも怖そうな大柄の男に、半強制的にティルトローター機に乗り込まされ、あんがい機内では丁重な扱いを受け、いきなり代表者と思われる初老の男に「長官にお会いしていただきます」なんて言われ、


まぁここまではまだ耐えられるレベルとしよう。


しかしなんださすがにこれは無いと思う。


民間人に対する扱いがおかしい気がする。


この国、民主主義だったよな。


そうやって心の中でグチグチ言っていると、


「文句があるなら長官に直接、口頭で言ってくれぇ」


読まれた!?


そうやってササナカの意外な能力?に感心していると、バサッと天使の羽のような白いパラシュートを開き徐々に速度を落としはじめた。速度に比例して高度も下がってくる。


眼下に広がる景色をみて、このルートでは地上ではなく本部ビルの屋上に直接着陸するようだ。


300メートル付近まで降下すると風船の気分。あとは自然に足を着地することができた。


ビルの内部は以外にも狭く簡素なつくりになっていた。


この防衛国家公安省本部ビルが建つ政府管轄特別区域、通称『GJS』と呼ばれるこの区域は金融省、公安調査局、財政庁、


そして弐本国の政治の中心的象徴、弐本国議会議事堂がそびえている。そのなかでもおそらく一番地味であろうこの防衛国家公安省本部ビルは不思議と溶け込める雰囲気が確かに心の中で感じ取れた。


簡素ゆえの馴染み。


昔、親父の会社に連れて行ってもらったときの建物の雰囲気とそっくりだった。


天井に等間隔で取り付けられた蛍光灯や、壁の配色、時たま歩いていると見えるデスクなど、懐かしかった。


そうして昔の思い出に浸っていると目の前に『防衛国家公安省長官事務室』の文字が刻まれた木製の扉。


「さぁ、レンちゃん。ここだ、なんかボーっとしてないか?まぁでも長官の前ではビシッとキメてくれよ。」


 「じゃ」と簡潔に合図を示すとノックを二回、そしてそっとドアノブに手をかけた。


室内に入るとさして一般的な事務室とはやはりかわらない。


唯一違うといえば、秘書いて通信機械が整理されて並べられているぐらいだろうか。


「キミが噂の男か」


 秘書の横、ちょうど室内の中心に立つスーツを着こなした50代前半の威厳ある風格の男が言う。


「初めまして、僕の名はハシモトレンと申します」


「いや、知っているよ。これだけ身辺で騒がれていてはね」


 男は何がおかしいのか髭だらけの口元に僅かな微笑を含ました。


「今回、キミが立候補した人体兵器プロジェクトの被験者だが、私は実は興味を持っているんだ。君が相応しいんじゃないかと、ね。まぁその理由なんだが兵器になる過程である開発を行うんだ。この段階では筋肉が異常なほどに膨張する。被験者はこれを乗り越えなければならない。しかしこれを乗り越えるには特定の条件を満たしたものでないといけないわけだ」


「その条件にちょうど適合しているのが僕だと?」


「察しがいいな」


「過去のキミの血液状態や脂肪率、免疫力などを見させてもらったよ、実にピッタリだ。被験者の立候補には他の者も手を上げていたよ。しかし彼らではその開発の段階で筋肉が爆発、死亡してしまう。だから私からも頼みたい、兵器になってくれないか」


 男は妙に自信を持った顔つきで返答を促してくる。この男も最初からわかっているのだろう。


「もちろん」


 当たり前の返答を返してやった。


すると、同時に部屋に並べられた通信機から無線が入る。


『現在、弐本海中規模警戒海域C―3にて敵襲。警……中の艦隊、本土東方海域艦隊が事実上全滅しました!敵の数は……1。おそらく敵の人体兵器と思われます!旗艦長門が沈没、航空戦力も壊……じょ……たいです。3個駆逐艦戦隊のうち25隻が大破。至急増援を……今、そちらに映像を送りま……』


 少々のノイズが混じり、無線機越しからも今までの平和とは程遠い内容が聞こえてくる中、室内後方の大型ディスプレイから戦闘中の映像が流された。


挿絵(By みてみん)


僕はわかっていたはずなのに、その悔しさを抑え切れなかった。眼から涙がこぼれた。


彼女をただの殺人兵器にした奴らを許せない。


でも、わかっている。だからこそなのだ。僕が人体兵器になる理由は。


「さぁ、急いで準備をしてくれ開発所に向かうぞ、でないと国民の大半がキミの彼女に殺される」


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