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・第二話  決意 ~Détermination~

奥行きのある空間、薄暗い照明に目の前に大きく設置されたディスプレイ。そんな中にある大きな長椅子に腰掛けていた。


僕は今、弐本国の国家緊急会議に特別出席している。


あの一件の後、警察に連絡をし署まで出向いたがなにやら位の高そうないかにもなキャリア警官に渋い顔をされた。


キャリア警官は、僕を横目に突然電話を掛け始めると一分も立たぬうちにその会話を打ち切った。

すると一言。


「今回の事態は国家の安全に関わるかもしれない、直接本人に会議に出向いてくれと上から指示があった」


いきなりのあまりにも規模の大きな発言に、僕はただ「車で会議場まで連れて行く」とキャリア警官にパトカーに乗せられ運ばれる他なかった。




「では、今回の件ですが急を要します。簡潔に説明しましょう。昨日4月4日午後2時35分頃、国道12号線と雁行大学に挟まれた路地で彼女『シノダ ユズキ』さんが拉致されました。現場での多数の証拠からこの件には先のアスラン側の拉致予告発表に関係性が深くあると思われます。そしてあの拉致予告の時期発表は嘘だったということです。本当は4月より前から裏で入念な準備を進めていたと思われます」


 防衛国家公安省の幹部クラスと思われる大柄のスーツ姿の男が、目の前でユズキの拉致事件について説明をしている。


そして次の瞬間、聞きたくなかったはなかった言葉が耳に響いた。


「恐らく彼女はもう兵器開発が進んでいるかと思われます」


覚悟はしていたが、ユズキが兵器になったなんて信じたくも無かった。

あの国のことだ、むしろしていないほうがおかしい。数年前からニュースなどでたびたび話題になっていた人体兵器開発。アスランは強制的に自国民を開発、そして失敗、その繰り返しによって何百人と人々を虐殺した。


そして今回、アスランは自国民では飽き足らず仮想敵国の弐本にまで手を伸ばしたのである。そしてユズキが連れ去られ、今頃体を弄繰り回されているなんてなんらおかしくないのである。


なぜだかこの時、落ち着いていられる自分がいた。そんな自分が憎らしい。


そんな中『そして―』と、男が指をこちらに指して続ける。


「そこにいる彼が、その目撃者であり被害者の恋人です」


 場が騒然となる。周りで興味津々な初老の男たちの視線が僕に注がれる。


気分が悪くなった。


そしてその中の一人の男が立ち上がり僕にこう告げる。


「キミはハシモト レン君といったかな。キミはなぜ目の前で襲われていた恋人を助けなかった?」


 胸が熱くなってそれからその熱さが全身に行き渡る。拳に力が入ってその力を全身で必死に制御した。本当は、助けられなかった。


それは情けのないこと、本当に本当にどうしようもないこと。


僕はクズだ。


けど、あの時本当に助けることができたなら僕は一心不乱に彼女の元へ駆けつけただろう。


王子様のように。

彼女の望む僕のその姿のように。


だけど、それが出来なかった。後一歩踏み出せなかった。


「どうなんだね」


「……」


「おい、キミ!」


 男が口調を強くする。しかし僕は冷静に周りで起きている状況を頭の中で考えた。

彼らは僕のことを情けないどうしようもない男と思っている。

彼らは僕のことを彼女とともに国を危険に晒した売国奴と思っている。

彼らは僕のことを誰も救えないクソ野郎と思っている。


ちがう。


最後の一つだけは違う。


救ってみせる。


彼女がどんな姿になろうとも。


彼女がどこに行ってしまうとしても。


たった一つの希望を乗せて。


彼女を。


救ってみせる。


また二人であの白い石畳の上に立てるように。


僕は彼女を連れ戻す。


男たちが「彼が少しでも動いていれば事態はマシな方向に向かったんじゃないか」などと罵詈雑言を言い散らしている中。


覚悟を決めた僕は言ってやった。


「僕は、弐本国の人体兵器プロジェクトの兵器被験者になります」

 

場が再び騒然とした。さっきよりも大きな動揺が僕の胸に伝わってくる。


「キミ、何を言っているのかわかっているのか!」


 ああ、わかっているさ。


彼女を救う唯一の方法だと。


僕は彼女の笑顔を取り戻すなら、


どんなクソったれな事でもやってやるさ。


出来るだけユズキを助けるまでの時間を短縮しようと必死で考えた。


必死に。


脳がはち切れるほどに脳みそに力をいれて。


その結論がこれだ、バカな僕にはこれくらいしか、これくらいの考えしか浮かばない。


でもこのバカな頭が少しの希望を生み出せると期待して、何も言わず。


会議場を後にした。

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