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第5

 もちろん和則の嫌な予感通り、上田美奈は、家でまっているはずのミナ本人だった。


 なんでここにいるんだ? なんて考えるまでもない、十中八九彼の友達を作りにきたのだろう。


 どうやって入った? 学費は? など色々と気になることもあるが、今はそんなことより、これから始まるであろう質問の嵐を、彼女が無事に乗り切れるかにかかっているのだ。


 頼むから余計なことは言わないでくれよ。


 和則が藁にもすがる思いで祈っていると、


 ――うおっ!


 ブブブっと突然胸に振動が走った。マナーモードにしていた携帯にメールが届いたのだ。


 ――くそ、おじさんめ、こんなときにメールしてくんなよ。


 心の中で今いないおじさんに毒つき、和則はいそいそと携帯を取り出した。ミナの登場のおかげで周りには気付かれなかったようだ。


 携帯を開き、不慣れな手つきでメールから受信ボックスを開いていく。


 メールの相手が親戚のおじさんしかいない上、そのおじさんも普段はまったくメールを送ってこないので、和則の携帯は完全にアラームとしてしか使かわれていないのだ。


 通常の2倍程の時間をかけ、ようやく開かれた受信ボックスを見て、彼は眉を潜めた。


 理由は簡単、知らないアドレスだったからだ。


 おじさん以外の人間で、このメアドを知っている人間は誰もいない、携帯でIモードをまったく使わないので、広告メールである可能性も極めて低いだろう。


 だとすれば新手のウイルスかもしれない、開くと金を請求されるとか。


 和則はそう思い込むと、その手は食わんと、メールを開かずにそのまま削除を決行した。そして画面に削除完了の四文字が並ぶ。


 ――ふぅ、これで一安心。


 手で額を拭い、和則は携帯をしまおうと半分に折りたたむ、が、それを狙っていたようなタイミングで再び携帯がブブブっと振動した。


 ナイスタイミング過ぎて、思わず落としてしまいそうになった和則だが、なんとか持ち直して、安堵の息を吐く。急いで携帯を開くと、やはりというべきか、先程と同じアドレスからのメールだった。だが、

 

 今度のメールには、ちゃんと件名の位置に名前が書かれていた。


『件名・ミナですよ!』


 ……ミナ?   


 和則は下に向けていた頭を上に戻した。もちろん視線の先にあるのは、転校生である上田 美奈と名乗る、親の作ったプログラム、その手には携帯などは握られていない。


 しかしメールの件名にはミナという文字が使われている。


 お世辞にも良いとは言えない頭を使って分析を開始したが、すぐに断念。とりあえずウイルスではなさそうなので、和則はメールを開いてみることに。


『来ちゃった♪』


 来ちゃった♪ じゃねぇよふざけんな! とつい叫びそうになるのをぐっと堪え、和則はメールを返信を書く。


『おまえどうやってメールしてる』


 送信。そして1秒もせずに返信が届く。


『? そりゃあ私からですけど?』


『そうじゃなくて、携帯もないのにどうやって送ってる?』


『ああ、そういうことですか、それは私がプログラムなんですから当然ですよ』


『どういうことだ?』


『え~とですね、私は無線を飛ばして、どこからでもインターネットに接続できるんですよ、略して脳内ネット!!』


 ミナのネーミングセンスは放っておくことにして、その機能には素直に関心する。


 それが本当ならば、両親のパソコンから出てきた彼女が、和則のアドレスを知っていることについても説明がつく。


 そこでようやく携帯から視線を外し正面を見ると、自己紹介を終えた美奈が、転校生イベント、質問タイムの嵐が始まるところだった。


「もう授業始るんだから、さっさとしろよ~」


 アッキーのやる気のない注意を合図に、周りの生徒から、我先にと質問の嵐が吹き荒れる。ギャーギャーと何を言っているかわからない生徒達を見越して、復活した委員長が収集を図る。


「みんな落ち着いて! 美奈さんが困ってるでしょ! 質問は順番に!」


 いい判断だ、なんで彼女が委員長で、アッキーが先生何だろうか? とついつい思ってしまう。


 彼女のおかげで多少落ち着きを取り戻した生徒達は、一旦静寂を保ち、そして一人の男子生徒が手を上げた。


「はい! 好きな食べ物はなんですか?」


 基本だが奥手すぎるだろ。


「そーですねー。オムライスですかね~」


 それしか食ってないからな。


「じゃあ次俺! スリーサイズは?」


 お前は直球すぎるだろ! と思いながらも、美奈なら答えそうなので、和則は先手を打つ


「え~とですね~、上から――


『教えるな』送信


 ――わからないです」


 ミナは一瞬目の色が変わると、答えを変えた。どうやらなんとか間に合ったようだ。



「それじゃあ次は私! ずばり彼氏は?」


「いません」


 美奈はきっぱりと即答。


 ひゃっほーーい!! と男子が跳ね上がり、それを軽蔑するような視線を送る女子。まぁこれが健全といえば健全なのだろう。


 キ―ンコーンカーンコーン


 その時、ちょうど質問の終了を知らせるように、授業開始のチャイムが鳴り響いた。


「お~し、質問タイム終了~、んじゃあ転校生の席は、上田の隣な~」


 アッキーはそれだけ言うと、次の授業の教室へと向かっていった。入れ替わりに、違う先生が中に入ってきた。


「授業始めるぞ、席に座れ」


「は~い」


 美奈は元気に返事をすると、周りの視線も気にせずにトテトテと和則の隣の席に鞄を置いた。


 和則は携帯を懐に携帯をしまおうとして、また一件のメールが来ていることに気付いた。


『私におまかせあれです!』


 それは和則のこれから先の不幸を指し示す手紙だった。


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