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第4話

 翌日 


「学校、ですか?」


「ああ」


 朝食にミナが作ったパンを食べ終わった和則が、鞄を持って立ち上がりながら言った。


 昨日は飯を食べてすぐ風呂に入って眠ってしまったので、伝えるのを忘れていたのだ。名誉のために言っておくが、話あった結果、ミナは母さん達の部屋を使うことになったので、一緒に寝るなんて嬉しいイベントは発生していない。


「まぁ、というわけだから留守番頼むな」


「らふぁーうぇふ!」


 口に食パンを咥えながら、びしっと敬礼しながら、もふもふと何か言っている。おそらくラジャーと言ってるんだろうと推測しながら、和則は「行ってきます」と言って家を出た。


 和則が通う高校は、水鏡高校という学校だ。特に頭が良い高校でもないが、悪くもない学校、いわば普通の学校だ。


 唯一の特色は、女子の制服が可愛いとゆうことぐらいだろう、何でも雑誌に載った程らしい。それを目当てに入る奴も少なくないらしいが、和則は違う。


 彼はただ家から一番近いという理由だけで入学したのだ。


 まぁそういう人も今は少なくないらしいけど、 


 そんな理由で入った水鏡高校は、家から徒歩十分程度で着く、自転車を使え五分で着くのだが、一年の時に盗まれて以来、使わないようにしているのだ。


 さて、それよりもミナをこれからどうするか。


 そんなことを考え始めた時、隣から一人の女生徒が、美しい黒髪をなびかせながら和則の横を追い越していった。


 またこいつか、と思いながら、その後ろ姿を見送る和則。


 彼女の名前は星月 灯璃、うちの学校では知らぬ者はいない、アイドル的存在だ。その目を引く容姿はもちろん、成績は平均98、スポーツではテニスで日本制覇、更に一年から生徒会長に成り上がるなど、学校内で彼女の噂を聞かない時がないほどの人気を誇っている。


 そんな彼女は、偶然か必然か、毎朝必ず和則の横を通り過ぎていくのだ。大抵の生徒はそれだけでもその日一日は幸せになれると言われているらしいが、和則にとってはいい迷惑である。


 むしろ出会わない方が幸せ、なんて口が裂けても言えない和則は、徐々に人が群がってくる蜂蜜のような彼女の背中を、今日も追いかけるのだった。


 学校に到着した時には、既に彼女の周りにはアリのような人の群れが完成されていた。


 和則は群れを避けて、さっさと二階にある自分の教室へと向かう。


 ガラッと教室のドアを開け、自分の席である、窓際から二列目、一番後ろの席へと向かう。既に教室に居たクラスメイト達は、一瞬和則のことを認識したが、すぐに興味をなくし、友人と仲良く会話を始めた。


 和則は鞄を置いて席に着く。


 何、これがいつも通りだ。


 別にみんなが和則を避けているわけではない、和則がみんなを避けているのだ。だから必然的に和則は一人がほとんど……だがそれでいい、無駄に友人なんて作って、後でより辛い思いをするくらいなら、一人で生きた方が楽だから、


「ほら、お前らさっさと席につけ~」


 少しして、やる気のない声と共に、髪がぼさぼさのおばさんが出席簿を肩に乗せながら教室に入ってきた。


 和則のクラスの担任、秋山 恵理子、みんなからはアッキーと呼ばれ、生徒達から親しまれている。


 彼女の登場に、話しに花を咲かせていた生徒達は、いそいそと自らの席に着いた。アッキーはそんな生徒達を見渡して、


「欠席者はいるか~? いるなら名乗り上げろ~」と、いつもの台詞を口にした。毎回毎回思うのだが、アッキーは本気で言っているのだろうか? 欠席者が名乗り上げるわけがない。


 だがそんなことは小学生でも分かりきっていること、きっと冗談を言っているんだろう、最初はみんなそう思っていた。が、


「お~今日も欠席はなしか~、よきかなよきかな」


 ……本当は分かっていないのかもしれない。


 誇らしげに喜んでいる担任に、生徒達はただ苦笑を漏らすのみだった。


「よし、じゃあ委員長、今日私が何か報告することはあるか?」


「特にないと思いますけど……」


 委員長と呼ばれた女生徒が自信なさげに答える。


「そうか、ならいい」


「というか先生」


「なんだ?」


「なんで私にそんなことを聞くんですか?」


「なんだそんなことか」


 アッキーはやれやれと首を振ると、すぐさま目つきを鋭くし、ビシッ! と委員長を指さし言い放った。


「それはあなたが委員長だからよ!!」


………

………

………


「あ、はい分かりました、もういいです」


「わかればいいのよ、わかれば」


 そしてまたアッキーの勝ち誇った顔。


 なんでこの人教師やってるんだろう。素直にそう考える委員長だった。


「では諸君、授業をがんばりたまえよ」


 アッキーはそれだけ言い残すと、みんなに手を振って教室を後にした。


 が、出て行ったと思ったら、すぐに教室のドアを開け、アッキーが中に入ってきた。その票徐には怒りが滲んでいた。


 何事かと見守っていると、教卓に出席簿を叩きつけ、委員長を睨みつけ、


「委員長!」


「は、はい!」


「私を騙したな!」


「な、なんのことですか?」


 普段起こらないアッキーがここまで怒っているということは、それなりのことをやらかしたのだろうか? みんなの視線が委員長に向けられる。


 対する委員長は、突然のことでテンパっている様子だ。


「アッキー、何があったの?」


 委員長やみんなの代弁を一人の男子生徒が行った。


 するとアッキーは目を見開いて叫んだ。


「転校生が来たのよ!」


「転校生? うちのクラスに?」


「そうよ!」


 クラスがざわざわとざわめきだした。あたりから、「どんな子だろ」「なんでこの時期に?」などの声が聞こえて来た。


 だがそんななか、一つの疑問が生まれた。


「あれ? じゃあなんで先生が怒ってるんですか?」


 それだ。


 何故転校生が来て委員長が怒られるのかが、見えてこなかった。もしかしてその転校生と委員長の間に何かあるのだろうか?


 和則が様々な理由を想定していると、アッキーが質問に答えた。


「だって、委員長! さっき今日私が報告することがないって言ったじゃない!」


……

……


「いや先生、それただの逆恨みじゃん」


「なっ!」


「委員長悪くないし」


 なぁ? と次々とクラス内から委員長の弁護が流れ始め、だんだんと居心地が悪くなったアッキーは、


「もう許してください……」


 その場にしゃがみこんでしまった。

 

 のの字まで書き始めている。

 

 そんな哀れな姿に少し言い過ぎたと罪悪感に見舞われた生徒達は、慌てて、話題をずらす。


「そ、それは仕方ありませんよ!」


「あ、そ、そうだ、新しい転校生ってどんな子なの?」


「男の子? 女の子?」


「……女の子よ」


 おお! 男子生徒一同が活気ずいた、そんな中一人和則は疑問を抱いた。


 なぜ転校生が女の子だとみんな喜ぶのだろうと、別に女の子だったとしても、漫画のように可愛いとは限らないし、たとえ可愛かったとしても、そんな相手が自分に振り向く確率なんて1%未満。


 これらの考察の元、騒ぐだけ無意味と結論づけている和則は、ただ黙って成り行きを見つめている。


「で! その子可愛いんですか?」


「え? そうね、昔の私くらい可愛い子かしら」


 アッキーが機嫌を直してそう言った途端、男子生徒は机に突っ伏し、和則は「やっぱり」と納得していた。


 世の中そんなに甘くはないんだよ。


「まったくみんなそんなに喜んじゃって、ほら、入ってきなさい!」


「はい!」


 アッキーの呼び声と共に、教室内に一人の女生徒が元気に入ってきた。


 元気な奴ほどめんどくさい奴はいない、和則はなるべく関わらないようと決め、視線を窓へと向けた。

 そしてわっと盛り上がるクラス。


「おおおお!!」「可愛い!」「綺麗な白髪~外人さん?」「先生に似てるなんて嘘すぎる」


 そんな沢山の声が耳に入って来た時、和則の耳の中に誰かの言葉が響いた。


『綺麗な白髪』


「んじゃ、自己紹介」


 まさか……と嫌な予感を感じつつ、和則は視線をゆっくりと教卓へと向けていく、どうか予感があたらないようにと祈りながら、思い過ごしであるようにと、


「みなさんはじめまして、私の名前はーー」


 黒板に大きく自分の名前を書いた彼女が高らかに叫ぶのと、和則が視線を向けたのは、ほぼ同時だった。


「上田 美奈です!」


 やっぱりかーー!


 やはり世の中そんなに甘くはなかった。


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