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第3話

 ミナがリビングに入ってから約二十分程度、リビングで和則が他愛もないニュースを見ていた時、


「できました~」


「おお」


 待ってました! と心の中で叫びながら、和則はテレビを消し、テーブルに乗っているものを端に寄せておく。


「お待たせしました~」


 遂にキッチンからミナが出てきた。その手にはもちろん作られたばかりのあつあつの料理が乗せられている。


 そして料理が和則の前にことんっと置かれた。


 和則はそれをどれどれと喜んで拝見した。


 が、瞬間、顔が引きつるのを感じ、声だけでミナに質問をした。


「ミナ……これはなんて料理だ?」


「おむらいす、ですよ? 食べたことありませんでしたか?」


 オムライス……だと?


 顔の筋肉がますます引き締まるのを感じる。


 もちろん和則もオムライスは幾度か食べたことがあるのでよく知っているつもりだ。昔母さんが良く作ってくれたのを今でも覚えている。


 ケチャップの溶け込んだご飯に、肉と玉ねぎを加え、ふんわりとした半熟玉子で包み込む、家庭料理の至高とも言える一品だ。


「あ、もしかしてお嫌いでしたか?」


「いや、嫌いではないんだが」


 どちらかと言えば好きな部類に入る。だが、この真っ黒な物体もオムライスと呼ばれるものと同一体なのだろうか?


 卵か何かはわからないが、半熟の黒い何かで、全体が覆われている。焦げているわけでもないようで、スプーンを通すと普通に割れる。そして中身のご飯、肉、玉ねぎ、その何もかもが黒く染まっていた。


 まるで闇の中に漬けていたみたいに見事に真っ黒、この世の食べ物ではない、ただならぬオーラを醸しだしている。


 これが本当にオムライスという食べ物なのだろうか? もしかして和則がしばらく食べていない間に、オムライスそのものが変わってしまったのだろうか。


 食べて平気なのか、人生の選択を迫られている和則は、匂いを嗅いだり、色々な角度からそれを見て観察する。それを見ていたミナは、口を尖らせて、


「そんなに私の作ったおむらいすは食べたくないんですか?」


「いや、決してそんなことは……」


 ない……とも言い難い。


「じゃあ早く食べてくださいよ」


 そういうミナの目は半目のジト目だ。


 覚悟を決めた和則は、震える手でスプーンをオムライス(仮)に突き入れ、掬いあげる。


 あとはこれを口に放り込めば全て解決だ。


 それで全て解決するのに、


「……早く食べてください」


「あ、ああ」


 おかしい。


 口に入れれば終わりなのに、口の前までスプーンを持ってきても、口が開こうとしない。


 これだけ近づけても無臭なのが、逆にものすごい嫌な予感を刺激してくれている。


 やはりこれは食べられないのではないだろうか? と思い、和則は視線を隣のミナへと向けた。


 さっきまでジト目だった彼女の目に、涙がうるうると溜まり初めていた。


「ええい!!」


 遂に覚悟を決めて、和則は勢いに任せてパクッと口の中に放り込んだ。


「うっ!」


 そして襲ってくる恐ろしい味覚が、和則の口の中を――


「……ってあれ?」


 襲わなかった。


 というかこれはむしろ・・・・・・


 和則はおそるおそるもう一口パクッと咥えて、良く噛んで、そして目を見開いた。


「美味い……」


「本当ですか?」


 驚いた様子で和則が頷く。

「あ、ああ」


「やった~!!」


 粛然としない和則をよそに、ミナは大喜びでガッツポーズを取っていた。


 だが本当に美味い、見た目はあれだが、味は確かにオムライスの味が染み付いている。間違いなく彼が今まで食べてきた料理の中で、間違いなくトップクラスに入る美味しさだ。


「見た目はあれだけど、本当に美味いよ」


「見た目ですか? それがおむらいすの通常形態ではないのですか?」


「これが通常形態だと思えるお前が逆に凄いよ」


「えへへ、ありがとうございます」


 何か勘違いしているのか、ミナは照れくさそうに頬を赤く染めた。まぁ本人が喜んでいるならそれでいいか。


 と、そこでオムライスをもう一度口に運んだところで、ふと和則はあることに気付いた。


「あれ? お前の分は?」


「私ですか? 私はプログラムなので、食事は必要ないんですよ」


「ああ、そっか」


 ミナの納得の理由に、オムライスを再び食べ始める。


 一人オムライスを食べる和則に、それを隣で見ているミナ。


 これは何か違うんじゃないだろうか? 上手く説明できないが、この今の現状は凄く納得のいかない感じを、和則は一人感じ取っていた。


「……なぁ」


「はい? あ、飲み物ですか?」


「いや、そうじゃなくて、お前って食事とかは取っても平気なのか?」


 なぜか醤油を抱えている彼女は、また顔に疑問符を浮かべたが、すぐに答えを返した。


「私は人間とまったく同じ使用なので、食事することは可能ですよ?」


「ふぅん、そうか……あと醤油は飲み物じゃないからな?」


「ええ!?」


 凄い驚愕の秘密を知ってしまったような表情を作るミナを放置して、和則は台所から、小皿とスプーン、そしてお茶を抱えて取って来た。


 その間彼女は醤油を机に置いてにらめっこをしている最中だった。


 和則は持ってきた小皿に、自分の食べていたオムライスを半分乗せると、正面の席に置いた。


「いつまで醤油とにらめっこしてんだ。 ほら、さっさと食べるぞ」


「え?」


「食べられるんだろ?」


「あ、はい、ですが私食事は必要ないのですが……」


 なんでわざわざ? とでも言いたげな表情を作ってこちらを向いてきた彼女から、視線を反らしながら和則はぶっきらぼうに言った。


「別にお前は俺の飯使いってわけじゃないし、それに……」


 和則は少し言い淀んでから、ぼそぼそっと小さくつぶやいた。 


「め、飯は一人より二人の方が、その、上手く感じるもんだろ?」 


「そうなのですか?」


「そ、そうなんだよ! とにかく、これから飯の時は自分の分も作ること! いいな!?」


「は、はい!」


 和則の怒声にぴしっと敬礼をしてから、ミナも席について、オムライスを一口、パクッとくらいついた。そしてびっくりするぐらい目を見開いて、


「和則様! これとっても美味しいです!」


「はは、だろ?」


「はい!」


 やっぱり一人より、二人で食べたほうが上手く感じる。


 そして二人は終始笑顔で食事を続けたのだった。


遅くなってすいません。なんか最近自分の文章力のなさを嘆いていました……


感想は終始お願いしときます…

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