第2話ーーーーー
場所を移してリビング。
「お前がプログラムであることを認めてやろう」
「本当ですか!?」
彼女はやったーと声を上げてリビングを飛び回って喜びを表した。
仕方ない。
あんなものを見せられては、さすがの和則でも納得するしかない。もしも普通の女の子が、ハエを殺すために壁をも破壊するパワーを持っていたら、それは人ではなくただの化け物だ。
はぁ、と軽く溜息をつきながら飛び回るミナを見る和則。
うちの親は、なんであんな訳のわからない奴を作ったんだ?
確かに力は相当なものだが、あんだけ頭が悪いとかえって危険なんじゃないだろうか、というか和則の友達を作るのに、なんであんな力が備わってるんだ? むしろ頭を特化させておくべきだろう。
製作者亡き今、それも叶わぬ夢だ。
とにかく、今はこの状況をどうにかするのが先決だろう。
「おいミナ! いつまでも飛んでないでそこに座れ! 埃が舞う!」
和則が目の前にあるソファーを指さしながら呼びかけると、彼女は動きを一時停止して、顔だけを和則に振り向いた。
「ミナって私のことですか!?」
そして一気に顔を至近距離まで詰めてきた。ぶつかりそうな勢いだったので、和則は思わず後ずさった。
「お前以外にいないだろう、プログラム・ミナって表示さえれたから、ただ省略しただけだ。嫌だったか」
すると彼女は信じられない速度で顔を左右に振った。
「そんなことないです! うれしいです! 名前がもらえて!」
「そ、そうか、じゃあ今日からお前の名前はミナで決定だな」
「はい!」
喜びと共にミナは美しい華のような笑顔を作り出した。
正直和則は少し面を喰らった。 まさかこんなことでここまで喜んでくれるなんて思わなかったからだ。
少し羞恥を感じた和則は、彼女の笑顔から視線をずらして、
「と、とりあえず腹が減ったな、話の続きは飯を食いながらにしよう」
そう言って和則は逃げるように席を立った。
朝のパン以外、今まで掃除をしていたため、空腹なのは本当だった。
確かキッチンの床収納庫の中にカップ麺が置いてあったはず、二つあったかな? と疑問を抱きながらキッチンへ向かおうとした和則だったが、すかさず目の前に割り込んできたミナに防がれた。
「料理なら私に任せちゃってください!」
「お前料理なんてできんのか?」
「当たり前じゃないですか! 私プログラムなんですよ? そのくらい余裕のうっちゃんですよ!」
「まぁ、確かに……」
彼女がプログラムということは、和則も十分承知している。これだけ自信満々に言っているんだ、きっと料理に関するプログラムをつまれているんだろう。
もともと料理をする部類ではない和則にとって、毎日毎日カップラーメンの嵐、最近では料理をもう少し勉強しようと思ったくらい。
それをミナがしてくれるなら実にありがたい話だ。
「じゃあ頼むわ」
特に断る理由もないので、和則は素直に彼女の行為に甘えることにした。
「はい! もうスワンボートに乗った気分で待っていてください!」
それだけ言い残すと、彼女はキッチンへと入って行ったのだった。
「……平気、だよな?」
あれ? もしかして地雷踏んだ? と今さら気付いた和則だったが、彼にはもう待つことしかできないのであった。




