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幻想旅行記  作者: 乾燥用
7/7

旅行初日(五)

十三


「ありがとう」

 私は子供相手にする丁寧で、わざとらしい抑揚をつけた会釈で答えた。

「どういたしまして」

 少女もこまっしゃくれたような抑揚をつけて答える。店内に入ろうとすると少女も後ろからついてくる。

 眺めていたあのおもちゃを買うのではないのかと思いながらも、私はそこに触れることはなかった。

 店内はお菓子や野菜、日用品、雑貨などが並んでいた。なるほど、こういった店かと思って眺めていると、少女は私の脇を抜けてお菓子の棚に向かっていった。そしてまた、少女は機械を見ていたときの眼光で何やら色々見つめていた。子供だから小額のお金しか持っていないのかも知れない。

 私のもそういう時期があった。小銭もなくて、買うあてもないのに、品物を眺めて何時間も過ごしているような、侘しさ。

 少女から目を離し、自分の飯のことを考えた。見渡すと店内の明かりはついていたが、点々と蛍光灯が少なめに付いているだけなので随分と薄暗い。そして肝心の店主がいなかった。

「すみませーん、どなたかいらっしゃいますか」

 と声を張ると、

「はーい」  

 大声を上げて、奥からドタドタと五十前後だろうか、しっかりと中年太りでエプロン姿の如何にも「田舎のオバちゃん」という姿の店主らしい人が出てきた。

「ここでご飯を食べられると伺ったのですが」

「えぇ、大丈夫ですよ。何にしましょう」

「何があるんです?」

「焼き魚、煮魚、揚げ物、野菜炒め、小鉢と言った所だけど、これ見てくれたほうが早いかな」

 オバちゃんは噛みそうなぐらいに威勢の良い口調で一気にまくしたてながらメニュー表を手渡してきた。

 メニューに書いてあるのは普通の定食屋みたいなものだったので、少考して漁村であるしやはり魚だろう、と焼き魚定食というものを頼んでみた。

「はい、焼き魚定食だね」

 オバちゃんは奥の一角にある座敷を指差して、

「お客さん、あそこで待っててもらえんかな」 と言ってオバちゃんは奥に引っ込んでいった。

 座敷は窓から差し込む光のせいで、畳が火に焼けて黄ばんでいた。

 手持ち無沙汰で何の気なしに窓を開けると、窓の向こうには小さな木々が家を囲むように立ち、その向こうには田園があった。木々でよく見えないがトラクターの駆動音が遠くから聞こえてくる。漁村では人が休んでいたようだが、ここでは人も居るようだった。

 喉かだ、秋だ、じわじわと心に静けさが沁みる。

 家でも静かに暮らしてはいるが、自分が作った一人の静かさじゃない、時間の流れや、それそれの人が居る中で、それでも感じる作られた静けさが、沁みた。こういうところで晩年過ごすのも面白いのかも知れない。年寄りじみた考えも浮かんだ。

 そんな想像をしながら店内を見渡すと、少女が一つのお菓子を取った。あぁ、買うのかと思っていると、少女はその場でお菓子の包みを破り始めた。

 吃驚して支払いはどうするのかと思っているとこちらの座敷に近づいてきて、腰を据え、パクパク食べ始めた。

 思わず私は少女に聞いた。

「お金はいいのかい?」

「うん、いいの」

 そう答えてまた食べる。街にあるような店じゃないから、ツケだとか何かローカルルールでもあるのだろうかと、訝しがりながら見ているとオバちゃんが盆に食べ物を乗せてこちらに来た。

「お待ちどうさま」

 盆に載った焼き魚定食は香ばしい匂いを漂わせて現れた。随分立派な魚である。私は魚には詳しくはないが、街中で食べるような魚とはサイズが違う。街中で食べる魚が小結と言ったところなら、この半ば寂れたような店で出てきた焼き魚は横綱と言ってもいい。とにかく大きい。それに小鉢もついて味噌汁も魚のアラであるとか、貝だとか色々具沢山に入っている。

 凄いなこれはと思いながらも、お菓子の金が気になって少女を一瞥すると、オバちゃんを気にすることもなく、お菓子を食っている。オバちゃんに至っては少女を一瞥することもなく、少女を居ないかのように振舞っている。

「どうぞ、ごゆっくり」

 オバちゃんはあっさりと、また店の奥に下がっていく。

 どうなっているんだ、これは、と戸惑っていると少女は

「食べないんですか?」

 と促してくる。それで致し方なく私は箸を手に取った。

あまり中身がない。

もうちょっと詰めるべきだっただろうか

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