法螺貝の死
東京湾に誰も見たことがないほどの大きな法螺貝がいた。海においては誰もその法螺貝には敵わなかった。
法螺貝は退屈ゆえに跳ねてみた。すると法螺貝は海面を飛び出し、大抵の山の高さは超えてしまった。だがとある山だけは法螺貝のはるか上にいた。それは富士山だった。富士山に負けたことが悔しくて法螺貝はまた跳ねてみた。高さは上がったが富士山にはまだ及ばなかった。
周りの山は迷惑そうに法螺貝を見てはヒソヒソと悪口を言った。富士山は黙ったまま何も言わなかった。富士山は無口な山だったが周りからは畏敬の念を持って扱われていた。
法螺貝に伊豆大島の三原山が言う。
「富士山には敵わないから跳ねても無駄だ」
安房の鹿野山も言う。
「うるさいぞお前!富士山は何をしているんだ」
しかし法螺貝は諦めなかった。ピシリピシリと貝殻のひび割れる音を聞きながら何度も跳ねた。するとどうだろう、だんだん高くなり、これで駄目なら最後にしようと思い今までで一番高く跳ねてみたところで富士山に並んだのだ。法螺貝は喜んで富士山を見た。富士山はその沈黙を破って呟いた。
「もうやめろ」
周りの山たちはどよめいた。法螺貝は思った。
あの富士山が焦っている!
法螺貝は喜びを噛み締めてもっと高く跳ねてみたくなった。水しぶきと共に跳んだ法螺貝は先ほどの高さを超え、富士山すらも超えてしまった。法螺貝は空の上で何事にも変え難い興奮を味わったが、その最中にまた富士山の言葉を聞いた。
「次は山に生まれよ、法螺貝」
その言葉を最期に法螺貝は真っ逆さまに落ち、海面に叩きつけられてバラバラに砕け散ってしまった。散った欠片の一つ一つが大きな岩に変化し、そこには岩場ができた。
その岩場は今でもゆっくりと大きくなっているという。




