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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora
第一章 こんにちは、転生勇者様

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第96話 村人転生者、ゆっくり帰村する (2)

「ボイルさんや、すまんが宿の女将に言うて人数分のお茶を貰って来てくれんかの。料金なら儂が払うでの」

「いえいえ、それくらいでしたら村から預かってきたお金がありますので。そうそう、この宿の宿泊代がありましたね、ケビン君、後で清算するからいくら掛かったのか纏めておいてくれるかい?」


そう言い席を離れるボイルさん、どうやら大人二人は一旦インターバルを入れるらしいです。そりゃそうだよね、昨晩のあの出来事を思い出すんだから。

命からがらの脱出劇、一晩中の逃避行、本当に大変だったんだろうな~。まぁこっちはこっちで大変だったんですがね。

イザベルさん、指輪から出たり入ったりを要求して遊びまくるし、やたら絡み酒だし。ようやく解放されたのって日の出前の空が白み始めてからだもんな~。ポーションビッグワームの燻製が無かったら倒れてましたよ、本当。

作っておいて良かった燻製バージョン、これなら走りながらでも食べれますからね。そこから全力ダッシュで追い掛けるって言うね、本当よく間に合ったよな~。


イザベルさんさえ絡んでこなかったらもっと早くに追いついたのが、辿り着いた時には村門でひと悶着あった後だしな~。

門番の様子がおかしかったからすぐに合流しないで様子を見たんだけど、まさか村ぐるみの追い剥ぎ強盗集団だなんて思わなかったもんな~。後ろを追い掛け始めた村の男衆どもを草原でナイナイしてから急いで後を追ったらボビー師匠が何か感動劇の一幕を演じてるし、その後見事にブッスリやられちゃうって言うね。

いや~、この国怖いわ~。民度がね、ヤバヤバなんだもん。あんな子供の頃から強盗団の一員って、絶対碌な大人にならないっての。罪悪感なんて皆無(かいむ)って顔してたもんな、まさに訓練された少年兵、殺しを厭わない、そんな感情すら湧かないんだろうな~。


しかしあの森って何だったんだろう?凄い嫌な感じがしたんだけど。

あれって教会で“あなた様”が言っていた人の悪意や恨みから生まれる闇属性魔力の塊って奴なんだろうか。以前父ヘンリーに呪いの事を聞いた時に言っていた状態異常の呪いを使う闇属性系魔物の生息地域の話、そこで出てきた呪われた森そっくりだったんだよね。もしかしたら呪われた森って結構身近にあるのかもしれない、超恐い。



“ズズズズズズッ”

カップに注がれた温かい麦茶、それを息を吹き掛けながらゆっくりと頂く。結構しゃべり続けてたからか喉が渇いていたんだろう、身体に染み込む麦茶の優しい味わいが心地いい。

なんか色々疲れたし、今日はベッドでしっかり休んで明日の移動に備え“ゴホンッ”・・・。駄目ですか、そうですか、分かりました。

それじゃ話の続きをしますかね。


「ジェイク君、エミリーちゃん、ジミーは前の村の森の外れで子供の盗賊に襲われた時どう思ったのかな?」


「えっと、正直どうしていいのか分からなかった。薄汚れていて自分たちと違って食べる物にも困っていそうだったから。ミルガルの街に着く前にボビー師匠には自分たちに出来る事は限られているって言われていたけど、実際にそんな子供を見てどうしていいのか何が正しいのかも分からなくなったんだ」


「そうか。エミリーちゃんとジミーも同じような感じかな?君たちは本当に優しいいい子に育ったんだね、お兄ちゃんは嬉しいです。そしてボビー師匠はあの子を村に引き取って面倒を見ようとでも考えていたって所ですかね、本当にみんな心優しい良いお話です。


でもそんな君たちにこれから少し厳しいお話をしなければなりません。

残念ながら一度でも人から物を奪うと言う行為に手を染めてしまった者はその事を忘れる事は出来ません。罪は重ねるごとに罪悪感が薄れていく、その事は何の躊躇もなくボビー師匠を刺したナイフの少年を見ていた君たちには分って貰えると思うけど、彼らにとって盗賊行為は既に日常だったんだよ。人を襲い奪う事、それは僕たちが森に入ってホーンラビットを狩る事と何ら変わらない行為、そこに罪の意識や戸惑いなんて存在しないんだよ。


それとこれは少し考えれば分かる事なんだけど、この魔物が蔓延る世界で薄汚れた力のない少年が生き残るなんて不可能だから。あんな森の奥に一人で現れた時点で罠だから。仮にあの子が本当に森に棲む盗賊だったとしても、絶対仲間がいるからね?

普段の冷静なボビー師匠だったらまずは索敵を行っていたと思うよ?今回は僕を一人残し逃げて来た事で動揺していたんだと思うけどね。

と言うか皆して僕が死んだと思ってなかった?まぁ僕自身死ぬかと思ったけども、そこは頑張って生き残ってると思って欲しかったです。


で、これはその前の宵鴉の連中にも言えるんだけど、人って慣れちゃうとその事に対して無感情と言うかどうでもよくなっちゃうところがあるんだよ。彼らの場合人を殺す事に対する躊躇や罪悪感は全くなかったと思うよ?

おそらくだけど彼らには明確な線引きがあったんだと思う。仲間であるかそれ以外か。仲間は守ろうとするだろうし愛情もあったと思う、でもそれ以外はただの獲物、完全に人間性を失ってるんじゃなくて自分が思いやれる範囲が酷く狭くなってるだけなんだよ。

だからそんな人間を村に引き入れたら、いずれ内側から食い破られて村が全滅なんて事にもなりかねなかったんだよね。それでもそうした者に手を差し伸べたいのなら、それこそ山の中に小屋でも作って共に暮らして人との接し方をよくよく教えて行くしかないんじゃないかな?それで改心するかは難しい所だけどね。


その人物が仲間の範囲を国の大きさまでに広げるか、森の中で一人で暮らせるだけの生活力を身に付けてくれれば一先ずは安心だけど、難しいのは確かかな。人を躊躇なく殺せるって事はそれくらい怖い事なんだよ。

君たちも将来盗賊を殺す事を求められる様になると思うけど、その時確り自分を保てるように今から心を鍛える事を意識して修行に励んでね。ボビー師匠、その辺よろしくお願いしますね。


後はまぁ知らなくてもいいとは思うんだけど、こういう事もあるから普段から気を付けようくらいの気持ちで聞いて下さい。君たちを襲った子供たち、彼らはここの一つ前の村の子供たちです。あそこの村が追い剥ぎ行為をしてるんじゃないのかって噂はこの辺では割と有名な話だったみたいです。

ただ証拠が無くてね、自分達より強そうだったり見るからに金がありそうな相手は狙わないで、小金を持っていそうで尚且ついなくなっても不審がられなさそうな相手を選んで襲っていたみたいです。

後あまりよろしくない噂のある商会とも繋がりがあったみたいです。その辺の事は先程宿に食事に来た村の方々より教えていただきました。女将さんも言ってたけど、行商人の間ではかなり有名な話だったみたいですよ?あの村には気を付けろって。

で、実際襲われたって事ですね、よっぽど疲れ切って見えたんじゃないんですか?行きの行程では声も掛けられませんでしたから。


まぁそうは言っても今更な話なんですけどね、その事はこの村に来るまで知らなかったんですから。知っていた所でどうのこうの出来る話じゃありませんし?

襲ってきた子供たちにしたってあの場に縛り付けて放置一択でしょう。無論武器は全て取り上げて途中の森に捨てちゃいましたが。下手にあの村に連れて帰っても今度は僕が捕まっちゃいますから。

だからあの村での出来事は“嫌な事があったな”くらいで忘れた方がいいですよ、注意喚起は先程食堂でしておきましたから。

ジェイク君、エミリーちゃん、ジミー。納得できないって気持ちはよく分かるよ、でもね、一番大事な事が何であるのかって事を忘れちゃいけないよ?この旅で一番大事な事は皆が無事に怪我無くマルセル村に帰る事なんだからね?それ以外の事は正直どうでもいいんだよ。

だから今回の件だってボビー師匠があのナイフ少年に覇気の一発でもぶつけてれば済んだ話だったんだよ。あの道はただの林道で行き止まりだったみたいだけど、それだったら引き返せばいい話だったし、もう一度村の門番に引き留められたらそれこそこの話を盾に思いっきり覇気をぶつけて脅せばよかったんだしね。

今回の件は皆して何が一番大事なのかを忘れてしまった事が問題だった、それだけだったんだよ。人は自分だけは大丈夫って思いがちだけど、実際危険はそこら中に転がってるんだよ、だから常に何が一番大事かの優先順位を忘れない様にしてね。“命大事に・安全第一”だからね」


“冒険よりも安寧を”、常に起こるであろう危険に備え様々な準備を怠らない勇者病<仮性>患者ケビン少年の言葉は、元白金級冒険者ボビー老人をはじめ元行商人の村人ボイルや世界に羽ばたく冒険者を目指し日々修行に励むチビッ子軍団に、重い戒めとして伸し掛かるのでした。



「女将さんお世話になりました。今朝の朝食も最高でしたよ、もし今度ミルガル方面に行く機会がありましたら食事だけでも立ち寄らせてもらいますから。美味しいご飯をよろしくお願いしますね?」


「あぁ任せておきな、うちの旦那は料理の腕だけは一級品だからね。あたしもその腕に惚れたんだ、それを褒められたんじゃ手は抜けないってもんさ。これ、頼まれてた包み焼き、エルセルに行く道中で食べておくれ」

「わ~、ありがとうございます。これ美味しいんですよね、荷馬車の上で食べさせていただきます。ほら、皆もお礼を」


「「「ありがとうございます」」」

宿を出立するマルセル村の一行、女将は彼らの無事な旅路を願い、いつまでも手を振り見送るのでした。


荷馬車は進む、カタコト音を立て街道を一路マルセル村を目指して。俺はそんな揺れる荷台から馭者席のボイルさんに話し掛けた。


「ところでボイルさん、この後の行程は初日に野営をした場所で一泊してからマルセル村に帰るって感じですよね?だったらエルセルの街で買い物をして行ってもいいですか?今からなら結構早い時間にエルセルの街に到着するみたいですし」

そんな俺の問い掛けにボイルさんはしばし考えた後言葉を返した。


「あぁ、それは構わないけど、ケビン君は何か買いたいものでもあったのかい?」

「いや~、太郎と団子にブラシを買って行ってあげようかと。でもそうすると緑や黄色が羨ましがるんですよね。それにブー太郎も馬用のブラシなら喜ぶと思うんで、馬具用品って雑貨屋ですかね?馬具屋ですかね?」


「う~ん、どっちだろう?取り敢えず両方行って見ればいいんじゃないのかな?行きはエルセルの街は通過しただけで店は覗かなかったからね。ここまでくればマルセル村もあと少しだし、それくらいの寄り道は構わないと思うよ?少し買い物をしてお昼を食べてから出発でいいんじゃないかな?どうですかねボビー師匠?」


「うむ、それで構わんじゃろう。子供らにも店での買い物を経験させてやりたいしの。雑貨屋で何か手ごろな買い物でもしようではないか」

この旅は色々な事を経験した。予期せぬ出会いがあった、ありがたい授けがあった、恐ろしい魔物に襲われ、人の欲望と悪意を知った。最後に少しくらい楽しい事があっても罰は当たらないであろう。


荷馬車は進む、カタコト音を立て、マルセル村に向かう途中の街エルセルを目指して。楽しいお買い物が待っている、子供たちはワクワクと瞳を輝かせ、大人たちはそんな彼らの様子に優しく目を細めるのでした。

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