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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora
第一章 こんにちは、転生勇者様

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第85話 村人転生者、ミルガルの教会に赴く (3)

荘厳な雰囲気の静かで落ち着いた教会、人々が祈りを捧げる女神様の彫像の前で、偶然にも己の持つ<祈り>と言うスキルに目覚めたエミリーちゃん。マルセル村から来た仲間たちは彼女を囲んで感謝の言葉や祝福の言葉を送って盛り上がっている。

そんな一見目出度い空気の流れる女神様の祭壇のすぐ脇で、床にドカッと腰を下ろして飲んだくれていらっしゃる御方。

淡い光に包まれて何やら光属性系の魔法を発動されておられるようですが、逆にそれが気になっちゃってですね~。目に魔力を集中して違和感を覚える辺りを見ていたら何かその様なお姿がですね~。

・・・何か皆さんはエミリーちゃんの事でお時間が掛りそうなので、一言御声掛けを。

「すみません、ちょっとお話宜しいでしょうか?」


“ん?にゃによ、わらしににゃにか用にゃの?”


ん?なにこれ、頭に直接話し掛けられてる様に感じるんですけど。一応口元も動いてるし、しゃべってはいるのかな?


「いえ、先程からこちらの祭壇脇でお飲みになられて何か仰っておられた様なので、どうなさったのかなと思いまして」


“ふん、わらしはね~、わらしは、こんな事をしゅる為にれんしになったんらにゃいのよ~。わらしは世の安寧と人々の平和を見守りたくてれんしになったんれふ~。なのにこんな、わらしは、わらしは”


「あ~、お仕事で何かお辛い事があったんですね~。そうですよね~、飲んで忘れたくなることもありますよね~。そうだ、良かったら蜂蜜カクテル飲まれます?お客さん結構イケる口なんでしょう?」


“ぐすん、にゃによ、優しくしにゃいれよ。わらひはそんなにやひゅい女らないんれふからね”


「まあまあ、すぐに出来ますから、騙されたと思って飲んでみてくださいよ」


そう言って俺はカバンから土属性生活魔法<ブロック>で作ったシェイカーを取り出し、そこに指先から光属性魔力マシマシウォーター(熱湯)を四分の一ほど注ぎ入れます。

次に腕輪収納からジャイアントフォレストビー蜂蜜の入った小瓶を取り出しタラリタラリ。

マドラーで良くかき混ぜて蜂蜜を溶かします。しっかり溶け切ったところで再び光属性魔力マシマシウォーター(キンキンな冷水)を加え蓋をしてシャカシャカ。

おしゃれなカクテルグラス風の陶器に完成した液体を注ぎ入れます。

いや~、魔法ってイメージが大事って言うけど、生活魔法の<ウォーター>の温度って完全にイメージ依存なのね。以前から熱湯を出す時に火属性魔力を少し混ぜると簡単に出来たんで冷やすにはどうしたらいいのか試行錯誤してたんだけど、風属性を少々混ぜる事で割と簡単に出来ちゃったって言うね。氷が出せた時にはさすがにヤバいって思ったよな~。<アイスランス>なんって水属性魔法の上級魔法だもん、氷を自在に出せるのって確か宮廷魔法使いでもごくごく一部だったはず。(「魔法の書」水魔法の実際、参照)

うん、要秘匿案件ですな。


「お待たせいたしました、“蜂蜜ウォーター天使の微笑み”、どうぞご賞味ください」

その御方は俺がスッと差し出したグラスを受け取ると、“折角の蜂蜜色が全く分からない”と文句を仰っておられます。

仕方ないやん、マルセル村に石英なんてないんやから。この街でも窓ガラスを見掛けるけど、あのガラスってどこで手に入るんだろう。歪んでるけどしっかり板ガラスなんだよな~、あれって技術なんだろうか?スキルなんだろうか?俺だったら魔力のごり押しでワンチャン行けそうなんだよね。今度行商人様に頼んでクズガラスを買ってきてもらおう。

そんな益体もない事を考えていると、目の前の御方は手に持ったカクテルを一口。

“#$%&’()#$!!”

やる気なさそうに伏し目がちだった瞳をカッと見開いて、こちらを見詰めてまいりました。


“えっ、なに?これ物凄く美味しいんですけど。って言うかあなたなんで私が見えてるの?って言うかさっきからずっと見られていたとか?それって物凄く不味いんですけど!?”


「あ、いえ。たぶん誰にもバレてないですよ。俺もぼんやりとしか分かってませんから。何か大変そうだなと思って御声掛けしただけですんで。まぁ元気になられた様で良かったです。

連れもいますんで僕はここで失礼いたします、その容器は差し上げますんでゆっくり楽しんでください。それじゃ」

“ガシッ”


「・・・あの~、その掴んでいらっしゃる手をお放しになって頂けると嬉しいんですが?」


“助けて欲しい事があるの”


「あの、私は一介の村人ですんで、あなた様のお役に立てる様な事は」


“助けて欲しい事があるの”


「ですんで連れがってなんか周りの方々がおかしいんですが?動きが止まっていると言うか異常に緩慢と言うか」


“助けて欲しい事があるの。大丈夫、私とあなただけ時間の経過を早くしてあるだけだから。感じとしては瞬きの時間で堅パンが焼き上がるくらいの感覚かしら?”


それって実質時間停止じゃん。って言うか逃がす気ないじゃん。これ、勝手に解除って・・・されないんですよね、そうですか、分かりました。


「で、お話と言うのは一体どう言ったご用件なんでしょうか」


俺は全ての抵抗を諦め、この超常の何かのお話を聞く体勢を取った。だって仕方がないやん、こんな時間の狭間に入り込んじゃったら言う事聞くしかないやん。下手したら一瞬でボビー老人よ?こんな人の時間感覚を自在に操れる存在に目を付けられた段階で俺っち浦島太郎状態よ?さっさと要件を済ませて解放していただく、これ一択ですって。

“好奇心猫を殺す”の言葉の意味を今更ながら理解したケビン少年なのでありました。


“えっと私の事は詳しく言えないの、規則で地上の人間とはあまり深い接触を持ってはいけない事になってるのよ、ごめんなさい”


そう言い頭を下げる仕草をする何か。すでに知りたくない情報がですね。なぜわかり易くこんな場所にいるかな~、誤魔化しようがないじゃん。


“う~ん、それは力の回復の為?神像の近くにいればその分力が回復するから。でもさっきは驚いたわ、あなたがくれた飲み物、私が失っていた力を一瞬で回復させたんですけど。あれって一体何だったの?”


「あ~、そう言う事ですか~。おそらくですがあなた様が失っていた力とは人の言う所の光属性魔法に属する魔力に近い物なんでしょうね。先程の飲み物はジャイアントフォレストビーの蜂蜜を光属性魔力を加えた魔力水で割ったものですね。あなた様の周りから感じる魔力の様なものが光属性系の魔力に見えたので、おそらくそちらの方がお好みかと思いまして作らせて頂きました」


“はっ?えっ?はっ?何で地上の人族がそんな事を出来るの?と言うかあなたまだ職業授かってないじゃない、って言う事は生まれながらの魔法適性保持者って事なのかしら?それも光属性特化とか”


「いえいえ、私はその様な高尚な者ではありません。魔法適性などない平民の村人でございます」


“イヤイヤイヤ、それこそ無いでしょう。先程の飲み物に込められた魔力量、伝説の聖女が作り出した聖水を軽く凌駕するものよ?と言うかあれって完全に蜂蜜の聖水割りじゃない、何であなた聖水を作れるのよ”


うん、聞きたくないお言葉。アナさんの考察正解確定です。聖水の正体は光属性魔力マシマシウォーターでした。(T T)

村に帰ったら早速聖水とフォレストビーで奇跡の布を作製して妊婦の御婦人方にお配りしよう。こうした細かい実績作りが後の安寧を呼ぶ、村人ケビン、学習しました。


「それで光属性魔力マシマシウォーターですね、生活魔法の<ウオーター>を作る時魔力を増やすことを意識すると魔力マシマシウォーターが作れるんです。その時の魔力を光属性魔力を意識しながら行うとこの光属性魔力マシマシウォーターになります。この際の光属性と言うのは生活魔法の<プチライト>を意識すると出す事が出来ます」


“うそ、そんなやり方があったの?でも理屈から言えば出来るのかしら?って本当に出来ちゃったわよ。これ、あまり広めないでね、色々問題が起きちゃうから”


「はい、私も世の中に混乱を起こしたい訳ではありませんので、先ほどの様に個人的にこっそり楽しむ事に留めております」


“あなた変わってるわね?普通の人族であればあなたほどの見識と力を持てばもっと傲慢になりそうなんだけど。まぁ、この事に気が付いたのがあなたの様な人族で良かったって事なのかしら?

それであなたを引き留めた理由なんだけど、あなたの知恵を貸して欲しいのよ。私一人じゃどうしようもなくて。あなたにとっては迷惑極まりないとは思うんだけど、人族の意見が聞きたかったの”


「はぁ~、乗り掛かった舟と申します。今この時空間で意思の疎通が取れるのはあなた様と私だけです。どうぞなんなりと仰ってください」


“どうもありがとう。それであなたは<魔王>と言う言葉をご存じかしら?”


「魔王、それは勇者物語に度々登場する重要なキーワード。

ある時は深き山々の遥か彼方に存在し、人々を未曾有の災害に叩き落した大厄災。ある時は天空を駆ける脅威として多くの国々を討ち滅ぼした悪魔的存在。ある時は最下層魔物の一つと数えられるゴブリンを率い全人類に戦いを挑んだゴブリンの皇帝。

そのどれもが強大な脅威として普人族のみならず世界全体に襲い掛かった全人類の恐るべき敵。

数多くの勇者が戦いを挑み敗れ去り、協力し合い多くのドラマを作り出しながらなんとか打ち滅ぼした、そんな存在。


うん、私大好きです、と言うか大好物です。戦いの果てに勝利を掴むも傷付きすべてを失った剣の勇者と賢者が共に手を取り合い王都を去っていくシーンは泣いたな~。恋愛感情よりも更に深い絆で結ばれた二人、夕日に照らされた長く伸びる二人の影。堪んないよね、もう最高。

でも惜しむらくは勇者物語って勇者側や人類側からの描写ばかりで魔王サイドの描写が少ないんだよね~。剣の勇者の話に出て来る最大の敵オークの魔王、彼には理性と言うか知性の様なものを感じるんだよね。配下には普人族の女性やウルフ種なんかも従えてたし。最後の戦いの場面なんて配下を守ろうとしてたんだよね。

あれって絶対物語では描かれてない背景があると思うんだよな~。剣の勇者もオークの魔王の事を一切語らないんだもん。あれって語らないんじゃなくて語れない何かがあるんだと思うんだよね。

ってごめんなさい、テンションが上がってつい。で、その魔王がどうかしたんですか?」


“えっ、あっ、うん。その魔王なんだけどね。あれって自然発生的に出てくる訳じゃなくって、魔王の職業を授かった者が魔王に成るってだけなのよ。それで今回私がその魔王選定の役目を仰せつかってしまったって訳。

どうしたらいいと思う?”


・・・・勘弁してください。

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