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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora


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第29話 村人転生者、無自覚にやらかす

冬の日が落ちるのは早い。それはこの世界でも同じ、季節は移り行き日差しの角度もその季節に合わせて変わって行く。四季がある国ではそれが普通であり当たり前の事、人々はその季節季節に合わせた生活リズムを刻み、日々の生活を送っている。

行商人様の話では世の中には常に夏という“常夏”と呼ばれる日の長さが一年を通してあまり変わらない地域もあるらしいのだが、この内陸の辺境でそんな事を気にする様な余裕はない。

つまり何が言いたいのかと言えば、


「ドレイク村長代理、日が落ちて周りが暗くなって来たんですが。これってちゃんと村に帰れるんですか?」


「ハハハハ、こんな予定じゃなかったんだけどね~。まぁ、ここは一本道だし、ちゃんと(わだち)を踏んで行けば大丈夫だよ、多分」

絶賛困難に直面していると言う事だろう。


「って言うか村長代理がゴルド村のホルン村長に誘われてお酒を飲み始めちゃったのが全部悪いんじゃないですか!

ホルン村長、“てっきり泊まって行くもんだと思ってた”って目茶苦茶恐縮してたじゃないですか!

ドレイク村長代理が強行軍を組み過ぎなんですよ、いくら魔物が少ないこの時期を利用したいからってもう少し計画性を持って行動してください」


授けの儀の前の子供に説教される村長代理、村の剣術指南役のお爺さんと言いこの村の大人って。ケビン少年が一人頭を抱えるのも無理からぬ事であろう。


“ガサゴソガサ”

「ケビン君、それは一体何なんだい?」

カバンを漁り何かを取り出したケビン。ケビンは取り出したそれを御者台の両端の突起に括り付け始めた。


「これで良し、<プチライト><プチライト><プチライト><プチライト><プチライト>」

ケビンが光属性の生活魔法<プチライト>の魔法名を唱える。当然のように詠唱短縮なのだがドレイク村長代理はその件に関してはすでに諦め、今この場で起きている現象に目を見開いていた。


ケビンが取り出した物、いや、道具と呼ぶべきか。そこから発せられる<プチライト>の明かりは薄闇迫る草原の馬車道を明るく照らし、遥か前方の道筋を確りと映し出してくれていたのだ。そう、映し出したのである、<プチライト>の明かりが。


「・・・ごめん、ケビン君。この“魔道具”について説明して貰ってもいいかな?色々言いたい事や聞きたい事はあるんだけど先ずはケビン君の話を聞くのが一番早いと思うんだよ」

元商人ドレイク村長代理の判断は早かった。分からない事はとりあえず棚上げして話を聞く、考えるのはそれから。

冒険者として、行商人として数々の苦難をすり抜け、辺境の地の寒村を守り続けてきた経験は伊達ではないのだ。


「あ~、これですか?僕は“ライト棒”って呼んでるんですけど、見ての通り先を照らすための道具ですね。

カンテラの明かりもそうですけど<ライト>の魔法って全体を照らすじゃないですか。でも暗い時に目の前にそんな明かりがあったら眩しくて見えにくいですよね?

だったら周りを遮って明かりの方向性を決めればいいってのが最初の発想です」

そう言うとケビンはカバンの中から二枚の紙を取り出しそのうちの一枚を器用に折り始めた。


「はい、箱の完成。で、<プチライト>。最初はこうやって周りを箱状のもので囲って光の方向を決めようと思ったんですよ。これはこれで良かったんですけどね、やっぱり暗いよなってなりまして」

ケビンは続いてもう一枚の紙をクルクルと丸め、三角錐の形にすると<プチライト>と唱えました。


「ほら、見てください。こっちの方がしっかり明かりが前方に届くんです。照らされた光の範囲も後から作った<プチライト>の方が確りしてるでしょう?箱型の方は全体に分散してしまうので割りと暗いんです。

で、そういった事を踏まえさらに改良を加えたのがあの“ライト棒”です。全体は土属性生活魔法の<ブロック>で固めた土ですね。形成までは手で行いよく陰干しをして確りと固めます。そして内部を布でよく磨き艶々にして行きます。泥団子と同じやり方ですね、ここが一番苦労しました。

そして<ブロック>で固める事でピカピカ光を反射する三角の筒の出来上がりです。


ただそれだけだと<プチライト>を何度も唱えないといけないんですよ、僕も前はちゃんと詠唱してましたから。それが面倒だったんで魔力の通りのいい棒を刺してそこから魔力供給を行ったら光がずっと消えないんじゃないかって発想で作ったのがこの形です。

<プチライト>を何度も唱えたのはそうしないと暗いからですね、<プチライト>でも数が揃うと結構明るいでしょう?」


何でも無い様にサラリと答えるケビン、だがそれは完全に門外不出の魔道具作製方法のそれであった。村長代理ドレイクは思った、“ケビンは天才か?”と。


夜間の移動は商人にとっては死活問題である。魔獣の危険性以外にもただ暗いと言う事がどれほどの危険を呼ぶか。安全な場所で野営を出来ればいい、そうもいかない状況など数多く存在するのだ。

それにこの<プチライト>を用いるという発想も素晴らしい。生活魔法の<プチライト>はそれこそ誰でも使える魔法、その明かりがこれほど周囲を照らすなど誰が考えようか。

“この道具は売れる”、ドレイクの元商人の魂が大きく叫びを上げようとしたその時であった。


「あ、これ、普通の人には使えませんから」

不意の一言に固まるドレイク村長代理、その横でガサゴゾカバンを漁るケビン。


「これこれ、はい、村長代理。この筒の真ん中に<プチライト>と唱えてみてください。一回で結構です」

それは木枠で囲われた箱であった。中には先ほどケビンが説明した様なつやつやした三角状のへこみがあり、その中心部に向け言われた通り<プチライト>の呪文を唱える。


「“大いなる神よ、その慈悲に寄りて我に(ともしび)を与えたまえ、プチライト”」

<プチライト>の光は筒の中で方向性を与えられ光を届ける。暫くすると魔法の効力が切れ、辺りに暗闇が訪れる。


「それが“ライト棒”の初期型、僕は単に“筒”って呼んでましたけど、まぁ最初の形です。

で、欠点は二つ。一つはその重さ、筒内部を土属性魔法で作ってるからとにかく重い。紐で縛って手持ちにしてたんですけど正直邪魔くさかったです。

二つ目は先ほど言った様に生活魔法なんで時間が経つと切れちゃうんですよ、何度も唱え直すのも面倒ですしね。

そこで魔力伝達のいい木の棒を刺してそこに魔力を流す事で点灯時間の問題を解決したんですが、普通の人がそれをどうやってやるんです?

ボビー師匠も言っていたじゃないですか、“魔力纏い”は高等技術だって。手元の棒に魔力を流し込むなんて普通は出来ませんよ?」


「あ」

そう、ドレイク村長代理はすっかり忘れていた。“魔力纏い”が当たり前になっていて気付きもしなかった。普通の人は物に魔力を流し込むなんて事は出来ないという事を。村民全員が魔力を纏えるマルセル村がおかしいという事を。


「それとこの棒なんですけどね、ちょっと特殊なものを使ってるんです。村長代理は森の奥の老木ってご存じですか?周りが地面剥き出しになってる場所に一本だけ生えてる変な樹です」

ドレイクはケビンの言っている木に心当たりがあった。それは森の奥にある広場、その周りには何故かあまり魔物が近づかないと言う安全地帯であった。


「あの木って実は動くんですよ、根っこをぐにょぐにょって。まぁ近くに寄っても襲って来る訳でもないし、“不思議な樹だな~”くらいにしか思ってないんですけどね」


“ブッ”

ケビン君は今なんて言った?根っこがぐにょぐにょ動く?それってもしかしなくてもトレントじゃないか!?そんな危険な魔物が森の奥とはいえこんな身近にいたなんて。


「この村ってこれと言った娯楽も無いじゃないですか?だから七歳の頃から訓練がてらその樹の所に通ってるんですよ。ほら、動く樹なんて見てて飽きないじゃないですか。

二年ほど前から肥料を撒いてるからか、今じゃすっかり元気になって瑞々しい若葉生い茂る大樹になってるんですけどね。その樹がくれた枝の一部があの取っ手部分ですね。因みに僕の木べらの材料もその大樹の枝だったりします。

村長代理も使ってみて分かったと思うんですけど、すごく魔力の通りがいいんですよね~。この木べらにしろライト棒にしろ“魔力纏い”ありきの道具なんですよ。ね、売れないでしょう?」


材料がトレントってだけでも高級品、その上高度な魔力制御技術“魔力纏い”が前提、そんなもの売れる訳がない。物はいいんだよな~、物は。でも物凄い無駄使い感。多分この棒だけの方が魔法杖の材料として高く売れる。


「ドレイク村長代理がどうしても商品にしたいって言うのなら魔道具職人に作らせればいいんじゃないですか?この筒の部分を薄い金属板にします、銅板ならそういう物もあるかもしれないですね、もしくは軟鉄、堅さはそこまで必要ないんで薄い金属って言うのが重要です。外装は木枠でも金属でも結構です、ある程度の丈夫さがあればいいんですから。そしてこの<プチライト>の部分に光る魔道具、ある程度の明かりが確保できれば何でもいいです。それを付けて明かりの点灯消灯を可能にすれば出来上がりです。

物はすでにあるんだから改良代用すればいいんですよ、なにもこの道具にこだわる必要なんてないんですから。

重要なのは筒の形状と明かりの確保、それと筒の内側で光を反射させること。これを基に研究開発すればもっといいものが作れますよ、その“筒”は差し上げますから好きにしてみてください」

そこまで言うとケビンは話は終わりとばかり手に紐を持って御者台に座るのだった。

ドレイクも仕方がなしに御者台に座り馬車を走らせる。暗い草原の馬車道を、明かりをつけた馬車がマルセル村に向かってひた走る。


「ケビン君、さっきから気になっていたんだけどその手に持っている紐は一体何なんだい?」

ドレイクは話題を変えようとケビンが手に持つ紐について聞いてみた。


「あぁ、これですか?さっきも言いましたけど、<プチライト>の魔法って時間が来ると切れちゃうんですよ。だから魔力の通りがいい棒に魔力を送る事で長時間の点灯に成功したんですけどね。でも今ってライト棒は馬車に括り付けちゃってるじゃないですか、魔力を送れないんですよ、この状態だと」

確かにそうだ、あまりに当たり前にケビン君が座っているから全く気が付かなかったがこれだと話が違ってしまう。

ドレイクは改めてケビンに目をやる。するとケビンはさも当たり前のように話を続けた。


「この紐、キャタピラーの攻撃糸を()り合わせて作ってあるんですよ。ライト棒の取っ手程じゃないんですけどそれなりに魔力の通りが良いんですよね。その性質を利用して僕からライト棒に魔力を送ってるって感じです。

魔力伝達率はヨシの方が上なんですけど、ヨシの繊維はそこまで丈夫じゃないんで。攻撃糸の紐の方が丈夫だし何かと使い勝手がいいんですよ」

少年ケビンは“いい質問です”とばかりに気を良くしながら答えるのだった。

だがそれを聞いたドレイク村長代理の方はと言えばそれどころではなく、“遠隔での魔力供給?理屈は分かる、物体に魔力を通しその先端を光らせてると思えばいい。でもそんなこと普通思い付くのか?魔道具職人でもない者がその発想だけで魔道具もどきを作り上げてるって事なのではないのか?”と、大混乱に陥ってしまうのだった。


今日と言う一日でどれほど驚かされるのか。マルセル村に向け馬車を走らせる村長代理ドレイク・ブラウンは隣の席で鼻歌を歌うケビン少年に目をやり、“この少年に常識を教えてくれる友が出来ます様に”と願わずにはいられないのであった。

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