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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora


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第19話 転生勇者、苦戦する

“スー、スー、スー、スッ(ポキッ)”

膝を付き、ガックリ肩を落とす俺。本日何本目になるか分からないヨシの茎を取りに訓練場隅の草の束の元へ向かう。

何本かまとめて手元においておけばいいとも思うのだが、それはケビンお兄ちゃんから禁止されている。

ケビンお兄ちゃん曰く、「始めから失敗を前提とした訓練で上手く行くなんて事は無い。それよりも何が悪かったのか、次はどうしたらいいのか。前回よりも少しでも前に進もうと言う思いが成功を導く。

ヨシの束に新しいヨシを取りに行くと言う行為もまた大切な修行なんだよ」とのこと。

この一見無駄に見える時間を使って気持ちをリセットし、新たな気持ちでチャレンジしろって事なんだろう。


よし、心機一転がんばるぞ。俺は新しいヨシをその手に掴み、また素振りを再開するのでした。

“ポキッ”

「・・・・」

俺の心が折れそうです。



「ケビンお兄ちゃん、全く上手く行きません、どうしたらいいんですか?」

ボビー師匠の所での修行を終えた俺は、お昼ご飯を食べた後ジミー君とエミリーちゃんを誘ってケビンお兄ちゃんの畑を訪れました。


って言うかケビンお兄ちゃん、今度は何を作ってるの?

畑の隣の草原に、深さ一メートルほどの堀に身体を沈めレンガを積み上げているお兄ちゃん。既に三方の壁は出来上がっていて、今は残った壁のレンガ積みをしているところの様であった。


「ん?あぁ、ジェイク君にエミリーちゃん、ジミーも一緒って何かあったのかな?」

ニッコリ微笑んでそんな事を聞いてくるケビンお兄ちゃん。何かあったのかはこっちの台詞ですから、一体何を作ってるんですか?


「これかい?ちょっとホーンラビットの実験をしようと思ってね。お~い、団子、ちょっとおいで」


“ピョンピョンピョン、ピョコッ”

ケビンお兄ちゃんが壁の内側に呼び掛けるとやって来たのは黒い毛並みのホーンラビットであった。


「はぁ?えっとそれってホーンラビットですよね?なんで大人しいんですか?って言うか角は何処へ行ったんですか角は!?」


「角は危ないから切った、そうしたら大人しくなった、以上!」

どうだ凄いだろうと言わんばかりに胸を張るケビンお兄ちゃん。いや凄いけど、何をやってるんですかあなたは!?

スライムにビッグワームにホーンラビット、この人は一体何を目指しているのだろうか。

ケビンお兄ちゃんの予測不可能な行動に、頭を抱える年少組一同なのでありました。


「団子ちゃん、今度はキャロルですよ~♪ちゃんと待てが出来るなんて、団子ちゃんはお利口さんですね~」

エミリーが陥落した。黒く艶やかなフワフワの毛並み。でっぷりとした体躯から繰り出されるピョコピョコ移動する可愛らしい動き。そのつぶらな瞳で下から見上げられ、コテンと首をかしげられた時、エミリーは胸に手を当て膝から崩れ落ちた。


前世には“可愛いは正義”と言う格言があった。まさに至言、森の悪魔と恐れられ多くの命を散らせた凶悪な魔獣は、その“可愛い”と言う新たな武器で最強の戦士の一角を切り崩したのだから。

でもエミリーさんや、あなた昨日そんなホーンラビットを撲殺していませんでしたっけ?やり過ぎが原因でボビー師匠から森での新しい木刀の使用を禁止された腹いせに直接殴り殺してませんでした?団子ちゃんは違うと、あんな突進馬鹿と一緒にするなと、そうですか、分かりました。

可愛いものを手にした女の子は修羅になる、俺、学習しました。



「・・・ケビンお兄ちゃん、“魔力纏い”が上手く出来なくて困ってるんだよ、助けてよ~」

ケビンお兄ちゃんが「あ、ジェイク君が仕切り直した」とか言ってますが気にしてはいけません。全部ホーンラビットの飼育なんて始めたケビンお兄ちゃんが悪いんです。

ケビンお兄ちゃんは少し考え込んだ素振りを見せた後、ちょっと手を出してと言って俺の両手を掴みました。


「目を瞑って意識を自分の体の中に集中してね。何か違和感を覚えると思うから分かったら教えて」

俺は言われるまま目を瞑り意識を自身の身体に向けます。するとしばらくしてケビンお兄ちゃんの掴んだ両手から何か温かいものが身体に入り込んでくるような感覚がありました。


「それじゃ今度は今感じているその温かな感じを僕の両手に押し返そうとしてみてくれる?そうしようって強く考えてくれるだけでいいから」

ケビンお兄ちゃんの言葉に従い両手から身体に入り込んだ温かな感じを同じ様なエネルギーで押し返すイメージをする。


「うん、いい感じ。今度はその感じを自分の両手に留める様にしてみて。両手がぬるま湯に浸かってる様な感じかな?」

両の手に集まるエネルギー、ほんのり暖かく手を包み込むように何かが覆っているかのように感じる。


ケビンお兄ちゃんは隣にいるジミー君にも同じような指導を行い、俺たちは共に両手に宿るこの奇妙な感覚に驚きの表情を浮かべていた。


「うん、出来たみたいだね。分かったと思うけどそれが僕の言う“基礎魔力”って奴だね。何の属性も設定されていない純粋な魔力、子供の内だったら簡単に出来るけどボビーさんみたいに長年属性魔法に慣れ親しんだ人には難しいと思うよ。

逆に魔法属性の無い人なら割りとすぐに出来るんじゃないかな、ヘンリーお父さんは魔法属性が無いんだけどそれでも二日掛かったって言ってたかな。

メアリーお母さんはああみえて風属性持ちなんだよね、全然出来なくて不貞腐れて大変だったんだよ。


次はその応用ね、両手を向かい合わせにしてその間に何か球の様な物が出来るのを想像してみて。掌の魔力を捏ねて作るって考えてもいいし、両手から力が流れ込む様に考えてもいいから、一番やり易い方法でやってみて。

ジミー出来てるよ、ジェイク君は少し不格好だけど出来てるね。それが魔力球、それを投げつけるだけでもちょっとした攻撃になるから。相手の注意を引く時とかには使えるかな。

で、その球の中に生活魔法の<ウォーター>を淹れるイメージで“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”。ほらね、なんちゃってウォーターボールの出来上がり。

二人にはこのなんちゃってウォーターボールで玉投げをしてもらいます。ちゃんと手に魔力を纏わせないと受け止められないから、お水ばっしゃ~ってなっちゃうから頑張って。慣れてきたらどんどん速さを上げて行くと難しさも上がるよ。団子~、ちょっとお出で~」


ケビンお兄ちゃんは一通りの説明を終えると、エミリーと戯れている角無しホーンラビットの団子を呼び出しました。すると「団子、いつもの玉遊びをするよ」と言ってなんちゃってウォーターボールを作って遊び始めました。


ウォーターボール(偽)を投げるお兄ちゃん、それをオデコの周りに魔力障壁を張ってはじき返す団子。魔力障壁を張って・・・はぁ!?ホーンラビットが魔力障壁?

ケビンお兄ちゃん曰く、緑や黄色が畑仕事をしてるのを見て勝手に覚えたらしいとの事。ホーンラビット以下の俺って一体。楽しそうにウォーターボール(偽)で遊ぶお兄ちゃんと団子、それを見て自分もやりたいとせがむエミリー。

俺とジミー君は目を合わせてコクリと頷く。負けられない。


その日俺たち三人がびしょびしょに濡れたまま家に帰り、親に盛大に怒られたと言う事は言うまでもありません。



――――――――――――――――


何かジェイク君たちが畑に遊びに来た。

畑ではホーンラビットの飼育施設建設がもう直ぐ完了と言う所まで来ていた。このホーンラビットの飼育施設、地面の下にもブロックの壁を作らないといけないから少し大変。

だってウサギさんなんですもの、普通の塀くらい下に穴掘って潜り抜けて脱走しちゃいますから。

ウサギは穴を掘る、これ常識。小学校のウサギ小屋だってちゃんとしたところは床にコンクリートを流して固めてありますから、もしくは俺がやってるみたいに地面に壁を作るとかね。

だもんでワームプールを作るよりも大変な事になっております。これは各農家の皆様で飼育ってのは難しいかな?やるなら村営牧場?ラビットちゃんとのふれあい牧場(食肉用)なんてなんともこの世界らしい殺伐加減。


でも実際畜産農家のご家庭ってそう言った事ですもんね、某水族館で泳ぐマグロや展示スペースのタラバガニを見て旨そうって感想を漏らした俺は悪くないと思います。

でもそのうち“うわ~、ウサギさん可愛い~、お母さん、今晩はホーンラビットの香草焼きをお願い~♪”って事を言う子供が出る様になるんだろうか。

うん、考えない事にしよう。旨いものが食べれればそれでよし、お肉様に向ける情熱は未だ衰える事を知らないケビン君なのであります。


そんでジェイク君たちが何しに来たかと言えば。


「・・・ケビンお兄ちゃん、“魔力纏い”が上手く出来なくて困ってるんだよ、助けてよ~」

清々しいまでの降参っぷり、お前は青い狸に縋り付く眼鏡の少年か?


エミリーちゃんが頑張ってた姿を見ていたから意地でも独力で習得するかと思っていたんですが、やっぱり物体に魔力を纏わせるのは難しかった様です。

分かってるんなら最初から教えてやれ?それをしちゃったら頑張ったエミリーちゃんが可哀そうじゃないですか~。苦労は分かち合わないと~。

ま、ジェイク君とジミー、二人とも相当苦戦してるってのは分かったんで、ちょっとした手解きをば。


俺なんかは赤ん坊の頃の黒歴史のお陰でサクッと出来ちゃった口だから苦労して身に付けるって感覚がいまいちわからない。俺の基本技術って畑仕事に必要だから覚えたものと辺境で安全に生き残りたいから身に付けたもの、後は大福たちと遊んでたら身に付いちゃったものだけだし、明確な目標や目的があって身に付けるなんてした事が無いんだよね。


その点この子たちと来たら。お兄ちゃん、君たちが眩し過ぎて真っ直ぐ目を見れないよ。純真な子供たちって尊いよね。

因みにお兄ちゃんが尊敬してるのはドレイク村長の様な清濁併せ呑む大人、結果この村での冬場の餓死者ゼロですから、行商人様に聞いたところ他の領地では割と普通に死んじゃうらしいです。

小さい頃会うたびに“生き残れてよかったね”って言ってたのってそう言う事なのね。老人と子供、何処の世界でも弱い者から死んじゃうからな~。(遠い目)


で、ジェイク君たちですが、この際基礎魔力を身体に纏う基本的な“魔力纏い”を教えてしまおうと。これを覚えると何が出来るか、そう、キャッチボールが出来るんですね~。水辺で大福とびしょびしょになりながら遊んだな~。

アイツワザと膜の薄いウォーターボール(偽)を投げてきやがんの。自分は濡れても嫌どころか嬉しいからってギリギリ攻めやがって。次第に白熱して各種属性ボール(偽)を投げ合ったり魔力球の周りに属性纏わせて投げたりって色々と。

属性を纏わせた魔力球は同じ属性を纏わせた手じゃないとキャッチできないんですよね~。属性が違ったり基礎魔力だったりするとはじき返すかその場で弾けちゃうって言うね。基礎魔力の魔力球も属性付きの手だと弾いちゃいます。その辺の心理戦が面白いんですが。

そんな感じで遊んでいれば勝手に魔力操作の練度が上がって物体への“魔力纏い”なんて余裕で出来る様になるんですけどね、最初にこれを言っても半信半疑で気持ちが入らないかなと思うんですよね。だって遊んでるだけだし、ジェイク君<真性>だし。


“バッシャ~”

あ~あ、びしょ濡れになっちゃってまぁ。家に帰ったらお母さんに怒られるぞ~。

でもまぁみんな笑顔だからいいんじゃない?だってまだ八歳のお子様なんだから。俺が八歳の頃なんか肉の事しか考えてなかったっての。今も変わらない?仕方がないじゃん、美味しいお肉様が食べたいんだから!


俺はエミリーちゃんとウォーターボール(偽)を投げ合って遊ぶホーンラビット飼育観察用実験魔物の団子を見ながら、この試みに確かな手ごたえを感じ深い笑みを浮かべるのでした。

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