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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora


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第17話 転生勇者の幼馴染みのエミリーちゃん、苦悩する

「せいっ、せいっ、せいっ」

エミリーは今日も今日とて木刀を振るっていた。

大好きな幼馴染みジェイク君と共に、いつも見守ってくれるジミー君と共に。自身の力を信じ、渾身の一振を意識して。


「せいっ、“バキッ”・・・」

「また折れちゃったね」

「良い良い、木刀などいくらでも用意出来る。それよりも折れる事を恐れ、変に縮こまってしまう方が問題じゃ。エミリー、どんどん折っても良いから全力で取り組みなさい」


心配してくれるジェイク君とジミー君、気にしなくてもいいと言ってくれるボビー師匠。みんなの優しさが逆にエミリーを追い詰める。申し訳ないと言う思いが日に日に積み上がる。それは折れた木刀の数に比例して心に重くのし掛かる。


「そこまで。皆木刀を納め集合しなさい。エミリー、新しい木刀は明日までに用意しておくので気にするでないぞ?では、皆気を付けて帰りなさい」


「「「ありがとうございました、ボビー師匠」」」


あれから更に予備の木刀を二本折ってしまい、ついに木刀のなくなった涙目のエミリー。

流石の幼馴染みたちも今のエミリーにどんな言葉を掛けて良いのか分からなかった。


家が見え二人と別れるエミリー。見れば丁度玄関扉が開き、中から今日の調薬修行を終えたケビンお兄ちゃんが出て来たところであった。


「エミリーちゃんこんにちは。浮かない顔をしている様だけど何かあったの?良かったらお兄ちゃんに話してごらん」


いつも私たちを見守ってくれるケビンお兄ちゃん、困った事があると話を聞いて一緒に考えてくれる優しいお兄ちゃん。エミリーは目に涙を浮かべながら、これまで溜まりに溜まった心の(おり)を、大好きなケビンお兄ちゃんに打ち明けるのであった。


「そうか~、それは大変だったね」

“良く頑張ったね。”と言いながら優しく頭を撫でてくれるケビンお兄ちゃん。ケビンお兄ちゃんは腕を組み、暫く“う~ん”と唸ってからニッコリとエミリーに微笑み掛けるのでした。


「エミリーちゃんには今からある訓練をして貰います。とっても地味だしイライラしてくると思うけど、これが出来る様になったらお兄ちゃんが取って置きの贈り物をあげましょう。頑張って試練を乗り越えられるかな?」


答えは最初から決まっています。私は直ぐにお兄ちゃんの提案した訓練に取り掛かるのでした。


“スーッ、スーッ、スーッ、スー(ポキッ)”

「・・・・・」


“スーッ、スーッ、スーッ、ス(ポキッ)”

「・・・頑張るぞ~!」

繰り返される訓練、エミリーは挫けそうに成る自身の気持ちを鼓舞し、山の様に用意されたそれに手を伸ばした。ケビンが用意したそれ、水辺の草むらに生えるヨシの一振に。


ケビンの提案した訓練は次の様なものであった。先ずは自身の身体にある魔力を意識する事。重要なのは想像力であり、自身が魔力で満たされていると思う事が重要との事であった。

次にその魔力が掌を通じ自身の持つ得物全体を包み込む様に考える。そして素振りをする。たったそれだけ。


簡単だと思った、直ぐに出来る様になると思っていた。甘かった。ケビンお兄ちゃんの試練がそんなに甘い訳がないのだ。


“パキッ”

こちらを心配そうに見詰める幼馴染みたち、腕を組み、じっとこちらを観察する様に見るボビー師匠。

皆が見守る中、エミリーの訓練は続けられるのであった。



“ビュン、ビュン、ビュン、ビュン”

あれから十日の月日が経った。エミリーの振るうヨシの茎は、折れる事なく風切り音をたてるほどになっていた。

その様子に感心するジミーと暖かな笑みを向けるジェイク、そして一人ボビー師匠だけが驚愕の表情を浮かべていた。


「ボビーさん、こんにちは。弟たちがいつもお世話になってます」

そう言いながら訓練場にやって来たのは、ヘンリー家のケビン少年であった。


「あ、ケビンお兄ちゃん!」

ケビンの登場に驚きの顔を浮かべるエミリー。そんなエミリーにケビンはにこやかに笑い掛け、エミリーの訓練を眺めるのだった。


「エミリーちゃん、頑張ってヨシを折らずに振れる様になったんだね」

ケビンの前で自身の成果を披露するエミリー、ケビンの“全力で振ってみて”の要求も難なくこなすエミリーに驚きと共に笑顔を深めるケビン。


「それじゃ、エミリーちゃんにはお兄ちゃんがご褒美をあげないとね。はい、約束の贈り物」

そう言いケビンが差し出したもの、それはエミリーの身体にはやや大きめな棍棒であった。ヨシと同じ様に振ってみろと促すケビンに、恐る恐る棍棒を振り下ろすエミリー。


“ビュンッ”

風を切り裂く棍棒、その一振はこれまでのどの振りよりも速く鋭く、力強いものであった。


“全力で振ってみて”

ケビンが与えた解禁の言葉。これまで無意識のウチに押さえていた、決して全力を出してはいけないと思い込んでいた、その枷が取り除かれる。

エミリーは笑っていたのだろう、普段とは違う獰猛な笑みが、身体を震わせる喜びが。


“ボッ”

「音を置き去りにする必殺の一撃、“撲殺姫エミリー”は今この瞬間、産声をあげたのだった~!」


「ケビンお兄ちゃん、変な語りを入れるの止めない?エミリーが顔を真っ赤にしてるよ。そんなことばっかりやってるとお父さんに“また勇者病か”って言われちゃうよ?」


ジミー君に怒られて頭を下げるケビンお兄ちゃん。ボビー師匠に“お主もそろそろ剣術を習わんとな”と言われ顔を引き攣らせるケビンお兄ちゃん。“今のは一体なんだったんですか!”とジェイク君に詰め寄られ、笑って誤魔化すケビンお兄ちゃん。いつも優しい大好きなケビンお兄ちゃん、本当にありがとう。


エミリーはケビンから貰った棍棒をギュッと抱きしめ、喜びに涙するのだった。


――――――――――――


儂は駄目な師匠じゃ。

目の前で悩み苦しむ幼い弟子になにもしてやる事の出来ない無力な自分に、自嘲しつつ歯噛みする。


今日もまた練習用の木刀を折り落ち込む弟子のエミリー。原因は分かっている、エミリーの振り込む力に木刀が耐えられ無いのだ。

こうした事は授けの儀を終えたスキルを授かったばかりの者の中ではたまにみられるさほど珍しくもない現象だ。身体強化のスキル、攻撃力上昇のスキル、いずれにしろ木刀の耐久値を越える力が加われば、木刀など一溜まりもない。


ジミーやジェイクは恐らく剣術系のスキルの素質があるのじゃろう。エミリーもそれに類いするなんらかのスキルの素養があるのだろうが、それを上回る剛力系の才能に目覚めたのやもしれん。


こうした際の対処は単純、その力に耐えられる武具を用意すれば良い。たったそれだけ、たったそれだけの解決法がこの辺境の村ではとてつもなく難しく、またそんな資金もない。それは剛力系の才能に耐えられる武器に使われる鉱物が特殊であり貴重であるからだ。


ミスリル、アダマンタイト、小指の先程の塊にどれ程の値が付くか。その為剛力系の才能に目覚めた者は拳による接近戦やオークやオーガの棍棒を使ったりハンマーの様な大型武器を使ったりと、その力を活かした戦い方に変更する者がほとんど。それはこれまでエミリーが培った技術を全て捨てろと言う残酷な宣告。儂にはどうしてもそんなことは出来んかった。


「良い良い、木刀などいくらでも用意出来る。それよりも折れる事を恐れ、変に縮こまってしまう方が問題じゃ。エミリー、どんどん折っても良いから全力で取り組みなさい」


言ってる事は弟子思いの師の様でいて、ただの逃げ。先を見据えての放任ならば良い、先が見えずただ弟子の心を傷付けるだけの指導者などに何の価値がある。子供達を家に返し、己の無力に苦々しさを感じつつ家に入る。


作業場に向かい木片を手に取る。今儂が出来る事はただ弟子の為に練習用の木刀を削る事。ボビー老人は自身の悩みを打ち払うかの様に、作業椅子に腰掛けただ黙々と木刀を削り続けるのであった。


“スーッ、スーッ、スーッ(ポキッ)”

“スーッ、スーッ、ス(パキッ)”


それは奇妙な光景であった。訓練場の隅に山の様に積まれたヨシの茎の束、そこから一本を掴み素振りを行うエミリー。折れればまた一本、また折れれば他の一本。ゆっくりと、正確に、これまで培った思いを注ぎ込み真剣な表情でただ繰り返す。

それにどんな意味があるのか、虚しく折れていくヨシの茎を、ボビー老人は黙って見詰めることしか出来ないのであった。


十日の月日が経った。


“ビュン、ビュン、ビュン、ビュン”

エミリーの手に持つヨシの茎は、風を切り裂いて唸りをあげていた。

ボビー老人はその光景に驚愕した。風を切り裂く音に驚いたのか?ヨシの茎を折らずに振り下ろすエミリーの技術に驚いたのか?


「あれは、“魔纏い”じゃと!?」

ポツリと零れる一言。“魔纏い”、それは自身に魔力を纏う高等技術、ボビー自身その技術を使い神速の斬撃を可能としているほど馴染み深い、さりとて習得が困難な魔技。それを僅か八歳の幼子が目の前で行使する、その光景を目にしながら未だ信じられない思いがボビー老人の心を支配していた。


「エミリーちゃん、頑張ってヨシを折らずに振れる様になったんだね」

そこにやって来たのはヘンリー家の長男ケビン。今年十歳になるケビンはそろそろ剣術を習わねばならないのだが、彼は調薬に興味を示し、ミランダさんのところで修行を行っているとの事。

ケビンは何やらエミリーに話し掛け、満足気に笑うと彼女に手持ちの棍棒を渡すのだった。


それは短槍程の長さで使い様によっては木刀としても使えるもの。エミリーはその棍棒を振り上げ、先ほどまでのヨシの様に、

“ビュンッ”


これまで一度も聞いたことの無い振り下ろし、それは棍棒が出して良い音なのか!?自身の一振に驚きつつも残身を取るエミリー、その手にする棍棒にうっすら映る魔力の煌めき、エミリーは“魔纏い”を完全にモノにしていた。


“ボッ”

ケビンの“全力で振って”との指示に、これまで押さえていた全ての枷を外したエミリーの一撃が振り下ろされる。その一振は達人のそれ、音を置き去りにする必殺の一打。


子供達の成長は早い、大人たちの心配を一足飛びに、親の心配を仲間たちで乗りきり、いつの間にか巣立って行く。

儂は駄目な師匠じゃ。

エミリーの苦悩も、ジェイクの危うさも、ジミーの成長も、何一つ役に立つことは出来なんだ。ただ子供達よ、どうか曲がらず素直に逞しく成長しておくれ。ボビー老人は共に笑う弟子たちに目を細め、彼らの幸せを祈るのであった。



「それはそうとケビン、お主そろそろ訓練場に顔を出さんか。この村の子供は十歳になったら儂のところで剣術を習うのが仕来たりじゃ。調薬の方は粗方目処が付いたとミランダさんより聞いておる。逃げるでないぞ?」

ボビー老人は引き攣り顔のケビンを見て、高らかに笑うのであった。

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