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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora
第一章 こんにちは、転生勇者様

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第110話 村人転生者、村人の悩みを聞く

在りし日の追憶、天高く馬肥ゆる秋。新米に焼き秋刀魚、大根おろしに醤油を掛けて、脂の乗った焼き立ての身を箸で解しオンザライス。米、秋刀魚、大根おろしの三層構造を大胆に口内にGO。

今考えると物凄い贅沢な暮らししてたんだな、実際。


先ずオーランド王国に海は無い、穀物の米を見た事がない、大根はデーコンで代用可能かも、でも醤油がな~。大豆っぽい豆はあるからいけなくはないと思うけど、作り方を知らないんだよね~。豆を腐らせる未来しか思い浮かばない。

よくラノベだと転生主人公が米を探したり醤油や味噌を自作したりするけど、彼らは天才か?ご実家は味噌蔵でもやられておられるのでしょうか?


手前味噌とは言うけどさ、個人的に作れなくもないらしいけどさ。米麹はどうするのさ、その辺の白い菌糸を適当に使っても腐るだけよ?発酵と腐敗は紙一重なのよ?

人類の長年の努力と研鑽に喧嘩を売る様な架空の世界の転生者ども、彼らの活躍に踊らされてどれほど多くの転生者が道を踏み外した事か。

自家製マヨネーズは日持ちしないからね、表面処理が甘い卵は生食厳禁だから、TKGは外国人ドン引きって話は有名だと思うんだけどな~。


我が村の転生勇者様が、前世知識を使った食事改革に手を出さないでくださって本当に良かった。集団食中毒で村人全滅なんて事になったら目も当てられない。

お前はいいのかって話だけど、俺は前世知識なんか使って無いしね、って言うかそんなに知らないし。

(わたくし)、全て今世知識の応用でございます。と言うかほぼほぼ妄想、後は実験検証有るのみ。勇者病<仮性>重症患者は伊達ではないのですよ、ワッハッハッハッハ。


秋になり冬場に向けての収穫が本格化すると、どうしても食べ物の事ばかり考えてしまう。この時期のホーンラビットは肥えてて美味しいんだよな~、村の男衆が山狩りを始めた事で初めて発覚したこの事実、この二年の内に俺の舌もすっかり贅沢になったもんだ。


「ケビン君、干し芋用のお芋はここに置いておけばいいの?」

「あ、アナさんありがとうございます。後で纏めて洗っちゃうんで、そこに集めておいて下さい」

この干し芋用のお芋、表面が白いと言うかクリーム色と言うか、赤くない。どうしても在りし日の記憶が芋は赤い皮って言う先入観をですね、なんか凄い違和感。

先入観って言えば身が黄色い西瓜ってのもあったよな、皮が赤いジャガイモとか。世の中知らないだけで変なものって結構あるのかも知れない。


でもこの芋なんて名前なんだろう?村では“芋”としか言わないんだよね。品種を教えてくれ、品種を。ベニハルカとかベニアズマとか安納芋とか紫芋とか色々あったかつてとは違うんですよね、スキルとかある世界なんだからもっと甘い芋とかしっとり食感の芋とか色々出来そうなもんだと思うんだけどな~。

農業系スキルとかなんか凄そう、<品種改良>とか<品質鑑定>とかあるんだろうか?調薬スキルには<品質鑑定>があったから農業スキルにもあると思うんだけど、その辺はどうなっているんだろう。大体うちの村って職業農家の人っているんだろうか?なんか半分くらい訳アリっぽいんだよね、だもんで職業の事とか過去の事を聞くのって憚られると言いますか。今度ドレイク村長代理に聞いてみよう。


キャロルとデーコンとマッシュ、カブラにパンプク、葉物野菜はホウレンとブロックル。癒し草もあるだろう?あれは野菜じゃないから、出荷出来ないから、緑と黄色のエサだから。

アイツら最近は自分でエサを作るからな~、スライムも自分で狩って来るし。この農場ってアイツらがいなくなったら回って行かないかも。畑も勝手に広げられちゃったしな~。


こっちは村長の所に持って行って、こっちは村の地下貯蔵庫に収納する分でしょ、そんで残りは腕輪に収納っと。


「ねぇケビン君、今まで敢えて聞かなかったんだけど、ケビン君ってもしかして収納の魔法も開発しちゃったりしたのかしら?さっきからお野菜が消えて行ってるんだけど?」


なんか引き攣った顔でこちらを見るアナさん。アナさんは俺の事をなんだと思っているんだろうか?勇者物語に出てくる大賢者様じゃあるまいし、そんな事出来る訳無いじゃありませんか。


「魔道具ですよ、魔道具。ちょっととある方から収納の魔道具を頂きましてね、野菜やら何やらはそっちにしまってるって感じですね。

鞄の方も使ってますけど、あっちはどうなってるのか分からなくて不安じゃないですか。その点魔道具なら少なくとも鞄よりかは安心だし?結構便利ですよね、収納の腕輪って」


俺がそう答えると何故か固まるアナさん。俺、何か変な事でも言ったんだろうか?


「こんな事聞いていいのか分からないけど、それってどれくらいの収納量なのかしら?前に村長代理のマジックバッグは大型倉庫一棟分位って言ってたと思うんだけど」


「それが正直よく分からないんですよね。この腕輪、込めた魔力量の分だけ容量が拡張するらしいんですけど、魔力枯渇グッズとして連日魔力を込めまくっているんでどれだけ広がっているかはちょっと。少なくとも大型倉庫の一棟や二棟じゃすまないってことは分かるんですけどねってどうしました頭抱えちゃって」


「“大賢者の腕輪”、それこそケビン君が大好きな勇者物語に出てくる“魔法の勇者様”の時代のほんの少し前の頃に活躍された大賢者様が造り上げた逸品がそう呼ばれていたはずよ。流石に私も生まれる前の事だから詳しくは知らないんだけど、里の長老から見せて貰った事があるわ。

当時そのあまりの性能に自身の魔力を込め過ぎて魔力枯渇に陥る者が続出、呪われた魔道具として大賢者様が排斥される切っ掛けになったと言われている代物よ。

その魔道具の特徴は使用者の魔力を覚えるというもの。収納の腕輪に魔力を込めた者しか物の出し入れが出来ないの。だから盗んでも意味がないし、新たに自身の魔道具として使うには腕輪から登録者の魔力が抜けるまで待たないといけない。腕輪に込められた魔力量にもよるけど、少なくとも百年は待たないと無理と言われていたと聞いているわ。

結構偽物も出回った品だと言われているんだけど、本物は腕輪の内側に“S/M”って刻印がされている筈よ。」


ほうほう、そんなものがね~。シルビアさんって結構神経質な所があったからな~、“偽物許すまじ!”とか思って対策してたんだろうか。

・・・やりそうだな、うん。

俺は右腕に嵌めている腕輪を外して内側を覗き込む。

あったわ、“S/M”の刻印。アナさんにも見せてあげると、彼女は眉間の皺を揉み、“ケビン君だから仕方がない”と呟くのでした。



農作物の収穫作業を一通り終えた俺氏、仕事も終えて家に帰ってゆっくりしますかとなったところでアナさんから待ったが掛かってしまいました。

何でもボイルさんの所の長屋に寄って欲しいとの事。ボイルさんとギースさんがアナさんに相談事を持ち掛けたらしいんですが、アナさんの力じゃどうにもなりそうにないので俺に話を聞いてあげて欲しいとの事でした。


森の賢者がどうにも出来ない事を俺がどうにか出来る訳ないと思うんですけどね~、アナさん曰く“ケビン君ならどうとでも出来る、だってケビン君口が上手いじゃない”との事。要するに解決は本人に任せて上手い事言いくるめろって事ですね、分かります。流石森の賢者、やり方が汚い。

基本相談事なんて本人次第って事が多いですからね。ケイトみたいなやつは稀、アナさんの問題だってなんやかんやで自身で解決してるし、ガブリエラさんとグルゴさんの関係だって最悪・・・いや、これ以上はよそう。腐の道は誰も幸せにならない。


「こんにちは~、ボイルさんいます~、アナさんに言われてきたんですけど~」


「あぁ、ケビン君。収穫期で忙しいところ悪いね。こればかりはどうしたものかと思って御婆さまに相談を持ち掛けたんだが、御婆さまはこの手の問題はあまり得意ではないらしくてね。頭を下げて謝られてしまったよ」


「アナさんが得意じゃない問題ね~、う~ん、想像がつかない。それでボイルさんはアナさんにどんな相談をしたんですか?」


「あ~、いや、うん。これはギースもいた方がいいだろうから呼んで来る。少し待っていてくれるかい?」

そう言い長屋の並びに声を掛けに行くボイルさん。本当一体どんな相談なんだろう。


待つこと暫し。

「ケビン君、お待たせしたかな?」

やって来たのはボイルさん・ジョンさん・ギースさんの三人でした。

「で、一体どういった相談なんですか?」


「いや、その、なんだ。ケビン君はベネットお婆さんの所で縫製の仕事をしているエリザベートさんを知っているかい?」

「エリザベートさん?あぁ、元病弱の。

以前魔力纏いを教える為にご自宅に訪問していたんでよく知っていますよ、すっかり元気になられて良かったですよね。で、そのエリザベートさんがどうかしましたか?」


「いや、その、ギースの奴がすっかり惚の字でな。どうにか恋仲になりたいと頑張っているんだが、どうも上手く行かなくて困っているんだよ。

私達も仲間の恋は応援したい。そう思って私も何度か彼女の家に行ったりしていたんだが・・・」

そこまで話して言い淀むボイルさん。するとジョンさんが呆れた様な顔で話を繋いでくれました。


「あの家にエリザベートさんのお世話をしていた女性がいたと思うんだが憶えてるかい?」

「えぇ、マイヤーさんですよね。凛としていて上品で、とても魅力的な方だったと・・・まさか?」


「あぁ、ボイルの奴そのマイヤーさんに参っちまってな。今や二人してポンコツって訳さ。流石にこのままってのもまずいと思って俺が御婆さまに相談してみろって言ったんだが、然しもの御婆さまも恋愛事は苦手と見える。まぁ、隠れ住む種族に恋愛相談する方が間違ってはいたんだが、俺自身その手の話はからっきしなもんでな。他に当てがなかったんだ」

「え~、だったらジェラルドさんがいるじゃないですか~、大恋愛の末親の反対も押し切って駆け落ちしちゃう様な猛者が。魔物蔓延るこの国で愛する者と手を取って逃避行、自殺行為以外の何物でもないとは思いますが、恋愛事には詳しいんじゃないんですか?」


俺がそう言うと暫しの間が空いた後ギースさんが口を開いた。


「あいつ等は駄目だわ。“当たって砕けろ”と“押せば何とかなる”と“愛があれば大丈夫”しか言わない。恋愛に関しては完全にお花畑なんだよ、行動力がある分始末に負えない。申し訳ないが彼らのご両親にはひどく同情せざるを得ない」

“悪い奴らじゃないんだけどな~”とどこか遠い目をするギースさん。相談に行ったんですね、お疲れ様でした。


「で、ギースさんはエリザベートさんに具体的な接触は持ってるんですか?流石に遠くから眺めてて叶う恋なんてあり得ませんからね?」

「あぁ、ジェラルドの話じゃないが何もしなければ変わらないって言う事は俺も分かっていたからな。しつこくならない様に気を付けながら少しづつ接触を持つようにして、何とか仲を深める事が出来たよ」


「えっ?だったら何も問題ないじゃないですか。そのまま仲を深めて行けばいいんじゃないんですか?」

俺がそう言うと途端暗い顔になるボイルさんとギースさん。何事?


「あぁ、ここからは俺が話そう。先ずはボイルの件だが、この男、流石元商人といった所だな。相手の懐に入り込むのが上手くてな、確りマイヤーさんを口説き落としやがった。ただマイヤーさんがまた忠義の人でな、“お嬢様を残して一人幸せになる事など出来ません。お気持ちは嬉しいのですが”って振られちゃったんだなこれが。

一度は上手く行っていただけに衝撃も大きくてな~、今はかなり無理して振る舞っている状態って奴だ」

あ、ボイルさんが突っ伏した。突き付けられた事実に耐えられなかったみたい。(合掌)


「で、ギースだが、エリザベートさんがまた厄介でな、所謂訳アリ貴族って奴らしい。しかも呪い持ち。背中に大きな傷があってそれが元で病弱だったらしい。

で、これが呪いの傷って奴でハイポーションでも治らないんだと。仮に治ったとしてもこの傷を付けた魔導士にエリザベートと言う人物が治った事が伝わる二重対策仕様。

一生傷を背負って生きて行けって事らしい。酷い話だろ?

で、これが高位貴族絡みの云々らしくって色々面倒な人間関係がな~。

結果マルセル村幽閉って事になったという訳なんだとさ。彼女自身昔はかなりのものだったらしく、誰も同情してくれず唯一付いて来てくれたのがマイヤーさんだったという訳さ。

俺たちも大概だけど、流石辺境の最果てマルセル村って話だよな。」


話し終えて肩をすくめるジョンさん。内容が重いわ、サラッと言うなし。

でもそうか~、俺が魔力纏いの指導に行った時最初拒絶してたのと、元気になり始めてからやたらはしゃいでいたのってそういう理由があったのね、超納得。


う~ん、ま、何とでもなるんだけどね。

でもこれな~、一気にやっちゃった方が話早いんだよな~。その魔術師にどんな形で情報が伝わるのか分からないけど、恐らく闇魔法系の呪いの一種だろうし、鑑定系のスキルの応用があるのかもしれないしね。

そんで上手く行っても鑑定のスキル持ちが確認に来る可能性大、超面倒。村ぐるみの偽装は必須だね、うん。


「え~、結論から言います。どうとでもなります。ただこれにはマルセル村全体の協力が必要です。ですのでお二人はこれからも頑張ってお相手を口説き落として下さい。それこそジェラルドさんじゃないけど、辺境の寒村に駆け落ちしてでも添い遂げるって言う気持ちを持たせられるほどになれば問題ありません。

こちらの準備が済みましたらお知らせに来ますので、それまで頑張って。

お相手が落ち込む様なら“ケビンが何とかするって言っていた”と仰っていただいて結構です。俺、これでも結構信頼されてますから」


俺はそれだけを告げると“それじゃ”と言って長屋を後にした。

しかしまぁ皆さん呪われまくっていらっしゃること。

改めて“王都・領都に行きたくない、都会超怖い。貴族、駄目、絶対!”と思うケビンなのでありました。


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